グリーンインフラとは? 国内外における取り組みと課題を確認しよう

持続可能なまちづくりには、自然環境や近隣住民に配慮したインフラ整備が不可欠です。そこで近年、自然環境が持つ様々な機能をインフラ整備に活用する「グリーンインフラストラクチャー(グリーンインフラ)」という手法が、欧米を中心に展開されています。

グリーンインフラの推進によって、良質な環境形成や生物多様性の保全、レクリエーションの場の提供など様々なメリットがあるとされていますが、そもそもグリーンインフラとはどのような手法なのでしょうか。

また、国内外でグリーンインフラが広がりつつある今、どのような取り組みが行われているのでしょうか。

一方で、グリーンインフラの推進に向けては、地域住民の同意形成や資金調達といった課題も山積しています。それらの課題に対して、どのように対応策がとられているのでしょうか。

グリーンインフラの定義とその重要性

海外では、1990年代後半から欧米を中心に考え方が取り入れられるようになったグリーンインフラ。日本では2015年8月に閣議決定された国土形成計画において初めてグリーンインフラという用語が使われ、「社会資本整備や土地利用等のハード・ソフト両面において、自然環境(緑、水、土、生物等)が有する多様な機能を活用し、持続可能で魅力ある国土・都市・地域づくりを進める取組」と定義されています[*1]。

図1: グリーンインフラの考え方
出典: 国土交通省「【導入編】なぜ、今グリーンインフラなのか」
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_fr_000143.html

自然環境の特性を生かしたインフラ整備を行うことで、防災・減災や地域振興など地域課題へ対処できることはもちろんのこと、良好な景観形成や生物多様性の保全、健康・レクリエーション等の文化提供などを行うこともできるとされています(図1)。

また、自然環境と共存したインフラ整備を行うことは、様々な形で持続可能な開発目標の達成にも貢献することができ、グリーンインフラはマクロな視点からも求められていると言えます(図2)。

図2: グリーンインフラとSDGs
出典: 国土交通省「【導入編】なぜ、今グリーンインフラなのか」
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_fr_000143.html

国内外におけるグリーンインフラ

近年国内で注目を集めるグリーンインフラですが、1990年代から取り組みが行われてきたアメリカや欧州ではどのような施策があり、導入によってどのような影響をもたらしているのでしょうか。

また、国内各地で現在進められている、グリーンインフラ整備の取り組みについてもみていきましょう。

アメリカにおけるグリーンインフラ

アメリカでは、飲料水の供給や公衆衛生の向上のほか、雨水管理を主な目的としてグリーンインフラの導入を推進しています。

例えば、オレゴン州ポートランド市では、気候変動による集中豪雨や洪水といった水害リスクに対処するため、グリーンストリートや緑溝、雨水プランター、屋上緑化、透水性舗装などグリーンインフラ整備を一体的に行っています[*2]。

図3: ポートランド市におけるグリーンインフラ導入事例
出典: 国土交通省「グリーンインフラストラクチャー~人と自然環境のより良い関係を目指して~」
https://www.mlit.go.jp/common/001179745.pdf, p.5

都市における洪水の主因には、アスファルトやコンクリートなどの不透水舗装面の増加がありますが、緑は雨水を受け、浸透させ、洪水を防ぐ効果があると言われています。

このようなグリーンインフラの導入により、ポートランド市ではグリーンインフラに流れ込む雨水の74%以上が貯留されています。

またピーク流量は81%も減少するなど、洪水が発生しにくい都市環境が形成されるようになりました。

加えて、グリーンインフラが設置されている小学校では、生徒がより自然に近い環境で勉強できるようになりました。

非設置校と比べて集中力が長く持続するといったメリットや、不動産価値が上昇するなど、教育面や経済面にも良い効果をもたらしています。

さらに、グリーンインフラがない地域と比較した場合、グリーンインフラが設置されている地域の住民は寿命が長く、喘息の頻度や度合いが小さくなるなど健康への好影響も報告されています。

