福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)とは? 水素製造システム活用が再生可能エネルギー主力電源化の鍵となるのか

利用時にCO2を排出しない水素は、環境に優しい次世代エネルギーとして注目が高まっています。

水素は地球上の様々な資源からつくることができ、大量貯蔵や輸送もできるという他のエネルギーにはない特徴を持っています。

水素社会実現への第一歩として、2020年3月に福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R:Fukushima Hydrogen Energy Research Field)の稼働が開始されました。

FH2Rは世界最大級の水素製造システムを備える施設で、再生可能エネルギーである太陽光発電を使用して水素を大量に製造する実証プロジェクトが進められています。

この記事では、水素社会の実現を牽引することが期待される福島水素エネルギー研究フィールドの取り組みと、水素製造システムが再生可能エネルギーの普及にどう貢献していくのか、導入の課題とともに紹介します。

 

水素エネルギーの特徴

水素とは

水素は宇宙で最も多く存在する元素の一つで、地球上で最も軽い気体です。

地球ではほとんどが水として存在している水素は、水から酸素を分離して取り出せる他に、石油、天然ガスなどの様々な資源から製造することが可能です。

水素は酸素と化学反応させることで電気を作ったり、燃焼させてエンジンを回すことで、エネルギーとして活用できます[*1], (図1)。

図1: 水素からエネルギーをつくる
出典: 水素情報館東京スイソミル「水素エネルギーとは?」
https://www.tokyo-suisomiru.jp/hydrogen-energy/

水素エネルギーは、発電や熱エネルギーとして利用するときにCO2を排出しません。

さらに製造時に再生可能エネルギーを利用すれば、カーボンフリーなエネルギーとしてCO2排出削減に役立てることが可能です。

水だけでなく様々な資源から製造することができるので、化石燃料などの資源に乏しい日本のエネルギー自給率を上げることにも貢献するかもしれません。

さらに、輸送や貯蔵もできるため、天候によって発電量が左右される再生可能エネルギーの調整力や、災害時のバックアップ電源としても活用可能です。

再生可能エネルギーを水素に変換して、余った電気を貯める役割としても期待されています。

従来は産業用として活用されていた水素エネルギーは、近年ではガソリンの代わりに水素を利用する燃料電池自動車(FCV)や家庭用燃料電池(エネファーム)として、私たちの暮らしにも定着し始めています。

燃料電池自動車や燃料電池バスの普及を後押しする、水素ステーションの整備も進められています。

現状では限られた用途で利用されている水素ですが、将来的には様々なシーンで活用されることが期待されています[*2], (図2)。

図2: 様々なシーンで利用が期待される水素
出典: 環境省「脱炭素化にむけた水素サプライチェーン・プラットフォーム『水素』ってどんなエネルギー?」
https://www.env.go.jp/seisaku/list/ondanka_saisei/lowcarbon-h2

水素製造の仕組み

水素社会の実現のためには、水素を大量に作り出す水素製造システムが必要不可欠です。

水素は多様な原材料から製造できるという特徴があるため、製造方法によって「グレー水素」「ブルー水素」「グリーン水素」の3タイプに分類されます[*3], (図3)。

図3: 「グレー水素」「ブルー水素」「グリーン水素」の製造方法
出典: 資源エネルギー庁「次世代エネルギー『水素』、そもそもどうやってつくる?」(2021)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/suiso_tukurikata.html

「グレー水素」とは、石炭や天然ガスなどの化石燃料を燃焼させて水素を作る方法で、製造過程でCO2を排出します。

「ブルー水素」も同様に化石燃料から製造されますが、排出したCO2を回収や貯留することで、CO2排出を低減する方法です。

「グリーン水素」は太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーから水素を製造する方法で、3タイプの中でもっとも環境に優しいカーボンフリーなエネルギーです。

現在「グレー水素」と「ブルー水素」を製造する技術はすでに確立されており、家庭用燃料電池などにも使用されています。

CO2を排出しないグリーン水素の製造に関しては、水の電解に膨大な量のエネルギーが必要になるため、コスト低減が課題となっています。

 

世界最大級の水素製造システム「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」

2020年3月に福島県浪江町で開所した福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)は、再生可能エネルギーを利用したグリーン水素を製造する実証運用施設です[*4], (図4)。

図4: 福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)
出典: NEDO「再エネを利用した世界最大級の水素製造施設『FH2R』が完成」(2020)
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101293.html

FH2Rでは、製造から利用に至るまでCO2を排出しないクリーンで低コストな水素製造技術の確立を目指しています。

FH2Rのシステム概要図は図5のようになっており、水素エネルギーシステムでは水素製造・貯蔵・輸送を行います[*5]。

図5: FH2Rのシステム概要図
出典: 浪江町「福島水素エネルギー研究フィールド」
https://www.town.namie.fukushima.jp/uploaded/attachment/9142.pdf, p.2

FH2Rでは、約18万㎡の敷地内に設置された20MWの太陽光発電から得られる電力など、再生可能エネルギー由来の電力によって水の電気分解を行います[*4]。

水素の製造量・貯蔵量は、水素需要予測システムと電力系統制御システムを組み合わせた水素エネルギー運用システムによって決定します。

この実証運用の最大のチャレンジは、水素需要に合わせた水素製造と電力系統への調整力提供の両立を水素エネルギー運用システムのみで実現することです。

10MWの水素製造装置は世界最大級で、1時間あたり1,200Nm3の水素を製造することが可能です。

1日稼働すれば約150世帯の1か月分の消費電力量、あるいは燃料電池車約560台分の燃料に相当するエネルギーをつくりだすことができます[*5], (図6)。

図6: FH2Rにおける1日あたりの水素製造量
出典: 浪江町「福島水素エネルギー研究フィールド」
https://www.town.namie.fukushima.jp/uploaded/attachment/9142.pdf, p.1

