クリーンディーゼル車(CDV)とは? ディーゼル車規制の流れとクリーンディーゼル車普及の取り組み

軽油を燃料とするディーゼル車は、ガソリン車よりも燃費が良く、コストが安いという特徴があります。

しかし、黒い煙を上げて走るため、大気汚染や健康への悪影響が指摘されており、国内外で規制が進められてきました。

ディーゼル車から排出される有害物質を大幅に低減したのが、次世代自動車の一つでもある、クリーンディーゼル車(CDV:Clean Diesel Vehicle)です。

さらに、既存のディーゼル車でも利用できる環境負荷の低い代替燃料、バイオディーゼル燃料の開発も進められています。

クリーンディーゼル車は、ハイブリット自動車、電気自動車、燃料電池自動車などの他の次世代自動車と比較してどのような利点があるのでしょうか。

この記事では、ディーゼル車の規制の流れと、クリーンディーゼル車の仕組みや特徴について紹介します。

 

なぜディーゼル車の規制が進められたのか

ディーゼル車とは

ディーゼル車とは、ディーゼルエンジンを搭載した車のことで、燃料はガソリンではなく軽油です[*1]。

ディーゼルエンジンの構造は、ガソリン車よりも燃費が良く、軽油はガソリンと比較して価格が安いため、経済的なのが特徴です[*2]。

また、ディーゼル車は、CO2(二酸化炭素)排出が抑えられるというメリットもありますが、一方でNOx(窒素酸化物)とPM(粒子状物質)の排出が多いことがデメリットとして挙げられます。

NOxとは、NO(一酸化窒素)やNO2(二酸化窒素)などを指す、大気汚染物質のことです。

NOxは、酸性雨や光化学スモッグなどの原因となる他に、人間の呼吸器へ悪影響も与えます[*3]。

PMとは、空気中に漂う小さな粒子のことで、ディーゼル車が走行中に排出する黒煙に含まれるPMは、ディーゼル排気粒子(DEP:Diesel Exhaust Particles)と呼ばれます。

ディーゼル排気粒子は、気管支ぜん息、花粉症などの健康被害を引き起こし、発がん性もあります[*4], (図1)。

図1: ディーゼル排気粒子(DEP)
出典: 独立行政法人 環境再生保全機構「大気環境の情報館:排出物質:ディーゼル排気粒子(DEP)」
https://www.erca.go.jp/yobou/taiki/yougo/ta_01.html

ディーゼル車は乗用車もありますが、日本では現在、主にバスやトラックなどの大型車に用いられています。

国内では、1970年代後半のオイルショックを契機としてディーゼル乗用車の普及が進み、1996年にはピークを迎えますが、その後は減少しています[*5], (図2)。

図2: 我が国におけるディーゼル乗用車の保有台数と保有比率の推移
出典: 国土交通省「クリーンディーゼル普及推進方策」(2008)
https://www.mlit.go.jp/common/000020857.pdf, p.5

ディーゼル乗用車が減少した要因は複数ありますが、主な理由としては、ディーゼル乗用車を対象とした増税やガソリンと軽油の価格差縮小、大気汚染を引き起こすディーゼル車へのイメージ低下などが挙げられます。

 

国内外で進むディーゼル車規制

ディーゼル車はNOxやPMなどの有害物質を排出するため、排出ガス規制が進められてきました。

トラックやバスなどのディーゼル重量車に対する排出ガス規制は段階的に行われ、1974年から2009年にかけて、NOxは削減率95%、PMに関しては削減率99%に達しています[*1], (図3)。

 

図3: ディーゼル重量車の排出ガス規制の経緯
出典: 環境展望台「環境技術解説:自動車排出ガス対策」
https://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=35

さらに、交通量が多く、渋滞の発生頻度の高い大都市圏の大気汚染に対応するために、1993年に自動車NOx・PM法が施行されました。

自動車NOx・PM法は、ディーゼル乗用車の排出基準値の強化と、首都圏や関西圏、東海圏の都市部を対象に、使用できる車を制限した法律です[*1]。

日本よりもディーゼル車のユーザー比率が高い欧州でも、排出ガス制限や走行禁止措置などの規制が進んでいます。

国内の乗用車の約1/3がディーゼル車であるドイツでは、新基準の排出ガス規制レベルを満たさないディーゼル車に対して、以下の表1の都市で走行禁止の措置をとっています[*6]。

表1: ディーゼル車走行禁止措置が実施されている、あるいは実施が確定している都市

出典: 日本貿易振興機構JETRO「主要都市に広がるディーゼル車走行禁止措置(ドイツ)」
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2019/25c325639a8c38c9.html

