PM2.5って有害物質? どこから発生する? 国内外の対策と私たちができること

2010年代、中国から飛来し連日大きなニュースとなっていたPM2.5。近年では、当時に比べるとPM2.5に関するニュースは減っているため、すでに終息したものと考える方も多いでしょう。

しかしながら、PM2.5は中国など他国からだけでなく、国内でも発生する有害物質です。また、PM2.5を多量に体内に吸収してしまうと健康被害に繋がることもあるため、今なお対策が必要な物質です。

このように現在でも対策が必要な有害物質ですが、そもそもPM2.5とは、どのような物質なのでしょうか。また、国内外では現在どのような対策が取られ、私たち一人ひとりはPM2.5低減や予防のため何をするべきなのでしょうか。

PM2.5とは?

世間的に「身体に悪いイメージ」という認識のあるPM2.5ですが、実際にPM2.5とはどのようなものなのでしょうか。

まず、PM2.5のPMとは、Particulate Matter(微粒子物質)の略であり、PM2.5は直径が2.5㎛(マイクロメートル)以下の超微小粒子のことを表しています。1㎛は1mmの1/1000の大きさであり、2.5㎛というと髪の毛の太さの30分の1程度ほどで肉眼では見ることができない大きさの物質です (図1)。

図1: PM2.5の大きさ
出典: 日本医師会「PM2.5って何?」
https://www.med.or.jp/forest/keyword/pm25/index.html

PM2.5の成分としては、炭素成分や硫酸塩、ケイ素、ナトリウム、アルミニウムなどの無機元素が含まれており、PM2.5自体は特定の物質を表しているわけではありません[*1]。

PM2.5の発生源

「中国から発生している」というイメージが強いPM2.5ですが、特定の国のみで発生するわけではなく、日常生活など身近に発生しうる物質です。

PM2.5の発生源としては、工場から出る煤煙や自動車の排出ガスなど物の燃焼によって発生する人為的な発生源と、土壌や火山、黄砂など自然由来の発生源に大別されます[*1]。

人為的な発生源についてより具体的に見ると、ガソリン車やストーブの燃焼、火力発電所や工場から排出される硫黄酸化物や窒素酸化物と、溶剤や塗料から発生する揮発性有機化合物とが大気中で化学反応を起こすことによって発生するなど、さまざまです。近年では工場・事業者への排出ガス規制などの取り組みによって日本では排出量は減少していますが、アジア諸国などにおける都市の発展に伴う排出ガス量の増加により、日本のPM2.5濃度が増加することもあります[*2]。

図2: PM2.5の主な発生源と大気中の挙動
出典: 茨城県霞ヶ浦環境研究科学センター「PM2.5の成分や季節的変動の特徴について」
https://www.pref.ibaraki.jp/soshiki/seikatsukankyo/kasumigauraesc/04_kenkyu/shoukai/semina/documents/h27_pm25_03.pdf, p.6

また、たばこから発生する煙にも、2.5㎛以下の微小粒子物質が含まれています[*3]。日本たばこ産業株式会社の調査によると、喫煙エリアにおける粉じん(10㎛以下の物質)濃度は、紙巻たばこ喫煙時には1.085mg/m³まで上昇します。

一方で、加熱式たばこ喫煙時には0.024から0.027mg/m³とされています[*4]。適切な喫煙室の要件として、粉じん濃度が.0.15mg/m³以下に保たれているのが良いとされているため、加熱式たばこであれば問題ありませんが、紙巻たばこの場合粒子性物質が多く排出されます[*5]。

たばこから排出される物質肺がんなど病気を引き起こすリスクを上昇させます。このように、PM2.5は身近な場所から発生するため、日頃から注意が必要と言えます。

PM2.5の健康への影響

PM2.5と聞くとなんとなく危険なイメージはあると思いますが、実際にどのような健康への影響があるのでしょうか。

PM2.5は粒子がとても小さいため、肺の奥まで入りやすいとされています。そのため、ぜん息や気管支炎などの呼吸器系の疾患や循環器系への影響、肺がんのリスク上昇など様々な健康被害に繋がります(図3)。

図3: 健康への影響
出典: 神奈川県「PM2.5の健康影響について」
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/pf7/pm/p656381.html

PM2.5の濃度がどれほどまでになると健康被害に繋がるといえるのかですが、日本では環境基準と暫定的指針値という2つの基準値を設け、それらの値を超えないよう対策を行っています。環境基準とは、人の健康の適切な保護を図るために維持されることが望ましい濃度水準のことをいい、暫定的指針値とは、健康影響が出現する可能性が高くなると予測される濃度水準をいいます[*6]。

