大気中からCO2を直接回収して温室効果ガス削減 今、注目を集めるDAC技術とは

温室効果ガス削減に向けて、再生可能エネルギーや省エネ機器の開発など様々な取り組みが国内外で行われています。これらの多くは実用化され、一般的に浸透していますが、一方で、温室効果ガスの排出量を減らすだけでなく、大気中にあるCO2自体を回収して温室効果ガスを削減しようというダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)という技術が現在注目を集めています。

それでは、具体的にDACとはどのような技術なのでしょうか。また、DACの実用化に向けて、国内外でどのような取り組みが行われているのでしょうか。

 

ダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)とは

DACとは、吸着剤などを用いた工学的な手法で大気中のCO2を直接吸収することによって、大気中のCO2を減少させる技術のことを言い、直接空気回収技術とも呼ばれています[*1, *2], (図1)。

図1: DACの原理
出典: 産業競争力懇親会「DAC(Direct Air Capture)研究会」(2021)
http://www.cocn.jp/report/1c5b57152a8d0c5c739ccfee2693fe42bb1b792d.pdf, p.9

回収されたCO2は、地下深くに貯留して大気に再度漏れ出さないようにしたり、エタノールやセメント製造などに工業利用したりすることで、温室効果ガスの削減につなげることができます[*3], (図2)。

 

図2: 回収されたCO2の貯留・利用
出典: 環境省「環境省CCUS事業の概要」(2019)
https://www.env.go.jp/content/900440744.pdf, p.7

 

CO2を回収する様々な方法

DACでは、具体的にどのような方法でCO2を回収するのでしょうか。CO2を回収する方法は1つだけでなく、物理吸着法や化学吸収法など様々な手法が開発されています。

まず、物理吸着法とは、流体分子と吸着剤表面との間に働くファンデル・ワールス力により吸着剤にCO2を吸着させ、吸着させたCO2を高純度・高回収率で分離回収する技術です[*4], (図3)。

図3: 物理吸着法のイメージ
出典: 日本鉄鋼連盟「CO2を分解・回収する技術」
https://www.course50.com/technology/technology02/?msclkid=07ae34c8bd2e11ec8b3871081db8bd4c

次に、化学吸収法とは、「吸収塔」でアミンなどの化合物のアルカリ性水溶液(吸収液)とCO2を含むガスを接触させ、吸収液にCO2を吸収させた後、「再生塔」で吸収液を加熱して、高純度のCO2を分離回収する方法です[*4], (図4)。

図4: 物理吸着法のイメージ
出典: 日本鉄鋼連盟「CO2を分解・回収する技術」
https://www.course50.com/technology/technology02/?msclkid=07ae34c8bd2e11ec8b3871081db8bd4c

その他にも、分離膜を使ってCO2を分離させる膜分離法や、ガスを冷却・圧縮した後に分離処理を行う深冷分離法など、効率的なCO2回収に向けて様々な方法が研究開発されています[*5]。

 

DACのメリット

カーボンニュートラルの実現に向けて実用化が期待されるDAC。DACの活用には様々なメリットがありますが、場所を問わずどこでも大気中のCO2を回収できる点が最大のメリットといえます[*2]。

DAC以外にも、CO2を回収する手段として、発電所や工場などから排出されたCO2を大気に放出される前に回収する方法もあります。しかしながら、その場合には発電所や工場などの近くに回収用の設備を設置しなければならないため、設置場所が制約されてしまいます。一方で、DACであれば、回収設備の設置場所はどこでも良いため、不毛地帯などを活用して稼働させることができます。

 

国内外での取り組み状況

世界中の多くの研究機関や事業者がDACの実用化に向けて動き出していますが、具体的にどのような取り組みがなされているのでしょうか。

海外におけるDACの動向

国外では、カナダやスイス、米国など環境先進国でDACの実用化、商用化に向けた研究開発が進んでいます。

例えば、カナダのカーボン・エンジニアリング社は、低コストで大気からCO2を回収し、それらを水素と合成して液体燃料を製造することに成功しました。

既に商用化されて稼働しているDAC設備もありますが、CO2分離回収コストは1t-CO2当たり600ドルと、高コストという課題がありました[*6]。

費用対効果の面から1t-CO2当たり100ドル以下に抑えることが重要となる中で、カーボン・エンジニアリング社は約100ドルにまで抑えることができる技術を開発したと発表しています[*6, *7], (図5)。

図5: カーボン・エンジニアリング社におけるDACイメージ
出典: 環境金融研究機構「カナダの・カーボン・エンジニアリング社、大気中のCO2からガソリンを開発、実用化へ道筋。夢の『炭素フリー』燃料、低価格化が見えてきた(National Geographic)」
https://rief-jp.org/ct8/80317

併せて、カーボン・エンジニアリング社は、回収したCO2を有効活用するために、CO2と水を電気分解して得られた水素を合成させて、ガソリンや軽油、ジェット燃料などにも活用できる液体燃料を作ることにも成功しています。炭素価格が導入され、化石燃料に対して炭素税がかかるようになると、DACによってつくられた液体燃料も十分競争できるとされています。

また、DAC技術のリーディングカンパニーであるスイスのクライムワークス社は、2021年9月から、アイスランドで世界最大のDACプラントを稼働させています[*8], (図6)。

図6: クライムワークス社におけるDACプラント
出典: 環境金融研究機構「年間4000トンのCO2を大気中から吸収、地下で石に転換し永久保存。スイスのベンチャー企業による、CO2直接吸収技術(DAC)の世界最大プラント、アイスランドで稼働(RIEF)」
https://rief-jp.org/ct10/117849