表1内にあるユーロとは、大気汚染物質の排出規制値を定めたEUの排出基準のことで、ユーロ1〜5は乗用車向けの基準、ユーロⅠ〜Ⅴは大型バスやトラックなどの重量車向けの基準です。

この排出基準は数字が大きくなるほど、より厳しい規制値になっています。

 

環境負荷を低減したクリーンディーゼル車の仕組みと特徴

ディーゼル車が排出するNOxやPMなどの有害物質を減らし、環境負荷を低減したのがクリーンディーゼル車です。

次の図4は、クリーンディーゼルエンジンの仕組みです[*2]。

図4: クリーンディーゼルエンジンの仕組み
出典: 環境展望台「環境技術解説:クリーンディーゼル車(CDV)」
https://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=20

クリーンディーゼルエンジンでは、EGR(EGR:Exhaust Gas Recirculation)クーラーによって、NOxの発生自体を抑制し、さらに触媒によって排出量を減らします。

排出したPM粒子を物理的に集めるDPF(Diesel Particulate Filter:ディーゼル排気微粒子除去フィルタ)によってPMの排出も低減します。

2000年代以降は販売が低迷していたディーゼル車ですが、環境負荷の低いクリーンディーゼル車の登場によって販売台数は順調に伸びています[*2], (図5)。

図5: クリーンディーゼル乗用車の国内販売台数の推移
出典: 環境展望台「環境技術解説:クリーンディーゼル車(CDV)」
https://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=20

クリーンディーゼル車は、電気自動車(EV:Electric Vehicle)、プラグインハイブリッド自動車(PHV:Plug-in Hybrid Vehicle)、燃料電池自動車(FCV:Fuel Cell Vehicle)などと並ぶ、次世代自動車の一つです。

次の図6は、代表的な次世代自動車のそれぞれの仕組みの比較です[*7]。

図6: 次世代自動車の仕組み
出典: 国土交通省・経済産業省「乗用車燃費規制の現状と論点について」
https://www.mlit.go.jp/common/001224511.pdf, p.4,

他の次世代自動車と比較すると、クリーンディーゼルは車種がもっとも豊富なので、現状では多くの選択肢があります。

さらに、燃料供給には既存のガソリンスタンドが利用可能であるため、新たなインフラの整備が不要であるという特徴があります。

2017年度の実績では、クリーンディーゼル車が新車販売台数に占めるシェアは3.6%で、次世代自動車のなかでは、ハイブリッド自動車に次いで二番目に多くなっています[*8], (表2)。

表2: 日本の次世代自動車の普及目標と現状

出典: 国土交通省「EV/PHV普及の現状について」
https://www.mlit.go.jp/common/001283224.pdf,p.1

一方で、クリーンディーゼル車の2030年の普及目標は、全体の5%から10%と設定されています。

CO2の排出量がより少ないハイブリッド自動車や電気自動車と比較すると、低い位置付けになっています。

 

カーボンニュートラルを実現するバイオディーゼル

化石燃料の代替となるバイオディーゼルとは?

続いて、既存のディーゼル車に使用できるバイオディーゼルについて見ていきます。バイオディーゼルとは、動植物などの生物資源から製造されるバイオ燃料の一つで、環境負荷の低い燃料です。

バイオディーゼルは、CO2を多く排出する化石燃料の代替として期待されています。

日本でバイオディーゼルの原料となるのは、食品工場から回収される廃食用油などで、欧州では主に菜種油、米国やブラジルでは主に大豆油から生成されています[*9, *10], (図7)。

図7: バイオディーゼル燃料とは
出典: ​​資源エネルギー庁「再生可能エネルギーとは」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/biomass/01.html#nenryo

バイオディーゼルは燃焼することでCO2を排出しますが、燃料に含まれる炭素は、もともと植物が光合成をして吸収したものです。

そのため、全体としてみれば大気中のCO2は増加せず、カーボンニュートラルの実現に貢献します[*11], (図8)。

図8: カーボンニュートラルの考え方
出典: ​​長崎県「バイオディーゼル燃料について」
https://www.pref.nagasaki.jp/shared/uploads/2013/03/1363586837.pdf, p.2

一方でバイオディーゼルには、使用できる原料の制約が大きい、長期保管ができないなどの課題もあります。

これらの課題を解決するために、現在も研究開発が進められています。

 

