2022年3月21日、東京電力管内の電力需給が極めて厳しい状況だとして、政府は初めて「電力需給ひっ迫警報」を出しました。22日には、東北電力管内にも警報を発令しています。
メディアでも盛んに取り上げられたため、多くの方がその名前を耳にしたはずです。
また、職場や家庭で節電を意識した方も多いでしょう。
今回は、幸いにも大きな問題は起こりませんでしたが、もし、電力需給が追いつかなくなった場合、どのようなことが起きてしまうのでしょうか。
電力需給ひっ迫警報とは
電力需給ひっ迫警報は、電力会社の供給予備率が3%を下回る見込みとなった場合、資源エネルギー庁から発令される警報です[*1]。
電気の需要量は、時間や天候によって変動します。そのため、電力会社は予想最大電力よりも、最大発電量が上回るように常に余裕をもたせています。これを「供給予備力」、想定される需要に対する供給予備力の比率を「供給予備率」といいます[*2]。
東京電力管内では、2011年の東日本大震災のあと、10日間でのべ32回にわたって計画停電が実施されました[*3]。この時も電力は不足していましたが、今回はそれ以降、起きたことがないような非常に厳しい状況でした(図1)。
東京電力や経済産業省のみならず、首相や官房長官も会見で節電を呼びかけたことからも、切迫した状況だったことが伺えます[*4]。
図1: 電力ひっ迫の度合
出典: NHK「電力需給ひっ迫警報とは 大規模停電のおそれ どんな節電対応が必要?」(2022)
https://www.nhk.or.jp/shutoken/newsup/20220322a.html
なぜ電力需給ひっ迫警報が発令されたのか
これまで、日本国内で電力が不足した局面は何度かありました。
例えば、東京電力管内で、2011年に東日本大震災が起き、原子力発電所などが停止した時には計画停電が実施されました。
北海道電力では、2018年に北海道胆振東部地震が発生し、主要な火力発電所が停止したときに、道内で停電したことがありました[*3]。
しかし、これらの状況でも電力需給ひっ迫警報は発令されていません。
2022年3月21日の電力需給ひっ迫警報発令は、以下のような複数の要因が重なり実施されました。
地震による火力発電所の稼働停止と太陽光発電の出力低下
2022年3月16日に震度6強が観測された福島県沖で発生した地震により、東京電力管内に電気を送る福島県にある広野火力発電所6号機、新地火力発電所1号機が停止していました。さらに、3月22日は雨が降り太陽光発電による電力も期待できない状況でした[*5]。
予想外の寒さ
電力需給ひっ迫警報が発令される前の週は、関東地方では最高気温が20度を超えることもあり、温かい日が続いていました[*6]。
しかし、22日は最高気温が10度を下回り、冬に逆戻りしたような寒さで、暖房の需要が高くなることが予想されました[*5]。
警戒態勢の解除
もともと、2021年度冬季は例年より電力需給が厳しくなる見通しが示されていました。そのため、発電所の検査時期をずらす、停止中の老朽火力発電所を再稼働するなどの対応が行われていました[*1], [*7]。
国も電力会社も警戒態勢をとっていましたが、3月になると暖かくなることから2月末で対応の一部を解除していたのです[*5]。
同様に、地震により一部の発電所が停止していることと、気温の低下により電力が不足することから、2022年3月22日に東北電力管内にも「電力需給ひっ迫警報」が出されています[*8]。
電力の需要と供給のバランスが崩れると何が起きるのか
電力需給ひっ迫警報発令下では、盛んに節電が呼びかけられました。
そもそも供給する電力が足りなくなると何が起きるのでしょうか。
資源エネルギー庁では、電気の需要と供給のバランスについて下記のように説明されています[*9], (図2)。
電気は、電気をつくる量(供給)と電気の消費量(需要)が常に一致していないと、電気の品質(周波数)が乱れてしまいます。供給が需要を上回る場合は周波数が上がり、その逆の場合は周波数が下がります。これがぶれてしまうと、電気の供給を正常におこなうことができなくなり、安全装置の発動によって発電所が停止してしまい、場合によっては大停電に陥ってしまいます。
図2: 電気の安定供給の考え方
出典: 資源エネルギー庁「日本初の“ブラックアウト”、その時一体何が起きたのか」(2022)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/blackout.html
つまり、電気はつくりすぎても、足りなくても不具合が発生するのです。
過去の大規模停電を見てみると、2018年の北海道胆振東部地震では最大約295万戸、同じく2018年の台風21号では240万戸、台風24号では180万戸の停電が発生しました[*10]。
図3: 各災害時における停電戸数の推移
