コンパクトシティとは? メリットや目的を海外や富山の事例をもとに簡単に解説

20世紀以降、自動車の普及によって、人々の生活圏は都市近郊に広がりを見せています。しかしながら、自動車の大衆化によってCO2排出量の増加など環境問題が顕在化しています。さらに、生活圏が都市近郊に点在するようになったことで、各生活圏で社会インフラを維持せざるを得ない状況となっています。そのため、行政が街を維持するコストが増大し、財政状況が厳しくなっているため、環境対策への資本の投入はますます難しくなっています。

このような問題に対処する手段として、「コンパクトシティ」という考え方が注目されています。コンパクトシティ化に向けた取り組みは、20世紀後半から世界各国で行われており、日本においても富山市や大分市などで実施されています。

それでは具体的に、コンパクトシティとはどのような考え方なのでしょうか。また、コンパクトシティを目指すことによって、どのように環境問題の解決に向かうのでしょうか。

コンパクトシティとは

行政によるまちづくり戦略などによって度々用いられるコンパクトシティという言葉ですが、具体的にどのような街を意味するのでしょうか。

コンパクトシティの定義は話し手によって異なります。例えば、OECD(経済協力開発機構)が定めるコンパクトシティは、①高度化で近接した開発形態、②公共交通機関でつながった市街地、③地域サービスや職場までのアクセシビリティのある都市である、と定義づけられています(図1)。

図1: コンパクトシティの定義
出典: OECD「コンパクトシティ政策: 世界5都市の比較分析」
https://www.oecd.org/tokyo/newsroom/documents/20120911CompactCitiesSeminar_Saya_j.pdf, p.4

簡単にいうと、お店や公共施設、住宅など都市における様々な機能が集約され生活圏が小さく抑えられつつ、バスや電車などの公共交通機関での移動が簡単な街がコンパクトシティといえます。

図2: コンパクトシティのイメージ
出典: 日本経済新聞「コンパクトシティとは 商業施設や病院、住宅を集約」
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO53864580W9A221C1EA2000/で既存の公共施設の更新人件費や維持管理

なぜコンパクトシティが注目されているのか

機能が集約化され、人々が住みやすいとされるコンパクトシティですが、なぜ今、注目されているのでしょうか。

一般的にコンパクトシティには、行政、民間企業、住民にとって大きく3つのメリットがあるとされています。

行政サービスの効率化

1つ目のメリットとして、行政サービスの効率化が挙げられます。少子高齢化の進展による国や地方における税収の減少に伴い、効率的な行政サービスの提供が不可欠となってきています。

高度経済成長期以降に建設された多くの公共施設が老朽化によって一斉の更新期間に差し掛かる中で、コンパクトシティが進むこと費の削減が見込まれます。国土交通省が発表したデータによると、高度経済成長期以降に整備された道路橋、河川、港湾等について、2033年までに建設後50年以上経過する施設は過半数を超えています(図3)。

図3: 建設後50年以上経過する社会資本の割合
出典: 国土交通省「社会資本の老朽化の現状と将来」
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/maintenance/02research/02_01.html

更新時期に差し掛かった社会インフラを維持するのではなく、コンパクトシティ化によって不要な社会インフラを減らしていくことで、補修や維持コストは削減されると言えます。実際、総務省が地方公共団体へ行なった調査では、約6割の地方公共団体が既存の社会インフラの見直しが必要であると考えているとされ、厳しい財源の中で、社会インフラの統廃合のためにコンパクトシティ化を目指すことは大きなメリットとなります[*1]。

経済の活性化

2つ目のメリットとしては、コンパクトシティ化による経済の活性化が挙げられます。街がコンパクトになり、人口密度が高まると、特にサービス業において労働生産性が高まるとされています(図4)。

図4: サービス業の労働生産性と人口密度の関係
出典: 国土交通省「平成26年 国土交通白書」
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/h25/hakusho/h26/html/n1213000.html

図4の表は、人口密度が高ければ高いほどサービス業における労働生産性が高まる傾向にあることを示しています。労働生産性とは従業員一人当たりの売上(生産性)を示しており、立地が良ければ良いほど多くの集客が見込めるため従業員一人当たりの売上が高いということになります。よって、コンパクトシティでの営業は費用対効果を高め、少ない労働資本の投入で経済を活性化することにつながります。

