地下水を汲み上げて熱エネルギーを採取!? 帯水層蓄熱システムの環境性と普及に向けた展望

近年、身近な再生可能エネルギーとして、地中熱を利用したシステムが全国各地で積極的に導入されています。地中熱とは比較的浅い地中にある熱のことを言い、地中熱を利用したシステムとして、ヒートポンプやヒートパイプを使ったシステムのように様々な手法が開発されています。

そのうち、経済性が高く、大型施設などで導入可能な手法として、地下水を汲み上げ熱を利用する帯水層蓄熱システムの研究開発が、行政や事業者など様々な主体によって進められています。

それでは、帯水層蓄熱システムとは、どのようなシステムなのでしょうか。また、帯水層蓄熱システムは省エネや省CO2などの効果があるとされていますが、具体的にどれほどの効果があるのでしょうか。

一方で、帯水層蓄熱システムには課題も山積しています。どのような課題があり、解決に向けてどのような取り組みが行われているのでしょうか。

地中熱利用システムとは

地中熱とは

帯水層蓄熱システムを理解するためには、そもそも地中熱がどのような熱エネルギーなのかを理解する必要があります。

太陽光や風力などと異なり、地中熱はあまり聞きなれない言葉かもしれませんが、実は全国各地で身近に活用できる熱エネルギーです。

地中熱利用促進協会では、地中熱は、「昼夜間又は季節間の温度変化の小さい地中の熱的特性を活用したエネルギー」と定義されています。四季のある日本では、夏は気温が高く、冬は気温が低くなります。一方で、深さ10mくらいの地温(地中の温度)は、年平均気温にほぼ等しく、年間を通じて一定という特徴があります[*1], (図1)。

図1: 気温と地温の関係
出典: 地中熱利用促進協会「地中熱とは?」
http://www.geohpaj.org/introduction/index1/howto

地中熱は気温と地温の温度差を利用した熱エネルギーであり、CO2を排出しないため、身近な再生可能エネルギーとして利用が進みつつあります。

 

地中熱利用システムの仕組み

地中熱を活用したシステムは、気温と地温の温度差を利用して熱エネルギーを取り出すシステムですが、夏季と冬季での利用方法は異なります。

例えば、気温が地温より低い冬季には、温かい地下から熱を取り出し、ヒートポンプを使って屋内を暖めます。一方で、気温が地温より高い夏季には、エアコンなどを使用して発生した熱を地下に放熱することで、熱を循環させています。熱は温度の低いところへ移動するという性質があるため、エアコン使用時に出る熱を冷媒によって受け取らせ、温度の低い地下に運びます。その後、地下で熱が逃がされ、再度冷媒が地上に循環されるという仕組みです。[*2], (図2)。

図2: 夏季と冬季における熱循環の違い
出典: 資源エネルギー庁「地中熱利用」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/underground/index.html

 

地中熱利用システムの方式

このように、ヒートポンプなどを利用して熱を循環させることで熱エネルギーを効率的に利用する地中熱利用システムですが、先述したようなヒートポンプシステムに加えて、地中熱利用システムには様々な手法が開発されており、代表的なものとして5つの形態があります[*3], (図3)。

図3: 地中熱利用の形態
出典: 環境省「地中熱とは?」
https://www.env.go.jp/water/jiban/post_117.html

まず、住宅・ビルなどの冷暖房や給湯、道路などにおける融雪、農業用ハウスにおける冷暖房など様々な場面で活用されるヒートポンプシステムは最も普及している地中熱利用システムですが、クローズドループ方式とオープンループ方式の2つに大別されます[*4]。

クローズドループ方式は、地中熱交換方式とも呼ばれ、地中熱交換機に水や不凍液などを循環させ、ヒートポンプで熱交換させることで熱を循環させる方式のことで、場所を問わずに利用できるため、広く活用されている方式です[*5]。

一方で、オープンループ方式とは、井戸から汲み上げた地下水をヒートポンプで熱交換する方式です。水質が良く、地下水障害のおそれのない場合に設置可能なため、クローズドループ方式と比べると設置場所が限られるというデメリットがあります。

その他、ヒートポンプシステム以外の地中熱利用システムとして、熱伝導、空気循環、水循環、ヒートパイプなど様々な方式があります[*6], (図4)。

図4: ヒートポンプシステム以外の地中熱利用システム
出典: 地中熱利用促進協会「地中熱利用形態」
http://www.geohpaj.org/introduction/index1/types