ポートランド市は、事業者や住民の参加をさらに促すため、グリーンインフラを設置する際の建設インセンティブの提供や、ファンドの活用、下水道料金の割引など幅広い施策を展開しています[*3]。

こうしたグリーンインフラの推進は、市内の老朽化した下水管を修繕する大規模な「グレーインフラ整備」のコスト削減にも繋がっています [*2]。

イギリスにおけるグリーンインフラ

アメリカとともに、グリーンインフラが積極的に導入されている地域として、欧州が挙げられます。欧州では、主に生態系サービスの維持・形成を目的に、グリーンインフラが導入されています。

例えば、イギリスのロンドン市にあるメイズブルック公園には2つの湖がありますが、洪水発生時には公園の西側を通るメイズブルック川から生活排水などが流入することで、水質汚濁が発生することが問題となっていました(図4)。

図4: ロンドン市におけるグリーンインフラ導入事例
出典: 国土交通省「海外事例と我が国でのグリーンインフラの取組」
https://www.mlit.go.jp/common/001267827.pdf, p.5

このような課題に対応するため、河川の一部の埋め立てを行い、蛇行するような形で新たな水路を作り出すことによって雨水の流下を遅らせ、水が公園内の湖に流れにくくする環境を作り出しました(図4)。

その結果、公園内にある氾濫原への生活排水流入を防ぎ、生物が生息しやすい自然環境を形成することもできるようになったといいます。

また、ロンドン市は「ロンドン環境戦略」を策定してグリーンインフラを積極的に推進しています。

具体的には、公共が所有する土地の緑化プロジェクトを募集し、整備後の一般開放を条件に地域コミュニティ団体やNGO等に投資を行う「グリーンシティファンド」や、事業者の大規模開発に際して、緑化整備等を条件に開発要件を緩和するなど、民間と連携した取り組みを実施しています[*4]。

シンガポールにおけるグリーンインフラ

近年では、欧米のみならず、アジア圏でもグリーンインフラを導入した施策が行われています。例えば、シンガポールでは水問題や地球温暖化など様々な環境問題に対処するため、国家主導によるグリーンインフラが展開されています。

シンガポール政府は、洪水対策や雨水・下水等の再生利用に向けて、「ABC-WDG(ABC Water Design Guidelines)」を策定し、グリーンインフラを推進しています。ABCとは「Active」、「Beautiful」、「Clean」の頭文字のことで、国民全てが美しく、きれいで、生き生きと水とともに暮らす国にするという思いを反映しています[*5]。

ガイドラインでは、雨水の表面流出の削減や、屋上や壁面における緑化などグリーンインフラの適用を推進しており、温暖化抑制や健康増進、生物多様性の向上に寄与できるとされています。

実際にガイドラインが適用された例として、コンクリート張りの排水路であったカラン川の自然型河川への再生とともに、市民の憩いの場として再整備された「ビシャン・パーク」が挙げられます(図5)。

図5: 多機能型の都市型河川公園「ビシャン・パーク」
出典: 日経BP総合研究所「水問題にグリーンインフラ活用、先進国シンガポール」
https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434167/022300008/?P=3

再整備によって川幅が従来の17~24メートルから最大100メートルまで拡幅し、治水や排水といった機能が強化されるとともに、ビシャン・パークは多くの市民が水や自然を楽しむことができるレクリエーションの場になりました。

また、シンガポールは緑化政策にも力を入れています。例えば、2012年には「ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ」という巨大植物園がオープンしました。同施設には緑化政策により排出された年間約50トンもの間伐材や農業廃棄物が運ばれ、園内のバイオマス発電に活用されるなど、レクリエーションの場としてだけでなく、総合的なグリーンインフラ施設として複合的に活用されています(図6, 図7)。

図6: ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ
出典: SUSAINABLE JOURNEY「シンガポールの緑化政策~『庭の中にある街』を目指して~」
https://www.daiwahouse.com/sustainable/sustainable_journey/smartecotowns/002/

図7: ガーデンズ・バイ・ザ・ベイの仕組み
出典: SUSAINABLE JOURNEY「シンガポールの緑化政策~『庭の中にある街』を目指して~」
https://www.daiwahouse.com/sustainable/sustainable_journey/smartecotowns/002/

