この記事は『おしえて!アミタさん』(アミタ株式会社)に掲載(2018年7月26日)されたものを転載しています
製品を納めている取引先から「使用電力は再エネに変えてほしい。変えてもらわないと来年の発注はどうなるか分からない」と言われたら…。
または、投資家から「電力は再エネを使わないのか。再エネを使っていく企業でなければ、投資できない」と言われたら、どう対応すればよいのでしょうか?今回は、企業が再エネ導入を検討する際の具体的な方法をお伝えします。
今、企業が再エネ100%に取り組む理由とは?
パリ協定の発効以降、地球温暖化対策は、政策というよりもビジネスとして世界的に大きな影響を与えています。
欧米のグローバル企業は、こぞって、使っている電力を再生可能エネルギー(以下、再エネ)にすると宣言しています。そして、サプライヤーにも再エネ利用を要求するようになり、日本企業からも投資家や取引先から再エネ導入を求められたという話を多く聞くようになりました。
これには、以下の3つの理由があると考えられます。
1.世界的なRE100加盟への流れ
この半年、月に1回くらいのペースで日本企業が“RE100”を宣言したというニュースを聞きます。“RE100”は、グローバル企業が将来的に使用電力の100%を再エネにするという宣言をするキャンペーンであり、現在、世界で136社(2018年6月15日時点)が宣言しており、日本でも、リコー、アスクル、積水ハウス、イオン、ワタミ、大和ハウス、城南信用金庫の7社(2018年6月15日末時点)が宣言しています。
こうした再エネ利用への世界的な動きですが、“RE100”を宣言していない、もしくは、する予定のない企業にとっても、他人事ではありません。今、欧米の投資家が投資先の企業に脱炭素化に向けた対策を求めるケースが増えています。さらには、RE100企業が、自身のサプライチェーンに対しても、再エネ導入を求めるようになっています。つまり、ほとんど全ての企業にとって、再エネ導入は無関係でない状況になっているのです。
2.経済的な理由
同時に、グローバル企業がこれだけ再エネを推進しているのは、再エネが長期的な視点において、価格リスクが低く、かつ、経済的だという理由に他なりません。再エネ設備等の急激なコストの低下によって、世界的には、太陽光と風力の発電コストが、火力発電の限界費用(燃料費などの変動費部分)を下回っている地域も多いのです。
例えば、電力量1kWh当たりの発電コスト相場は以下の通りです。
ヨーロッパの大型洋上風力では、補助的な制度がなくてもプロジェクトが成立しており、理論的には石炭火力の限界費用以下になっていると考えられます。一方、天然ガスや石油は、価格高騰や枯渇のリスクがありますし、石炭については、地球温暖化抑止の規制によって、今後コストが高くなる可能性があります。
このように事業を長期的に考えたとき、現在、再エネはリスクの低い優良な投資先でもあるのです。これは世界的な傾向であり、そうした背景があるからこそ、パリ協定は発効に至ったともいえます。
一方、日本では、気象条件の悪さや建設コストの高さにより、現在のところ再エネが火力発電の限界費用以下とはなっていません。その結果、日本企業は、世界的な再エネ100%へのシフトにおいて、後発となってしまっているようです。
3.温室効果ガス算定範囲の見直し
温室効果ガスの算定においては、その算定の範囲がスコープ1~3という3つがあります。
地球温暖化対策の指標となる温室効果ガスの排出量ですが、これは地球温暖化対策の推進に関する法律に基づく算定・報告・公表制度や一部の地方公共団体の条例に基づく各算定・報告制度に基づき、算出されています。
地球温暖化対策法に基づく排出量算定・報告・公表制度では、対象は「スコープ2」までとなります。しかし近年では、提供している商品に責任を持つ企業が、その商品の原材料にも責任を持つように、「スコープ3」であるサプライサイドの温室効果ガスにも責任を持ち、そこも含めて、最小化していく必要があるという考えが広まっています。先進的な企業は、こうした意味合いからサプライチェーンにも再エネ利用を求め始めているのです。
サプライチェーンにも再エネを要求したApple社の事例
サプライチェーンに再エネ導入を求めた事例の1つとして、Apple社のことを紹介したいと思います。
Apple社は、2016年にRE100を宣言しました。本社がある米国で急激に価格が低下した太陽光や風力の発電事業に投資を行い、その電力を調達することで、再エネ100%を実現させました。同時に、RE100を宣言した当初より、サプライチェーンも含めて再エネ利用を広げていくことに注力していました。
2018年4月10日のアップル社の発表では、23社の製造パートナーがApple社向けの生産を100%クリーンエネルギー(再エネ)で行うことを約束したということです。この中には日本企業もあります。イビデン株式会社と太陽インキ製造株式会社です。
イビデンでは、自社工場の屋根に太陽光発電設備を導入し、その電力を製造ラインで利用しています。具体的な計算式は公表されていませんが、Apple社に出荷する製品分については、この電力でまかなっているということです。
太陽インキ製造は、本社工場に隣接した池ともう1か所の池にフロート式の太陽光発電所を建設しています。この太陽光発電所によって、埼玉の工場で生産するApple社向け製品を100%再エネでまかなっているとのことです。
Apple社の話は、先進的かもしれませんが、珍しいものではありません。取引先や投資家から再エネ導入を求められることは、世界的には当たり前になりつつあります。
(参考)Apple社の環境対策に関するウェブページ
https://www.apple.com/jp/environment/climate-change/
再エネ導入を要求された時の解決策は?
