2022年4月、東北と四国において、エリア内で初めて再生可能エネルギーの出力抑制が行われました。
出力抑制とは、発電している太陽光発電や風力発電を一時停止することで、出力制御とも呼ばれます。
出力抑制に踏み切った原因は、天候に恵まれて発電量が伸びている日と電力需要の少ない休日が重なったことによる供給力過剰です。
日照条件が良く、太陽光発電が多く導入されている九州でも、すでに頻繁に出力抑制が行われています。
カーボンニュートラルを目指す日本では、環境にやさしい再生可能エネルギーの導入拡大が進められていますが、なぜあえて出力を「抑制」する必要があるのでしょうか。
さらに近年では電力不足が取り沙汰されることも多いですが、一方で電気が余るという事態も発生しているのはなぜなのでしょう。
この記事では、すでに再生可能エネルギーの導入が進んでいる海外の事例を紹介しながら、出力抑制がなぜ必要なのかを解説します。
再生可能エネルギーの出力抑制とは
電気は大量に貯蔵ができないため、日々刻々と変化する電力需要に応じて、リアルタイムに供給量を制御することでバランスを取る必要があります。
そのため、季節や時間帯、土日・平日などによって、電力が不足する時もあれば、余ってしまう時も存在します。
図1のように電気は需要と供給のバランスを保つことで安定供給が実現されており、需給バランスが崩れると大停電を引き起こしてしまいます[*1]。
図1: 電力の需給バランスがくずれるとどうなるの?
出典: 資源エネルギー庁「日本が抱えているエネルギーの問題」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/shared/pdf/energy_in_japan_for_school_2.pdf, p.9
現在、電力需要と供給をぴったりと一致させるためには、出力のコントロールがしやすい調整力として火力発電で対応しています。
再生可能エネルギーは季節や天候によって発電量が左右されるという性質があるため、太陽光の場合は晴れれば発電量が増え、曇りになれば発電量が落ち込みます。
計画より発電が少ないと火力発電を焚き増しして需要曲線に追従し、反対に需要以上に発電した場合、出力抑制が必要になります[*2],(図2)。
図2: 電力需給のイメージ
出典: 資源エネルギー庁「出力制御について」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/grid/08_syuturyokuseigyo.html
つまり、再生可能エネルギーの出力抑制の目的は、需要と供給を一致させて、安定供給を実現させることです。
需給バランスのための出力抑制には、図3のような優先給電ルールによって順番が決められています[*3]。
図3: 優先給電ルールの具体例
出典: 電気事業連合会「優先給電ルール」
https://www.fepc.or.jp/environment/new_energy/dounyuu/yuusen/index.html
優先給電ルールではまず第一に火力・揚水式発電機の出力抑制をし、さらに他エリアへの送電をしても電気が余った場合、再生可能エネルギーの出力抑制をするという順番になっています。
なお、水力、原子力、地熱発電などは長期固定電源と呼ばれ、一旦停止するとすぐに出力するのは難しく、リアルタイムでの出力制御は技術的に困難になっています。
優先給電ルールは、それぞれの発電機のもつ技術的な特性に基づいて決められているのです。
また、出力抑制は需給バランス以外にも送配電設備などの系統容量の制約によっても発生します。
系統容量の確保のためには、公平性を保つための先着優先ルールが設けられており、事故の発生にも対応できる空き容量を残しながら運用されています[*2],(図4)。
図4: 系統容量の確保のための先着優先ルール
出典: 資源エネルギー庁「出力制御について」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/grid/08_syuturyokuseigyo.html
空き容量を増やすためには、送電線の増強といった新たな設備投資が必要になるため、現状の再生可能エネルギーの出力抑制は、既存の電力系統システムにおいて停電を回避し、安定供給を実現するために実施されています。
一方で、近年では既存の電力系統を効率的に利用する「日本版コネクト&マネージ」と呼ばれる運用ルールの策定も進んでいます。日本版コネクト&マネージについては後ほど解説します。
欧州における再生可能エネルギーの出力抑制
再生可能エネルギーの導入が進んでいる欧州においても、出力抑制はおこなわれています。
ここでは、イギリス・アイルランド・ドイツにおける再生可能エネルギーの出力抑制の現状とその対策について紹介します。
イギリス