FH2Rで製造された水素は、燃料電池や水素ステーション、産業用として使用される他、圧縮水素トレーラーやカードル(集合容器)を使用して福島や東京の需要先へも輸送されます。

2021年に開催された東京オリンピックでは、選手のリラクゼーションハウスや宿泊棟の一部で、FH2Rで製造した水素が活用されました[*6]。

 

再生可能エネルギーの導入拡大のための水素製造システムの活用

水素製造システムの活用は、既存の電力系統への再生可能エネルギー導入拡大にも貢献します。

電力の安定供給のためには、需要と供給は常に一致している必要があり、バランスが崩れると大規模停電を引き起こしてしまいます。

しかし、季節や天候の変化によって出力が変動する太陽光発電や風力発電が電力系統に大量導入されると、需給バランスのコントロールが困難になってしまいます。

そのため、再生可能エネルギーの主力電源化のためにクリアすべき課題として、出力変動を吸収し需給バランスを保つことのできる安定的な調整力の確保が挙げられています。

 

現在の電力系統では、燃料の投入によって出力を制御できる火力発電が主な調整力の役割を担っています[*7], (図7)。

図7: 電力需要と発電量のイメージ
出典: 資源エネルギー庁「再生可能エネルギー拡大に欠かせないのは『火力発電』!?」(2017)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/saiene/tyoseiryoku.html

しかし化石燃料を使用する火力発電はCO2排出量が多く、地球温暖化の原因の一つとなっています。

カーボンニュートラルの推進に向けて世界的にも火力発電を廃止していく流れになっていることに加えて、国内の火力発電所は老朽化が進んでいるため、将来的に減少していく見込みです。

このような背景から、CO2を排出する火力発電に替わる調整力として、水素製造システムの活用に期待が高まっています。

水素製造システムによる需給バランス調整は、「デマンドレスポンス」という方法で行われます。

デマンドレスポンスとは、供給に合わせて需要側をコントロールすることでバランスを取る方法です。

水素製造システムでは、電力系統の供給が需要を上回れば、水素を製造することで需要を創出し、反対に需要が供給を上回り電力が不足すると、水素製造量を減らします。

また、現在は需給バランスをとるために、需要以上に発電した再生可能エネルギーに対して出力抑制がおこなわれています。

出力抑制を回避して余剰電力で水素を製造することができれば、余ってしまうクリーンな電気を捨てることなく活用でき、脱炭素にも大きな効果があります。

さらに送電線などの整備が進んでおらず、電力需要が少ないエリアに設置された再生可能エネルギーに関しても、水素製造システムを活用することで最大限に活用することが可能です[*8], (図8)。

図8: 電力需要と発電量のイメージ
出典: 資源エネルギー庁「今後の水素政策の課題と対応の方向性中間整理(案)」(2021)
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/suiso_nenryo/pdf/025_01_00.pdf, p.23

 

まとめ

水素エネルギーの利活用が進めば、環境負荷の低減、エネルギー自給率の向上、電力の安定供給が可能になり、現在のエネルギーシステムが抱える課題の解消につながります。

近年、日本では自然災害の多発や不安定な世界情勢によって、電力の安定供給が脅かされることが増えています。

大量貯蔵や輸送が可能で様々な資源から作り出せる水素は、私たちの生活を支える重要なエネルギー源になる可能性が高いでしょう。

さらに、水素製造システムは再生可能エネルギーの導入拡大の鍵となる、調整力としての役割も期待されています。

水素製造システムによって需要側を調整することで、再生可能エネルギーの出力抑制を回避し、クリーンなエネルギーを余すことなく活用することが可能になります。

 

一方で、水素エネルギーの普及には、燃料電池自動車のための水素ステーションの整備や製造コストの低減などの課題も残っています。

水素が日本の主要なエネルギーの一つとして利活用される水素社会の実現に向けて、今後は課題が克服できた分野・地域から順次社会実装に進展していく見込みです。

 

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参照・引用を見る

*1
資源エネルギー庁「日本が抱えているエネルギーの問題」
水素情報館東京スイソミル「水素エネルギーとは?」
https://www.tokyo-suisomiru.jp/hydrogen-energy/

*2
環境省「脱炭素化にむけた水素サプライチェーン・プラットフォーム「『水素』ってどんなエネルギー?」
https://www.env.go.jp/seisaku/list/ondanka_saisei/lowcarbon-h2

*3
資源エネルギー庁「次世代エネルギー『水素』、そもそもどうやってつくる?(2021)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/suiso_tukurikata.html

*4
NEDO「再エネを利用した世界最大級の水素製造施設『FH2R』が完成」(2020)
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101293.html

*5
浪江町「福島水素エネルギー研究フィールド」
https://www.town.namie.fukushima.jp/uploaded/attachment/9142.pdf, p.1, p.2

*6
資源エネルギー庁「東京2020大会時における福島県内で製造された水素の活用について」(2021)
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/climate/hydrogen/hydrogen_made_in_Fukushima.html

*7
資源エネルギー庁「再生可能エネルギー拡大に欠かせないのは『火力発電』!?」(2017)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/saiene/tyoseiryoku.html

*8
資源エネルギー庁「今後の水素政策の課題と対応の方向性中間整理(案)」(2021)
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/suiso_nenryo/pdf/025_01_00.pdf, p.23

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