では、取引先や投資家から再エネ導入を要求された時、具体的にどのような対応をすればよいのでしょうか?まずは、「オンサイト発電」の検討をオススメします。
「オンサイト発電」とは、会社や自宅の敷地内に比較的規模の大きな自家発電設備を導入する発電方法です。すなわち、空いている屋根や工場内の使っていないスペースに太陽光発電設備を導入するということです。これにより再エネを直接使うことが最も価値のある対策でしょう。
太陽光発電設備のコストは、この数年で大幅に下がっており、十分な事業期間で考えれば、購入している電気の従量料金よりも安くなるケースも見られます。数年前に検討してコスト面で断念した経験があっても、再検討をオススメします。屋根や空いている土地が足りないのであれば、隣接地を買ってでも導入する方が良いかもしれません。
太陽光発電設備の設置場所と留意点
足りない分は、再エネ電力や再エネ証書の購入の検討を
しかしながら、設置場所がなかったり、工場や店舗等の電力消費量が膨大であったり、どうしても「オンサイト発電」で需要の全てをまかなうことは難しいこともあります。
そうした場合は、再エネ電力や再エネ証書を購入することで、再エネ比率を高めることができます(この方法を、オフサイト発電と呼びます)。
ここで気を付けたいのは、再エネの価値が付いた「再エネ電力」には、以下の2種類があることです。
- 小売電気事業者が再エネ発電所から電力を直接購入して、供給している場合
- 電力とは別に環境価値を購入・償却して、環境(再エネ)価値付きの電力として販売している場合
日本の制度では、電源構成比で石炭火力が100%でも、その分のCO2排出量に相当する証書等を付けて「実質再エネ100%」と謳うことが理論的に可能なのです。
そのため再エネ電力を購入する際は、電力会社に問い合わせ、電源構成比を確認するとよいでしょう。
また、再エネ証書の中には、グリーン電力証書やJクレジットのように、ユーザー側が電力とは別に自身で調達することができるものもあります。これを購入すれば、契約している電力会社やプランをそのままに、“再エネを使っています”と謳うことができます。ただ、実際にそのようなコミュニケーションを行うかどうかは、使う側の判断に委ねられています。
<図1 RE100が提唱する再エネ電源確保の選択肢と、日本における手段>
再エネ証書購入時に気を付けたい!本当の「再エネ100%」とは?
上記のように、再エネ証書の購入により「再エネ100%」を謳うという方法を推奨できない理由は、再エネ証書の仕組みがなぜ可能なのか、を考えてみると分かります。
電気には「同時同量」、つまり「“今作る電気”と“今使われる電気”の量が合うように発電される」という特徴があります。ですのでシンプルに考えると、昼間に、夜の分の再エネ電気を余分に作っておくことは不可能なはずです。
では、なぜ夜の電気分をまかなうだけの再エネ証書を作れるのでしょうか?
それは、昼間に「表面的には再エネ電気を買っていないユーザー」の方々が、実際は余った再エネ電気を使ってくれているからです。
彼らが使った分の再エネ電気の環境価値は宙に浮いているため、火力など再エネ以外の電源から生まれた夜の電気についても、再エネ証書として取引されるのです。こうしたユーザーの存在があって、太陽光発電事業は成り立っているとも言えるため、再エネ価値を持っている者だけがその再エネ発電事業に貢献しているとは言えないという側面があります。
すなわち、より真剣に「再エネ100%」を考えると、再エネ証書という書類上ではなく、実際の電気を再エネ100%にしていく必要があるでしょう。例えば、すでに再エネ100%を達成しているGoogle社は、こうした課題があることを踏まえ、自社で多電源の再エネ発電設備を保有するなど、証書の購入ではなく実際の電力で再エネ100%を実現させていくことを目指しています。
まとめ
このように、再エネ電力の利用は、制度を超えた世界的な動きとなっており、サプライチェーンにも要求され始めています。再エネ導入の実施を決め、今回提示した手段を用いた場合、初期はコストアップにはなる場合が多いかもしれません。しかし、それは、取引先との取引や投資家からの投資を続けていくための必要コストだと言い換えることができます。
グローバルな企業であるほど、サプライチェーンも含めた再エネの導入を危機、または、新たなビジネスチャンスとして捉え、対策を検討し始めています。投資家や取引先に要求される前から検討しておくことをオススメします。