余剰電力を熱部門や交通部門に活用する「セクターカップリング」とは 国内外における取り組み事例を紹介

電気は通常、厨房や給湯器、冷暖房機器などの使用時に消費されるのが一般的ですが、「使いたい時に使う」という考え方は、実は余剰電力を生み出す非効率的な方法です[*1]。

このようなエネルギーの無駄を減らす手段として、セクターカップリングという方法が注目を集めています。

日本では未だ十分に知られていないセクターカップリングとは、具体的にどのような考え方なのでしょうか。また、国外ではどのような取り組みが行われており、国内での実現にあたってはどのような課題があるのでしょうか。

 

セクターカップリングとは

セクターカップリングとは、電力部門を交通部門や産業部門、熱部門など他の消費分野と連携させることで、社会全体の脱炭素化を進める社会インフラ改革の構想です[*2], (図1)。

図1: セクターカップリング概念図(小田原市の事例)
出典: 環境省「地域新電力とeモビリティーサービスで脱炭素地域交通を提供」
http://chiikijunkan.env.go.jp/shiru/jirei_odawara/

セクターカップリングが注目される背景

一般的な家庭では、寝ている時間よりも起きている時間の方が電気使用量は多く、昼は夜に

比べ1.8倍も多いとされています。また、年間を通して見ると、夏・冬は春・秋に比べて1.2

~1.5倍も電気使用量が多く、季節や時間によって電力需要に幅があります[*1]。

電力供給側は、安定的な電力供給に向けてこのような需要の変動に対応する必要があります。現在日本では、火力発電の出力調整によって対応していますが、需要が少ない時間帯でも発電所を完全には停止できないため、待機状態を維持するためのエネルギー損失が発生しています。

また、太陽光などの再生可能エネルギーは天候によって供給量が変動するため、夏季には供給量が需要量を上回り、発電した電力が無駄になってしまう可能性もあります。実際、九州などでは太陽光発電事業者に発電量の出力抑制を求めるケースが発生しており、再エネの普及によって今後このような状況が多発する可能性も考えられます。

このような余剰電力が発生しない仕組みに変えていく方策が、セクターカップリングと呼ばれるものです。再エネの割合が高まる電力部門を、熱部門や交通部門といった各セクターとカップリング(連携)させ、電気を熱に変えたり、ガスに変えたりすることによって、エネルギー需要に応じて電力供給を最適化します。

 

 ドイツにおけるセクターカップリングの取り組み事例

セクターカップリングは元々、再エネ由来の電力を最大限活用する方策としてドイツで提案された考え方です[*1]。

環境先進国であるドイツでは、セクターカップリング実用化に向けた実証事業が積極的に行われています。例えば、連邦経済エネルギー省が進める「SINTEG(Showcase on Intelligent Energy)」プロジェクトでは、取り組みの一つとして「New4.0」という風力発電の余剰電力を熱に変換するセクターカップリング事業が行われています[*3], (図2)。

図2: ドイツ「SINTEG」の概要
出典: NEDOプロジェクトチーム(スマートコミュニティ部・国際部)「『独国ニーダーザクセン州大規模ハイブリッド蓄電池システム実証事業』(事業説明資料)(2017年度~2019年度 3年間)」
https://www.nedo.go.jp/content/100926552.pdf, p.7

ドイツでは、熱のエネルギー利用が遅れていたことや、再エネ電力のコストが大幅に下がったことで熱の電化にも期待が寄せられるようになったこと、熱はエネルギー貯蔵のコストが比較的低く柔軟性が高いことから、再エネ余剰電力を熱供給に活用する取り組みが求められていました。そこでSINTEGでは、Uckermark村の風車を活用し、地域熱暖房を風力で賄う実証事業が行われています[*4], (図3)。

図3: 風車と熱部門のセクターカップリング事業イメージ
出典: 京都大学大学院 経済学研究科「No.297 ドイツのエネルギーシステムの未来を占う実証プロジェクト群『SINTEG』第4回 フレキシューマーの登場とセクターカップリングの可能性」
https://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/contents/column0297.html

実証事業以前は、同村近郊の17基の風車は年間発電量の5%に出力抑制がかかっており、十分な活用ができていない状況でした。そこで、余剰電力を熱に変え、蓄熱タンクを使って水を暖める地域熱システムを構築し、38,000kWhのエネルギーを貯蔵できるようにしました。風力発電の余剰が多ければ、数時間で必要な温度まで水を暖めることができ、35世帯の地域熱暖房需要の2週間分、年間では72万kWhの熱需要を供給できるとされます。

ドイツでは、北部の風車の電力余剰が大きく、南部の電力需要地まで運ぶ送電線も不足しているため、地域内で電力を循環させるシステムの構築が求められています。地域市場における風力発電と熱部門のセクターカップリングの有効性が確認されたため、今後はより多くの地域で導入が進んでいくことでしょう。

 

国内におけるセクターカップリングの取り組み事例

環境省の試算では、現在の発電量に対して最大2倍の再エネ供給ポテンシャルが国内にあるとされています。そこで、再エネ余剰電力を有効活用しようと行政と企業が連携してセクターカップリングの構築を進めています[*5], (図4)。

図4: 発電電力量のポテンシャル(億kWh/年)
出典: 環境省「脱炭素に向けた国の施策について 資料2」
https://www.pref.yamanashi.jp/kankyo-ene/documents/210215_kankyosyou_kouen-2.pdf, p.1