暫定的指針値として日平均値70μm/立方メートルに定め、この値を超えることが見込まれた場合には、国民に対して注意喚起を行うなど、対策を呼びかけています[*7]。

海外では、「ドイツの事例」でも後述するように、PM2.5が原因で死亡する人もいるなど、死に至るケースもあります。、

世界におけるPM2.5の汚染状況

PM2.5は、特定の国から発生するのではなく、たばこなど身近な日常生活でも発生することが理解できたと思います。それでは、世界各国でPM2.5の汚染状況や対策はどのようになっているのでしょうか。

ドイツの事例

環境先進国の一つであるドイツでは、2000年から2014年にかけて大気汚染状況は改善されつつあると報告されています[*8]。しかしながら、2014年には、PM2.5濃度が世界保健機関(WHO)の基準値を超える地域に居住していた都市住民が、都市住民全体の85%であったとされています。

実際、ドイツを含むEU28ヵ国におけるPM2.5に起因する年間早死者数は、2013年のデータによると、年間43万人を超えるとされ、EU諸国でも大きな問題となっています。ドイツでは特に、PM2.5の一つである二酸化窒素(NO2)による大気汚染が深刻であるとされ、ドイツ国内に基準値を超える濃度を示す赤い点が集中しています(図4)。

図4: 欧州における二酸化窒素(NO2)濃度
出典: ARC WATCHING 2017年4月「欧州大都市のディーゼル車規制の強化」
https://arc.asahi-kasei.co.jp/member/watching/pdf/w_272-13.pdf, p.18

そのため、ドイツ南西部シュツットガルト市は、二酸化窒素排出の要因となるディーゼル車制限の方針を示しており、EURO6(EUにおける自動車排出ガス規制。NOxの排出基準を0.08g/kmにすることとしている)の基準を満たさない古いディーゼル車の一部道路への乗り入れ制限を実施しています。

また、ドイツは2018年に欧州委員会から二酸化窒素排出基準を大きく逸脱していると勧告を受け、連邦政府、地方政府ともに対応に乗り出しています[*9]。

例えば、ドイツの公共バスの多くはディーゼル車両が使われており、排出ガス基準に達していないとされる車両もあるとされています。実際、各地のバス運行会社はディーゼル車両の改良や更新や、天然ガスや電気を動力源とする車両の調達を実施してきましたが、高額な導入コストのため、2017年時点で国内主要バスのうち天然ガスバスが2.6%、電気バスが0.6%と未だ低い水準です[*10]。

このような課題を解決するため、連邦政府は15億ユーロ規模の大気汚染対策パッケージを策定し、取組みの一つとして電気バス調達資金を供給するなど、環境先進国と言われるドイツにおいても、PM2.5への対応を迫られています。

中国の事例

一方で、大気汚染の問題が深刻な中国の現状や対応はどうなっているのでしょうか。

中国では、経済発展に伴い2013年、2014年の主要都市のPM2.5濃度は、国際的な排出基準である35μm/立方メートルを越えています(図5)。

図5: 中国主要都市のPM2.5濃度
出典: 賀克斌「中国PM2.5汚染の現状と対策」
https://www.spf.org/sjcff-j/docs/中国PM2.5汚染の現状と対策.pdf, p.7

このような現状を踏まえ、中国国務院は2013年9月に、「大気汚染防止行動計画について の通知」を公表し、PM2.5抑制に向けた取り組みを実施すると発表しました(図6)。

図6: 国務院の大気汚染防止行動計画の内容
出典: 環境省水・大気環境局大気環境課「中国PM2.5の現状と対応」
https://www.env.go.jp/air/osen/pm/info/cic/attach/briefing_h25-mat01.pdf, p.21

その結果、北京市では2015年からの5年間でPM2.5の平均濃度が50%以上低下したと報告されています[*11]。

しかしながら、2021年3月には、黄砂の影響で北京市濃度は1立方メートル当たり680μg(マイクログラム)となるなど、現在もPM2.5による問題が解決したわけではありません[*12]。中国政府は、黄砂対策として植林を進めるなど対策を行なっていますが、今後も様々な対応が求められています。

日本におけるPM2.5の汚染状況と対策

近隣諸国からの影響だけでなく、たばこの煙や自動車など身近なところからも発生するPM2.5ですが、国内では現在どのような状況なのでしょうか。

日本国内においては、工場・事業者等のばい煙発生施設の規制や、排出ガス規制などにより、年間の平均的な濃度は減少傾向にあるとされています。

図7: PM2.5 濃度の年平均値の推移
出典: 環境省「大気環境中のPM2.5の状況」
https://www.env.go.jp/council/07air-noise/y078-07/mat801.pdf, p.1

国内ではPM2.5の大気中濃度は減少傾向にあり、国内の多くの濃度測定局でPM2.5の環境基準は達成されています(1日平均値の環境基準は35μm/立方メートル以下)。しかしながら、関東地方の都市部や関西地方の都市部及び沿岸部などでは、国の環境基準を満たしていない地域が存在しており、平成30年度における環境基準達成率は、全国の一般環境大気測定局で93.5%、自動車排出ガス測定局で93.1%となっています[*13]。

