持続可能な社会を創造する人材を育てる! 世界と日本のSTEM教育のいま

アメリカの重要な国家戦略であるSTEM(ステム)教育、近年では世界各国で積極的に取り入れられています。
STEMとは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字をとった言葉です。

一般的には理数系に分類される分野のことですが、従来の理数教育と比較してより多次元的・統合的に学ぶことができるのがSTEM教育の特徴です。
科学技術や自然科学の分野を横断的に学ぶことで、自然エネルギーや人工知能、ロボット技術、環境保護などの分野で活躍する人材を育成することが、STEM教育の目的です。

この記事では、世界や日本の「STEM教育のいま」についてお伝えします。

STEM教育とは 〜導入背景とメリット〜

2011年、アメリカのオバマ大統領がSTEM教育の重要性について演説し、10年間で10万人のSTEM分野教員雇用などの具体的な政策を打ち出しました。
2013年からは、年間30億ドルを投入した国家の重要戦略となっています[*1]。

STEMとは記事冒頭でも紹介した通り、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字をとった造語で、理数系領域の学問全般を表しています。

アメリカでSTEM教育が推進された背景には、科学技術分野での競争力の低下、高等技術を用いる職種の人材不足、STEM分野の教員不足などがあります。

アメリカが発祥のSTEM教育は、現在はヨーロッパやアジアにも広がり、先進国を中心に国を挙げて積極的な導入が進んでいます。
STEM教育は従来の理数教育、プログラミング教育とは異なり、より実践的・体験的であり、数学や理科といった科目教育から飛躍した横断的なプログラムになっています。

つまり単なる理系人材の育成ではなく、自分自身で考える思考力、新たなものを創り出す発想力、課題の本質を見極める問題解決力のある人材を育成する狙いがあります。

STEM教育の発展系として、Arts(デザイン・感性)の要素を加えたSTEAM(スティーム)教育もあります。
STEAM教育は、リベラルアーツの考えに基づき、美術、音楽、歴史、文学などの芸術や教養も取り入れ、理系・文系といった枠組みを超えた教育プランです(図1)。

図1: STEAM教育のイメージ
出典: 内閣府「STEAM: 21世紀の教育と人材育成(2020)」
https://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/future2/20201023/shiryou2.pdf, p.14

STEM/STEAM教育を推進する日本の取り組み

日本の理数教育およびSTEM分野の人材育成は、さまざまな課題を抱えています。

文部科学省が行った調査では、数学や理科を使う職業に就きたいと答えた中学生の割合は、国際平均と比較して低い水準になっています(図2)。

図2: 数学・理科を使うことが含まれる職業につきたい児童生徒の割合の推移
出典: 文部科学省 「STEAM教育等の教科等横断的 な学習の推進について(2020)」
https://www.mext.go.jp/content/20210714-mxt_new-cs01-000016477_004.pdf, p.4

同調査によれば、「算数・数学の勉強が楽しい」「理科の勉強が楽しい」と答えた児童生徒も、国際平均に比べて低くなっています[*2]。

さらに、学校教育におけるコンピュータやタブレットの利用率の低さとICT環境整備の遅れも指摘されています。
子どものICT機器の利用は学習外のネットやゲームに偏っており、学校の授業におけるデジタル機器の使用時間は、OECD加盟国で最下位というデータもあります[*3]。

このような背景から、日本の文部科学省はプログラミング教育の必修化、GIGAスクール構想などの教育施策を推進しています。

2017年に小学校と中学校、2018年に高等学校の新学習指導要領が公示され、2020年度からプログラミング教育が必修化されました[*4]。
2019年から開始されたGIGAスクール構想では、校内通信ネットワークを整備し、児童生徒1人1台にタブレット端末を配布しています[*3]。

STEM分野の育成に関しては、文部科学省ではSTEAM教育を推進する上で、学校教育と民間教育の連携をすすめています(図3)。

図3: 学校教育におけるSTEAM教育
出典: 経済産業省 「「未来の教室」プロジェクトから見たEdTechやSTEAM教育の課題(2018)」
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/jikkoukaigi_wg/kakusin_wg4/siryou4.pdf, p.1

さらに教育現場では、EdTech(エドテック)とSTEAM教育を組み合わせた、さまざまな実証事業が進められています。

EdTechとは、Education(教育)とTechnology(技術)を掛け合わせた言葉で、AIやビックデータ等を教育に活用させたサービスのことです。
EdTechを活用すれば、1人1人の理解度・特性に合わせた個別学習環境を創出し、学びの自立化・個別化が可能になるとされています(図4)。

図4: EdTechを「教育での授業の中心」に(教室の「個別化」と「協働化」)
出典: 経済産業省 「「未来の教室」プロジェクトから見たEdTechやSTEAM教育の課題(2018)」
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/jikkoukaigi_wg/kakusin_wg4/siryou4.pdf, p.7

EdTechにより、教育の最適化を行うことで従来の教科学習に費やす時間を短縮し、STEAM教育の授業を拡大することができます。

例えば東京都の千代田区立麹町中学校では、EdTechにより学習履歴データとAIを活用し、個人の認知特性や学習到達度に合わせた学習を実施しています。
集団授業とは異なり個人の理解度によって最適化されるので、数学の授業時間の圧縮と成績向上の効果が期待されています。

そして、教科学習の生産性向上により捻出した時間で、STEAM系のプロジェクトやワークショップを実施しています[*5]。

海外でのSTEM 教育の導入事例

次に海外でのSTEM教育の導入事例として、アメリカ・中国・イスラエルの事例を紹介します。

STEM教育発祥の国である、アメリカでは2015年にSTEM教育法が制定され、2019年の時点で20の州と1特別区で、「次世代科学スタンダード(NGSS)」を科学カリキュラムとして採用しています[*6]。