産業や交通など様々な部門との連携が行われていますが、国内での事例として今回は小田原市と熊本市の事例について見ていきましょう。

小田原市における交通部門とのセクターカップリング

神奈川県小田原市では、EVカーシェアリングと再エネ等を活用した地域新電力によって、地域内交通におけるセクターカップリングを実現しています[*6], (図5)。

図5: 地産再エネを活用したEVカーシェアリング事業
出典: 環境省「8. 湘南電力株式会社/株式会社REXEV」
https://www.env.go.jp/policy/keizai_portal/B_industry/frontrunner/reports/r1engine08_shonanrexev.pdf, p.1

地域の再エネを適切に供給するためには、需給のバランスを調整する必要がありますが、その調整力を需要側に置くバッテリーは価格が高く、採算が合わないことが多くあります[*2]。

そこで、モビリティ事業を手掛ける株式会社REXEVは、小田原市や再エネ発電を行う湘南電力と連携し、EVカーシェアリングサービス「eemo(イーモ)」を開始しました。

EVは蓄電によって太陽光発電の余剰電力を有効活用できるとともに、電力の調整手段になります。また、EVであればバッテリー単体としても安く、走行時に電力を使用できるため、採算性の課題を克服することができます。

さらに、CO2排出量の削減や再エネ利用率の向上など、付随するメリットも多くあります。

実際、2021年6月時点でのべ約5,500人が利用し、ガソリン車から電気自動車にシフトすることで削減できたCO2排出量は約14tを達成しました。また、EV使用による再エネ利用率は67%と、再エネ電力の活用にもつながっています[*7]。停電発生時には、非常用電源としても有効です。

小田原市以外にも、鹿児島市や川越市、東久留米市でeemoが活用されており、電力部門と交通部門におけるセクターカップリングが全国各地に広がっています[*7], (図6)。

図6: 全国へのeemoの普及
出典: 株式会社REXEV「小田原・箱根の電気自動車カーシェアリング eemoの歩み」
https://rexev.co.jp/content/wp-content/uploads/2021/06/eemo_report_202106.pdf, p.4

 

熊本市におけるセクターカップリング

電力部門と産業部門の連携としては、熊本県熊本市における清掃工場を核にした地産地消のエネルギー供給事業が挙げられます[*9]。

熊本市には東西にごみ焼却施設があり、どちらもごみを燃料とした発電事業を行っています。熊本市及びJFEエンジニアリング株式会社は、官民連携のスマートエナジー熊本株式会社を通じて、これらの余剰電力を地域に効率的に供給するエネルギー総合事業を推進しています[*9], (図7)。

図7: 熊本市における清掃工場を核にした地域総合エネルギー事業
出典: スマートエナジー熊本株式会社「清掃工場を核にした地域総合エネルギー事業の取組について」
https://www.env.go.jp/council/03recycle/mat01-5-32.pdf, p.7

清掃工場のエネルギーを有効活用することで、市内公共施設222箇所への地産電力の供給を可能にしています。平成29年には、約10億円であった電力料金を、平成30年には8.4億円にまで抑えることができました。

また、ごみ焼却施設から公園へ自家用自営線を設置したり、公園内に急速充電器を整備するなど、系統電力に頼らない電力ネットワークの構築が目指されています。

そのほか、路線バスのEV化や、公共施設への大型蓄電池の導入など、様々な部門とのセクタ―カップリングを通じて災害にも強い街づくりが行われています。

 

まとめ

再エネの更なる普及に向けては、電力部門と幅広い分野とのカップリングおよび余剰電力の活用が求められています。小田原市や熊本市などの先行事例を踏まえつつ、地域の特性を活かした取り組みを推し進めることが、セクターカップリングの早期普及につながっていくことでしょう。

 

参照・引用を見る

*1
みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社「2050年、あなたの家が日本を救う?!」
https://www.mizuho-rt.co.jp/publication/column/2019/0613.html

*2
環境省「地域新電力とeモビリティーサービスで脱炭素地域交通を提供」
http://chiikijunkan.env.go.jp/shiru/jirei_odawara/

*3
NEDOプロジェクトチーム(スマートコミュニティ部・国際部)「『独国ニーダーザクセン州大規模ハイブリッド蓄電池システム実証事業』(事業説明資料)(2017年度~2019年度3年間)」(2020)
https://www.nedo.go.jp/content/100926552.pdf, p.7

*4
京都大学大学院 経済学研究科「No.297 ドイツのエネルギーシステムの未来を占う実証プロジェクト群『SINTEG』第4回 フレキシューマーの登場とセクターカップリングの可能性」
https://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/contents/column0297.html

*5
環境省「脱炭素に向けた国の施策について 資料2」(2021)
https://www.pref.yamanashi.jp/kankyo-ene/documents/210215_kankyosyou_kouen-2.pdf, p.1

*6
環境省「8. 湘南電力株式会社/株式会社REXEV」
https://www.env.go.jp/policy/keizai_portal/B_industry/frontrunner/reports/r1engine08_shonanrexev.pdf, p.1

*7
株式会社REXEV「小田原・箱根の電気自動車カーシェアリング eemoの歩み」(2021)
https://rexev.co.jp/content/wp-content/uploads/2021/06/eemo_report_202106.pdf, p.2, p.4

*8
株式会社REXEV「小田原市を中心に展開する脱炭素型EV専門交通サービス『eemo』を通して取り組むSDGsについて」(2020)
https://www.iges.or.jp/sites/default/files/inline-files/10_watanabe.pdf, p.16, p.17

*9
スマートエナジー熊本株式会社「清掃工場を核にした地域総合エネルギー事業の取組について」(2019)
https://www.env.go.jp/council/03recycle/mat01-5-32.pdf, p.2, p.6, p.7, p.8, p.9, p.12

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