製品・サービスの環境負荷を評価するLCA(ライフサイクルアセスメント) 国内企業による導入事例とメリットとは

近年、様々な企業によって、自社製品・サービスにおける温室効果ガス排出量の削減など、環境負荷の低減に向けた取り組みが行われています。

環境負荷を低減させるためにはまず、自社製品・サービスが現状どれほど温室効果ガスを排出しているのか、定量的に把握することが重要です。そのための手段として、ライフサイクルアセスメント(LCA:Life Cycle Assessment)と呼ばれる手法が確立しており、多くの企業はLCAのルールやマニュアルに沿って環境負荷を評価しています。

具体的に、LCAとはどのようなもので、実施するメリットは何なのでしょうか。実際の事例とあわせて詳しく解説します。

 

LCAとは

LCAとは、ある製品・サービスの資源採取から廃棄までのライフサイクル全体又はその特定段階における環境負荷を定量的に評価する手法です[*1, *2], (図1)。

図1: LCAによるCO2排出量算定のイメージ
出典: 一般社団法人 日本化学工業協会「CO2排出削減貢献量算定のガイドライン」
https://www.nikkakyo.org/sites/default/files/3255_4801_price_0.pdf, p.4

LCAを活用するメリット

LCAは、事業者が自社の製品やサービスの環境負荷を定量的に把握できるため、具体的な環境負荷低減に向けた取り組みの推進につながります。また、同業他社が公表したLCA分析結果と自社の結果を比較することで、具体的な改善点を見出すことが可能です[*3]。

さらに、企業がLCAの結果を公表することは、消費者がより環境負荷の低い製品を選択する上で役立ちます。このように、LCAは企業と消費者の両者にとってメリットがある取り組みと言えます。

 

LCAの実施手順

LCAの評価手法については、ISO(国際標準化機構)14040において規格化されており、その枠組みは、<目的及び調査範囲の設定>、<インベントリ分析>、<影響評価>、<解釈>の4つから構成されています[*1], (図2)。

図2: ISO14040によるLCAの枠組み
出典: 国立研究開発法人 国立環境研究所「ライフサイクルアセスメント(LCA)」
https://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=57

実施の手順としては、はじめに目的及び調査範囲を設定し、次に経済活動におけるエネルギー量等のデータ収集及び温室効果ガス排出原単位に関するデータを収集します。その後、収集したデータを使って排出量を算定し、排出量の評価、レビューの実施となります[*4], (図3)。

図3: 再生可能エネルギー等に関するLCAの標準的な実施フロー
出典: 環境省「再生可能エネルギー等の温室効果ガス削減効果に関する LCAガイドライン」
https://www.env.go.jp/content/900447566.pdf, p.14

上の図3は、再生可能エネルギー等に関するLCAの標準的な実施フローの例です。製品やサービスごとにLCA実施手順は異なるため、対象分野ごとにLCAの実施ガイドラインが定められています。そこで今回は、環境省が公表している「水素サプライチェーンにおけるLCAガイドライン」をもとに具体的な手順をご説明します。

 

目的及び調査範囲の設定

まず、「目的及び調査範囲の設定」は、評価の対象となる製品・サービスや実施の目的、事業モデル、比較対象システムなどを設定する段階です。図4の3章、4章にあたります[*5], (図4)。

図4: 水素サプライチェーンにおける温室効果ガス削減効果に関するLCA実施プロセス
出典: 環境省「水素サプライチェーンにおける温室効果ガス削減効果に関するLCAガイドラインの概要」
https://www.env.go.jp/seisaku/list/ondanka_saisei/lowcarbon-h2-sc/support-tool/PDF_Excel/support-tool_02.pdf, p.2

目的については、得られた結果をどのように活用するかを念頭に置いて検討します。本ガイドラインでは例えば、水素関連事業導入にかかる意思決定者への情報提供、製品のライフサイクル内の各時点における環境パフォーマンスの改善余地の特定及び消費者への情報提供など自主的な活用のほか、補助金事業等における効果予測・憲章への適用が想定されています[*6]。

次に、評価対象としては、水素の原料である再生可能エネルギー電気から、燃料電池自動車の利用までのサプライチェーンなどが想定されます。また分析に際して比較対象も設定しており、図5のような対象が例として挙げられます[*5], (図5)。