バイオディーゼル普及に向けた取り組み

北海道帯広市では、エネルギーの地産地消と循環型社会の構築を目指して、バイオディーゼル燃料の普及に取り組んでいます。

一般家庭から廃棄される天ぷら油を回収し製造されたバイオディーゼルは、市内に設置された給油所から自治体の公用車や地元バス会社、物流車両などに供給されています[*12], (図9)。

図9: バイオディーゼル燃料(DBF)専用タンクローリー(左)とBDF給油所(右)
出典: 環境省「菜種の力でエネルギーを地域に」
https://www.env.go.jp/policy/keizai_portal/B_industry/frontrunner/reports/h27engine_25ecoerc.pdf, p.213

帯広市内ではスーパーやバスの車中に廃食用油の回収スポットが設置されており、一般家庭からの回収率は約4割を達成しています[*12]。

廃食用油の回収システムを確立することは、家庭から廃棄されるゴミの削減にもつながります。

ディーゼル車の比率が高い欧州では、バイオディーゼルも広く利用されています。

再生可能な第二世代バイオディーゼルであるHVO(Hydrotreated Vegetable Oil:水素化バイオディーゼル)もすでに実用化されており、欧州の各国で製造されています[*13], (表3)。

表3: 欧州のHVO製造製油所一覧

出典: JPECミニレポート「欧米での製油所を活用したバイオ燃料製造の取り組み動向」(2020)
https://www.pecj.or.jp/wp-content/uploads/2020/10/JPECレポートNo.201004「欧米での製油所を活用したバイオ燃料製造の取り組み動向」.pdf, p.2

 

まとめ

大気汚染や健康被害を引き起こすというマイナス面のあるディーゼル車に対して、「環境に悪いもの」というイメージを持たれている方も少なくないでしょう。

しかし、長年にわたる技術開発によって、有害物質の排出は大幅に抑えられ、現在は環境負荷の低いクリーンディーゼル車が普及しつつあります。

クリーンディーゼル車は、ガソリン車と比較して燃料コストがかからず、CO2排出量も少ないという長所も持っています。

さらに、軽油の代わりの燃料として使用できるバイオディーゼルを使用すれば、車の走行によって大気中のCO2を増加させることはありません。

クリーンディーゼル車はガソリンスタンドなどの既存のインフラを活用できるうえに、次世代自動車普及の壁となっている製造コストの面もクリアしています。

今後、クリーンディーゼル車は次世代自動車の選択肢の一つとして、生活により身近なものとなっていくでしょう。

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参照・引用を見る

*1
環境展望台「環境技術解説:自動車排出ガス対策」(2017)
https://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=35

*2
環境展望台「環境技術解説:クリーンディーゼル車(CDV)」(2017)
https://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=20

*3
独立行政法人 環境再生保全機構「大気環境の情報館:排出物質:窒素酸化物(ちっそさんかぶつ)」
https://www.erca.go.jp/yobou/taiki/kids/aozora/haisyutu_04.html

*4
独立行政法人 環境再生保全機構「大気環境の情報館:排出物質:ディーゼル排気粒子(DEP)」
https://www.erca.go.jp/yobou/taiki/yougo/ta_01.html

*5
国土交通省「クリーンディーゼル普及推進方策」(2008)
https://www.mlit.go.jp/common/000020857.pdf, p.5

*6
日本貿易振興機構JETRO「主要都市に広がるディーゼル車走行禁止措置(ドイツ)」(2019)
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2019/25c325639a8c38c9.html

*7
国土交通省・経済産業省「乗用車燃費規制の現状と論点について」(2018)
https://www.mlit.go.jp/common/001224511.pdf, p.4,

*8
国土交通省「EV/PHV普及の現状について」
https://www.mlit.go.jp/common/001283224.pdf,p.1

*9
資源エネルギー庁「再生可能エネルギーとは」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/biomass/01.html#nenryo

*10
環境展望台「環境技術解説:バイオディーゼル」(2017)
https://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=7

*11
長崎県「バイオディーゼル燃料について」
https://www.pref.nagasaki.jp/shared/uploads/2013/03/1363586837.pdf, p.2

*12
環境省「菜種の力でエネルギーを地域に」(2015)
https://www.env.go.jp/policy/keizai_portal/B_industry/frontrunner/reports/h27engine_25ecoerc.pdf, p.213

*13
JPECミニレポート「欧米での製油所を活用したバイオ燃料製造の取り組み動向」(2020)
https://www.pecj.or.jp/wp-content/uploads/2020/10/JPECレポートNo.201004「欧米での製油所を活用したバイオ燃料製造の取り組み動向」.pdf, p.2

 

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