このDACプラントは、年間4,000トンのCO2を大気から回収しており、これは自動車790台が年間排出するCO2に匹敵するとされています。世界全体の年間CO2排出量315億トンと比較すると微々たるものですが、DAC事業が加速することで、より多くのCO2を大気から直接回収されることが期待できます。

 

国内におけるDACの動向

海外ではDACの実用化が進んでいますが、国内での動向はどのようになっているのでしょうか。

実は国内では、実用化には至っていないのが現状です。しかしながら、政府による支援もあり、DAC実用化に向けて本格的な研究開発が進みつつあります。

内閣府が推進する「ムーンショット目標」では、目標4として「2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現」することを目指しています[*9]。

目標4を達成するため、様々な研究を支援しており、特にDACの分野では、金沢大学や九州大学など様々な機関で研究開発が進められています[*10], (図7)。

図7: ムーンショット目標4のプロジェクト一覧
出典: 地球環境産業技術研究機構「CCUS実用化への展望と課題」
https://www.rite.or.jp/news/events/pdf/yamaji_ppt_separationfy2020.pdf, p.11

例えば、九州大学カーボンニュートラル・エネルギー研究所は、株式会社ナノメンブレンとの共同研究により、分離膜を用いたCO2回収技術を研究開発しています[*11], (図8)。

図8: 九州大学による分離膜を用いたCO2回収技術
出典: 九州大学「分離膜を用いた大気からのCO2回収」
https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/511

同研究において、多段の膜分離により空気中のCO2(0.04%)を40%以上まで濃縮可能であることを明らかにしており、効率的なCO2回収に向けた開発の進展が期待されます。

また、民間企業によるDAC技術の開発も積極的に進められています。例えば、川崎重工株式会社では、環境省と連携して、固体吸収材を用いたDACの小型化の実証事業を行っています[*12], (図9)。

図9: 川崎重工業株式会社によるDAC実証事業
出典: 川崎重工業株式会社 技術開発本部 技術研究所「空気からのCO2分離回収(DAC)技術」
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/green_innovation/pdf/006_03_08.pdf, p.6

2019年から行われている実証事業では、1日5kg-CO2を回収し、回収されたCO2も純度95%の高純度で回収できることが確認されました。今後は、産業用途として実用化に向けて開発に力を注いでいくとされており、こちらも今後の進展が期待されます。

 

DACの展望

温室効果ガス削減に向けて有効なDACですが、一方で普及に向けた課題もあります。

例えば、現段階の技術水準では、CO2の分離回収に伴うエネルギー・コストが膨大であることが課題です。既に商用化されているスイスのクライムワークス社の設備でも、1t-CO2を回収するのにコストは600ドル、エネルギーは9.0GJとなっており、一般的な普及に向けてはコスト及びエネルギー消費量の低減が求められています[*2]。

カナダのカーボン・エンジニアリング社によるコスト削減に向けた研究開発の取り組みを今回紹介しましたが、今後はさらなる高効率で低エネルギー消費型の技術の推進が必要とされています。

課題の解決に向けては、研究開発資金の投入や研究開発環境の整備など、行政による支援も不可欠です。既に米国では、優遇税制やLCFS(低炭素燃料基準)制度による優遇措置など、DACを進める企業に対する行政の公的なサポートが積極的に行われています[*2]。

日本においても既に紹介したように、国としてムーンショット目標を定め、技術開発を進める機関への支援を行っています。今後さらに、大学機関などの研究機関及び民間企業などの産学官が一体となって道筋を作り上げていくことが実用化のカギとなるでしょう。

 

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参照・引用を見る

*1
EICネット 一般財団法人環境イノベーション情報機構「DAC」
https://www.eic.or.jp/ecoterm/index.php?act=view&serial=4611 

*2
産業競争力懇親会「DAC(Direct Air Capture)研究会」(2021)
http://www.cocn.jp/report/1c5b57152a8d0c5c739ccfee2693fe42bb1b792d.pdf, p.4, p.6, p.9

*3
環境省「環境省CCUS事業の概要」(2019)
https://www.env.go.jp/content/900440744.pdf, p.7

*4
日本鉄鋼連盟「CO2を分解・回収する技術」
https://www.course50.com/technology/technology02/?msclkid=07ae34c8bd2e11ec8b3871081db8bd4c 

*5
国立環境研究所「CO2回収・貯留(CCS)」(2016)
https://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=27&msclkid=59ba124ebd2b11eca7237d3b9e12a0e2

*6
環境金融研究機構「カナダの・カーボン・エンジニアリング社、大気中のCO2からガソリンを開発、実用化へ道筋。夢の『炭素フリー』燃料、低価格化が見えてきた(National Geographic)」(2018)
https://rief-jp.org/ct8/80317

*7
Carbon Engineering「Our Technology」
https://carbonengineering.com/our-technology/

*8
環境金融研究機構「年間4000トンのCO2を大気中から吸収、地下で石に転換し永久保存。スイスのベンチャー企業による、CO2直接吸収技術(DAC)の世界最大プラント、アイスランドで稼働(RIEF)」(2021)
https://rief-jp.org/ct10/117849 

*9
内閣府「ムーンショット目標4 2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現」
https://www8.cao.go.jp/cstp/moonshot/sub4.html 

*10
地球環境産業技術研究機構「CCUS実用化への展望と課題」(2021)
https://www.rite.or.jp/news/events/pdf/yamaji_ppt_separationfy2020.pdf, p.11

*11
九州大学「分離膜を用いた大気からのCO2回収」(2020)
https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/511 

*12
川崎重工業株式会社 技術開発本部 技術研究所「空気からのCO2分離回収(DAC)技術」(2022)
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/green_innovation/pdf/006_03_08.pdf, p.6, p.7

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