快適な暮らしがもたらす弊害? 日本だけでなく世界中でアレルギー疾患を持つ人が増えている理由

アトピーや花粉症などのアレルギー疾患は国民病とも呼ばれ、日本人の2人に1人は何らかのアレルギー症状を持っていると言われています。

特にここ数十年で食物アレルギーを発症する人が急増しています。

そして以前までは見られなかった果物や野菜などに関してもアレルギーが報告されています。

食物アレルギーをはじめとしたアレルギー疾患が増えた背景の一つとして、経済活動によって引き起こされた環境汚染や住宅事情の変化などがあります。

快適さや清潔さを追求した暮らしの実現によって、新たな問題が生み出されているのです。

 

アレルギーとは? 〜発症原因とメカニズム〜

今から約70年前、戦後の日本ではアレルギー疾患はほとんどありませんでしたが、現在は日本の人口の半分が何らかのアレルギー疾患を持っているとされています。

ではそもそもアレルギーとは、なぜ発症するのでしょうか。

人間の体はウィルスや細菌、寄生虫などの異物から自分自身を守るための免疫機能を持っています。
本来はその免疫機能が何らかの原因で正常に働かず、かゆみやくしゃみ、炎症などのさまざまな症状を引き起こす状態のことを「アレルギー」と呼びます。

アレルギーによって引き起こされる疾患には気管支喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、食物アレルギーなどがあります。
原因にはダニ、花粉、ほこり、食物などがあり、吸入性アレルゲン、食物性アレルゲン、接触性アレルゲンの3つに分類されます。
これらのアレルゲンを吸入したり、食べたり、接触することでアレルギーが発症するのです。

以下の図1はアレルギーの起こるメカニズムです。

アレルゲンと接触するうちに免疫機能によって「IgE抗体」が量産され、IgE抗体が皮膚などに存在する肥満細胞(マスト細胞)と結合することでアレルギーを発症します。

図1 アレルギーの起こるメカニズム
*出典1:独立行政法人国立病院機構 南岡山医療センター「アレルギーとは」
https://minamiokayama.hosp.go.jp/clinical/index_6_1_1.html

アレルギー疾患の発症と進行の要因には遺伝子要因と環境要因があります(図2)。

この2つの要因が複雑に絡み合って発症するため、親がアレルギーだからといって子どもが必ずしもアレルギーになるとは言い切れません。

反対に親がアレルギーではないからといって、子どもがアレルギーを発症しないわけでもありません。

図2 アレルギー疾患発症と進行の要因
*出典2:独立行政法人環境再生保全機構 「特集 子どもの成長とアレルギー「アレルギーマーチ」から学ぶアレルギー疾患の予防と管理」(2014)
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/sukoyaka/43/feature/feature02.html

またアレルギーは年齢によって異なる症状が次々と連鎖して発症することが多く、このような現象をアレルギーマーチと呼びます(図3)。

図3 アレルギーマーチとは
*出典3:厚生労働省「食物アレルギー 」p93
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/dl/jouhou01-08.pdf

たとえば幼児期に食物アレルギーを発症しその後にアトピー性皮膚炎、学童〜成人期にぜん息、アレルギー性鼻炎などを発症するなどのパターンがあります。

遺伝要因と環境要因は当然個人差があるので、アレルギーマーチによってを疾患を発症する順番は個人によって異なります。
また子どもから大人へ体が成長することによってアレルギー疾患が治る可能性もあります。

 

アレルギーをめぐる日本の現状

次にアレルギーに関する日本の現状についてデータとともに紹介していきましょう。

2000年代前半は約3人に1人がアレルギー疾患を罹患しているという調査結果がありましたが、2010年以降の調査では全人口の約2人に1人がなんらかのアレルギー疾患を罹患していることがわかりました。

つまり10年あまりのわずかな期間でアレルギー疾患を持っている人が急速に増加しています。

図4は平成16年(2004年)と平成25年(2013年)のアレルギー疾患罹患数の比較です。

 

図4 アレルギー疾患罹患数
*出典4:厚生労働省 第2回アレルギー疾患対策推進協議会「食物アレルギー」(2016)p12
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10905100-Kenkoukyoku-Ganshippeitaisakuka/0000112469.pdf

