Eフューエル(E-Fuel)はCO2削減に貢献できるのか? E-Fuelのメリットと商用化に向けた課題

加速する気候変動を食い止め、脱炭素社会を構築するために、さまざまな分野でCO2削減技術が開発されています。

自動車をはじめとする運輸部門においては、電気を動力源とする電気自動車や水素を利用した燃料電池車が推進されていますが、既存の自動車を脱炭素化できる合成燃料の開発も重要な位置付けになっています。

合成燃料とは、二酸化炭素(CO2)と水素(H2)を合成して製造する人工的な燃料のことで、ガソリンやディーゼル燃料の代替として使用できます。

合成燃料のなかでも、再生可能エネルギーを用いて製造した水素を用いたものは、Eフューエル(E-Fuel)と呼ばれています。

Eフューエルは、CO2の排出量削減に貢献するだけでなく、既存のインフラを利用できるため導入コストを削減できるメリットがあります。

一方で、ガソリンと比較して製造コストが高いことや、水素製造に再生可能エネルギーを使用しなければ、かえってCO2を増やしてしまうという課題もあります。

この記事では、Eフューエル導入が脱炭素に貢献する次世代燃料になりえるのか、その可能性をお伝えします。

 

運輸部門におけるCO2削減ポテンシャル

地球温暖化の原因は、人間活動によって排出される二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの増加です。

CO2排出は、発電所や工場の稼働、家庭で使用される家電以外にも、自動車・バス・飛行機などの運輸部門からも多く排出されています。

次の図1は2020年度の家庭からのCO2排出量の燃焼種別内訳ですが、ガソリンからの排出は21.6%と多くを占めています[*1]。

図1: 家庭からの二酸化炭素排出量(世帯当たり、燃料種別)
出典: 一般社団法人 全国地球温暖化防止活動推進センター「家庭からの二酸化炭素排出量(2020年度)」
https://www.jccca.org/download/65499

CO2排出量が大きいガソリンなど化石燃料からの脱却のために、さまざまな技術が開発されています。

日本の運輸部門の脱炭素化に向けた主な対策として、テレワークなどによるサービス需要の低減や省エネ、電気自動車をはじめとする機器の電化と並んで、燃料の脱化石化が進められています[*2], (図2)。

図2: 運輸部門 脱炭素化に向けた主な対策
参考: 資源エネルギー庁 AIMプロジェクトチーム「2050年脱炭素社会実現の姿に関する一試算」(2020)の図を筆者加工(赤枠追記)
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/034/034_004.pdf, p.10

脱炭素燃料として化石燃料の代替となるものには、CO2と水素を利用する合成燃料やバイオマスを原料とするバイオ燃料、生産から消費までCO2を排出しないグリーンLPGなどがあります。

自動車や航空機などの運輸部門におけるCO2排出を大幅に削減するためには、化石燃料からの依存を脱却し、脱炭素燃料の実用化が必要です。

 

合成燃料であるEフューエル(E-Fuel)とは

Eフューエル製造の仕組み

脱炭素燃料のひとつである合成燃料は、二酸化炭素(CO2)と水素(H2)を原料としています。

CO2とH2を合成して製造された燃料は、天然ガスの代わりとなる気体合成燃料や、ガソリンやジェット燃料となる液体合成燃料になります[*3], (図3)。

図3: 合成燃料とは
出典: 資源エネルギー庁「エンジン車でも脱炭素?グリーンな液体燃料『合成燃料』とは」(2021)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/gosei_nenryo.html

合成燃料の中でも、特に再生可能エネルギー由来の電気で製造された水素を使用した合成燃料は、Eフューエル(E-Fuel)と呼ばれています。再生可能エネルギー由来の電気を用いている(Electro-)という意味が、”E” に込められています。

