動物カフェが抱える問題とは?―国内外におけるアニマルウェルフェアの現状と課題

気軽に癒しを与えてくれる動物カフェ。ペットを飼うことができない人でも身近に動物に触れ合うことができるため、猫カフェを中心に近年店舗数が増加しています。

しかしながら、店舗内という密閉した空間の中で、長時間見知らぬ人たちと接することは、動物たちにとってストレスの原因となってしまうことがあります。
また、店舗数の急増に伴い、劣悪な環境で飼養する事業者も増加しており、動物の権利が守られていないのではないかという否定的な意見も出てきています。

さらに、近年珍しい動物を扱う動物カフェも登場していますが、密輸によって入手されるケースもあるとされ、生態系への悪影響も懸念されています。

このような課題が山積する動物カフェですが、具体的にどのような問題が発生しているのでしょうか。一方で、問題だけでなく、捨て猫の保護など社会問題の解決の一助となっている面もあります。具体的に、動物カフェはどのように役立っているのでしょうか。

動物カフェとは

近年人気が高まっている動物カフェですが、そもそも動物カフェとはどのようなものなのでしょうか。

動物カフェは、コーヒーや軽食などの飲食を楽しむだけでなく、犬や猫、フクロウなど様々な動物と触れ合う機会を提供するカフェのことを言います。動物カフェは、アニマルカフェとも呼ばれます。

動物カフェの中で最も盛んなものとして猫カフェが挙げられます。日本における猫カフェ店舗数は2005年時点で3店舗でしたが、2015年には約300店舗にまで増加するなど、近年人気が高まっています[*1]。

また、動物福祉の考え方が厳しいフィンランドでも猫カフェが開業するなど、海外でも流行の兆しを見せています[*2]。

動物カフェの種類

動物カフェは、猫カフェを筆頭に様々な種類、形態があります。例えば、犬と触れ合うことのできる犬カフェや、フクロウやカワウソ、ハリネズミなど珍しい動物と触れ合うことのできる動物カフェがあり、動物の種類は多様化していると言えます。

また、自分の犬を同伴して入店することのできるドックカフェや、行き場を失った動物の保護を目的とした保護猫カフェや保護犬カフェなど、種類だけでなく形態も多様化しています。

動物カフェの抱える問題

このように、近年多様な動物を扱うようになってきている動物カフェですが、一方で、様々な問題も抱えているとされています。

動物福祉に関する問題

動物カフェを営業する上で議論となる問題点の一つとして、動物福祉の問題が挙げられます。

動物福祉とは、「動物が精神的・肉体的に充分健康で、幸福であり、環境とも調和していること」を言い、英語ではアニマルウェルフェアと言います[*3]。動物福祉が満たされているかを判断する基準としては、国際的なガイダンスとして次の5つの自由が記載されています(図1)。

図1: 動物福祉の5つの自由
出典: 家畜改良センター茨城牧場「動物福祉(アニマルウェルフェア)とは?」
http://www.nlbc.go.jp/ibaraki/naiyou/kairyou/doubutuhukusi1.html

動物を取り扱う動物カフェにおいても、動物福祉に配慮した営業が求められますが、十分な配慮がなされているとは言い難い事業者も中には存在します。

例えば、2016年には東京都の猫カフェで、猫の適正な管理を怠ったとして業務停止が命じられたケースがあります[*4]。このケースでは、6畳ほどのスペースに一時62匹もの猫を展示し、衛生管理が徹底されておらず、その7割が病気にかかってしまうなど動物福祉に配慮されているとは言い難い状況でした。

動物福祉に配慮した営業活動を行う動物カフェも多くありますが、業務停止を命じられた東京都の猫カフェの事例のような杜撰な管理を行う動物カフェが一定数存在します。

例えば、環境省がまとめた猫カフェについての実態調査では、不適切な飼養管理や点検台帳の不備、標識掲示の不備等により行政指導を受けた事業者は全体の10%とされています(図2)。

図2: 猫カフェに対する行政指導の有無
出典: 環境省「猫カフェの実態調査」
http://www.env.go.jp/council/14animal/y140-42/mat03.pdf, p.4

このように、動物カフェの人気の高まりによって参入する事業者は増加していますが、その一方で不適切な管理を行う事業者が増えており、動物福祉が満たされない動物が増加してしまっています。

密輸などの環境保護に関する問題

動物福祉の観点からだけでなく、密輸など環境保護の観点からも問題視されることがあります。近年、犬や猫だけでなく珍しい動物をメインにしたカフェもオープンしていますが、それらの動物の購入に際して、密輸が行われているというケースが報告されています。

例えば、カワウソをメインとしたカワウソカフェをオープンする事業者が増えています。しかしながら、海外から輸入されるカワウソの中には、密輸によって入手されるカワウソが存在するとされています。タイやインドネシアなど東南アジアからの密輸が特に増加していますが、2015年から2017年にかけ、調査によって発覚した13件のカワウソの違法取引のうち、タイで発覚した3件が日本向けの密輸でした[*5]。