図4を見ると、アレルギー性鼻炎や食物アレルギーをはじめとしてほとんどのアレルギー疾患罹患数が増加していることがわかります。そして次の図はアレルギー疾患の年齢別患者構成割合の比較です。

図5 アレルギー疾患の年齢別患者構成割合の比較
*出典5:厚生労働省健康局 「アレルギー疾患の現状等」(2016)p11
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10905100-Kenkoukyoku-Ganshippeitaisakuka/0000111693.pdf

図5を見ると喘息やアレルギー性鼻炎は0歳〜19歳までの割合が多く、全体として若年層に多いことがわかります。
このデータはアレルギー患者が増加していることだけでなく、アレルギー疾患はもともと大人より子どもに多く、幼児期に発症することが関連しています。

次に紹介する図6は子どものアレルギー疾患有症率の変化です。

図6 子どものアレルギー疾患有症率の変化
*出典6:独立行政法人環境再生保全機構「近年のアレルギー疾患の動向」(2014)
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/sukoyaka/43/feature/feature01.html

喘息とアトピー性皮膚炎は減少傾向にあるものの全体的に増加傾向であり、約40%がなんらかのアレルギー疾患をもっています。

また文部科学省の調査では2004年から2013年の9年間で食物アレルギーをもつ児童数が約12万人も増えていることが報告されています。
小中高生の20人に1人は食物アレルギーを抱えており、さらに発症年齢が低年齢化しています。

また食物アレルギーは日本だけでなく、アメリカやイギリスなどの先進国を中心に発症率が上昇しています。

そのため工業化や文明化との関連が指摘されており、アレルギー患者の増加は急速な生活の変化が原因ではないかと考えられています。

 

アレルギーを発症する人が増えた原因とは

世界アレルギー機構(WAO)の調査によると世界の人口の約30%〜40%の人が何らかのアレルギー疾患を持っていると報告されています。

図7は2012年にWAO加盟国で実施された全年齢(0〜18歳)の子どもにおける食物アレルギーの有症率の調査結果です。

図7 子どもの全年齢(0~18歳)における食物アレルギーの各国の有症率
*出典7:WAO「A global survey of changing patterns of food allergy burden in children」(2014)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24304599/

この調査では過去10〜15年間で先進国と発展途上国の両方で増加していることがわかりました。
さらに先進国だけでなく中国などの経済成長の著しい国でもアレルギー患者が増加していることが報告されています。

世界や日本で急増しているアレルギー患者ですが、その背景にはさまざまな要因があります。

先ほどもふれたようにアレルギーの発症には遺伝子要因と環境要因があります。しかし世界規模で人間の遺伝子が急速に変化しているとは考えにくいことから、短い期間で急増しているのは環境要因が主であると考えられています。

まず環境要因としては住宅事情の変化が挙げられます。
図8を見ても分かる通り、住宅内にはさまざまなアレルゲンが存在しています。


図8 住宅に起因するアレルギー疾患
*出典8:東京都福祉保健局「健康・快適居住環境の指針」p1
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/kankyo/kankyo_eisei/jukankyo/indoor/kenko/sisin_bunsatuban.files/web_arerugen_taisaku_kenkai_sisin.pdf

現代はコンクリートやアルミサッシなどを使用した機密性の高い住宅が普及しています。
さらにエアコンの使用により冬は暖かく夏は涼しく、1年中快適な室温が保たれています。

私たちの居住環境はより快適なものとなっていますが、アレルゲンであるダニやカビにとっても繁殖しやすい環境になっているのです。

さらに衛生状態が改善されたこともアレルギーが急増した原因のひとつと言われています。
衛生状態が改善されることで寄生虫疾患や結核などの感染症が減りましたが、それと反比例してアレルギーが増加しています。

これは「衛生仮説」と呼ばれており、除菌の徹底などで清潔になりすぎた結果、花粉やホコリにまで過剰反応するアレルギーを発症しやすい体質になるのではと考えられています。

