国内外の公害問題の現状は? 公害を防ぐために私たちができること

高度成長期には、経済発展の陰でイタイイタイ病や水俣病のような様々な公害病が社会問題化しました。

様々な対策がとられたことによって、国内ではイタイイタイ病のような深刻な被害をもたらす公害は減少しましたが、現在でも、公害にかかる苦情件数は全国で年間7万件を超えており、公害問題はなくなっていません。

また、途上国ではインフラの未整備や、経済を優先した開発の結果、大気汚染や水質汚染のような公害が数多く発生しています。

それでは具体的に、国内外でどのような公害が現在発生しているのでしょうか。また、公害を防ぐために国内外でとられている対策にはどのようなものがあり、私たち一人ひとりができることとして何があるのでしょうか。

公害とは

公害というと、光化学スモッグなど大気が汚染されているイメージが思い浮かぶと思いますが、具体的にどのようなものを呼ぶのでしょうか。
日本では、公害とは環境基本法2条3項の以下の要件を満たしているものと規定されています[*1]。

  1. 事業活動その他の人の活動に伴って生ずる
  2. 相当範囲にわたる
  3. 大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染、騒音、振動、地盤の沈下及び悪臭によって
  4. 人の健康又は生活環境に係る被害が生ずること

特に、3に列挙されている7種類の公害は「典型7公害」と呼ばれています。
一般的にイメージしやすい大気汚染や水質汚濁のほかに、騒音や悪臭なども公害に含まれます。

愛知県における平成30年の苦情件数を見ると、年間苦情件数4280件に対し、騒音が1454件、大気汚染が1407件、悪臭が935件と、騒音や悪臭などの公害も大きな社会問題となっています(図1)。

図1: 愛知県における典型7公害苦情件数
出典: 愛知県「平成30年度 典型7公害の苦情件数の種類別構成比(愛知県)」
https://www.pref.aichi.jp/soshiki/toukei/0000087807.html

日本における公害の歴史

明治以降の急激な経済発展により、公害が問題とされるようになりました。日本で初めて大規模な公害問題となったのが、1891年の足尾銅山における鉱毒問題です[*2]。

足尾銅山は当時国内一の産出量を誇る銅山でしたが、銅を取り出す時に発生する化学物質が川に流れ込み、魚の大量死や、流域の農作物被害など周辺地域に大きな影響を与えました[*3]。

その後、戦前から終戦後にかけて全国各地で公害防止条例が制定されましたが、戦後復興期から高度経済成長期にかけて、イタイイタイ病や水俣病など全国の工業都市で深刻な健康被害を引き起こす公害が発生しました。特に、イタイイタイ病と熊本の水俣病、新潟水俣病、四日市ぜんそくは日本の四大公害病と呼ばれます。

四大公害病は、いずれも工場から排出されるメチル水銀や硫黄酸化物などの有害物質によって大きな健康被害を及ぼしました。例えば、公害健康被害補償法によって認定を受けた水俣病の被認定者数は、2019年3月末までで2997人、その内生存者は477人のみと被害の大きさがうかがえます[*4]。

公害の現状

こうした公害による被害を受けて、政府は1962年に国内初となる大気汚染防止に関する法律「ばい煙規制法」を制定しました。また、1967年には、事業者、政府および地方公共団体の公害防止に関する責務や公害対策計画の策定等を規定した公害対策基本法が制定されるなど、様々な公害対策が行われ、四大公害病のような死に至るほどの公害は少なくなりました[*2]。

しかしながら、令和元年度の公害苦情件数は全国で70458件もあり、今なお公害はなくなったと言えません。特に、騒音、大気汚染はそれぞれ全体の3分の1を占めており、悪臭や水質汚濁、振動も問題となっています(図2)。

図2: 典型7公害の種類別、公害苦情受付件数の推移
出典: 公害等調整委員会事務局「令和元年度 公害苦情調査結果報告書」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000724491.pdf, p.4

公害の主な発生源を見ると、会社・事務所からが全体の41.9%と最も多く、近年ではPM2.5など微粒子有害物質による大気汚染も公害に分類されます。また、個人由来の公害苦情件数も全体の31.6%と、公害の発生源は工場だけではなくなってきています[*5]。

特に個人から発生した公害の原因について、野焼きが全体の36.6%、自然系(自然に存在する動植物又は自然現象が発生源)が20.9%、家庭生活(近隣住宅における浄化槽、生活排水、話し声、自動車の空ぶかし等が発生源)が10.5%となっています(図3)。