日本と同じく島国であるイギリスでは、既存の電力系統により多くの再生可能エネルギーを接続するためにコネクト&マネージという手法を取り入れています。
コネクト&マネージとは、あらかじめ先着順で送電線の容量を確保しておくのではなく、リアルタイムに発生する送電線の「すきま」を活用して新たな電源を接続するという方法です。
系統容量の空きに応じて発電するため、空きがなくなると出力抑制をする(系統混雑による出力制御)という手法(ノンファーム型接続)になります。
イギリスでは送電線の設備増強が完了するまでの施策として取り入れられており、コネクト&マネージによって、再生可能エネルギーの早期接続を実現する見込みです[*4],(図5)。
図5:コネクト&マネージによる接続の発電容量の将来見込み
出典: 資源エネルギー庁「系統制約の緩和に向けた対応」(2018)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/002_02_00.pdf, p.12
イギリスでは、出力制御が発生した場合に国民負担でイギリス政府から発電事業者に補償金を支払う制度になっています。
コネクト&マネージの開始後は、接続電源が急増したうえに、補償金目的であえて混雑状況を作り出す事業者も現れ、国民負担が増えたという事例もあります[*5]。
アイルランド
面積や電力需要が北海道と同程度であるアイルランドは、総発電量の中で陸上風力発電の占める比率が世界一の再生可能エネルギー先進国です。
アイルランドはイギリスと同様に島国で独立系統であり、コネクト&マネージも導入されています。
アイルランドにおける風力発電の導入量は現在も年々増加していますが、出力抑制量も増加傾向にあります[*6],(図6)。
図6: アイルランドの出力抑制の状況
出典: 電力広域的運営推進機関「欧米における送電線利用ルールおよびその運用実態に関する調査(平成30年度-海外調査)」(2018)
https://www.occto.or.jp/iinkai/kouikikeitouseibi/files/2018kaigaihoukokusyo.pdf, p.69
図6の青い部分は系統混雑による出力抑制、オレンジの部分は需給バランスによる出力抑制です。
風力発電の出力抑制は風況と需要に左右されるため、電力需要の伸びが見られた2016年には出力抑制量は小さくなっています。
ドイツ
再エネ先進国のドイツでは、他の電源よりも再生可能エネルギーを優先的に系統接続することが法律で決められています。
そのため、イギリスやアイルランドが全電源対象にコネクト&マネージを行っているのに対し、ドイツでは再生可能エネルギーに限定して実施しています。
系統混雑による出力抑制が発生した場合は、系統運用者が電源事業者に対して損失を補償することになっています[*4]。
欧州は日本とは異なり、網目のように張り巡らされたメッシュ状の送電網が構築されているので、国を越えて電力を融通できる国際連系線の利用が可能です[*4],(図7)。
図7:日欧の送電網の比較
出典: 資源エネルギー庁「系統制約の緩和に向けた対応」(2018)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/002_02_00.pdf, p.10
電気が余った時は他国に輸出ができるため、ドイツではこれまで需給バランスのための出力抑制は発生していません。
一方で、系統混雑による出力抑制は発生しており、2015年には補償額が3.1億ユーロまで上昇しています[*4],(図8)。
図8: ドイツの再エネ出力制御量と補償額の推移
出典:資源エネルギー庁「系統制約の緩和に向けた対応」(2018)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/002_02_00.pdf, p.21
再生可能エネルギーの主力電源化に向けた出力抑制への取り組み
次に、出力抑制を必要最低限に抑え、再生可能エネルギーを有効活用するための日本での取り組みを紹介します。
オンライン制御の拡大
出力制御が発生する見込みがある場合は、これまでは前日送配電事業者からの連絡を受け、現地で停止や復帰などの制御をおこなっていました。
遠隔から柔軟に出力制御が可能なオンライン制御が拡大することで、出力抑制量の低減が可能です。
手動のオフライン制御電源では前日段階で出力抑制を判断する必要があるのに対し、オンライン電源であれば、より需給予測の精度が高まる当日の数時間前に判断できます。
オンライン制御を活用することによって、九州では約3割の出力抑制の低減に成功しています[*7],(図9)。
図9: 九州における再エネ出力制御量(2018年度)
