環境保護を自然界から学ぼう 広がる「バイオミミクリー」の技術と温暖化対策への応用について

環境保護を自然界から学ぼう 広がる「バイオミミクリー」の技術と温暖化対策への応用について

「バイオミミクリー」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。

「ミミクリー(mimicry)」は「物まね」「模倣」といった意味です。
バイオミミクリーとは文字通り、生物の模倣をすることです。

今わたしたちの周囲にいる生物は、地球上で様々な環境を生き抜いてきた先輩とも言えます。その形状や機能、振る舞いを人間がまねることで、環境との調和やイノベーションに役立てようというのがバイオミミクリーです。

身近なところから温暖化防止まで、バイオミミクリーはあらゆるところに見られます。

ヨーグルトが蓋の裏につかない理由

カップのヨーグルトを開けたとき、蓋の裏についたヨーグルトをスプーンでかき集めて食べたくなる…そんな状況に遭遇したことのある方は多いことでしょう。

しかし最近は、蓋を開けても裏にヨーグルトがついていないことが多くあります。
これは、蓋に「ある植物のまね」をした加工が施されているからです。

「ある植物」とは蓮です。蓮の葉は、その表面に小さな凸凹があり、この凸凹が水をはじいています。この原理をまねて作られたのが森永乳業のヨーグルトの蓋で、微細な凸凹を施すことでヨーグルトをはじく蓋作りに成功しました(図1)。

図1: 森永乳業のヨーグルト蓋に使われるTOYAL LOTUS
出典:森永乳業「4ポット史上初! ヨーグルトが付着しにくいフタ」
https://bifidus.jp/products/cover.html

このようなバイオミミクリーは、生活のあらゆるところに見られます。

有名な話としては、500系新幹線の形状は、カワセミをヒントに作られているという話です(図2)。

図2: 500系新幹線の形状とカワセミ
出典:環境省「生物多様性のめぐみ」
https://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/biodiv_service.html

バイオミミクリーの省エネ家電への応用

また、別の例として省エネ家電への応用があります。例えばシャープでは、10種類以上の家電に、動物の形状や行動からヒントを得た部品やメカニズムを取り入れています*1。

そのうちのひとつ、エアコンの室外機には、アホウドリやイヌワシなどの翼の形の要素が取り入れられています(図3)。

図3: シャープ室外機エアコンのファン形状と鳥の翼
出典:シャープ技報 第105号「生物模倣応用による家電製品の価値創造」(2013)
https://corporate.jp.sharp/rd/n37/pdf/105_08.pdf, p.32

アホウドリは数万キロという距離を飛び続けられる長距離飛行に適した、空気抵抗の少ない翼を持っています。また、イヌワシは陸上の乱気流の中でも安定して飛ぶことができます。これらの特徴を室外機内での気流の乱れによる効率低下を軽減するために使用しました。

その結果、それまでに比べて消費電力を20~30%低減、騒音の低減にも成功しています*2。
また、縦型洗濯機にはイルカの尾びれや表皮のしわの特徴を利用しています(図4)。

図4: イルカの特徴をした洗濯機用パルセータ
出典:環境省「環境ビジネスの先進事例集 シャープ株式会社」
https://www.env.go.jp/policy/keizai_portal/B_industry/frontrunner/reports/h29engine_3sharp.pdf, p.47

縦型洗濯機の底の部分には「パルセータ」という羽があり、これが回転して洗濯物を動かしています。

イルカは瞬間的には時速50km以上の早さで泳ぐことができる一方、これに必要な筋肉量の1/7しか持っていないことが知られています*3。かなりの省エネで泳いでいると言えるでしょう。

この性質をまねるために、イルカの尾びれの形状と、高速で泳いでいるときにできるイルカの腹部のしわについて分析して洗濯機のパルセータを設計したところ、洗浄時間の短縮に成功し、それによって消費電力を18%削減、水量を15%削減、洗剤の量を50%削減しています*4。

また、シロアリの生活に倣う建築物もあります。

アフリカ南部ジンバブエの首都ハラレにある商業複合施設である「イーストゲートセンター」は、アリ塚の構造を取り入れているといいます(図5)。

図5: ジンバブエ「Eastgate Centre」とアリ塚
出典: Scott Turner「Beyond biomimicry: What termites can tell us about realizing the living building」
https://www.researchgate.net/publication/255650482_Beyond_biomimicry_What_termites_can_tell_us_about_realizing_the_living_building, p.2

