この記事は『おしえて!アミタさん』(アミタ株式会社)に掲載(2018年3月27日)されたものを転載しています
“電力自由化”で何が自由になったのか?
電力自由化によって、東京電力などの一般電気事業者だけが担っていた電力事業が誰でも自由にできるようになりました。具体的には、誰でも送配電網を自由に利用して、発電事業や電力販売ができるようになったのです。
電力自由化は、1995年の発電事業の自由化から始まり、1999年に大規模な需要家への電力販売が自由化され、その後、需要家の対象範囲が段階的に広がってきました。そして、2016年4月、家庭も含め、全ての需要家が電力会社を選んで購入できるようになったのです。
電力自由化が必要となった社会背景
電力自由化は、政府の方針として進められてきました。その背景には、社会構造の変化があります。戦後、経済成長を支えるエネルギーの供給力拡大を実現させるため、地域独占・総括原価方式によって、一般電気事業者が発電設備や送配電設備を整備し続けてきました。しかしながら、近年は、物質的な成長も逓減し、また、自然エネルギーの普及、分散型電源の普及、IoTなどによる制御技術の発展などにより、一般電気事業者だけで最適な電力システムを構築することが難しくなってきたのです。
こうしたことから、電力自由化は世界的なトレンドとなっており、ほとんどの主要先進国では電力自由化が導入されています。
電力自由化の目的“3E+S”とは?
政府は、電力事業の目指す方向として“3E+S”を挙げています。“3E+S”とは、「Economic(経済性)」「Environment(環境保全)」「Energy Security(エネルギー安全保障)」そして「Safety(安全)」のことであり、これらを高めていくために電力自由化(政府は、「電力システム改革」と呼んでいます)が進められています。
こうした多様な目的に対するソリューションは、確立されているわけではなく、まだまだ創意工夫が必要な状況です。それゆえ、政府は、発電と電力販売に新規参入を促し、送配電網利用をオープンにすることで、電力システムの最適化を目指しているのです。
電気にも多様な商品が登場。選んで買う時代に
電力自由化によって、需要家は電気を選んで買うことができるようになりました。個人向けには、携帯電話や都市ガスとのセット割やガソリンが安くなる特典付きなど、様々な商品が登場しています。また、付加価値的なものとして、地元の電源や自然エネルギーを電源として、その価値を遡及した電力もあります。
具体的には、本連載の中で説明していきますが、自然エネルギーの電源比率が高い電力や、自然エネルギーであることの証明書や環境価値の付いた電力も登場しています。企業にとっては、「弊社が使用する電力は、自然エネルギーです」といったアピールに活用もでき、また企業の社会的責任として、CO2排出係数の少ない電力を使用することによって、温室効果ガスの排出量低減へ貢献することが可能になったのです。
物理的な電気と商取引上の電気
しかしながら、電力自由化で“電気を選べる”ようになったのですが、電線を通じて、需要家まで届けられる“物理的な電気”は、これまでと変わりません。しかも、電線を通じることで、結局は、様々な発電所の電気、つまり、「自分が選んだのとは異なる電力会社がつくった電気」も混ざって届けられます。このことが、多くの需要家が「電力会社を選べる」と言われても、ピンとこない大きな理由となっています。
これは、銀行のATMと同じだと考えると理解しやすいかもしれません。例えば、会社から振り込まれた給料をATMで下ろした場合、手にしたお札は会社が銀行に預けたお札ではありません。それを気にして、お札が使えないという人はほとんどいないと思います。電気も同じであり、物理的な電気には差がありません。ですから、商取引上、どのような考えを持って、どの電力会社からどのメニューの電気を買うかが重要なのです。
まとめ
私たちは、電力自由化によって、電力会社・電気を選んで買えるようになりました。しかし、まったく初めてのことなので、“電気を選ぶ”ということが感覚的に分からないという方も多くいます。しかし、エネルギー消費の多くが電力となっている企業にとって、環境対策としての電力調達はますます重要な事項となっています。環境担当者が電力自由化と電力調達について社内で一番詳しく理解し、積極的に“電気を選ぶ”必要があると言えるでしょう。