地震によるライフラインへの影響は? ICTや電力の安定的な供給に向けた取り組みと、私たちにできること

2011年に発生した東日本大震災や2016年に発生した熊本地震など大規模地震は、人的被害のみならず、水道や電気、ガス、通信などライフラインへも多大な影響を及ぼしました。また、2018年に発生した北海道胆振東部地震の際には、管内全域が停電となる「ブラックアウト(大規模停電)」が発生するなど、災害時のライフラインを安定的に維持するための取り組みが求められています。

それでは、これまでの地震によるライフラインへの影響はどれほどのものだったのでしょうか。
また、災害時にもライフラインを維持するために、現在どのような取り組みが行われているのでしょうか。さらに、地震から身を守るために、私たち一人ひとりができることは何でしょうか。

国内における地震の現状とライフラインへの被害

技術の発展に伴い様々な対策がとられている地震ですが、中規模から大規模な地震は絶えず発生し続けています。
例えば、2016年以降に国内で人的被害を伴った地震は31件ありました[*1]。

その中でも、2016年4月に熊本県で発生した地震は最大震度7を観測し、死者数は273名、負傷者数は2,809名と大きな被害が発生しました。

また、住家の全壊は8,667棟、半壊は34,719棟、一部破損に至っては162,500棟に及ぶなど、過去5年に起きた国内地震の中では最も大きな被害となっています。

地震によるライフラインへの被害

地震による人や建物への被害はもちろんのこと、水道・電気・ガス・通信など生活に欠かせないライフラインに対する影響も甚大です。

例えば、2011年に発生した東日本大震災は、津波の影響も相まってライフラインに様々な被害をもたらしました。

例えば、飲料水や生活用水の確保に必要な上下水道ですが、東北3県(岩手、宮城、福島)を中心に、187市町村で断水が発生し、下水道施設は200施設以上が稼働停止となりました。電気については延べ460万件を超える停電の発生、ガスについては約40万戸が供給停止等の被害を受けたとされています。さらに、通信については東北・関東で13,000局を超す移動無線基地局が停波したため、回線が混雑状態となってしまいました[*2]。

また、東京都の試算によると、今後首都直下地震が発生した場合の東京におけるライフライン施設が被害を受けた場合、上水道では約1,100万人、電力では約160万人、ガスでは約12万軒への影響があると想定され、通信(固定電話)では約110万回線の供給支障が想定されるとしています[*2]。

ライフラインへの影響を軽減するための取り組み

以上のように大規模地震では、人的被害はもちろんのこと、ライフラインへの影響も甚大です。また、近年ではIT化やキャッシュレス化が進んでいるため、電力供給の停止は決済機能の停止や業務の停滞など、様々な問題を発生させることが予想されます。

このような新たな課題が浮き彫りになる中で、現在どのような取り組みがなされているのでしょうか。

安定的な電力供給に向けた取り組み

2018年に発生した北海道胆振東部地震では、最大震度7を厚真町で観測し、死者数は42名にのぼるなど、大きな被害をもたらしました[*3]。

さらに同地震では、管内全域が停電する「ブラックアウト(大規模停電)」が発生しました。
ブラックアウトの発生は国内初であり、この停電により295万戸が影響を受け、45時間後にようやく復旧しました[*4]。

このブラックアウトは、様々な要因が絡み合い発生したとされています。まず、震源地に近い北海道最大の発電所である苫東厚真火力発電所が地震により停止しました。次に、管内の水力発電所においては、複数の送電線が切れて停止してしまったり、風力発電所は周波数の低下により停止してしまったりなど各地の発電所が停止してしまったことにより、最悪の状態になったのです[*5]。

このような国内初のブラックアウトにより、災害時における電力の安定供給が改めて検討されるようになっています。例えば、政府は2018年10月9日に「電力レジリエンスワーキンググループ」と呼ばれる、災害に強い電力供給体制の構築に向けた課題や対策を検討する会議を設置しました[*5]。

