化粧品での動物実験を減らすために 「3R」「クルエルティフリー」の概念と国内外での対応

人間の生活用品のために、多くの動物が犠牲になっていることはよく知られています。

毛皮や象牙のために動物が乱獲されるといった事象は以前から問題視されていますが、じつは、化粧品の製造過程でも多くの動物の犠牲を伴っています。

化粧品の開発・製造段階で実施される動物実験の問題点は、倫理的なものだけにとどまりません。
具体的な問題と、世界ではどのような対応が取られているのかをみていきましょう。

化粧品開発・製造過程での動物実験と問題点

化粧品の開発・製造過程では、販売の承認を得るために多くの安全性テストをしなければなりません(図1)。そこで、動物実験が行われています。

図1: 新添加物に必要な安全性資料
出典: 国立医薬品食品衛生研究所「動物実験を用いないで医薬部外品の承認申請を取ることは可能か?」
https://www.nihs.go.jp/kanren/iyaku/20131024-phar.pdf, p.13

人の肌に直接触れるものですから、アレルギーや皮膚炎、あるいは目に入ったときに大けがをするなどといったことにならないよう、まず動物でテストするというものです。

しかし、これらの動物実験には、様々な問題点が指摘されています。

倫理的問題

まず最初に挙げられるのが倫理的な問題です。

化粧品の場合、多くはウサギやマウス、モルモットなどで動物実験が行われますが、毒性試験として化粧品成分をウサギの目に強制的に点眼したり、毛を剃った皮膚に試験物質を塗布して皮膚が悪化する様子を観察したりするものです。
ウサギに対する眼刺激性試験では、ウサギが手足で目をこすらないよう、頭だけが出る拘束器具が用いられることもあります。

また、化学物質が体内に取り込まれた際の反応を測る試験では、あらかじめ絶食させたマウスを使用したり、紫外線の影響を調べるために長時間にわたり意図的な紫外線照射をするといった方法もあります。

イギリスで動物代替実験の提案をしている「Cruelty Free International」によると、2015年には世界で少なくとも1億9210万頭の動物が実験目的で使われたと推定されるということです[*1]。

動物試験の限界

また、動物実験の停止を求める団体などが指摘するのは、動物実験が必ずしも完全な結果をもたらすわけではない、ということです。

確かに、複数種類の動物実験を経て販売した、とされている化粧品で肌がまだらになる健康被害が多くの人に出て、商品回収となったケースもあります。

動物実験では人間と同じ哺乳類で疑似体験をさせることはできますが、ヒトと他の動物では代謝機構も違います。完全に同じ結果が出るとは限らない、つまり動物を使ったところで本当の安全性が担保できないのなら、なおさら動物実験はやめるべきという主張です。

感染症の懸念

人間の間に流行する感染症には、人獣共通のものが少なくありません。一方で、動物はどのようなウイルスを持っているかはわからないこともあります。実験用のラットなどを感染源とする人間の感染症の流行例も過去にはあります[*2]。

動物実験を減らす「3R」と「クルエルティフリー」

このように様々な問題点が指摘されるなか、「3R」「クルエルティフリー」という概念が持ち上がっています。

動物実験の3R

1959年に提唱された動物実験に対する理念が「3R」というものです。イギリスの科学者Russell氏とBurch氏が著書『人道的動物実験の原則』の中で示し、1985年に国際医科学連合によって具体化されました。
このようなものです。

  • Replacement(代替法の利用)=生きた動物を使わなくても実験の目的を達成できるなら、細胞培養やコンピュータによるシミュレーションなどの方法に置き換える。
  • Reduction(使用動物数の削減)=少ない動物数で信頼できるデータを得られるような実験計画を作成する。
  • Refinement(苦痛の軽減)=動物の苦痛を、実験に差し支えない範囲で軽くする。

3Rは現在、国際原則となっています。

欧米を中心に広がるクルエルティフリー

「クルエルティ」とは「残虐性」の意味です。
つまりクルエルティフリーとは、化粧品や日用品の開発、製造、流通を経て消費者の手元に届くまでのどの段階でも動物実験が行われていないことを示す言葉です。

例えばクルエルティフリーを推進する国際団体である「Leaping Bunny Program」は、クルエルティフリーの化粧品メーカーとその商品をサイトで紹介し、該当企業や商品に独自のロゴマークを発行しています。2197のブランドが承認されています(2021年4月現在)[*3]。

