コロナ禍により1億人もの貧困層増加、国内外のセーフティネットの現状と展望

コロナ禍により1億人もの貧困層増加、国内外のセーフティネットの現状と展望

近年の金融危機やコロナ禍などによって、貧困層が増加しています。
また貧困層の増大は、後述するように土壌の劣化や化学製品の乱用といった環境問題へと派生し、各所で問題視されています。

全ての人が幸せに暮らすことのできる持続可能な社会形成のためには、貧困層を含む社会的弱者の救済が不可欠です。
「誰一人取り残さない」社会の実現に不可欠な「セーフティネット」は国内外でどのように形成されているのでしょうか。

セーフティネットとは

セーフティネットとは、社会的に不利な立場にある人たち、すなわち社会的弱者を救済するための仕組みを言います。
具体的には、政府が提供する社会保障制度を言い、以下4つの面から成り立っています。

  1. 社会保険(年金・医療・介護)
  2. 社会福祉
  3. 公的扶助
  4. 保健医療・公衆衛生

図1: 厚生労働省「社会保障制度とは」スライド1
https://www.mhlw.go.jp/seisaku/dl/21a.pdf

また、近年では、社会や人々の多様化に伴い、企業や非営利団体など民間の活動によるソーシャル・セーフティ・ネット(SSN)も活発化しています。SSNとは、「傷病や失業、貧困など個人の生活を脅かすリスクを軽減し、保障を提供する社会的な制度やプログラムを総称するもの」であり、図2のような活動が挙げられます。

図2: JICA緒方研究所「ソーシャル・セーフティ・ネットに関する基礎調査 -途上国のソーシャル・セーフティ・ネットの確立に向けて-」P5
https://www.jica.go.jp/jica-ri/IFIC_and_JBICI-Studies/jica-ri/publication/archives/jica/field/pdf/200310_01.pdf

国内外の貧困の現状

世界銀行の統計によると、2015年における世界全体の貧困層の数は7億3,400万人とされています。世界銀行の定義では、貧困層とは、1日1.90ドル未満での生活を強いられる層を言います[*1]。

図3: THE WORLD BANK「世界の貧困に関するデータ」
https://www.worldbank.org/ja/news/feature/2014/01/08/open-data-poverty

貧困者数は年々減少傾向にありましたが、新型コロナウイルスの感染拡大により、2020年には新たに8,800万人から1億1,500万人もの人々が極度の貧困に陥ると予測されています[*2]。
特に新たな貧困層は、中所得国に集中しており、10人の内8人が中所得国で発生するとされています。

一方で、貧困問題は国外だけの問題ではありません。
日本では、可処分所得の中央値の半分を貧困線と定義し、貧困線に満たない世帯を相対的貧困と定義しています。図4の厚生労働省のデータを見ると、日本における相対的貧困率は2018年で15.7%と、10人に1人以上が貧困に陥っています。

図4: 厚生労働省「2019年 国民生活基礎調査の概況 II各種世帯の所得等の状況」P14
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/dl/03.pdf

相対的貧困率は2010年代に入り減少傾向にありました。
しかしながら、新型コロナウイルスの影響により、国外の傾向と同様に2020年以降増加に転じる可能性があります。

貧困と環境問題の関係

図5 赤木 麻衣子「発展途上国における経済発展と環境保全の両立」P6
http://fourier.ec.kagawa-u.ac.jp/~tetsuta/jeps/no3/akagi.pdf

図5のように、貧困と環境劣化には大きな関連性があるとされています。
貧困と環境劣化の関係として一つ目に、無計画な森林伐採や放牧等など天然資源への過度な依存による環境破壊が挙げられます。

図6: 林野庁「世界森林資源評価(FRA)2020メインレポート 概要」P4
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kaigai/attach/pdf/index-22.pdf

図6は植林による森林面積の増加分を考慮しない地域別森林減少面積です。
アフリカや南・東南アジア、南米など貧困率の高い途上国で減少面積が大きく、焼畑農業や森林伐採など天然資源への過度な依存が背景にあることが分かります。