そのため、環境省では工場・事業者からの排出ガス抑制対策や、自動車排出ガス対策、低公害車の普及等を推進しています。また、野焼き対策や、家畜・肥料等負荷軽減対策などアンモニア発生源対策など幅広い施策を実施しています[*14]。。

さらに、地方自治体の例では、室内のPM2.5低減のため、神奈川県公共的施設における受動喫煙防止条例を制定するなど、幅広い対策を実施しています[*15]。

PM2.5から身を守るには

行政の規制や取り組みにより国内では減少傾向にあるPM2.5濃度ですが、完全になくなったというわけではありません。そのため、行政のみならず一人ひとりが予防対策をしっかりと取るとともに、普段の生活でPM2.5を減らすための取り組みを意識して行うことが必要となります。

予防対策として、マスクの着用が挙げられますが、市販の一般用マスクは性能が様々であり、PM2.5のような細かい粒子を通してしまうマスクもあるため、予め性能をチェックすることが大切です。また、PM2.5濃度が高い日には、屋外での長時間の運動や外出は極力控え、屋内でも窓の開閉をなるべく行わないということが重要です[*1]。

さらに、予防だけでなく、私たち一人ひとりがPM2.5を出さないという行動も必要となります。例えば神奈川県は、県民一人ひとりができることとして、

  1. 屋外でみだりに物を燃やさないこと(野焼きをしない)
  2. 環境にやさしい運転(エコドライブ)の実践、低公害車への乗り換え
  3. こまめなスイッチOFF(省エネ)とエネルギー転換(創エネ)
  4. 禁煙への挑戦を推奨しています[*16]。

(3)の省エネ、創エネについては、無駄な家庭内電気使用を日頃から意識して抑えることによって、火力発電所での化石燃料使用を抑制することができるなど、間接的なPM2.5の排出抑制につながります。

このように、行政のみならず、私たち一人ひとりも予防対策とともにPM2.5の抑制を意識的に行うことが、PM2.5被害を低減させるカギとなるでしょう。

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参照・引用を見る

*1

日本医師会「『PM2.5』PM2.5って何?」
https://www.med.or.jp/forest/keyword/pm25/index.html

*2

医肌研究所「PM2.5ってどんな物質?身体への影響や日常でできる対策」
https://medical.shiseido.co.jp/ihada-lab/article/ih27.html

*3

松山市医師会「すぐ近くにあるPM2.5に気をつけて」
https://www.matsuyama.ehime.med.or.jp/info/dictionary/15016.html

*4

日本たばこ産業株式会社「加熱式たばこ使用時の空気環境影響について」
https://www.jti.co.jp/investors/library/press_releases/2018/pdf/20181002_01_appendix_01.pdf, p.9

*5

厚生労働省「職場における受動喫煙防止のためのガイドライン」
https://www.mhlw.go.jp/content/000524718.pdf, p.15

*6

国立環境研究所「最近のPM2.5の状況(環境基準と暫定的指針値)」
https://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/64/column2.html

*7

環境省「平成29年度のPM2.5に係る大気汚染状況について」
http://www.env.go.jp/press/pm2.5_9/mat1.pdf, p1

*8

ARC WATCHING 2017年4月「欧州大都市のディーゼル車規制の強化」
https://arc.asahi-kasei.co.jp/member/watching/pdf/w_272-13.pdf, p.18

*9

ARC WATCHING 2018年4月「大気汚染対策、ドイツはディーゼル車規制も」
https://arc.asahi-kasei.co.jp/member/watching/pdf/w_284-09.pdf, p.14

*10

土方まりこ「ドイツの交通行政による大気汚染規制への対応」
https://www.toshi.or.jp/app-def/wp/wp-content/uploads/2020/04/report186_2-4-2.pdf, p.111

*11

AFPBB News「北京のPM2.5濃度 5年間で50%以上低下」
https://www.afpbb.com/articles/-/3362435

*12

Bloomberg「北京の大気汚染、17年以来のひどさ-黄砂でPM2.5濃度急上昇」
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-03-15/QPZXZLDWRGGE01

*13

環境省「平成30年度 大気汚染状況について」
https://www.env.go.jp/air/osen/jokyo_h30/index.html

*14

環境省「中央環境審議会大気・騒音振動部会微小粒子状物質等専門委員会 資料4 各課題の検討スケジュール(想定)」
http://www.env.go.jp/council/07air-noise/y078-06/mat04.pdf

*15

神奈川県「PM2.5の低減のために」
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/pf7/pm/p656387.html

*16

日本医師会「『PM2.5』防ぐことはできるの?」
https://www.med.or.jp/forest/keyword/pm25/03.html

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