帯水層蓄熱システムとは

帯水層蓄熱システムの仕組みと形態

このように、地中熱利用システムには様々な方法がありますが、今回紹介する帯水層蓄熱システムは、ヒートポンプシステムのオープンループ方式にあたります。

ヒートポンプシステムで一般的に利用されるクローズドループ方式は、冷暖房の排熱を循環させていますが、帯水層蓄熱システムではその排熱を帯水層に蓄え、熱エネルギーとして活用することで省エネやCO2の排出削減、ヒートアイランド現象緩和を図るシステムです[*7], (図5)。

図5: 帯水層蓄熱システムのイメージ
出典: 環境省「新技術の紹介」
https://www.env.go.jp/water/jiban/post_98.html

帯水層蓄熱システムには、帯水層から汲み上げた地下水を使用後に水路や下水道へ放流する放流型や、還元井を利用して帯水層へ再度注入する還元井型、浸透池や水田などから地中へ浸透させる浸透升型など様々な形態があります[*8], (図6)。

図6: 帯水層蓄熱システムの形態
出典: 地中熱利用促進協会、全国さく井協会「地中熱ヒートポンプシステム オープンループ導入ガイドライン 第1版」
http://www.geohpaj.org/wp/wp-content/uploads/openloop_guide01.pdf, p.3

 

帯水層蓄熱システムのメリット

帯水層蓄熱システムの利用には、環境問題の解決に貢献できるなど様々なメリットがあります[*7]。

1点目のメリットとしては、節電・省エネによるCO2削減効果があるという点です。特に夏場は、冷蔵庫や冷暖房などの排熱を室外に放出する従来の空気熱源ヒートポンプと比較してもCO2排出量が少なく、環境負荷の低減に大きく貢献できるとされます (図7)。

図7: 夏の月別二酸化炭素排出量
出典: 環境省「新技術の紹介」
https://www.env.go.jp/water/jiban/post_98.html

2点目のメリットは、節電・省エネによってコストの削減が期待できるという点です。夏季のランニングコストは空気熱源ヒートポンプと比較して64%も低く、大きなコスト削減効果があるとされています(図8)。

図8: 夏季における月別ランニングコスト
出典: 環境省「新技術の紹介」
https://www.env.go.jp/water/jiban/post_98.html

また、冷房時の排熱を大気に放出せず、地下水などに再度還元するため都市部のヒートアイランド現象の緩和につながるなど、様々なメリットがあるとされています。

 

国内外で普及する帯水層蓄熱システム

ヒートアイランド現象やCO2排出量削減など環境問題の解決につながる帯水層蓄熱システムは、現在国内外で積極的に導入が進んでいます。

例えば、帯水層蓄熱システムの導入が最も進んでいる国の一つであるオランダでは、1990年代から積極的な導入が進められ、2013年時点で約3,000件を超える帯水層蓄熱システムが稼働しています[*9], (図9)。

図9: オランダにおける帯水層蓄熱システムの普及状況
出典: 環境省「海外での取り組み」
https://www.env.go.jp/water/jiban/post_96.html

一方、国内においても既に大阪市や山形市など各地で導入されています。例えば、熱需要の高い事業所が集中し、地中には豊富な地下水が存在する大阪市では、行政や大学、事業者が連携して帯水層蓄熱利用技術の実証事業を実施しています。

実際に事業が実施された例として、平成27年度から平成30年度の間に実施された「うめきた2期暫定利用区域」における実証事業では、ビルの冷暖房用の熱源として、大容量熱源専用井戸から熱を取り出し、蓄えた熱を有効に活用することによって、従来システムと比較して約35%の省エネ効果が確認されたと報告されています[*10,*11], (図10)。

図10: うめきた2期暫定利用区域における実証事業
出典: 大阪市環境局エネルギー政策室「大阪市域における帯水層蓄熱利用の普及促進について」
https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/19834/00332034/20190809-06.pdf, p.10

また、山形市内の事務所では、新エネルギー・産業技術総合開発機構及び日本地下水開発株式会社、秋田大学、産業技術総合研究所によって開発された高効率帯水層蓄熱システムが導入されているなど、地下水の利用可能な地域では、既に広く利用されています[*12], (図11)。

図11: 高効率帯水層蓄熱システムの模式図
出典: 新エネルギー・産業技術総合開発機構「国内初、高効率帯水層蓄熱システムを開発」
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_100971.html