図3: 個人の発生源別公害苦情受付件数
出典: 公害等調整委員会事務局「令和元年度 公害苦情調査結果報告書」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000724491.pdf, p.11

このように、公害は多様化しており、さらに発生源も身近なものになりつつあるのが日本における現状といえます。

海外における公害問題の現状

日本では死者が出るほど深刻な公害は減少している一方で、公害の発生源は多様化しています。一方で、海外における公害の現状はどのようなものなのでしょうか。

中国における大気汚染

経済発展著しい中国では、工場や自動車からの排出される微小粒子物質(PM2.5)が社会問題化しています。PM2.5とは、大気中に浮遊する粒子状物質のうち、大きさが2.5μm以下の小さな物質の総称です。具体的には、二酸化硫黄(SO2)や二酸化窒素(NO2)など人体に有害な物質がPM2.5とされています。

2013年の調査では、日本の大気汚染物質濃度と比べるとそれぞれ数倍高く、中国でもPM2.5による公害問題が大きな問題となりました(図4)。

図4: 中国の大気汚染物質濃度と日本との比較
出典: 藤田宏志「PM2.5の現状と対応」
https://www.env.go.jp/air/osen/pm/info/cic/attach/briefing_h26-mat01.pdf, p.6

また、2013年に北京で開催された「大気汚染と健康への影響を討論する学術シンポジウム」で発表されたデータによると、2010年に中国で大気汚染によって早死した人は、120万人を超えるとされ、深刻な被害をもたらしていることが分かりました[*6]。

このような状況を受けて、中国政府は2013年9月に「大気汚染防止行動計画についての通知」を公表しました[*7]。通知では、PM2.5排出量の少ないクリーンな自動車の促進や、工場等へのクリーンエネルギー使用促進など、様々な施策を実施することとしました。

その結果、2014年以降、中国全国のPM2.5年平均値は2013年の72μm/m3から2017年には43μm/m3まで減少するなど年々改善されています[*8]。しかしながら、日本の環境基準である35μm/m3よりも依然として高く、更なる改善が必要と言えます。

カンボジアにおける水質汚染

経済発展によりプラスチック製品が開発途上国でも普及する中で、貧困や行政サービスの未整備などによって、公害問題が発生するケースもあります。

例えば、カンボジアではプラスチックごみが適切に処理されず、大量のプラスチックごみが河川や海に流れ込んでいるとされています。
プノンペンの市街地では、毎日2500トン以上のごみが排出され、その内の8割がごみ収集業者によって運搬されています。

しかしながら、ごみ収集サービスが行き届かない貧困地区や農村では、多くのごみが水路や道路に捨てられてしまっています[*9]。河川や海に流れたごみにより人々の生活用水が汚染されることはもちろんのこと、プラスチックごみを食べてしまった魚を最終的に人間が食べるため、健康被害につながります。

図5: カンボジアにおけるプラスチックごみの現状
出典: The Indian EXPRESS「Cambodia is drowning in its waste, but can it plug the plastic flow?」
https://indianexpress.com/article/world/cambodia-plastic-pollution-waste-management-challenges-phnom-penh-5670661/

このような状況を受けて、カンボジア政府は2018年4月からプラスチックレジ袋の有料化を開始しました。また、国連開発計画の資金、技術協力のもと、循環型経済システムの構築に向けたプロジェクトを実施し、以下4つの目標に沿って各種政策を実施するとしています[*9]。

  • 使い捨てプラスチックの使用削減を積極的に推進する政策の導入
  • 住民、特に次代を担う若い世代の意識の改革
  • 住民を含む全ての関係者の協力と連携
  • リサイクルなどの産業の育成・発展

国内での体制整備のほか、開発途上国間での連携や、OECD諸国を中心とした先進国の支援による対応が公害問題の根本的解決につながっていくと考えられます。

イギリスにおける公害問題

日本と同様に、海外の先進国でも公害は大きな問題となっています。

例えば、EU諸国では2013年にPM2.5が原因で早死した人の数は43万人を超えたとされています[*10]。
イギリスでも、屋外の大気汚染により早死する人の数が年間4万人に達したとされています。EU諸国やイギリスでのPM2.5発生の主な原因としては、一般的な発生源と同様に、家庭の暖房燃料の燃焼や産業活動、自動車の排気ガスなどによるものが多く、これらの活動から排出される物質の軽減が求められています[*11]。

2018年の調査では、EU諸国におけるPM2.5発生源として、商業や家庭由来で排出される割合が全体の55.5%と最も高く、次いで自動車の排気ガスなどにより排出される割合が10.7%となっています[*12]。