出典:資源エネルギー庁「再エネ出力制御の低減に向けた取組について」(2021)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/shin_energy/keito_wg/pdf/031_01_01.pdf, p.8
効率的に出力制御ができるオンライン化を進めながら、残りのオフライン電源に対してはオンライン電源が代わりに制御するオンライン代理制御が2022年から導入されています。
オンライン代理制御では、オフライン電源が実施すべき出力抑制を代わりにオンライン電源がおこなうことで、再生可能エネルギーの買取義務者である送配電事業者から対価を受け取る仕組みです。
オンライン代理制御によって、約2割の出力抑制の低減が見込まれています[*7]。
日本版コネクト&マネージの導入
欧州で導入されているコネクト&マネージですが、国内でも同様の取り組みが2021年から始まっています。
これまでの日本では系統容量に対して、先着優先ルールで系統容量を確保するファーム型接続を採用していました。
空き容量はすべての電源が最大出力で運用していることを想定して算出されていますが、実際にはフル稼働していることは珍しく、すきまが存在します。
日本版コネクト&マネージでは、あらかじめ系統容量を確保するのではなく、空きが出来た場合に新しい電源が接続可能です。
このような接続方法はノンファーム型接続とよばれ、図10のようなイメージになっています[*8]。
図10: ノンファーム型接続による送電線利用イメージ
出典: 資源エネルギー庁「再エネをもっと増やすため、『系統』へのつなぎ方を変える」(2021)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/non_firm.html
コネクト&マネージは系統の容量不足で再生可能エネルギーを新たにつなげられない、設備増強まで時間がかかるという実態を解決するための手法です。
まとめ
現在日本では、2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの導入拡大が進んでいます。
再生可能エネルギーの出力抑制というと、カーボンニュートラルに逆行する、マイナスのイメージもありますが、電力の安定供給を脅かすことなく、電力系統を運用していくためには必要なルールです。
既に多くの太陽光発電や風力発電が導入されている欧州の各国でも、出力抑制を前提として、再生可能エネルギーの活用が進められています。
出力抑制によって安定供給が守られることで、結果的に再生可能エネルギーの電力網への接続量を増加させることにつながるでしょう。
参照・引用を見る
*1
資源エネルギー庁「日本が抱えているエネルギーの問題」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/shared/pdf/energy_in_japan_for_school_2.pdf, p.9
*2
資源エネルギー庁「なるほど!グリッド 出力制御について」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/grid/08_syuturyokuseigyo.html
*3
電気事業連合会「優先給電ルール」
https://www.fepc.or.jp/environment/new_energy/dounyuu/yuusen/index.html
*4
資源エネルギー庁「系統制約の緩和に向けた対応」(2018)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/002_02_00.pdf, p.10, p.12, p.19, p.21
*5
国際環境経済研究所「温暖化対策の基礎知識 コネクト&マネージ」(2018)
https://ieei.or.jp/2018/02/special201608023/
*6
電力広域的運営推進機関「「欧米における送電線利用ルールおよびその運用実態に関する調査(平成30年度-海外調査)最終報告書」」(2019)
https://www.occto.or.jp/iinkai/kouikikeitouseibi/files/2018kaigaihoukokusyo.pdf, p.69
*7
資源エネルギー庁「再エネ出力制御の低減に向けた取組について」(2021)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/shin_energy/keito_wg/pdf/031_01_01.pdf,p.8, p.9
*8
資源エネルギー庁「再エネをもっと増やすため、『系統』へのつなぎ方を変える」(2021)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/non_firm.html