また、こうした地域では環境教育が十分に受けられない現状や安価な製品に頼らざるを得ない現状から、環境に悪影響を及ぼす化学製品の使用や不適切な廃棄などにもつながることがあります[*3]。
例えば、ユニセフと環境NPO「ピュアアース」が発表した報告書によると、鉛蓄電池の不適切な再利用や鉛をベースにした塗料の使用などが原因で、途上国では地域のコミュニティが汚染されています。

図7: Unicef, PURE EARTH「The Toxic Truth: Children’s Exposure to Lead Pollution Undermines a Generation of Future Potential」P23
https://www.unicef.org/media/73246/file/The-toxic-truth-children%E2%80%99s-exposure-to-lead-pollution-2020.pdf

汚染の結果、貧困層の子どもたちの健康被害にもつながり、世界で約8億人もの子どもたちが鉛汚染にさらされています。
図7は国ごとの子どもの血液中の平均鉛量を示しており、低所得国になればなるほど鉛汚染の影響が甚大であることが分かります。

さらに、電力供給の観点から見ると、電力供給を十分に受けられないエネルギー貧困の状態と経済的な貧困にも大きな関係があります[*4]。
経済的な貧困にあえぐ人々は公的な電力インフラにアクセスできず、昔ながらのバイオマス燃料に頼らざるを得ません。昔ながらのバイオマス燃料とは、薪や動物の糞などを燃やすといった人々が身近に取れる材料を使った原始的な燃料を言います。その結果、煙による健康被害や女性・子どもの労働負担の増加によって貧困状態が固定化されてしまっています。

以上のように、環境という面からも、セーフティネットによる貧困層の救済が地域環境の持続的な維持発展には不可欠です。

国外におけるセーフティネット構築

貧困率の高い開発途上国では、セーフティネット構築のため国際機関や先進国による支援が行われています。

例えば、2019年にバングラデシュ政府は世界銀行支援の下で3,720億バングラデシュタカ(日本円にして約4,700億円に相当)をセーフティネットプログラムに予算投入しました。
具体的には、貧困層への現金支給や公共事業の実施、教育や健康事業の実施などです[*5]。

さらに、世界銀行の支援内容は資金援助にとどまらず、技術支援等も行っており、現在多くの途上国で実施されています。

先進国におけるセーフティネット構築の推進

世界銀行の取り組みは途上国を対象としていますが、貧困問題は途上国だけの問題ではありません。
先進国37カ国で構成されるOECD(経済協力開発機構)の相対的貧困率の平均は、約12%と、10人に1人は先進国でも貧困問題に直面しています[*6]。

図8: OECD「2015 Poverty rate」
https://data.oecd.org/inequality/poverty-rate.htm

相対的貧困率が最も高い国は南アフリカで約27%、最も低い国はアイスランドで約5%とばらつきはありますが、OECD加盟国においても、多くの国でセーフティネット形成のための取り組みが行われています。

例えば、OECD加盟国の中で5番目に貧困率の高い韓国は、ポストコロナ時代の長期戦略として、「セーフティネット強化」計画を発表しました[*7]。
計画では、芸術家のように雇用保険適用外であった人材の保護や、特殊形態労働事業者などへの出産前後給付の支給など、全国民を対象としたセーフティネットの構築を推進しています。

途上国における民間のセーフティネット

貧困問題に取り組むため、多くの国で政府主導のセーフティネット構築が推進されていますが、NPOや企業、コミュニティなど民間レベルでのセーフティネット整備も盛んに行われています。
例えば、ミャンマーでは図7のように枠組みとして公的な社会保障制度が整えられていますが、年金制度や失業給付保険など実際に運用されていない制度がほとんどです。

図9: JETRO「ミャンマー 公的な社会保障制度」
https://www.jetro.go.jp/ext_images/industry/life_science/healthcare_asean/mm.pdf

公的なセーフティネットが整備されているとは言い難いミャンマーですが、仏教国であるため、地域の寺院による民間のセーフティネットが充実しています。
例えば、寺院に併設される僧院学校は、戦争孤児の受け入れや、地域の貧困世帯の子どもに無償で教育を提供しています[*8]。