さらに、シンガポールでは2030年までにオフィスビルの80%をグリーンビルディングにすると目標を掲げており、屋上・壁面の緑化費用の50%に対して補助金を交付したり、2005年からはCO2排出抑制など環境に配慮した建物に対して「グリーンマーク」と呼ばれる認証を与えるなど、建物の緑化を推進しています[*6]。

日本におけるグリーンインフラ

海外では、既に多くの国で実施されているグリーンインフラですが、日本でも各地で整備が進んできました。

例えば、横浜市にある「グランモール公園」では、園内の植物への水の供給や、ヒートアイランド現象の緩和を図るため、道路の下部に雨水貯水機能を持つ砕石層を設置しています(図8)。

図8: グランモール公園におけるグリーンインフラ
出典: 国土交通省「浸透機能を持たせた植栽帯」
https://www1.mlit.go.jp/common/001257031.pdf

打ち水効果により、整備前と比べて最大で5度程度気温が抑えられるなど、自然の力を利用した快適な公園づくりを実現しています[*7]。

また、グリーンインフラは、都市部のみならず、地方でも整備されています。例えば、宮城県岩沼市にある岩沼海岸では、大地震の発生などによる津波の被害を最小限にするために、海岸に緑の防潮堤を整備しています(図9)。

図9: 緑の防潮堤の整備
出典: 国土交通省「緑の防潮堤」
https://www1.mlit.go.jp/common/001257023.pdf

堤防の盛土に植林し、樹林によって津波の勢いを減衰させることで、防波堤の役割を強化するとともに、盛土部分が崩れにくくなります。また、人工物ではないため良好な自然景観を保つことができるなど、様々なメリットがあると言えます。

グリーンインフラを進める上での課題

有用性が高く、様々な取り組みが行われているグリーンインフラですが、課題も山積しています。

例えば、アメリカのオレゴン州ポートランド市とワシントン州バンクーバー市の行政職員に対して行われたアンケートでは、「住民との関わり方が課題である」という回答が40%を超えており、住民の理解を得ながら取り組みを行うことの難しさが浮き彫りとなっています[*2]。

また、レクリエーション機能や生態系維持などのグリーンインフラがもたらす効果が実際にどれほどあるのか、事前に測定するのが困難な場合もあり、住民の同意を得て導入することが難しいケースもあります。

さらに、単年度予算主義を採用する行政では、長期間の事業になりやすいグリーンインフラ整備に対して予算がつきにくく、また、財源にも限りがあるため、大規模に推進しにくい現状があります。

課題に対する国内の対応策

以上のような課題に対して、国内では、住民参加型や民間企業主導型のものなど、行政主導ではないグリーンインフラが推進されるようになってきています。

さらに、資金調達については、従来の政府財源だけに頼らない新たな資金調達方法が検討されるなどの工夫がされています。

住民参加型のグリーンインフラ

住民が主体的に取り組んでいる例としては、東京都八王子市における街の整備が挙げられます。

図10: 八王子南部におけるグリーンインフラ
出典: 国土交通省「良好な環境を持つ八王子南部の生活中心の拠点づくり」
https://www1.mlit.go.jp/common/001246944.pdf

環境に配慮した市街地の大規模開発を行うため、行政と開発事業者が協力して水循環再生システムの導入などを行っていますが、再生システムや自然環境を維持していくためには、近隣住民の協力が不可欠です。

そこで、「みなみ野自然塾」という市民団体が中心となり、保全された自然環境の維持活動や、さらには住民の自然環境保護への意識醸成のための啓発活動を行うことで、住民主体による維持管理を実現しています。

民間主導によるグリーンインフラ

キリンビール株式会社の横浜工場では、生物多様性の確保や、その重要性の普及のため、工場内の敷地を活用したビオトープ整備や、地元小学校への環境教育、自然に親しむガイドツアーの実施など民間主導のグリーンインフラの取り組みが行われています[*8]。