会議では、ブラックアウトを受けて全国で実施した電力インフラの総点検結果を検証するとともに、今後の対策パッケージを策定しました。対策パッケージの作成を受けて、2020年6月には「エネルギー供給強靭化法」が成立し、災害時の早期復旧に向けた関係者の連携強化や送配電網の強靭化が行われています[*6]。

具体的には、送配電事業者による「災害時連携計画」の策定を義務付けたり、これまで各社で異なっていた復旧方式などの統一化を図りました。また、停電時に緊急的に電気を供給する電源車についても、各事業者がそれぞれに管理するのではなく、全ての事業者が一元的に管理できるようなシステムの開発など、災害時に迅速かつ効率的に電力を供給できるような体系を策定しています。

さらに、電源車の派遣など復旧には多大な費用がかかります。これまでは電源車を依頼した事業者が費用を負担しなければならず、資金面で大きな負担がありました。そのような課題に対応するため、送配電事業者間であらかじめ資金を積み立てておく「相互扶助制度」が検討されています[*6]。現在、ワーキンググループでは、どのようなコストが扶助制度の対象になるのか、どの程度の金額を積み立てるのかなど運用に向けた議論がされています。

また、大規模電源の停止などによって周波数が変動しても、継続的に電力を供給できるような自然エネルギーの導入促進など、大規模発電所だけに頼らない分散型エネルギーリソースの多様化も注目されています。

分散型エネルギーとは、地域に存在する自然エネルギーやコージェネレーションシステム(熱と電力のように2つのエネルギーを同時に生産し供給する仕組み)、蓄電池等の利用により、大規模発電所からの電力供給が途絶えた場合にも地域内で需要できるようなエネルギーの仕組みです(図1)。

図1: 地域内における分散型エネルギーイメージ
出典:資源エネルギー庁「分散型エネルギーシステムに関する国の取組」
https://www.shikoku.meti.go.jp/01_releases/2021/02/20210212c/20210212c_01.pdf, p.8

バイオマス発電や小規模な水力発電、太陽光発電など大規模発電所とは独立した電力供給源を地域内で確保するとともに、コージェネレーションシステムなどにより熱の利用など効率的なエネルギー利用を進め、地震などの災害時にも継続的に電力の供給が可能な体制づくりを進めています。

実際、北海道胆振東部地震を受けて北海道では、苫東厚真火力発電所が停止しても電力を供給できるよう揚水発電所(水をくみ上げて落とす発電所)を稼働させるなど対策を行うとしており、今後分散型エネルギーリソースがさらに促進されていくと言えます[*7]。

ICTへの被害を軽減するための取り組み

ライフラインへの被害を最小限にするために、電力供給の安定化のみならず、災害に強いICTネットワークの形成に向けた取り組みも積極的に行われています。

例えば耐災害ICT研究センターでは、災害に強いICTネットワークの構築に向けて、災害発生時に途切れにくいネットワークの研究が進められ、また通信が途絶しても早期の復旧が可能な耐災害ICT研究開発が行われています[*8]。

図2: 災害に強い無線ネットワーク
出典: 地震調査研究推進本部事務局「災害に強いICTネットワークの実現を目指して」
https://www.jishin.go.jp/resource/column/column_17aut_p06/

地震が発生すると、従来型ネットワークでは回線がパンク状態になり通信が困難になってしまいます。そこで、図2のように地域内に自立型のサーバを分散して通信回線を確保する技術の開発や、衛星通信や無人飛行機・ドローンを活用したネットワーク、端末間通信による情報伝達、車を通信ステーションとみなした通信技術の研究開発などを行っています[*8]。

実際に活用された事例として、2016年に熊本で発生した地震での対応が挙げられます。

被災地であった熊本県高森町に通信衛星用の車載局を設置し、NTTみらいネット研究所などが開発したICTユニットを活用して、衛星を経由した外部インターネットの接続を行い、町役場や住民へインターネットサービスを提供しました。これにより、安定的な携帯電話回線の提供を行うことができ、円滑な業務の実施や住民の連絡手段が確保されました[*8]。

また、北海道胆振東部地震では、停電により電子マネーやクレジットカードの使用が不能となる問題が発生するなど、キャッシュレス化が進む中で新たな課題が顕在化しました。そこで、一部事業者では、停電や通信障害の場合にも使える手段を開発、提供を開始し始めています。