出典: 資源エネルギー庁「日本初の“ブラックアウト”、その時一体何が起きたのか」(2022)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/blackout.html
もし、2022年3月の電力需給ひっ迫警報発令時に大規模停電が起こっていたら、どの程度の被害が発生したでしょうか。
東京電力パワーグリッドが発信した情報によると、約500万kW(200万~300万軒)規模の停電が発生するおそれがあると述べられています[*11]。
もし、電力需給ができなくなっていれば、北海道胆振東部地震に匹敵する大規模停電になっていたのです。
一般市民の生活のみならず、病院での治療、公共交通機関、工場の操業など様々な分野に影響が出ることになったでしょう。
企業や家庭における節電対策
幸いにも2022年3月の警報発令時は、大きな問題は起きませんでした。
これは、多くの人々から節電協力が得られたためです。
以下では、実際にどのような対策が行われたのか、いくつかの事例をご紹介します。
民間企業の対応
<羽田空港>
羽田空港は、国内線のターミナル内で3分の1程度の照明を消して運営を行っていました。
また、空調の使用を普段の半分に抑えた他、事務所や店舗のバックヤードでも照明を消して営業が行われました[*12]。
<東京スカイツリー>
通常、午後5時45分から深夜0時まで行われているライトアップを中止しました。
夜間のライトアップを終日取りやめるのは、2012年の開業以来、初めてです。
また、展望台へ行くエレベーターの半数が運転を停止した他、展望台からの景色を映し出す電子看板(デジタルサイネージ)の一部も消されました[*12]。
<鉄鋼メーカー>
日本の大手鉄鋼メーカーである日本製鉄は、自家発電の出力を最も大きい水準に引き上げて東京電力に電力の供給を行いました。
その他、東京製鐵は、東京電力からの要請を受けて、宇都宮市の工場の稼働を22日午後10時から2時間、見合わせています[*12]。
官公庁の対応
<東京都庁>
第一本庁舎と第二本庁舎はもともと暖房の設定温度が20度でしたが、3月22日の午前11時からは1度下げて、19度にしていました。
その他、共用の廊下の照明を一部消灯し、22日午後3時からはエレベーターの運転台数を減らすなど、節電を行いました[*12]。
<静岡県富士市役所>
午前8時半の始業後、庁舎内のすべての暖房を停止しました。
富士市役所では、普段から節電に取り組んでいますが、改めて職員に節電を呼びかけるアナウンスも行われていました[*12]。
家庭での対応
電力需給ひっ迫警報に対する家庭での対応を調査したデータはありませんが、資源エネルギー庁からは下記のような対応が呼びかけられました[*12, *13]。
<暖房・エアコン>
- 暖房の設定温度を20度に下げる。
- 暖房の効果を上げるため、ドアの開け閉めは少なくする。
- エアコンの室外機の吹き出し口に物を置くと電気を余分に消費してしまうため、物はどけておく。
<家電など>
- 冷蔵庫は開け閉めを少なく、開けている時間を短くする。
- 熱いものは、冷ましてから冷蔵庫に入れる。
- 長時間使わないときは、電気ポットのプラグを抜く。
- 洗濯物は自然乾燥にするか、まとめて乾燥機にかけて回数を減らす。
<トイレ・風呂>
- トイレは、便座の暖房や洗浄水の温度を下げる。
- 熱が逃げるのを防ぐため、使わないときは便座のふたを閉める。
- 水を沸かすよりも、お湯をためる方が省エネ。
- 入浴は間隔をあけずに入る。
街頭インタビューでも「自宅でも節電したい」という声が取り上げられており、多くの人が家庭での節電を意識したのではないでしょうか[*12]。このような節電対策により、15時以降、節電量が急速に拡大し、自家発電の効果もあいまって大規模停電を回避できたのです[*14], (図4)。
図4: 東京電力管内の節電要請と電力需要の推移
出典: 資源エネルギー庁「東京電力及び東北電力管内における電力需給ひっ迫について」(2022)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/040_s01_00.pdf, p3
安定した電力供給のために
2022年3月の電力需給ひっ迫警報発令時には、幸いにも大規模停電は起こりませんでした。
しかし、日本の電力消費量は、戦後、ほぼ一貫して伸びています[*15]。
2011年に発生した東日本大震災以降、伸びは鈍化傾向となっていますが、一次エネルギーに占める電力の割合は1990年以降40%以上をキープしたままです(図5)。
一次エネルギーとは、自然に存在しているエネルギーで、加工されない状態で供給されるものを指します。具体的には、石油、石炭、原子力、天然ガス、水力、地熱、太陽熱などです[*16]。
図5: 一次エネルギーに占める電力の比率 (電力化率)
出典: 日本原子力文化財団「一次エネルギーに占める電力の比率(電力化率)」(2021)
https://www.ene100.jp/zumen/1-2-9