図10: ASEAN Federation of Engineering Organisations (AFEO)「Education System in Myanmar Brief Description of Primary, Secondary and Tertiary Education」P1-P2(出典を参考に筆者作成)
http://afeo.org/wp-content/uploads/2018/09/Education-System-in-Myanmar-Brief-Description-of-Primary-Secondary-Tertiary-Education.pdf

国内では1,500以上もの僧院学校が設置されており、貧困層の教育の受け皿として機能していることが分かります。
また、貧困世帯への食事の無償提供を行うなど、地域のセーフティネットとして寺院が機能しています。

エネルギー貧困解消のための取り組み

途上国で課題となっているエネルギー貧困解消に向けた活動も、NGOなどの民間部門によって取り組まれています。
例えば、NGO「緑のサヘル」は、労働量を軽減でき、燃料効率の良い改良かまどを途上国の貧しいコミュニティに普及させることで貧困の解消や環境保全を行っています[*4]。
現地政府による社会的弱者への電力インフラの整備が困難な中で、「緑のサヘル」のような民間部門からの支援のニーズは高い状況にあります。

国内におけるセーフティネットの現状と取り組み

記事冒頭でも触れた通り、日本国内においては、①社会保険、➁社会福祉、③公的扶助、④保健医療・公衆衛生という4つの面からセーフティネット構築を推進しています。

図11: 厚生労働省「社会保障制度とは」スライド1
https://www.mhlw.go.jp/seisaku/dl/21a.pdf

高齢化の進む日本では、①社会保険や④保健医療などセーフティネットの持続的な維持が不可欠です。
しかし同時に、少子化に対応するため、児童福祉や子育て世帯への公的扶助も求められています。

特に、「子どもの貧困」という課題に対しては、平成25年に「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が制定されて以降、学習支援や生活支援、保護者に対する就労支援等多様なアプローチから施策が実施されています[*9]。

図12: 厚生労働省社会保障審議会(生活困窮者自立支援及び生活保護部会)「2017年7月11日 第4回社会保障審議会 資料1 子どもの貧困への対応について」P2
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000169130_4.pdf

 

図13: 厚生労働省社会保障審議会(生活困窮者自立支援及び生活保護部会)「2017年7月11日 第4回社会保障審議会 資料1 子どもの貧困への対応について」P3
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000169130_4.pdf

以上の施策によって、図12のように平成26年時点と比較すると、生活保護世帯の子どもの高校進学率や中退率、子どもの貧困率等は改善しています。

民間部門における取り組み

国内では、政府による公的なセーフティネットだけでなく、民間部門によるセーフティネット構築も盛んに行われています。民間部門における主な担い手はNPO法人や社団法人などの非営利法人になります。

NPO法人の場合、図14のように保健や医療福祉、子どもの健全育成、雇用機会の拡充などのセーフティネットに関連する活動を実施する団体が多くあります。

図14 内閣府「平成29年度 特定非営利活動法人に関する実態調査」P6
https://www.npo-homepage.go.jp/uploads/h29_houjin_houkoku.pdf

例えば、NPO法人「楽しいモグラクラブ」では、「モグラクラブ」という喫茶店を開き、不登校や引きこもりの人たちが集まることのできる場所を提供しています。
さらに、在宅での業務が可能なIT関連の就労支援を行うことによって、円滑な自立を促しています。

また、社団法人などの非営利法人においても、貧困層への支援等セーフティネットに関わる活動が積極的に行われています。
例えば、貧困層への少額融資を行うビジネスモデルで有名なグラミン銀行と提携をしたグラミン日本が、2018年に設立されました。
グラミン日本では、生活困窮者に対して融資と就労支援をセットで提供するなど、資金援助にとどまらない貧困層への支援が実現されています[*10]。

