日本の電気事業が直面する「5つのD」と「Utility3.0」とは 未来の電気事業はどう変わるのか

歴史をさかのぼると、1882年にエジソンが電気事業を生み出して以降、各国で発電設備や送電設備が整備され、電気は世界の経済の成長を支えてきました。現在、日本の経済成長は鈍化していますが、電力の自由化の下、新しいサービスが提供されています。

一方で、日本の人口は減少傾向にあり、2050年までに居住地域の6割以上で人口が半分以下になると予想されています。
また、カーボンニュートラルに向けての取り組みも急務です。2050年までにCO2排出量を80%削減するという目標を掲げています。

急速な社会の変化に向け、電気事業にもさらなる進化が求められており、未来のエネルギーシステムへの移行が必要不可欠と考えられています。

2050年、日本のエネルギー産業はどのように変化しているでしょうか。

今後の日本の電気事業に大きな影響を与えると考えられる「5D」という潮流をふまえ、次代のエネルギーシステム「Utility3.0」の姿について考察します。

 

日本の電気事業が直面する「5つのD」

現在日本の電気事業は、以下の5つのメガトレンドに直面しています(図1)。

  • Depopulation 人口減少・過疎化

2020年時点で日本の人口は、1億2510万人です[*1]。
しかし、2017年の日本の未来推計人口では、2065年には日本の人口は8808万人にまで減少すると予測されています。

これまでのインフラは、維持にかかるコストを現世代と未来世代で負担していましたが、人口が少なくなると一人あたりの負担が大きくなり、インフラの維持も困難になります[*2, *3]。

  • De-carbonization 脱炭素化

世界的に叫ばれている脱炭素化についても避けて通れません。
2015年に採択されたパリ協定の下、日本も「2030年には2013年比で26%、2050年には80%CO2を削減する」という目標を掲げています。

インフラ整備は短期間で対応できるものではないため、達成に向けた道筋を示し、早急に脱炭素化に向けた取り組みを始める必要があります[*2, *3]。

  • De-centralization 分散化

これまでの電気事業は大規模発電所で発電を行い、送電線を使って遠隔地に電気を届けていました。しかし今後は、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて再生可能エネルギーの導入が進むと考えられています。

再生可能エネルギーによる発電の場合、小規模な発電所が各地に分散しているという特徴があります。よって「分散型電源」と呼ばれています[*2, *3]。

  • Deregulation 制度改革

これまで電気事業は政府から料金規制を受けていましたが、現在は送配電設備を開放し、発電(卸売)及び小売の分野への新規参入を促しています。

その結果、発電分野と小売分野の両方で市場競争が起こることになります[*2, *3]。

  • Digitalization デジタル化

IoT(モノのインターネット)が普及しつつある現代では、消費者の価値観も「モノの消費」から「コトの消費」へ変化しています[*2, *3]。

経済産業省によるとモノの消費とは、「個別の製品やサービスの持つ機能的価値を消費すること」、コトの消費は「単品の機能的なサービスを享受するのではなく、『一連の体験』を対象とした消費活動のこと」と定義されています[*4]。

例えばエネルギー分野であれば、エアコン(設備)を購入するのではなく、「部屋を快適な温度・湿度に保ってくれる」サービスを購入するということです。

これにより、新しいビジネスが創出され「成果を売るビジネスモデル」に変革していくでしょう[*2,*3,*5]。

図1: エネルギー産業の変革ドライバー「5つのD」
出典: 経済産業省「2050年のエネルギー産業 - 日本のエネルギー大転換」(2012)
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/denryoku_platform/pdf/002_02_00.pdf, p.4

 

現在の日本はUtility1.0からUtility2.0へ変革している最中

「Utility」には実用性、有用性という意味があり、電気やガス、水道などの公共事業の担い手を意味する言葉でもあります。アメリカでの電力需給事業の確立を始まりとして、エネルギー産業の状態は、「Utility1.0」「Utility2.0」「Utility3.0」に区分されます[*6], (図2)。

 

図2: Utility1.0・Utility2.0・Utility3.0の違い
出典: 経済産業省「2050年のエネルギー産業 - 日本のエネルギー大転換」(2012)
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/denryoku_platform/pdf/002_02_00.pdf, p.15

<Utility1.0>

アメリカでは1879年にエジソンが白熱電球を発明して以降[*7]、電気設備が整備され、1920年代には大規模な発電所と需要家が送配電線で繋がれネットワーク化されていました。ネットワーク化することで、需要と発電のバランスは取りやすくなります。

生産量が増加すると単位あたりの平均費用が低下し、収益性が向上することを「規模の経済」と言います。

電気事業でも規模の経済が生まれて電気料金が下がるという好循環が生まれ、急激な発展を遂げたのです。

また、電気を普及させた実業家が、地域独占企業として料金規制を提唱しました[*6]。

日本でも同様に、民間電力会社10社が地域独占を行い、総括原価方式で安定的な電力の供給を行っています[*8]。

このような、垂直一貫のビジネスモデルをUtility1.0といいます[*6]。

なお、総括原価方式とは、電気の供給費用に利益を加えた額(総原価等)と電気料金の収入が等しくなるように料金を設定する計算方式です[*9]。

 