図11: キリンビール株式会社における取り組み
出典: 国土交通省「グリーンインフラ大賞 優秀賞受賞事例 3.都市空間部門」
https://www1.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/content/001377421.pdf, p.1

緑地整備の取り組みによって、図11のように多くの生き物が緑地内で確認されており、生物多様性の維持のほか、緑のネットワークの強化や地域の活性化に貢献しています。

グリーンボンドによる資金調達

グリーンインフラを整備するためには、多額の費用がかかる場合があります。財源に限りのある行政や企業にとって、グリーンインフラを推進したくともお金がない場合には、計画を断念せざるを得ません。

そのような課題に対処するため、「グリーンボンド」と呼ばれる、国内外のグリーンプロジェクトに要する資金を調達するために発行する債券の仕組みを、企業や地方自治体が活用できるようになりました。


図12: グリーンボンドの仕組み
出典: グリーンボンド発行促進プラットフォーム「グリーンボンド発行促進プラットフォーム」
http://greenbondplatform.env.go.jp/greenbond/scheme.html

グリーンボンドとは、環境に配慮したプロジェクトに興味のある投資家から、グリーンボンド発行体である事業会社や金融機関等を通じて、事業主体が投資を受ける仕組みです(図12)。

グリーンボンドによって、事業にかかる費用を効率的に集めることができ、多額の初期費用を賄うことができるようになります。

また、グリーンボンド以外にも、比較的小額の資金調達の方法として、ふるさと納税やクラウドファンディングという手段があります。

図13: ふるさと納税やクラウドファンディングによる資金調達
出典: 国土交通省「グリーンインフラ施策の進め方」
https://www.mlit.go.jp/common/001273240.pdf, p.6

いまは様々な資金調達の選択肢があり、事業規模に合わせた効果的な方法が選べるようになってきていると言えます。

これからのグリーンインフラ

グリーンインフラを含む環境産業の2020年の市場規模は、2000年時の約1.94倍となる約113.2兆円と過去最大となりました(図14)。

図14: 環境産業の市場規模
出典: 地方経済総合研究所「グリーンインフラへの取組み~自然環境と人とのより良い関係の構築~」
https://www.dik.or.jp/wp/wp-content/uploads/2022/02/8bf227915a1fd11333057054fcf3b408.pdf, p.3

2050年には140兆円近くまで達すると予測されるなど、今後も市場規模は拡大するといえます。インフラ整備による効果測定や資金調達など様々な課題はありますが、今後は行政と民間企業と住民とが一体となって取り組むことが、グリーンインフラ進展のカギとなるでしょう。

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参照・引用を見る

*1
国土交通省「『グリーンインフラ』とは」
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/mizu_junkan/yuushikisha/dai7/siryou6-3.pdf, p.1

*2
SHANDAS, Vivek, 原田宏美「アメリカにおけるグリーンインフラ導入の現状と課題について」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsrt/42/3/42_405/_pdf/-char/ja, p.1, p.2, p.3

*3
国土交通省「海外事例と我が国でのグリーンインフラの取組」
https://www.mlit.go.jp/common/001267827.pdf, p.3

*4
加藤桃子, 稲原宏「国立公園都市ロンドンに学ぶ都市緑化政策」
https://www.ibs.or.jp/wp-content/uploads/2019/07/s2019-5-6.pdf, p.77, p.78

*5
日経BP総合研究所「水問題にグリーンインフラ活用、先進国シンガポール」
https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434167/022300008/?P=1

*6
SUSAINABLE JOURNEY「シンガポールの緑化政策~『庭の中にある街』を目指して~」
https://www.daiwahouse.com/sustainable/sustainable_journey/smartecotowns/002/

*7
横浜市「グランモール公園が『第5回美し国づくり大賞』を受賞しました!」
https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/koho-kocho/press/kankyo/2019/0628grandmall_umashi.files/0003_20190628.pdf, p.2

*8
国土交通省「グリーンインフラ大賞 優秀賞受賞事例 3.都市空間部門」
https://www1.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/content/001377421.pdf, p.1

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