密輸が増加すると、希少な動物であれば絶滅する危険性があります。カワウソのような希少な動物が動物カフェで扱われるようになることによって、違法な取引を行う事業者が増えることに繋がり、生態系が損なわれてしまうという懸念があります[*6]。

動物保護に向けた国内外の動き

以上のように、動物カフェについては動物福祉や環境保護の観点から様々な懸念があるとされていますが、問題の解決に向けて、国内外ではどのような取り組みが行われているのでしょうか。

世界における法整備の状況

海外における動物保護の現状ですが、動物福祉の考え方などは、特に欧州において法整備が盛んに進められています。

例えば、EU加盟国では、1976年に締結された「農用目的で飼養される動物の保護に関する欧州協定」(農用目的の動物とは、牛や豚、鶏など畜産物を生産する家畜のこと)によって動物福祉を満たすよう要請されており、協定を実現する規則として、「農用目的で飼養される動物の保護に関する指令」や各種個別規制が定められています[*7]。

EUにおける規則は主に家畜の保護を目的としていますが、英国では、家畜に限らず野生動物を含めた全ての動物を対象とした「2006年アニマルウェルフェア法」を制定しています。同法では、飼養下における適切な環境や食事を提供していない管理者に対する改善要求の通知や措置など、日本における動物愛護法よりも踏み込んだ内容となっています。また、動物虐待者に対する拘禁刑を最長6カ月から5年へと大幅に延長するなど、動物福祉を満たすためのルールを厳格化しています[*7]。

動物福祉の法規制は家畜に対する保護を目的とするものが多いのですが、動物カフェで飼養される動物も含めて幅広く動物を保護するための法整備が行われています。例えば、英国では2016年時点で8つの猫カフェがあり、その後も数は伸び続けていますが、2015年にはレスターにある猫カフェが開店から数週間も経たずに衛生管理の問題を理由に閉鎖となりました[*8]。このように、動物福祉の基準を満たしていない動物カフェは早期から営業停止になるように規則が運用されていると言えます。

日本における法整備の状況

World Animal Protectionが発表した報告書によると、日本の動物保護指標はAからGの七段階評価(Aが最高段階でGが最低段階)で、総合評価はEとされています。特に、娯楽目的などで展示する動物に対する法整備状況は、最低評価のGとされ、他国と比べて低い評価が下されています。理由としては、展示用動物に対する管理などの基準がなく、さらに犬や鳥同士を戦わせる習慣も日本にはあるからだとしています。また、動物福祉を満たす法律や政策についても、1973年に定められた「動物の保護及び管理に関する法律」には動物の輸送や、病気などになった場合の殺処分についてなどの記載が含まれていないなどの理由でFと採点されるなど、他国と比べ低い評価が下されています[*9]。

そこで、日本政府も現状を改善するために、法令の改正や省庁の公布等、様々な取り組みを行っています。例えば、World Animal Protectionによって低い評価が下された展示用動物に対する管理基準については、令和3年6月1日の「動物の愛護及び管理に関する法律等の一部を改正する法律」公布に伴い、「第一種動物取扱業者及び第二種動物取扱業者が取り扱う動物の管理の方法等の基準を定める省令」を定め、展示用動物の具体的な取り扱い規則を定めました[*10]。

また、動物カフェ開業における許認可申請や動物愛護管理法など、適正な動物管理に向けた法整備にも取り組んでいます。、動物カフェは飲食店という分類となるため、飲食店開業の手続き等が必要となります。さらに、「第一種動物取扱業」の登録が必要となります。

「第一種動物取扱業」とは、ペットショップやペット美容業などを営む際に必要な行政での登録ですが、動物カフェも販売等を行わない場合には、「展示(動物を見せる業)」という種別での登録が必要となります。申請時の要件として、動物取扱責任者を選任し、動物カフェにおける適切な環境管理を推進するよう求められています[*11]。

また、動物愛護管理法において、都道府県が開催する「動物取扱責任者研修」を動物取扱責任者は一年に一回以上受講するよう規定されています[*12]。

さらに、近年動物カフェで顕在化している問題を踏まえ、開業後の不適切な飼養等に対する法整備も活発化しています。例えば、令和元年に動物愛護管理法が改正され、動物取扱業における基準の具体化がなされました[*13]。具体的には、犬猫の展示において、休息できる設備を自由に移動できる状態の確保や、確保できない場合の休息時間の設定などがあります[*14]。

保護された動物たちを守る動物カフェ

ここまで、動物カフェの現状や課題、国内外の法整備の状況を紹介してきました。動物カフェの営業には問題もありますが、ペットなどの動物を取り巻く問題として、捨て猫や捨て犬など行き場を失った動物の殺処分という問題もあります。

殺処分という問題に対処するための取り組みの一つとして、保護犬カフェや保護猫カフェと言った動物カフェも近年増加しています。

日本における犬や猫の殺処分の現状

まず、日本における犬や猫の殺処分の現状ですが、殺処分数自体は年々減少しており、昭和49年には122.1万頭殺処分されていたのが、令和元年には3.3万頭まで減少しました(図3)。減少したと言っても、今でも1日に約100匹の犬猫が殺処分されています。