一方で、都市単位で見てみると、主なPM2.5発生源が異なる場合があります。例えば、ロンドン市では、市内における発生源の30%が自動車の排気ガスなど道路交通によるものと報告されています[*13]。

このような問題に対応するため、ロンドン市では2019年4月からロンドン中心部のエリアを「超低排出ゾーン」として設定し、走行するドライバーに厳しいガス排出基準を課すこととしました。これにより、2017年2月時点で排ガス基準を満たす自動車割合が39%であったのが、2021年には87%まで上昇したとされています。
さらに、排出量の多いディーゼル車も2017年から2020年にかけて12万7500台減少したとされるなど、PM2.5低減に向けた取り組みが行われています[*14]。

公害を防ぐために私たちができること

以上、国内外における公害の現状について見てきました。途上国や経済成長著しい国では、工場からの排ガスや、インフラの未整備による公害が発生してしまう場合があり、公害を防ごうとしても個人の行動だけでは難しい場合もあります。

しかしながら、住民一人ひとりが団結して、住民運動として企業や行政に働きかけを行うことによって公害を改善できるケースもあります。

例えば、北九州市は1960年代、重化学工業を中心とした産業の発展の陰で、「ばい煙の空」と呼ばれるほど大気汚染が著しい地域でした。そのような状況の中で、解決に向けて最初に立ち上がったのは、子どもの健康を心配した母親たちであり、「青空が欲しい」というスローガンを掲げ、大気汚染の状況を調査し、その結果をもとに企業や行政に改善を求める市民運動を実施しました[*15]。

その結果、企業は製造過程の改善、汚染物質除去施設の整備、工場緑化などの取り組みを実施し、行政では、公害対策組織の整備や各種協定の締結など様々な施策を展開しました。このように、個人だけでは難しい課題も、団結して取り組むことにより公害の解決に繋がったケースもあります。

また、現在の日本では、日本における公害の現状でも紹介したように、個人が公害発生源となるケースも多くあります。

そのため、私たちができることとしてまずは、騒音や野焼きなど、自分が公害の発生源とならないよう周囲に配慮することが大切です。さらに、近年PM2.5のような大気汚染が深刻化する中で、PM2.5を排出する自動車の使用を控えるなど、環境に配慮した行動を取ることも大切です。

一人ひとりが環境や他人に配慮した行動を心がけることが、公害を減らすためのカギとなるでしょう。

 

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参照・引用を見る

*1
総務省「『公害』とは?」
https://www.soumu.go.jp/kouchoi/knowledge/how/e-dispute.html

*2
環境再生保全機構「環境問題の歴史」
https://www.erca.go.jp/yobou/taiki/kangaeru/history/01.html

*3
NHK for School「足尾鉱毒事件」
https://www2.nhk.or.jp/school/movie/clip.cgi?das_id=D0005403277_00000

*4
環境省「令和元年度版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書」
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r01/pdf/2_6.pdf, p.282

*5
公害等調整委員会事務局「令和元年度 公害苦情調査結果報告書」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000724491.pdf, p.10

*6
三井住友フィナンシャルグループ「~特集~国境を越えて飛来する微小粒子物質PM2.5の実態とその影響」
https://www.smfg.co.jp/sustainability/report/topics/detail101.html

*7
藤田宏志「PM2.5の現状と対応」
https://www.env.go.jp/air/osen/pm/info/cic/attach/briefing_h26-mat01.pdf, p.20, p.21

*8
在中国日本大使館「中国における大気汚染について」
https://www.cn.emb-japan.go.jp/files/000421568.pdf, p.11

*9
NHK「『途上国のプラスチック汚染の現状と課題~カンボジアからの報告~』(視点・論点)」
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/371720.html

*10
BBC「Air pollution ‘causes 467,000 premature deaths a year in Europe’」
https://www.bbc.com/news/world-europe-38078488

*11
European Environment Agency「Europe’s air quality status 2021」
https://www.eea.europa.eu/publications/air-quality-status-2021

*12
Nature Portfolio「Health impacts of air pollution exposure from 1990 to 2019 in 43 European countries」
https://www.nature.com/articles/s41598-021-01802-5

*13
MAYOR OF LONDON「PM2.5 in London: Roadmap to meeting World Health Organization guidelines by 2030」
https://www.london.gov.uk/sites/default/files/pm2.5_in_london_october19.pdf, p.9

*14
JETRO「ロンドン市、10月25日から『超低排出ゾーン』を拡大」
https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/10/2ed9c1060b0d90cd.html

*15
北九州市「公害克服への取り組み」
https://www.city.kitakyushu.lg.jp/kankyou/file_0269.html

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