<Utility2.0>

Utility1.0で電気事業は急激に発展しましたが、日本においては20世紀末になると経済成長が鈍化し、地域独占型の経営が非効率であると指摘されるようになりました。それに伴い、既存の送配電ネットワークを第三者に開放した発電と小売分野の自由化や、送配電部門の中立性を一層確保するための発送電分離が行われるようになりました[*2, *10]。

電力の自由化や発送電分離が行われている現在は、Utility1.0からUtility2.0へ変革している最中と言えます[*2]。

 

<Utility3.0>

現在は、Utility1.0からUtility2.0へ移行している最中ですが、前述のような5つのDの影響によりさらなる変革が求められます。それを実現した世界がUtility3.0です。

近年、屋上に設置された太陽光をはじめとした分散型電源が普及し、コストも下がっています。今後、分散型電源のコストがさらに下がれば、大規模集中電源と同様の割合となる可能性があります。Utility3.0に移行した場合、電力の供給側では、分散型電源と大規模集中電源の両方が取引される大規模エネルギー取引市場が誕生すると考えられています[*5], (図3)。

現在日本は、人口減少と省エネの推進により全体の電力需要が漸減している状態です。しかし、脱炭素化を達成するため、運輸・熱分野では電動化が進むと予想されています。

これにより、今後電力消費は現在よりも25%程度増加するという試算があります[*5]。

また、Utility3.0では電気事業が運輸事業などと融和し、将来の社会インフラを統合的に担う事業に発展する可能性があります[*11]。

さらに、太陽光発電や家庭用燃料電池などのリソースを活用した、リソースアグリゲーターが重要な役割を担うようになります[*12]。

リソースアグリゲーターとは、需要家と分散型電源に関する契約を直接締結してリソース制御を行う事業者です[*13]。

図3: Utility3.0の全体像
出典: 電気新聞「家計から電気代が消えていく?Utility3.0の世界を解説する」(2018)
https://www.denkishimbun.com/sp/23821

 

Utility3.0で電気事業はどのように変わる?

Utility3.0の時代では、電気事業は以下のような特徴を持つと予想されています[*2]。

  • 電力提供の主体が再生可能エネルギーに変化
  • 運輸に代表される他分野のセクターとの融合
  • Digitalization(デジタル化)以外の「D」のトレンドにも対応
  • 配電は分散型ビジネスに溶け込み、送電は広域化

その他にも、CO2を排出しないクリーンな電源が豊富になり、発電事業が分業体制になると予想されています[*3]。

これまでの発電所は、「電気を作る」「必要な時に必要な量の電気を作る」「電気の出力を調整し、需要と供給を一致させる」という3つの役割を同時に果たしていました。Utility3.0の時代になると、この役割が細分化されます。例えば、蓄電池やエコキュートを使って電気の需要と供給を一致させるといった役割分担も可能になるでしょう[*14]。

また、電動化した自動車はIoTや優れたセンサーにより制御され、スムーズに目的地までヒトやモノを運びます。電力系統と道路が、充放電ステーションとなることも可能です[*15]。

なぜなら、Utility3.0の時代では、電力グリッドと運輸ネットワークが融合した充放電ステーションを代表とする「他分野との連携」が社会変革のカギになるためです。

すでに太陽光発電、蓄電池などの分散型電源は普及しつつあり、電気自動車は「移動する分散型電源」という側面もあります。電力と運輸の融合は相性がよく、充放電ステーションという複合インフラは実現の可能性が高い事例と言えます[*2, *15]。

デジタル化が進めば、生活面でも「体験型化」が進行します。消費者はテレビやエアコンなどのモノを所有することから、番組を楽しんだり、空間を快適に保ったりする「サービス」にお金を払うようになります。テレビやエアコンなどの設備がなくなれば、それらにかかっていた電気代もなくなることになります。電力小売事業は縮小し、代わりに顧客体験(UX)を提供する「UXコーディネーター」が出現し、電力供給者はUXコーディネーターと取引するようになると予想されています[*5]。

将来的にはUXコーディネーターが提供するサービスに電気代が含まれるようになり、家計から「電気代」の項目がなくなるかもしれません[*15]。

電力供給事業者はUXコーディネーター向けの最適な電気の調達、価格変動リスクの固定化、設備故障に対する保険などの業務を行うことになるでしょう[*5]。

図4: 電力小売の再定義
出典: 電気新聞「家計から電気代が消えていく?Utility3.0の世界を解説する」(2018)
https://www.denkishimbun.com/sp/23821

 