企業による取り組み

近年では、非営利法人のみならず、企業においてもCSRやソーシャルビジネスによるセーフティネット構築が活発化しています。

例えば、株式会社セブン‐イレブン・ジャパンでは県や福祉協議会と連携して生活困窮者への支援を実施しています[*11]。
失業等で困窮しながらも公的な支援を受けることができない人たちを支援する活動として、生活困窮者を支援する団体へ食品や日用品などを寄贈しています。

以上のように、国内においても公的なセーフティネットのみならず、営利・非営利問わず様々なアクターによってセーフティネット構築が推進されています。

セーフティネットを取り巻く今後の見通し

ここまでセーフティネットの現状や取り組みについて紹介してきました。
ここからは、セーフティネットを取り巻く将来について概観していきたいと思います。

厚生労働省「第28回社会保障審議会資料2」によると、社会保障給付費は2018年度から2040年度において、121.3兆円から190兆円ほどまで増加すると予測されています。
特に高齢化社会に対する年金・医療・介護の給付費の増加幅が大きいのです。

図15 厚生労働省社会保障審議会(生活困窮者自立支援及び生活保護部会)「2019年2月1日 第28回社会保障審議会 資料2 今後の社会保障改革について-2040年を見据えて-」P4
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000474989.pdf

社会保障給付費の対GDP比は2025年度から2040年度までおよそ2%増加すると予想されています。その一方で高齢者人口は6.6%増加するため、1人当たりの社会保障費は少なくなり、公的なセーフティネットの拡充が困難になると予想されます(図15)。
そのため、ソーシャルビジネスなど民間の活力を利用したセーフティネットの構築がさらに求められています。

誰一人取り残さない社会を目指すために

社会的弱者の救済は、彼ら自身のサポートになるだけでなく、環境負荷の低減のような地球環境の持続的な維持発展にもつながります。これらをきちんと進めるためには、官民両方のアプローチからセーフティネット構築の推進が不可欠です。

CSRやボランティア活動への参加、寄付からソーシャルビジネスの起業など、私たち一人ひとりができるアクションも多くあります。

コロナ禍によって今後も社会的弱者が増加すると予測される中で、セーフティネット構築は、持続可能な社会形成のためにも重要な鍵となるでしょう。

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参照・引用を見る

*1 THE WORLD BANK「世界の貧困に関するデータ」
https://www.worldbank.org/ja/news/feature/2014/01/08/open-data-poverty

*2 THE WORLD BANK「プレスリリース 新型コロナウイルス感染症により2021年までに極度の貧困層が最大1億5,000万人増加」
https://www.worldbank.org/ja/news/press-release/2020/10/07/covid-19-to-add-as-many-as-150-million-extreme-poor-by-2021

*3 UNDP「行動を起こすためのヒント:どんなことを?だれと?」
http://www.undp.or.jp/arborescence/tfop/environment01.html

*4 JICA「エネルギー貧困が引き起こす、環境破壊や煙による健康被害とは」
https://www.jica.go.jp/nantokashinakya/sekatopix/article052/index.html

*5 THE WORLD BANK「Social Safety Nets in Bangladesh Help Reduce Poverty and Improve Human Capital」
https://www.worldbank.org/en/news/feature/2019/04/29/social-safety-nets-in-bangladesh-help-reduce-poverty-and-improve-human-capital

*6 OECD「Society at a Glance 2019 他国と比べた日本の状況は?」
http://www.oecd.org/japan/sag2019-japan-jp.pdf

*7 労働政策研究・研修機構「韓国政府が「セーフティネット強化」計画を発表」
https://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2020/10/korea_02.html

*8 八木沢 克昌「ミャンマーの僧院学校」
https://www.rochokyo.gr.jp/articles/ab1706.pdf

*9 厚生労働省社会保障審議会(生活困窮者自立支援及び生活保護部会)「2017年7月11日 第4回社会保障審議会 資料1 子どもの貧困への対応について」
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000169130_4.pdf

*10 グラミン日本「グラミン日本について」
https://grameen.jp/about/

*11 株式会社セブン‐イレブン・ジャパン「自治体・社会福祉協議会との連携」
https://www.sej.co.jp/csr/sdgs/05_01.html