従来の帯水層蓄熱システムは、導入コストや運用コストが高いことが課題でしたが、本システムは初期導入コストが23%低く、年間の運用コストも31%削減できるとされています。さらに、従来のシステムでは熱利用後の地下水を地下帯水層に注入するのが困難でしたが、本システムには新たに開発された密閉式井戸が開発され、使用した地下水が井戸周囲の地下水に噴き出さないよう環境に配慮した形で運用されています。

このように、帯水層蓄熱システムは全国各地で実証事業が進んでいます。クローズドループ方式のヒートポンプシステムと比べて設置場所に制約があるため、設置件数は少ないですが、採熱量が大きく経済性に優れていることから、帯水層蓄熱システム(オープンループ方式)の導入件数は着実に伸びています[*4], (図12)。

図12: ヒートポンプシステムの累計設置件数推移
出典: 環境省「令和2年度地中熱利用状況調査の集計結果」
https://www.env.go.jp/content/900517214.pdf, p.3

帯水層蓄熱システムの課題と展望

導入件数も着実に伸びている帯水層蓄熱システムですが、一方で、地盤沈下を引き起こさないよう配慮したシステムの導入など、更なる普及に向けて課題が山積しています[*13]。

例えば、導入に向けた課題の一つとして、地下水を揚水・還元する際(汲み上げたり排水する際)の目詰まりリスクがあるという点です。クローズドループ方式と異なり、帯水層に水を排出するため、排出する還元井で細粒分(75μm未満の粒径の土粒子)の蓄積や、気泡発生、水質変化によって微生物活動が活発化することで生じるバイオフィルムの発生など、目詰まりリスクがあります。

目詰まりに対応するためには、定期的なメンテナンスが必要となりますが、目詰まり要因について定量的なメカニズムの解明には至っていないため、メンテナンス時期の予測が難しいのが現状です。

目詰まりへの対応以外の課題として、周辺環境に配慮したシステムの導入が挙げられます。帯水層蓄熱システムは地下水を揚水・還元することによって運用されますが、汲み上げた地下水が全量還元されなければ、地下にある水量が減少し、地盤沈下が発生してしまう危険性もあります[*8]。

従来の開放式の井戸では、水が噴き出してしまうことがあり、汲み上げた地下水を全量戻すことができませんでした。前述したように、密閉式の井戸が開発されましたが、今後は密閉式井戸のように地盤沈下が生じない井戸の普及が、帯水層蓄熱システムの導入に向けたカギとなるでしょう[*14]。

 

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参照・引用を見る

*1
地中熱利用促進協会「地中熱とは?」
http://www.geohpaj.org/introduction/index1/howto

*2
資源エネルギー庁「地中熱利用」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/underground/index.html

*3
環境省「地中熱とは?」
https://www.env.go.jp/water/jiban/post_117.html

*4
環境省「令和2年度地中熱利用状況調査の集計結果」
https://www.env.go.jp/content/900517214.pdf, p.2

*5
東邦地水株式会社「地中熱利用システムの基礎知識」
https://www.chisui-energy.jp/system/

*6
地中熱利用促進協会「地中熱利用形態」
http://www.geohpaj.org/introduction/index1/types

*7
環境省「新技術の紹介」
https://www.env.go.jp/water/jiban/post_98.html

*8
地中熱利用促進協会、全国さく井協会「地中熱ヒートポンプシステム オープンループ導入ガイドライン 第1版」
http://www.geohpaj.org/wp/wp-content/uploads/openloop_guide01.pdf, p.3, p.25

*9
環境省「海外での取り組み」
https://www.env.go.jp/water/jiban/post_96.html

*10
大阪市環境局エネルギー政策室「大阪市域における帯水層蓄熱利用の普及促進について」
https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/19834/00332034/20190809-06.pdf, p.10

*11
大阪市「帯水層蓄熱利用の普及に向けた取組み」
https://www.city.osaka.lg.jp/kankyo/page/0000476996.html

*12
新エネルギー・産業技術総合開発機構「国内初、高効率帯水層蓄熱システムを開発」
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_100971.html

*13
阪田義隆、長野克則「地中熱利用における課題と地下水学からのアプローチ」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jagh/62/4/62_515/_pdf/-char/ja, p.517, p.520

*14
新エネルギー・産業技術総合開発機構「未利用エネルギーを季節で切り替えて活用する帯水層蓄熱システムの普及を目指す」
https://webmagazine.nedo.go.jp/practical-realization/articles/202104jgd/

 

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