また、大阪府大東市では、子育て世代の定住促進のため、働きやすい環境を整備しようと都市機能を鉄道駅周辺に集約させるコンパクトシティ化を推進したことにより、25歳から44歳女性の就業者が約1300人増加しました。その結果、約100億円の経済効果を創出するなどコンパクトシティ化によって経済の活性化を目指すことができるというメリットがあります[*2]。

環境負荷の低減

3つ目のメリットとして、環境負荷の低減が挙げられます。人口密度が高いほど、自家用車等による移動が少なくなるため交通部門のCO2排出量が小さくなる傾向にあるとされています。実際、都市別のCO2排出量を比較した際、人口密度の高いソウルや香港は、交通部門における1人あたりのCO2排出量が小さいという結果が出ています(図4)。

図5: 都市構造とCO2排出量の関係
出典: 国土交通省「『エコ・コンパクトシティ』の実現〜都市政策の基本的課題と方向検討小委員会報告より抜粋〜」
https://www.mlit.go.jp/common/000046606.pdf, p.3

日本国内の都市についても同様の傾向が見られます(図5)。そのため、コンパクトシティを目指すことが、結果として1人あたりCO2排出量を減らすことができると言えるでしょう。

日本におけるコンパクトシティと環境問題への取り組み

以上のように様々なメリットのあるコンパクトシティですが、どのような都市で、具体的にどのような取り組みが行われているのでしょうか。また、環境問題の解決に向けてコンパクトシティ化はどのように役立っているのでしょうか。

富山市におけるコンパクトシティ戦略

日本におけるコンパクトシティ化の取り組みとして最も有名な事例は、富山市のコンパクトシティ戦略が挙げられます。

富山市は、人口減少による税収悪化や、都市機能の悪化を食い止めるため、コンパクトシティ戦略を策定し、様々な取り組みを行なっています。そして、コンパクトシティ戦略の一つとして環境に配慮したまちづくりを進めています。

富山市では元々、都市近郊への人口の分散により、世帯当たり自家用車保有台数が1.72台と全国2位で、さらに鉄道などの公共交通の利用者減によって1人あたり環境負荷の増加が問題となっていました[*3]。

そこで富山市は、公共施設を軸とした拠点集中型のコンパクトなまちづくりを目指すことを決め、2050年までに2005年比でCO2を50%減らすことを宣言しています(図6)。

図6: 富山市環境モデル都市行動計画
出典: 富山市環境部環境政策課「富山市 環境モデル都市行動計画」
https://www.env.go.jp/policy/local_keikaku/data/sem_chubu/toyama.pdf, p.5

CO2削減に向けた具体的な取り組みとしては、市内の移動の手段として環境負荷の少ないLRT(次世代型路面電車システム)の採用や、自転車市民共同利用システムの構築など、環境負荷の少ない移動手段を使えるようなまちづくりを行なっています。

図7: 公共交通の活性化
出典: 富山市環境部環境政策課「富山市 環境モデル都市行動計画」
https://www.env.go.jp/policy/local_keikaku/data/sem_chubu/toyama.pdf, p.6

さらに、都市の再編に伴い移動手段だけでなく、小水力発電や太陽光発電、木質バイオマス発電など自然エネルギーの導入も、積極的に進めています[*3]。

例えば、太陽光発電については、富山市が北陸電力を誘致し、市有地に太陽光発電建設を後押ししました。その結果、年間約300トンのCO2排出量が削減可能とされています。また、木質バイオマス発電については、国の補助金によって木質ペレット製造施設を建設し、森林組合や企業など民間の力を活用したバイオマス資源の活用を推進しています。

このように、富山市ではコンパクトシティ化に伴う都市の再編の過程で、環境にも配慮したまちづくりを実践しています。

海外におけるコンパクトシティへの取り組み

日本では、富山市の他、大分市や飯田市など様々な街で実施されていますが、海外ではどのような取り組みが行われているのでしょうか。

省エネコンパクトシティと呼ばれるアメリカ、ポートランド

海外においても、多くの都市でコンパクトシティに向けた取り組みが積極的に行われています。特に欧米の各都市において積極的に推進されていますが、今回はアメリカのポートランドについて紹介します。