例えば、三井住友カードでは中小企業向けに無償提供しているクレジットカード読取機「スクエアリーダー」において、災害時に決済情報を一旦リーダーに留め置き、復旧した段階で本決済に移行できるような仕組みを作っています[*9]。

ただし、このような対応をしている事業者は一部にとどまり、今後はより広く普及することが求められています。

地震から私たちの暮らしを守るためにできること

以上のように、地震によるライフライン、とりわけICTネットワークや電力供給への影響を最小限に抑えるための様々な取り組みが行われています。しかしながら、地震から私たちの暮らしを守るためには、行政や事業者のみならず一人ひとりが日ごろから準備を怠らないことが大切です。

まず、自身の命を守るために、行政が作成しているハザードマップなどで地域の危険な場所や避難場所のチェックを行うとともに、災害時に備えて水や食料など生活必需品を準備しておくことが大切です。また、災害時に電力が使えなくなることに備え、携帯ラジオや懐中電灯、携帯電話のモバイルバッテリーを常に充電させておくなど電源が使えなくなることを想定した備えも大切です(図3)。

図3: 非常用持ち出しバッグの内容の例
出典: 内閣官房内閣広報室「災害に対するご家庭での備え~これだけは準備しておこう!~」
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/bousai/sonae.html

また、家族との連絡手段の確保も必須です。現在様々な事業者が、災害下での安定的な通信手段の確保や電力の安定供給に取り組んでいますが、それでもなお通信手段が使えないという不測の事態に備えておくことも重要です。

安否確認の方法として、「災害用伝言ダイヤル(171)」や携帯電話のインターネットサービスを利用した「災害用伝言板」が災害時に活用できます[*10]。

災害時に家族でどのように安否確認を行うかしっかりと話し合いを行うことが大切と言えます。

さらに、キャッシュレス化が進む中で、災害時には電子マネーやクレジットカードなどが使えない可能性があります。そのため、災害時には現金と併用するなど、両方使える体制を整えておくことが必要でしょう。

このように、当たり前のことではありますが、地震から自分の命を守り、暮らしを守るためには、一人ひとりが日ごろから準備しておくことが大切なのです。

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参照・引用を見る

*1
気象庁「日本付近で発生した主な被害地震(平成8年以降)」
https://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/higai/higai1996-new.html

*2
NTTファリシティーズ総研レポート「地震によるライフライン被害の想定と対策」
http://kouzou.cc.kogakuin.ac.jp/urban-resilience_1/pdf/%E5%9C%B0%E9%9C%87%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%95%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3%E8%A2%AB%E5%AE%B3%E3%81%AE%E6%83%B3%E5%AE%9A%E3%81%A8%E5%AF%BE%E7%AD%96.pdf, p.52, p.54

*3
内閣府「平成30年北海道胆振東部地震に係る被害状況等について」
http://www.bousai.go.jp/updates/h30jishin_hokkaido/pdf/310128_jishin_hokkaido.pdf, p.1, p.2

*4
朝日新聞「大地震、その時北海道電力で何が ブラックアウトの真相」
https://www.asahi.com/amp/articles/ASM8J5V36M8JIIPE01C.html

*5
資源エネルギー庁「日本初の“ブラックアウト”、その時一体何が起きたのか」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/blackout.html

*6
資源エネルギー庁「始まった、電力レジリエンスのための新制度~停電の長期化を防ぐために」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/electric_resilience.html

*7
資源エネルギー庁「より強い電力インフラ・システムをつくるために~災害を教訓に進化する電力供給の姿」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/resilience.html

*8
地震調査研究推進本部事務局「災害に強いICTネットワークの実現を目指して」
https://www.jishin.go.jp/resource/column/column_17aut_p06/

*9
産経新聞「災害に強いキャッシュレス模索 「1年前と状況変わらず」の指摘も」
https://www.sankei.com/article/20190906-E5LFLDTPBBISHPKATKOCL4T4IY/

*10
政府広報オンライン「災害時に命を守る一人一人の防災対策」
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201108/6.html

 

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