またアレルギーの発症には大気汚染などの環境問題も関連しています。

ディーゼル車の排出ガスによる健康被害は以前から指摘されていますが、ディーゼル排気粒子(DEP)は気管支喘息の悪化や花粉症発症との関連性も研究されています。

DEPは大気中に浮遊するPM2.5のひとつで、以下の図8のようにアレルギー反応の元となる抗体を作り、アレルギー疾患を悪化させるという研究結果が出てきます。

図9 ディーゼル排気曝露のアレルギー反応悪化の機構
*出典9:国立環境研究所「健康影響に影を及ぼす微小粒子—DEP」
https://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/22/04-09.html#dep

また気管支喘息は中国から日本に飛来する黄砂との関連性も指摘されています。
黄砂とは中国内陸のゴビ砂漠などの乾燥地帯で強い風によって巻き上げられた砂やチリのことです。

環境省が実施した子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)では、黄砂によってアレルギーが悪化することや気管支喘息の入院リスクが上がることが報告されています。

さらに妊娠期のお母さんを対象にした調査では、黄砂が来るとアレルギー症状が出やすくなることがわかりました(図10)。

図10 黄砂の濃度とアレルギー症状の出やすさ
*出典10:富山大学エコチルとやま「黄砂が来るとアレルギー症状が出やすくなる ~妊娠期のお母さんの結果~」
http://www.med.u-toyama.ac.jp/eco-tuc/kousa/result.html

黄砂はこれまでは自然現象のひとつとして考えられていましたが、近年の急速な砂漠化は森林現象や土地の劣化などの人為的影響によって引き起こされています。

さらに砂漠化には地球温暖化による気候変動も関係しており、私たちの生活で排出される二酸化炭素が地球温暖化の原因となっています。

 

まとめ

先進国を中心に世界中でアレルギー患者が急増しているのは、清潔さや快適さを追求しすぎた結果であると考えられます。
一方で衛生状態の改善は命を脅かす感染症を減少させ、健康で豊かな生活を送るためには欠かせないことでもあります。

つまり清潔さや快適さは過度に求めるものではなく、バランスが大切なのです。

さらにアレルギーの原因となっている環境汚染物質も文明の発達に伴う豊かな暮らしの副産物です。環境破壊を引き起こす消費活動や経済活動はまわりまわって、既に人体に影響を及ぼしはじめてきているのです。

この記事では近年のアレルギー患者の増加の背景から、人間の生活においてバランスが重要であるということをお伝えしました。
当たり前になっている快適な生活を振り返り、地球環境と生命の維持にとってバランスのよい生活とはなにかを一度考えてみてみましょう。

 

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参照・引用を見る
  1. 独立行政法人国立病院機構 南岡山医療センター「アレルギーとは」
    https://minamiokayama.hosp.go.jp/clinical/index_6_1_1.html
  1. 独立行政法人環境再生保全機構 「特集 子どもの成長とアレルギー「アレルギーマーチ」から学ぶアレルギー疾患の予防と管理」(2014)
    https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/sukoyaka/43/feature/feature02.html
  1. 厚生労働省「食物アレルギー 」p93
    https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/dl/jouhou01-08.pdf
  1. 厚生労働省 第2回アレルギー疾患対策推進協議会「食物アレルギー」(2016)p12
    https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10905100-Kenkoukyoku-Ganshippeitaisakuka/0000112469.pdf
  1. 厚生労働省健康局 「アレルギー疾患の現状等」(2016)p11
    https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10905100-Kenkoukyoku-Ganshippeitaisakuka/0000111693.pdf
  1. 独立行政法人環境再生保全機構「近年のアレルギー疾患の動向」(2014)
    https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/sukoyaka/43/feature/feature01.html
  1. WAO「A global survey of changing patterns of food allergy burden in children」(2014)
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24304599/
  1. 東京都福祉保健局「健康・快適居住環境の指針」p1
    https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/kankyo/kankyo_eisei/jukankyo/indoor/kenko/sisin_bunsatuban.files/web_arerugen_taisaku_kenkai_sisin.pdf
  1. 国立環境研究所「健康影響に影を及ぼす微小粒子—DEP」
    https://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/22/04-09.html#dep
  1. 富山大学エコチルとやま「黄砂が来るとアレルギー症状が出やすくなる ~妊娠期のお母さんの結果~」
    http://www.med.u-toyama.ac.jp/eco-tuc/kousa/result.html

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