Eフューエルは、欧州で導入が進む風力電力の余剰電力の活用法として、2010年初頭から技術開発が進められています[*4]。

Eフューエルは使用するとCO2を排出しますが、製造の際に発電所や工場などから排出されたCO2を回収することで、カーボンニュートラルを実現します。

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出を社会全体としてゼロにすることです。

どうしても排出が避けられない分野に関して、CO2吸収量を差し引いて排出分を埋め合わせるという考え方です。

次の図4は、Eフューエルの製造から使用までのCO2排出の流れを表しています[*5]。

図4:  液体合成燃料製造におけるCO2の流れ
出典: 一般財団法人 石油エネルギー技術センター「CO2 を原料とした液体合成燃料の開発への取り組み」(2022)
https://www.pecj.or.jp/wp-content/uploads/2022/03/JPEC_report_No.220302.pdf, p.2

Eフューエルの製造に利用するCO2の調達には、DAC(Direct Air Capture)技術の活用も検討されています。

大気中に蓄積しているCO2を直接分離して回収するDAC技術実現すれば、より多くの温室効果ガス削減に貢献するでしょう。

 

Eフューエル(E-Fuel)のメリットと導入への課題

Eフューエルのメリットは、化石燃料からの脱却だけでなく社会実装のしやすさという点も挙げられます。

電気自動車や燃料電池車は、車両や蓄電池の開発、充電設備の整備などが高いハードルとなっていますが、Eフューエルの場合は既存のインフラ設備が活用可能です。

原料がCO2とH2なので、Eフューエルと同じ脱炭素燃料であるバイオ燃料と比較しても、原料不足の懸念もありません。

技術が確立されれば、国内でも大量生産ができるポテンシャルをもっています。

現在輸入に頼っている燃料を国内で製造できれば、エネルギー安全保障の観点からも意義があるでしょう。

また、Eフューエルはガソリンや軽油などと同様に、エネルギー密度が高いという特徴もあります[*3]。

「エネルギー密度が高い」とは、少ない燃料でも多くのエネルギーに変換できるという意味です。

電気や水素単体を動力源とする場合と比較して、少ない燃料で長い距離を移動することができるため、船舶や航空機の燃料としても利用できます。

さらに、再生可能エネルギーの余剰電力を有効活用できるEフューエルの推進は、太陽光発電や風力発電の主力電源化への後押しにもなります。

Eフューエルによって水素利用が本格化すれば、天候に左右される再生可能エネルギーの不安定さを吸収する調整力となり、余ってしまう電力も有効活用が可能です。

 

一方で、Eフューエル普及のために解決すべき課題がコスト面です。

国内で製造した水素を利用して合成燃料を製造する場合、1リットルあたり約700円と、現在のガソリン価格と比較してとても高額です[*3], (図5)。

図5: 合成燃料のコスト比較
出典: 資源エネルギー庁「エンジン車でも脱炭素?グリーンな液体燃料『合成燃料』とは」(2021)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/gosei_nenryo.html

Eフューエルを社会に普及させるには、H2製造、CO2分離・回収コスト、そして製造コストの全てを低減するための技術開発が必要です。

 

Eフューエル(E-Fuel)の海外での導入事例

Eフューエルの技術開発や商用化に向けた実証事業は、欧米を中心に世界各国で進められています。

2010年初頭からEフューエルの研究を進めているドイツの自動車メーカー、アウディではe-diesel製造のパイロットプラントを2018年に建設しています[*6], (図6)。

図6: e-diesel燃料製造パイロットプラントの構成
出典: Audi japan press center「Audi、合成燃料の研究をステップアップ」(2017)
https://www.audi-press.jp/press-releases/2017/b7rqqm000000jirm.html

e-dieselは、再生可能エネルギーである水力発電の余剰電力から製造された水素とCO2を合成して製造される燃料です。

製造工程で排出される熱は、地域の工場や住宅で使用され、最後の工程で燃料から分離して生成されるワックスは、他の産業分野で利用されます。

このパイロットプラントでは、年間約40万リットルのe-dieselを製造する予定です[*7]。

 