図5: LCAガイドライン活用における評価対象システム及び比較対象システム例
出典: 環境省「水素サプライチェーンにおける温室効果ガス削減効果に関するLCAガイドラインの概要」
https://www.env.go.jp/seisaku/list/ondanka_saisei/lowcarbon-h2-sc/support-tool/PDF_Excel/support-tool_02.pdf, p.1

具体的な実施フローは事業によって異なりますが、環境省のガイドラインでは、以下が水素サプライチェーンにおける標準的なフローとして示されています[*6], (図6)。

図6: 標準的な LCA 実施フロー
出典: 環境省「水素サプライチェーンにおける温室効果ガス削減効果に関する LCA ガイドライン Ver.2.1」
https://www.env.go.jp/seisaku/list/ondanka_saisei/lowcarbon-h2-sc/support-tool/PDF_Excel/support-tool_lca-guide_ver2-1.pdf, p.9

原料調達から廃棄まで全ての段階を一度に網羅しようとすると、データ収集が困難になってしまいます。そこで、「どこからどこまでを評価対象とするのか」というシステム境界を設定することも重要とされています[*6], (図7)。

図7: 基本的なサプライチェーンにおけるシステム境界
出典: 環境省「水素サプライチェーンにおける温室効果ガス削減効果に関する LCA ガイドライン Ver.2.1」
https://www.env.go.jp/seisaku/list/ondanka_saisei/lowcarbon-h2-sc/support-tool/PDF_Excel/support-tool_lca-guide_ver2-1.pdf, p.13

システム境界は、調査の目的に合わせて設定することが求められます。例えば、自社製品の効率等の改善効果を評価する場合には、変更点は自社製品の関連する部分のみであることから、その部分のみを評価対象とすることが適切と言えます。

 

インベントリ分析(活動量データの収集)

目的や評価範囲などが定まったら、活動量を収集するインベントリ分析を行います。インベントリとは、「一定期間内に特定の物質がどの排出源・吸収源からどの程度排出・吸収されたかを示す一覧表」のことで、インベントリ分析では、各プロセスにおいて投入されたエネルギーや原材料から温室効果ガスなどの環境負荷がどれほど発生しているかのデータを収集します[*6, *7], (表1)。

表1: 活動量データ収集例(1MJ 当たり)

出典: 環境省「水素サプライチェーンにおける温室効果ガス削減効果に関する LCA ガイドライン Ver.2.1」
https://www.env.go.jp/seisaku/list/ondanka_saisei/lowcarbon-h2-sc/support-tool/PDF_Excel/support-tool_lca-guide_ver2-1.pdf, p.24

活動量のデータ収集と同時に、温室効果ガス排出量原単位データの収集も行う必要があります。温室効果ガス排出量原単位データとは、燃料や電気の使用、セメントの製造など各事業活動における単位生産量当たりの温室効果ガス排出量(排出係数)のことを言い、事業活動における温室効果ガス排出量を算定するうえでの基礎となります。排出係数は、環境省が公表しているデータで調べることが可能です[*6, *8]。

また、製品の温室効果ガス排出量を調べる方法として、プロセスごとの環境負荷項目を精査し、定量的に分析して積み上げていくことで算出する「積み上げ法」や、「産業関連法」があります。産業関連法とは、国の産業・商品を部門ごとに分類し、部門間での1年間におけるサービスの流れ、投入量、産出量の関係を金額ベースで一覧表にまとめた「産業関連表」を活用して環境負荷を算出する方法です。

事業によってはデータ収集などの制約があるため、自社の状況に合わせて手法を設定することが重要です。

 

影響評価(温室効果ガス排出量の評価)

原料やエネルギー投入量、排出原単位を収集したら、ライフサイクル全体でどれほどの温室効果ガス排出量が発生しているのかを算定します[*6]。

この時、比較対象システムの温室効果ガス排出量も算定することで、対象システムがどれほど優位なのか把握することができます。

 

様々な企業におけるLCAの実施事例

スズキ株式会社

自動車メーカーのスズキは、走行段階だけではなく原材料の製造から廃車処理までのライフサイクル全体を評価するためにLCAを実施し、得られた結果を製品開発や事業活動に活かすことによって、環境負荷の低減を推進しています[*9], (図8)。