ポートランドは、アメリカ西海岸に位置するオレゴン州最大の都市であり、全米で一番住みたい街や、最も環境にやさしい街ランキングにランクインする地方都市です。そのため、ポートランドには年間4~8万人もの人々が移住しており、若者に人気のある都市とされています。

そんなポートランドですが、1960年代までは自動車が必須のよくある地方都市の一つでした。そのため、郊外への住宅開発が進むにつれて市街地が空洞化し、生活環境や治安の悪化が懸念されていました[*4]。

そのような状況下で、都市再生に乗り出したオレゴン州政府は、都市機能を集約させ、人々が徒歩でも移動しやすいコンパクトシティ化に向けた取り組みを開始しました。その中で、ポートランドは環境に配慮したまちづくりも行なっています。例えば、CO2排出量削減に向けたエネルギー政策として、自然エネルギーの電源構成割合を2040年までに50%まで引き上げるとしています。さらに、都市づくりの過程で、太陽電池製造会社の誘致や水力発電や風力発電事業への補助や設備投資等も行なっています[*5]。

その結果、ポートランドの炭素排出量は年々減少しているとともに、炭素排出量は1990年時点と比べ1人あたり35%も減少しており、全米平均の推移と比べるとその減少量が顕著であることが分かります (図8)。

図8: ポートランド市と全米平均における1990年時点の炭素排出量との推移比較
出典: 佐無田光(金沢大学)「エネルギーまちづくりのガバナンス:オレゴン州ポートランド市における地域的実験の制度設計」
http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/pbfile/m000285/pbf20201218132821.pdf, p.18

ポートランドにおけるコンパクトシティ推進の取り組みは、行政のみならず住民たちによっても行われています。ポートランドでは「ネイバーフッド・アソシエーション」と呼ばれる住民組織が、行政と市民を繋ぐパイプ役としてコンパクトシティ推進に向けた提言などを行なっています[*4]。

このような、行政と企業、市民が一体となってコンパクトシティ化が行われることで、魅力的な街が形成されていると言えるでしょう。

コンパクトシティ化に向けた課題と将来

以上のように、都市構造における環境問題の解決に有用なコンパクトシティですが、課題も山積しています。

例えば、生活圏をコンパクトに密集させることで、騒音や交通混雑、景観の阻害、日照権の問題など都市問題が増加する可能性も示唆されています。実際、オランダにおいても近隣地域の住環境における諸々の問題を引き起こしたという事例が発生しています[*6]。

このような近隣環境の問題が生じる可能性にも留意しながら、ポートランドでの事例のように行政と企業、住民が一体となってまちづくりに取り組むことが、環境にも人々の生活にも配慮したコンパクトシティ推進の第一歩となると言えるでしょう。

 

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参照・引用を見る

*1

国土交通省「平成26年 国土交通白書」
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/h25/hakusho/h26/html/n1213000.html

 

*2

国土交通省「コンパクト・プラス・ネットワークの推進」
https://www.retpc.jp/wp-content/uploads/2018/06/0607compactplusnet.pdf, p.22

 

*3

富山市環境部環境政策課「富山市 環境モデル都市行動計画」
https://www.env.go.jp/policy/local_keikaku/data/sem_chubu/toyama.pdf, p.3, p.24, p.25, p.26

 

*4

大阪ガス「アメリカで住みたい街No.1 人と環境にやさしい、省エネコンパクトシティ ポートランド」
https://services.osakagas.co.jp/portalc/contents-2/pc/w-energy/report/201510/index.html

 

*5

佐無田 光(金沢大学)「エネルギーまちづくりのガバナンス:オレゴン州ポートランド市における地域的実験の制度設計」
http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/pbfile/m000285/pbf20201218132821.pdf, p.14, p.16

 

*6

関家 隆博「コンパクトシティに学ぶ日本の都市政策の現状と課題」
http://fourier.ec.kagawa-u.ac.jp/~tetsuta/jeps/no8/Sekiya.pdf, p.192

 

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