次世代科学スタンダードとは、科学の探究とエンジニアリングの活動を重視したアメリカの教育要領です。幼稚園から日本の高校卒業にあたる第12学年までを4段階に分け、それぞれ期待される達成度を設定しています。

また、アメリカではSTEM教育にEnvironment(環境)、つまり環境教育を融合させたE-STEM教育も推進されています。
E-STEM教育の実践校では、生徒のデザインによる風力発電の設置、地域住民と協力した市民農園の運営・管理などを行っています。

さらに、政府主導でIT教育やEdTechの普及も積極的に行っています。

アメリカではチャータースクール制度を導入しており、州や学区の許可(チャーター)を受けた学校は、従来の公立学校とは異なる多様なプログラムを実施することができます。
チャータースクール制度により、従来型のテストのために知識を身につける学びから脱却し、自由なカリキュラムでSTEM教育を実施する学校も誕生しています。(図5)。

図5: 学びの改革トレンド:米国
出典: 経済産業省 「「未来の教室」プロジェクトから見たEdTechやSTEAM教育の課題(2018)」
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/jikkoukaigi_wg/kakusin_wg4/siryou4.pdf, p.23

経済発展の著しい中国ではSTEM教育を義務教育課程内に盛り込み、早期に普及させることを目標としています。

上海市では、「STEM+」教育研究センターを設立し、STEM教員養成についての実証研究プロジェクトに取り組んでいます。
図6は「STEM+」教育研究センターの開発した教員養成プログラムです。

図6: 「STEM+」教育研究センターの教員養成プログラム
出典: 経済産業省 「諸外国の教育の現状に関する参考資料(2018)」
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/mirai_kyoshitsu/pdf/004_03_00.pdf, p.8

「STEM+」教育研究センターでは教員の研修試験や養成プログラムを実施し、経験や能力によって5段階の勲章を用意しています。

イスラエルでは、軍事面での必要性から、幼少期から高校卒業後の兵役まで一貫してSTEM教育を実施しています(図7)。
STEM分野の中でもプログラミング教育とサイバーセキュリティに特化しているのが特徴です。

図7: 学びの改革トレンド:イスラエル
出典: 経済産業省 「「未来の教室」プロジェクトから見たEdTechやSTEAM教育の課題(2018)」
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/jikkoukaigi_wg/kakusin_wg4/siryou4.pdf, p.26

2015年に開設された科学技術幼稚園では、化学やロボット工学などの高度なカリキュラムが幼児期から受けられます。
科学技術幼稚園は政府、市、民間企業の共同プロジェクトで、2016年には2園目が開園し、今後も増やしていく方針です。

次世代の人材を育成するためのSTEM教育とSDGsの関係

STEM教育の普及と国連の持続可能な開発目標、SDGsには深い関わりがあります。

SDGsとは、2030年を期限として、より良い社会の実現を目指す世界共通の目標です。

STEM分野の人材を育成することは、SDGsの課題7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」をはじめ、9「産業と技術革新の基盤をつくろう」、11「住み続けられる街づくりを」、13「気候変動に具体的な対策を」などに関連があります(図8)。

図8:持続可能な開発目標(SDGs)の詳細
出典: 外務省 「持続可能な開発目標(SDGs)と日本の取組」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/SDGs_pamphlet.pdf, p.3

SDGsの課題7、課題13と関連の深いSTEM教育の教材として、風力発電や太陽光発電などの自然エネルギーが頻繁に取り上げられています。

自然エネルギーは工作や実験を通じて、エネルギーの発電や供給の仕組みを理解しやすいためです。
装置の構造や発電の原理、発電効率の向上などは工学の分野ですが、データの分析やコンピュータの利用は数学やITの分野です。

さらに、自然エネルギーの普及と温暖化問題解決との関係や、自然エネルギーの種類ごとの特性を理解することは、気象や自然科学の学習を深めることに繋がります。

このように、エネルギーや気候変動に関する現在の社会の課題について学ぶには、科目を横断的に学べるSTEM教育が適しています。

さらにSTEM教育では、エネルギーの利用が自然界へどんな影響をもたらしているのか、自然エネルギーが気候変動解決の打開策となるのかといった「問い」やディスカッションも用意されており、自身の考えを自発的に探究するきっかけにもつながります。

STEM教育はITリテラシーを高め、科学技術の発展に貢献する人材を育てるだけではありません。

STEMの各分野・教科の固有の知識を併せ持ち、思考力・問題解決力を身につけることで、現在の社会が抱える複雑な課題を解決できる人材を育てることができる教育と言えるでしょう。

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参照・引用を見る

*1

経済産業省「21世紀の教育・学習(2018)」
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/mirai_kyoshitsu/pdf/001_09_00.pdf, p.6

*2

文部科学省 「STEAM教育等の教科等横断的 な学習の推進について(2020)」
https://www.mext.go.jp/content/20210714-mxt_new-cs01-000016477_004.pdf, p.3

*3

文部科学省「GIGAスクール構想の実現へ」
https://www.mext.go.jp/content/20200625-mxt_syoto01-000003278_1.pdf, p.1, p.2

*4

総務省 「子供向けプログラミング教育の現状に関する調査研究の請負(2020)」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/linkdata/r02_06_houkoku.pdf, p.7

*5

経済産業省 「「未来の教室」プロジェクトから見たEdTechやSTEAM教育の課題(2018)」
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/jikkoukaigi_wg/kakusin_wg4/siryou4.pdf, p.8

*6

国立教育政策研究所「資質・能力の育成を目指す教科横断的な学習としての STEM/STEAM教育と国際的な動向(2019)」
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/004/siryo/__icsFiles/afieldfile/2019/09/11/1420968_6_1.pdf, p.8

 

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