Utility3.0実現に向けた課題

Utility3.0への変革に向けては、以下のような課題も存在します[*2, *16]。

  • 再生可能エネルギーの低価格化と蓄電技術の発達が必要不可欠
  • 適切な規制緩和と分散型電源を起点としたビジネスへの対応が必要
  • 人口減少、過疎化と分散化の同時進行によるデス・スパイラル問題への対応が必要
    人口が減少すれば、採算が取れないため地域からサービス産業の撤退が進み、生活が不便になることで更に人口減少、過疎化が進行します。
  • ネットワーク設備の高経年化への対応が必要
  • ネットワークコストの地域間不公平を抑制する仕組みの整備が必要
  • ネットワーク投資を促進する環境の整備が必要
  • 新規事業や国際事業等を促す仕組みを整備し、ネットワークの国際競争力を強化することが必要

自動的にUtility3.0へ移行していくわけではありません。5つのDに対応するための変革が必要不可欠で、社会全体で知恵を絞る必要があるのです。

 

電気事業はUtility3.0への生まれ変わりが期待されている

日本のエネルギー産業は大転換期を迎えようとしています。

Utility3.0の世界の実現には、日本が直面している5つのDへの対応が必要不可欠です。

エネルギー問題や環境問題に取り組む研究者は、もし、Utility3.0が実現しなければ以下のような問題が起こると指摘しています[*7]。

  • 電力分野への投資が減少し、送配電網が劣化して停電が頻発する
  • 火力発電所の燃料費や原発の廃炉コストが消費者に転嫁され、電気料金が高騰する
  • AIやIoTの活用が進まず、家事負担が減らず生活が便利にならない
  • 温暖化対策が進まず、国際的な批判を受ける

これとは逆に、Utility3.0が実現すれば、以下のような未来が現実のものになるとも予想しています[*7]。

  • 人口減少地でも電化・電動化が進み便利になる
  • 安価な電力が供給される
  • モノ消費からコト消費に移行し「電気を使ったサービス」が販売される
  • 「エネルギー×交通」、「エネルギー×農業」などの電力と他分野の融合が進み、生活が便利になる

どちらの未来が私達にとって望ましいかは明白です。

これらの未来へ移行する過程では、電気事業の変革に並行して、私達の生活も様変わりしていくでしょう。今後の電気事業について注目していく必要がありそうです。

 

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参照・引用を見る

*1
総務省「人口推計(令和4年(2022年)3月確定値」(2022)
https://www.stat.go.jp/data/jinsui/new.html

*2
竹内純子『エネルギー産業の2050年Utility3.0へのゲームチェンジ』日本経済新聞出版社, p.14, p.15, p.16, p.18

*3
経済産業省「2050年のエネルギー産業 -日本のエネルギー大転換」(2012)
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/denryoku_platform/pdf/002_02_00.pdf, p4, p.12, p.13, p.14, p.18, p.20

*4
経済産業省「コト消費空間づくり研究会 取りまとめ ~マネジメント組織を中核とした地域協同システムの構築~」(2015)
https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/chiiki/koto_shouhi/pdf/006_02_00.pdf, p.4, p.5

*5
電気新聞「家計から電気代が消えていく?Utility3.0の世界を解説する」(2018)
https://www.denkishimbun.com/sp/23821

*6
電気新聞「デジタル化とEVが電気事業にもたらす変革の時代」(2018)
https://www.denkishimbun.com/sp/23574

*7
パナソニック ホールディングス株式会社「電球はどうやって発明されたの?」
https://holdings.panasonic/jp/corporate/sustainability/citizenship/pks/library/001electricit/ele014.html

*8
経済産業省「電力システム改革の概要」(2014)
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/0000094529.pdf, p.1

*9
資源エネルギー庁「料金設定の仕組みとは?」(2020)
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/fee/stracture/pricing/

*10
電気事業連合会「発送電分離」
https://www.fepc.or.jp/enterprise/kaikaku/bunri2/index.html

*11
インプレスSmartGridフォーラム「東京電力パワーグリッド株式会社 取締役副社長 岡本浩氏に聞く!日本の電力システム改革と今後の展望」(2019)
https://sgforum.impress.co.jp/article/4968?page=0%2C1

*12
経済産業省「リソースアグリゲーター要件」(2016)
https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment/energy_resource/pdf/004_09_03.pdf, p1

*13
経済産業省「VPP・DRとは」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/advanced_systems/vpp_dr/about.html

*14
パナソニック ホールディングス株式会社「大転換期を迎える日本のエネルギー」
https://www2.panasonic.biz/jp/solution/report/archi/vol31/adr31_01_04.pdf, p.4

*15
電気新聞「EVの普及と自動運転の実現は、電力と運輸のネットワークを融合する!」(2018)
https://www.denkishimbun.com/sp/24269

*16
国土交通省「人口減少が地方のまち・生活に与える影響」
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/h26/hakusho/h27/html/n1122000.html

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