2020年に「グリーン水素国家戦略」を発表し、世界から注目を集めているチリでも、Eフューエルの商用化に向けたプロジェクトが進められています。

チリは国家戦略として、2030年までに世界一安価なグリーン水素生産体制を構築すること、2040年までに世界トップ3の水素輸出国になることを掲げています[*8]。

気象環境が風力発電に適しているチリ南部では、風力発電で製造した水素を利用した世界初の合成燃料商用化製造プラントの建設が開始されています[*9], (図7)。

図7: 合成燃料商用化製造プラントのイメージ
出典: Porsche 「Siemens Energy and Porsche, with partners, advance climate-neutral e-fuel development」(2020)
https://www.porsche.com/usa/aboutporsche/pressreleases/pag/?pool=international-de&id=619733

このプロジェクトには、ドイツの自動車メーカー、フォルクスワーゲン傘下であるポルシェが、7500万ドル出資することを発表しています[*10]。

2022年後半に運用開始予定で、2026年までに約5億5000万リットルのEフューエルを製造する予定です。

 

まとめ

Eフューエルは、ガソリンやディーゼル燃料の代替として注目が高まっている環境にやさしい次世代燃料です。

脱炭素社会実現のための多様な選択肢の一つであり、電気自動車や燃料電池車とは異なるアプローチでCO2排出を削減します。

世界では、自動車のEVシフトが加速しています。

しかし、すでに流通している自動車の大半がガソリン車であり、共存は今後数十年は続くと考えられます。

Eフューエルをガソリンの代わりに用いることができれば、既存の自動車をエコカーとして生まれ変わらせることができるでしょう。

環境価値が高く、将来性のあるEフューエルですが、実用化にはコスト面での課題が残されています。

日本では今後10年間で集中的に実証事業や研究を進めていき、2040年までの商用化を目指しています[*11]。

 

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参照・引用を見る

*1
一般社団法人 全国地球温暖化防止活動推進センター「家庭からの二酸化炭素排出量(2020年度)」
https://www.jccca.org/download/65499

*2
資源エネルギー庁 AIMプロジェクトチーム「2050年脱炭素社会実現の姿に関する一試算」(2020)
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/034/034_004.pdf, p.10

*3
資源エネルギー庁「エンジン車でも脱炭素?グリーンな液体燃料『合成燃料』とは」(2021)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/gosei_nenryo.html

*4
一般社団法人日本機械学会「機械工学辞典 e-Fuel」(2021)
https://www.jsme.or.jp/jsme-medwiki/e-fuel

*5
一般財団法人 石油エネルギー技術センター「CO2 を原料とした液体合成燃料の開発への取り組み 」(2022)
https://www.pecj.or.jp/wp-content/uploads/2022/03/JPEC_report_No.220302.pdf, p.2

*6
Audi japan press center「Audi、合成燃料の研究をステップアップ」(2017)
https://www.audi-press.jp/press-releases/2017/b7rqqm000000jirm.html

*7
Audi japan press center「アウディ、e-fuelテクノロジーでさらなる進化: 新しい合成燃料”e-benzin”(e-gasoline)のテストを実施中」(2018)
https://www.audi-press.jp/press-releases/2018/b7rqqm000000lqor.html

*8
日本貿易振興機構「グリーン水素で世界を牽引する国家となるか(チリ)」(2020)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/11/a252f95129b2e3b0.html

*9
Porsche 「Siemens Energy and Porsche, with partners, advance climate-neutral e-fuel development」(2020)
https://www.porsche.com/usa/aboutporsche/pressreleases/pag/?pool=international-de&id=619733

*10
日本貿易振興機構「ポルシェ、チリで合成燃料を製造するプロジェクト企業に出資(ドイツ、チリ)」(2022)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/04/d62902f015b3ddf4.html

*11
資源エネルギー庁「CO2等を用いた燃料製造技術開発プロジェクトの研究開発・社会実装の方向性(案)」(2021)
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/green_innovation/energy_structure/pdf/007_02_00.pdf, p.23

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