アメリカに拠点を置く「PETA」も同様に、認定した企業やブランドにオリジナルロゴマークの使用を認めています。
いずれも化粧品の動物実験でよく用いられるウサギがモチーフになっています(図2)。

図2: 「Leaping Bunny Program」と「PETA」の認証ロゴ
出典: 「Leaping Bunny Program」 https://www.leapingbunny.org/,
「PETA’s ‘Global Beauty Without Bunnies’ Program」
https://www.peta.org/living/personal-care-fashion/beauty-without-bunnies/

世界で進むクルエルティフリーの動きと日本の動向

動物実験の問題にいち早く取り組んでいたEUでは、2013年に、動物実験を経て開発された化粧品の販売を全面禁止としました[*4]。製造元がEU域外のものであっても、その販売は全面禁止されています。
そしてイスラエル、インド、ブラジルのサンパウロ州、ニュージーランド、台湾などにもその動きが広がりました[*5]。

また、アメリカではカリフォルニア州で、2020年に州知事が州内で販売される化粧品の動物実験を禁止する法律に署名しました[*6]。

動向を注目されていた中国では2021年に入り、一部の輸入化粧品の動物実験の義務化を撤廃することを発表しています[*7]。これまで中国では化粧品の販売にあたって動物実験を行うことが義務づけられていたので、方針転換の第一歩と捉えることもできます。

一方で日本は、こうした世界の流れに遅れを取っていると指摘されている現状があります。
政府によって代替法が推奨されてはいるものの、法制化には至っていません。
ただ、資生堂が化粧品・医薬部外品での動物実験を廃止した[*8]ほか、小林製薬は動物実験の代替法を検証[*9]するなど、自主的な取り組みを進める企業もあります。

動物実験はなくせるか

化粧品についてのクルエルティフリーが進む一方、医学の世界は動物の犠牲のうえに発展してきたと言えます。
動物の命と人間の命のどちらが大切なのか、といった議論もあり、全ての領域で動物実験をゼロにすることは難しいでしょう。しかし食品、化粧品、医薬品にはこのような違いがあります(図3)。

図3: 食品、化粧品、医薬品の違い
出典: 国立医薬品食品衛生研究所「動物実験を用いないで医薬部外品の承認申請を取ることは可能か?」
https://www.nihs.go.jp/kanren/iyaku/20131024-phar.pdf, p.5

この視点に立てば、化粧品は嗜好性によって消費されているものと言えます。
もちろん、美しさを求めることで心の豊かさを得ることができますし、病気などで外見にコンプレックスを抱える人もいますので、否定することもできません。
ただ、医薬品と違い、化粧品は自分で選ぶことができる、自由度が高いという特徴もあります。

心から豊かな生活を送ることができるよう、化粧品の選択についても考えてみるのは良いことです。

 

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参照・引用を見る

*1
Cruelty Free International「Facts and figures on animal testing」
https://www.crueltyfreeinternational.org/why-we-do-it/facts-and-figures-animal-testing

*2
日本獣医師会「我が国とハンタウイルス感染症の歴史的背景」
http://nichiju.lin.gr.jp/mag/05204/01-3.htm

*3
Leaping Bunny Program「What Leaping Bunny Does」
https://www.leapingbunny.org/

*4
AFPBB NEWS「動物実験化粧品の販売、EUで全面禁止に」
https://www.afpbb.com/articles/-/2933458

*5
ダイヤモンド・オンライン「動物実験大国・日本の残酷な真実、禁止国が増えているのになぜ?」
https://diamond.jp/articles/-/214088?page=4

*6
Bloomberg Law「INSIGHT: New California Law Will Ban Sale of Cosmetics Tested on Animals」
https://news.bloomberglaw.com/product-liability-and-toxics-law/insight-new-california-law-will-ban-sale-of-cosmetics-tested-on-animals

*7
Leaping Bunny Program「Leaping Bunny Enews」
https://www.leapingbunny.org/leaping-bunny-enews

*8
資生堂「動物実験と代替法に対する取り組み」
https://corp.shiseido.com/jp/sustainability/consumer/experiment/

*9
小林製薬「動物実験代替法」
https://www.kobayashi.co.jp/contribution/society/experiments.html

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