シロアリのアリ塚が、自然の気流を利用して外気温の変動から内部環境を守っているメカニズムに目を付けたものです。所々に開口部を設けるなどの工夫で気流をコントロールし、燃料ベースの空調システムを不要にしています(図6)。

図6:イーストゲートセンター内の気流の概念
出典:  Mick Pearce「Passively Cooled Building Inspired by Termite Mounds」
https://asknature.org/innovation/passively-cooled-building-inspired-by-termite-mounds

イーストゲートセンターは1996年に建設されましたが、その後アリ塚に関する研究は格段に進み、アリ塚の構造がより正確に把握されることで、さらに高性能な建築物ができることも期待されます。

環境問題改善にも期待

世界の財団や企業が出資して設立されているアメリカのBiomimicry Instituteは、毎年バイオミミクリーを利用したアイデアを募集しコンテストを行っています。

2019年にオランダのハーグ応用科学大学が提案したのは、海洋プラスチック問題に挑戦するものです(図7)。

図7: 河川でプラスチックを回収する「FLOATING COCONET」
出典: Biomimicry Institute「10 Finalist Teams Use Lessons from Nature to Create Radical Solutions to Climate Change Problems」
https://biomimicry.org/10-finalist-teams-use-lessons-from-nature-to-create-radical-solutions-to-climate-change-problems/

マンタ(オニイトマキエイ)は食事の際、大量の水を飲み込み体内で濾過して、食料となるプランクトンだけを摂取し、海水は鰓から排出しています。

この仕組みに着目し、川に存在するプラスチックを海に出る前に回収するシステムを考案、発表しています。

2018年には米・コーネル大学のチームが食虫植物のメカニズムに着想を得て、デング熱やマラリアなどを媒介する蚊を捕捉するシステムが発表されるなど*5、温暖化対策に限らず多くのアイデアが応募されています。

学生チームも多く参加しています。

自然の中を生き抜いてきた知恵を今こそ

生物は長い間、地球大気や自然資源の循環を維持し、外部環境のあるがままに対応しながら存続しています。

人間は道具を使うことに始まり高度の工業技術を持つようになりましたが、環境破壊や大量の資源の掘り出しなど、ほかの生物にはないような形で、地球が本来持つバランスを崩してしまっているのが現状です。

私たち人類はどこかで道を誤ってしまったようです。

今こそ自然界に学び、共生する道を模索していく必要があるでしょう。

 

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参照・引用を見る

図1

森永乳業「4ポット史上初! ヨーグルトが付着しにくいフタ」
https://bifidus.jp/products/cover.html

 

図2

環境省「生物多様性のめぐみ」
https://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/biodiv_service.html

 

図3

シャープ技報 第105号「生物模倣応用による家電製品の価値創造」(2013)
https://corporate.jp.sharp/rd/n37/pdf/105_08.pdf, p.32

 

図4

環境省「環境ビジネスの先進事例集 シャープ株式会社」
https://www.env.go.jp/policy/keizai_portal/B_industry/frontrunner/reports/h29engine_3sharp.pdf, p.47

 

図5

Scott Turner「Beyond biomimicry: What termites can tell us about realizing the living building」
https://www.researchgate.net/publication/255650482_Beyond_biomimicry_What_termites_can_tell_us_about_realizing_the_living_building, p.2

 

図6

Mick Pearce「Passively Cooled Building Inspired by Termite Mounds」
https://asknature.org/innovation/passively-cooled-building-inspired-by-termite-mounds

 

図7

Biomimicry Institute「10 Finalist Teams Use Lessons from Nature to Create Radical Solutions to Climate Change Problems」
https://biomimicry.org/10-finalist-teams-use-lessons-from-nature-to-create-radical-solutions-to-climate-change-problems/

 

 

 

*1

シャープ「自然をお手本に性能アップ ネイチャーテクノロジー」
https://jp.sharp/nature/

 

*2

シャープ技報 第105号「生物模倣応用による家電製品の価値創造」(2013)
https://corporate.jp.sharp/rd/n37/pdf/105_08.pdf, p.32

 

*3

シャープ技報 第105号「生物模倣応用による家電製品の価値創造」(2013)
https://corporate.jp.sharp/rd/n37/pdf/105_08.pdf, p.35

 

*4

環境省「環境ビジネスの先進事例集 シャープ株式会社」
https://www.env.go.jp/policy/keizai_portal/B_industry/frontrunner/reports/h29engine_3sharp.pdf, p.47

 

*5

Biomimicry Institute「Hungry for solutions? Here are eight bold new ideas, inspired by nature.」
https://biomimicry.org/bgdc_winners_2018/