コロナ禍で増大するドライアイス需要 CO2排出は問題ない? 気になるドライアイスと温暖化の関係について詳しく解説

夏場にアイスクリームやケーキを買って家まで持ち帰る際に、保冷剤は欠かせません。
置き配を頼んだ際に、ドライアイスが保冷剤として封入されていることもよくあります。

現在、このドライアイスの需要が増大しています。

近年のフードデリバリーの増加がコロナ禍における巣ごもり需要によってさらに加速したことも理由ですが、新型コロナウイルスワクチンの接種が開始されたことも大きく影響しています。

この記事では、現在増大しているドライアイス需要とそれに対する供給体制の変化のほか、CO2の固体であるドライアイスと地球温暖化の関係性についてご紹介します。

ドライアイスの需要と供給

ドライアイスについて

図1: ドライアイス
出典: 一般社団法人 カーボンリサイクルファンド「二酸化炭素(CO2)とは」
https://carbon-recycling-fund.jp/public_relations/world/20200401

ドライアイスとは、固体状態のCO2のことです(図1)。

大気圧中では、−78.5℃で気体状態から液体状態を介さずに固体となり、逆に−78.5℃以上で固体状態から気体状態へと変化します。固体から気体への変化に伴って吸収する熱量が大きく、その熱量は、液体窒素が気体になるときの約2.9倍、氷が水になるときの約1.7倍です。

つまり、ドライアイスは、無害で不活性な気体のCO2となることから後処理の必要性がなく、冷却効果が高い、利用しやすく効率の良い冷却材・保冷剤であると言えます[*1]。

冷却・保冷の用途も含め、ドライアイスには、以下のような様々な用途があります[*2, *3, *4]。

  • 生鮮食品の輸送・貯蔵用の保冷剤
  • 冷凍食品やアイスクリームなどの保冷剤
  • 舞台などの演出用のスモーク発生剤
  • 粒体を汚染物に衝突させて洗浄する「ブラスト洗浄」用の後処理不要な衝突剤
  • 血液やワクチンなどの輸送用の保冷剤

現代では手軽に利用できるドライアイスですが、ドライアイスが工業的に製造されるようになったのは、世界ではアメリカにおいて1925年から、日本では1928年からです[*5]。

当時、日本では冷凍庫がすでに利用されており、魚の冷凍やアイスクリームの生産に活用されていました[*6, *7]。

そこにドライアイスが登場し、レストランなどでしか食べられなかったアイスクリームが家庭でも食べられるようになるなどの変化があったようです[*8, *9]。

ドライアイスの需要と供給

日本国内では現在、ドライアイスは、年間約35万トンが消費されています。これは、飲料や溶接などに用いられているCO2の年間消費量約110万トンの約32%です(図2)。

図2: 日本の産業におけるCO2の用途
出典: 一般社団法人 カーボンリサイクルファンド「二酸化炭素(CO2)とは」
https://carbon-recycling-fund.jp/public_relations/world/20200401

また近年、フードデリバリーが持続的に増加していることから、ドライアイスの需要もそれに合わせて伸長していくことが考えられます(図3)。

図3: 出前・フードデリバリーの市場規模推移(2015年~2018年)
出典: 消費者庁「フードデリバリーサービスの動向整理」(2020)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/caution/internet/assets/caution_internet_201225_0001.pdf, p.7

さらに、新型コロナウイルスワクチンの接種が始まったことで、世界各国にて低温での輸送や保存に欠かせないドライアイスの需要が高まっています[*10, *11]。

一方、日本においては近年、ドライアイスの原料となる高濃度の炭酸ガス源の製油所やアンモニアプラントなどが相次いで閉鎖しており、ドライアイスの国内調達が難しくなっています[*12]。

この傾向は2011年から始まっており、韓国などからのドライアイスの輸入量が増加しています(図4)。

図4: ドライアイス(炭酸ガス)の輸入量(トン)の推移(1990年~2018年)
出典: 環境省「輸入炭酸ガスからの排出」(2020)
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg-mrv/methodology/material/methodology_2H3_2020.pdf, p.2

この状況を受けて、日本のメーカー各社は、液化炭酸ガス・ドライアイスの供給能力を拡充すべく、低濃度の炭酸ガスからCO2を回収する設備や省エネ型CO2回収設備などの稼働を開始しています[*12]。

また、ドライアイスの製造機械メーカーが生産体制を強化しています[*10]。

ドライアイスの供給能力の拡大はアメリカでも始まっており、官民の両面で、ドライアイス生産に関わる企業への支援やドライアイス生産設備への投資が行われています。

例えば、ウィスコンシン州は主要な炭酸ガス源であるエタノールプラントに対して325万ドル(約3億6000万円)の資金を投入しており、低温輸送事業を展開している大手運輸業は1時間に約544kgのドライアイスを生産する体制の構築を進めています[*11, *13]。

また、ドライアイスほど低温ではないものの、冷凍食材の保冷に適した−20℃付近の温度で保冷可能な蓄冷材などの開発品も発表されています[*14]。

このような蓄冷材や保冷剤の実用化が進めば、食品保冷用のドライアイスと代替されることとなり、ワクチン保冷用ドライアイスの需要を満たせるようになる可能性があります。

ドライアイスの地球温暖化への影響

世界各国で需要が増大し、供給能力が拡大しているドライアイスですが、ドライアイスは固体のCO2であるため、その大量消費は地球温暖化の加速に繋がるのではないかという疑問が生じます。

しかし、例えば日本国内では、ドライアイスによるCO2排出量は、上述したように約35万トンですから、産業全体のCO2排出量である約12.8億トンのおよそ0.03%に過ぎません[*2]。