図8: スズキのLCA評価段階
出典: スズキ株式会社「LCAの結果」
https://www.suzuki.co.jp/about/csr/lca/index.html

自社製品「スイフト」については、2017年発売の現行モデルが、2013年モデルと比較して、14.2%のCO2排出量削減を達成しました[*9], (図9)。

図9: 前モデルと現行モデルにおけるCO2排出量
出典: スズキ株式会社「LCAの結果」
https://www.suzuki.co.jp/about/csr/lca/index.html

また、スズキではCO2以外の大気汚染物質のLCA算定を行っており、スイフトの現行モデルでは、NOx(窒素酸化物)排出量を約10.3%、SOX(硫黄酸化物)排出量を約7.1%減らすことにも成功しています。

 

日本ハム株式会社

日本ハムは、LCAの実施によって「カーボンフットプリント(炭素の足跡)」の把握に取り組んでおり、商品のライフサイクル全般で排出されたCO2量および環境評価を、カーボンフットプリント・マークとして消費者にわかりやすく表示しています[*10], (図10)。

図10: 「森の薫り® ロースハム」ライフサイクルイメージ
出典: 日本ハム株式会社「ライフサイクルアセスメントの実施」
https://www.nipponham.co.jp/csr/environment/climate/lca.html

ライフサイクル全体の環境負荷を分析することで、どの過程でCO2排出量が大きいのかを可視化できます。日本ハムでは、原料と比べて排出規模は小さいながらも、自社が関与できる余地の大きい先行項目として、包装材料や段ボールの利用改善をスタートさせています。

 

まとめ

以上のように、国内企業でも、事業活動へのLCA導入が積極的に行われています。LCAは、事業者が製品やサービスの環境負荷低減の取り組みに向けたデータとして活用できるとともに、近年では、生産者と消費者とのコミュニケーションや、消費者に環境配慮型の消費行動を促すためのツールとしても利用されるようになっています。

企業のCSR報告書やホームページには、LCAの分析結果が多く掲載されています。LCAの考えに基づき、自身のライフスタイルや嗜好を考慮しながら適切な製品選択を行うことで、日常的な消費行動に伴う環境影響の改善に貢献できると言えます。

 

参照・引用を見る

*1
国立研究開発法人 国立環境研究所「ライフサイクルアセスメント(LCA)」
https://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=57

*2
一般社団法人 日本化学工業協会「CO2排出削減貢献量算定のガイドライン」
https://www.nikkakyo.org/sites/default/files/3255_4801_price_0.pdf, p.4

*3
脱炭素チャンネル「LCA(ライフサイクルアセスメント)とは?メリットや事例をご紹介」
https://datsutanso-ch.com/other/lca.html

*4
環境省「再生可能エネルギー等の温室効果ガス削減効果に関する LCAガイドライン」
https://www.env.go.jp/content/900447566.pdf, p.14

*5
環境省「水素サプライチェーンにおける温室効果ガス削減効果に関するLCAガイドラインの概要」
https://www.env.go.jp/seisaku/list/ondanka_saisei/lowcarbon-h2-sc/support-tool/PDF_Excel/support-tool_02.pdf, p.1, p.2

*6
環境省「水素サプライチェーンにおける温室効果ガス削減効果に関する LCA ガイドライン Ver.2.1」
https://www.env.go.jp/seisaku/list/ondanka_saisei/lowcarbon-h2-sc/support-tool/PDF_Excel/support-tool_lca-guide_ver2-1.pdf, p.6, p.9, p.13, p.14, p.24, p.44, p.47, p.49

*7
環境省「温室効果ガスインベントリの概要」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg-mrv/overview.html

*8
環境省「算定・報告・公表制度における算定方法・排出係数一覧」
https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/files/calc/itiran_2020_rev.pdf, p.1

*9
スズキ株式会社「LCAの結果」
https://www.suzuki.co.jp/about/csr/lca/index.html

*10
日本ハム株式会社「ライフサイクルアセスメントの実施」
https://www.nipponham.co.jp/csr/environment/climate/lca.html

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