また、1日の中でも電力需要には昼と夜で大きな差があります(図6)。
今回のように、トラブルなどで大規模な発電所数カ所の稼働が止まれば、最大需要を満たすのが難しい事態が再び発生する可能性もあります[*3]。
図6: 最大電力発生日における1日の電気の使われ方の推移
出典: 日本原子力文化財団「最大電力発生日における1日の電気の使われ方の推移」(2021)
https://www.ene100.jp/zumen/1-2-10
安定した電力供給のため、不測の事態や災害に強い電力インフラの整備が必要です。
また、電気の消費者である私たちも、エネルギーの使い方について考えていかなければなりません。
資源エネルギー庁から紹介されている方法を参考に、普段の生活でも節電を意識してみましょう。
参照・引用を見る
*1
経済産業省「2021年度冬季に向けた 電力需給対策について」(2021)
https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11994962/www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/040_04_02.pdf, p2, p38
*2
日本原子力文化財団「供給予備率って、どういう意味?」(2012)
https://www.ene100.jp/commentary/2031
*3
日本経済新聞「電力需給なぜ逼迫? 東電管内の警報、23日に解除」(2022)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA220KA0S2A320C2000000/
*4
NHK「東京電力管内に電力需給ひっ迫警報『使用率』は」(2022)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220321/k10013544561000.html
*5
NHK「『電力需給ひっ迫警報』なぜ?どんな対応が必要?」(2022)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220322/k10013544721000.html
*6
日本気象協会 「関東・甲信地方の過去の天気」(2022)
https://tenki.jp/past/2021/09/weather/3/
*7
毎日新聞「厳しい電力需給、供給量確保に躍起 老朽火力発電所の再稼働も」(2022)
https://mainichi.jp/articles/20220106/k00/00m/020/125000c
*8
NHK「政府 東北電力管内にも初の「電力需給ひっ迫警報」節電協力を」(2022)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220322/k10013545081000.html
*9
資源エネルギー庁「日本初の“ブラックアウト”、その時一体何が起きたのか」(2022)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/blackout.html
*10
経済産業省「令和2年に発生した災害の振り返りと今後の対応について」(2020)
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/denryoku_anzen/pdf/024_02_00.pdf, p6
*11
日経BP「東京・東北で停電危機、原因は地震と気温低下だけではない」(2022)
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/06670/
*12
NHK「“電力需給ひっ迫警報” 節電に協力する各地の動きは」(2022)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220322/k10013545151000.html
*13
資源エネルギー庁「無理のない省エネ節約」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/general/howto/
*14
資源エネルギー庁「東京電力及び東北電力管内における電力需給ひっ迫について」(2022)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/040_s01_00.pdf, p3
*15
電気事業連合会「日本の電力消費」
https://www.fepc.or.jp/enterprise/jigyou/japan/
*16
独立行政法人中小企業基盤整備機構「一次、二次エネルギーと最終エネルギー消費の違いは?」
https://j-net21.smrj.go.jp/development/energyeff/Q1183.html