また、ドライアイスは、

  • アンモニア合成プラントの副生ガス
  • 石油化学プラントの副生ガス
  • 製鉄所の副生ガス
  • ビール醸造所の副生ガス

に含まれるCO2が原料であり、そのCO2は本来大気中に放出されるはずだったものです。
そのため、ドライアイスを使うことで余計にCO2の排出量が増加するわけではありません[*2, *3, *15]。

脱炭素化社会におけるドライアイス

一方、石油精製工業や化学工業、鉄鋼業などの脱炭素化が進展してCO2の排出量が大幅に減ると、ドライアイスの製造が難しくなるのではないかという疑問が浮かびます。

しかしそもそも、これらの産業では、CO2の削減のみによって排出量をゼロにすることは現実的ではないと考えられています[*16]。

そして、脱炭素化の実現には、CO2を分離・回収して地中に貯留したり、分離・回収したCO2を資源と捉えて素材や燃料に再利用したりする「CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)」と呼ばれる取り組みが必須であるとされています(図5), [*17]。

図5: CCUSの概要
出典: 経済産業省「未来ではCO2が役に立つ?!「カーボンリサイクル」でCO2を資源に」(2019)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/carbon_recycling.html

そのため、CCUSで貯留したり利用したりするCO2をドライアイス向けに割り当てることは容易であり、脱炭素化が進展するほどドライアイスの供給は安定化することが予想されます。

また、CO2は、ビールや日本酒、ワインなどのアルコール飲料の生産、及びパンの生産における発酵工程でも排出されます。

そのため、CO2分離・回収技術の効率化が進めば、これらの産業からもドライアイスの十分な供給が可能となるのではないでしょうか。

ドライアイスによる環境負荷を低減するために

コロナ禍にある現在、ドライアイスの需要は、今までになく高まっており、フードデリバリー市場の拡大から今後も持続的に増大していくことが予想されます。

しかし、ドライアイスの温度は、−78.5℃であるため、通常の冷凍庫で保存することはできず、その製造や保管にはエネルギーを必要とします。

ドライアイスの代替としては、同程度の温度まで冷却が可能なディープフリーザーなどを利用することが考えられますが、どちらにせよ、環境負荷が大きいことに変わりはありません。

ワクチン輸送などのドライアイスの利用が避けられない用途は、今後もなくなることはないでしょう。

より環境負荷の小さい冷凍や保冷を実現するため、ドライアイスの代替となる新たな保冷剤や蓄冷剤、電力消費量の小さいディープフリーザー、さらにはこれらの枠に当てはまらない新技術など、冷凍関連技術の進展が期待されます。

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参照・引用を見る

1.

渡辺征夫・中西基晴・泉克幸・石井忠浩「ドライアイスの試料保冷剤としての特質と利用事例およびそのための各種断熱容器の性能試験」(2001)国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jec1991/11/2/11_2_283/_pdf, p.284

 

2.

一般社団法人 日本産業・医療ガス協会「炭酸ガスのワールド」
https://www.jimga.or.jp/gas/world_co2/

 

3.

一般社団法人 日本産業・医療ガス協会「炭酸ガスのつくられ方」
https://www.jimga.or.jp/gas/produce_co2/

 

4.

一般社団法人 カーボンリサイクルファンド「二酸化炭素(CO2)とは」
https://carbon-recycling-fund.jp/public_relations/world/20200401

 

5.

清水鐵男「ドライアイス」国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yukigoseikyokaishi1943/48/8/48_8_766/_pdf/-char/ja

 

6.

一般社団法人 日本冷凍食品協会「冷凍食品の歴史」
https://online.reishokukyo.or.jp/learn/naruhodo/detail/history.html#ath

 

7.

独立行政法人 農畜産業振興機構「日本アイスクリーム産業の歴史」(2019)
https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_001993.html

 

8.

一般社団法人 日本アイスクリーム協会「早わかり!アイスクリーム史」
https://www.icecream.or.jp/iceworld/history/index.html

 

9.

一般社団法人 日本アイスクリーム協会「日本のアイスクリームの歴史」
https://www.icecream.or.jp/biz/history/japan02.html

 

10.

一般社団法人 カーボンリサイクルファンド「ドライアイスの生産体制強化 新型コロナ ワクチン供給で需要増」(2020)
https://carbon-recycling-fund.jp/public_relations/news/3712

 

11.

独立行政法人 日本貿易振興機構(JETRO)「ワクチンの輸送で低温輸送の需要増す」(2020)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/12/baf746f5a07073ae.html

 

12.

国立研究開発法人 産業技術総合研究所(AIST)「講演要旨」
https://unit.aist.go.jp/rief/mhpu/event/ghic13_abst.pdf, p.1

 

13.

Wisconsin Public Radio「Wisconsin Dry Ice Industry Ready To Scale Up Production For COVID-19 Vaccine Distribution」(2020)
https://www.wpr.org/wisconsin-dry-ice-industry-ready-scale-production-covid-19-vaccine-distribution

 

14.

一般財団法人 環境イノベーション情報機構「シャープ、食品などの冷凍輸送用蓄冷材として活用が可能な-22℃に温度を保つ「適温蓄冷材」を開発」(2021)
https://www.eic.or.jp/news/?act=view&serial=45442&oversea=

 

15.

国税庁「ビール業界におけるCO2排出量削減の取組みについて」(2017)
https://www.nta.go.jp/about/council/sake-bunkakai/170314/pdf/03.pdf, p.3

 

16.

経済産業省「「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?」(2021)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/carbon_neutral_01.html

 

17.

経済産業省「未来ではCO2が役に立つ?!「カーボンリサイクル」でCO2を資源に」(2019)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/carbon_recycling.html

 

 

 

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