図3: 全国の犬・猫の殺処分数の推移
出典: 環境省「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」
http://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/dog-cat.html

犬や猫の殺処分数を減らすための取り組みの一つとして、保護犬カフェや保護猫カフェが挙げられます。

例えば、保護猫カフェとは動物福祉に配慮した保護場所を維持しつつ、譲渡を行うことを目的とした猫カフェを言います。保護猫カフェを取りまとめている一般社団法人保護猫カフェ協会には2019年4月時点で19事業者が加盟しています[*15]。新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、会社を解雇されて猫を手放す方や、一方で猫を飼いたいという方もおり、例えば保護猫カフェ「ネコリパブリック」では、例年の譲渡数が年間で110から120匹だったのが、今年は200匹と、例年と比べ増加しています[*16]。

保護犬カフェや保護猫カフェが保健所に代わるセーフティネットとして活用されていると言えるでしょう。

殺処分をゼロにするためには

日本では年々犬や猫の殺処分数は減ってきていると言えます。しかしながら、依然として年間3.3万頭にものぼる犬や猫が殺処分されています。このような殺処分を減らすためにはどうすれば良いのでしょうか。

第一に、責任を持って最後まで飼い主がペットを飼い続けるということが重要です。飼い主一人ひとりがペットを迎え入れる前に計画を立てた上で飼うことが必要です。

しかしながら、リストラなど経済状況の変化や、事故、災害、病気と言った予期せぬトラブルによって手放さざるを得ない場合もあります。そういった状況でも殺処分をゼロにするためには、行政のみならず、ボランティア活動や寄付など民間の力によって保護団体を支えるということが重要になります。

実際、ドイツでは殺処分がないと言われていますが、それはドイツではかわいそうな動物を助けるという考え方が人々の間に浸透しており、民間の保護動物施設への寄付が活発に行われているためです[*17]。

また、ドイツではペットショップのような陳列販売は禁止されており、飼いたい場合には保護施設から譲渡してもらうのが主となります。保護動物施設の動物の9割以上が新しい飼い主に引き取られているため、殺処分の必要がないとされるのです。

私たちの日常に癒しを与えてくれる犬猫をはじめとした動物たち。彼らと共生できる社会をつくり、殺処分をゼロにするためには、私たち一人ひとりの意識や取り組みの変化が必須です。

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参照・引用を見る

*1
環境省「猫カフェ業界の現況と猫カフェ協会による取組について」
https://www.env.go.jp/council/14animal/y140-42/mat04.pdf

*2
鐙麻樹「初の猫カフェが北欧フィンランドで開店した背景とは、動物福祉の考えが厳しい国で」https://news.yahoo.co.jp/byline/abumiasaki/20191001-00142918

*3
日本動物福祉協会「動物福祉について」
https://www.jaws.or.jp/welfare01/

*4
J-CASTニュース「初の業務停止「猫カフェ」とはどんなところだったのか 「処分」でもぬぐいきれない再発の予感」
https://www.j-cast.com/2016/04/22264985.html?p=all

*5
WWFジャパン「日本への密輸も発覚 カワウソの違法取引問題」
https://www.wwf.or.jp/activities/activity/3647.html

*6
WWFジャパン「密輸がなくならない理由」
https://www.wwf.or.jp/staffblog/news/3893.html

*7
JETRO「アニマルウェルフェア先進国「英国」と、求められる日本の対応」
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2019/4b0d8252e1d5d6c4.html

*8
BBC News「Are cat cafes good for cats?」
https://www.bbc.com/news/magazine-37199653

*9World Animal Protection「Animal Protection Index(API)2020」
https://api.worldanimalprotection.org/sites/default/files/api_2020_-_japan.pdf, p.12, p.22

*10
環境省「第一種動物取扱業者及び第二種動物取扱業者が取り扱う動物の管理の方法等の基準を定める省令等の公布について」
https://www.env.go.jp/press/109435.html

*11
行政書士 森本法務事務所「第一種動物取扱業許可の取得仕方(ペットショップ等)」
http://morimoto-office.com/2017/08/24/doubutsu/

*12
行政書士吉田正樹事務所「第一種動物取扱業の登録」
https://gyousei-net.com/category4/

*13
環境省「「動物取扱業における犬猫の飼養管理基準の解釈と運用指針~守るべき基準のポイント~」の策定について」

http://www.env.go.jp/press/109612.html

*14
環境省「動物取扱業における犬猫の飼養管理基準の解釈と運用指針~守るべき基準のポイント~」
http://www.env.go.jp/press/files/jp/116326.pdf, p.38

*15
保護ねこカフェ協会「加盟 保護猫カフェ一覧」
https://hogoneko.org/index.html

*16
日刊スポーツ「「保護猫カフェ」譲渡数倍増 コロナ禍で需要高まる」
https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/202011150000830.html

*17
公益財団法人ヒューマニン財団「殺処分ゼロを達成するためにしなければならないこと」
http://humanin.or.jp/chieinfo/殺処分ゼロを達成するためにしなければならないこと

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