CO2の「見える化」 見えないものを可視化する企業・自治体が増加

近年、脱炭素化やカーボンニュートラルなど、温室効果ガスにまつわる単語を聞く機会が増えてきました。

地球温暖化や気候変動が世界的な問題として取り上げられる中、今や多くの企業や自治体がその主な原因とされる二酸化炭素(CO2)の排出量削減に努めています。

CO2は主に炭素を含む物質が燃焼することで発生しますが、気体の状態で発生するためどのくらい発生しているのか目視で確認することができません。それ故、私達人間の活動がどのくらいのCO2を排出しているのか答えられる人はあまりいないでしょう。

そこで、最近広がりを見せているのがCO2の「見える化」です。

今回は、見えないものを可視化するとどのような効果があるのか、そもそもなぜCO2の見える化が進んでいるのか、その理由を考察します。

 

世界でも有数のCO2排出国・日本

地球温暖化の原因となっている温室効果ガスはメタン、一酸化二窒素などの種類がありますが、最も排出されているのがCO2です。CO2だけで温室効果ガス総排出量の76%を占めています[*1]。

1970年代からCO2の温室効果は指摘されていました[*2]。それに加え、2015年12月、フランスのパリで開催された第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)において「パリ協定」が採択されて以降、CO2削減の動きは世界的にさらに加速しています[*3]。

ここで、日本のCO2排出量をみてみると、2019年時点で10億6,620万トンのCO2を排出しており、これは世界で5位の排出量です(図1)。

図1: CO2排出量の多い国
出典:  外務省「二酸化炭素(CO2)排出量の多い国」(2019)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/kids/ranking/co2.html

日本は世界の人口ランキングでは11位、国土面積ランキングでは60位前後でありながら、日本よりも人口が多く、国土面積が大きい国以上にCO2を排出しています[*4, *5]。

日本は世界でも有数のCO2排出国なのです。

 

脱炭素化に向け進むCO2の「見える化」

私達の生活では、ありとあらゆることにCO2の発生が伴っています。

例えば、現代の生活には電気が欠かせませんが、化石燃料由来の場合、電気を作る発電という行為にもCO2の発生が伴います。

車で移動する場合にも、ガソリンを燃焼させるためCO2が発生していますし、水道水を作る工程でも水の浄化装置を稼働するには電気を使うため、間接的にCO2が発生していることになります。

このように日常生活の様々なシーンでCO2は排出されていますが、無色透明な気体であるため目には見えません。

今や多くの人が「CO2の削減は必要なこと」と認識していますが、目に見えない気体の発生量を意識することは難しいものがあります。そこで登場したのがCO2の「見える化」技術です。

実はこのCO2の見える化に関する取り組みについて、日本政府は2008年から「温室効果ガスの見える化」という形で取り組みを開始しています[*6]。

まず、CO2の見える化には以下のような効果が期待できます[*7]。

  • CO2削減行動を促すことができる
  • CO2の排出実態及び対策情報等を把握・共有することで、排出量削減につなげるコミュニケーションが可能となる
  • CO2排出量の削減可能なポイントを把握できる
  • CO2削減活動の評価ができる

この見える化は、国・地域、企業、家庭と様々な単位で行われています。

 

CO2の見える化に関する様々な取り組み

前述の通り、CO2の排出量は国・地域、企業、家庭と様々な単位で見える化されています。

ここでは、具体的な取り組み例の一部を紹介します。

国・地域

国として「温室効果ガスインベントリ」という形で毎年温室効果ガスの排出量を見える化しています(図2)。

図2: 温室効果ガスインベントリの作成体制
出典:  国立研究開発法人 国立環境研究所「温室効果ガスインベントリオフィス」(2021)
https://www.nies.go.jp/gio/jqjm1000000oyg1q-att/gio_pamph_j_2021.pdf, p.3

インベントリとは、「一定期間内に特定の物質がどの排出源・吸収源からどの程度排出・吸収されたかを示す一覧表のこと」です[*8]。

この温室効果ガスインベントリには、CO2以外の温室効果ガス(メタン、一酸化二窒素など)も含まれています。各温室効果ガスの排出量や吸収量、エネルギー分野・農業分野など各分野からの排出量がどの程度あるかなどの情報が記載されており、調査研究や国際対応等の業務に活用されています[*9]。

自治体においても、CO2の見える化に取り組む事例が増えています。

福島県会津若松市や茨城県水戸市、岐阜県多治見市、兵庫県加古川市は、2021年11月から22年2月にかけて脱炭素化に向けた取り組みについてデータを使ってCO2を見える化する実証試験を行いました[*10]。

この試験では、電気自動車のCO2排出量とガソリン車のCO2排出量の比較、太陽光発電を備えた駐車場での発電量などのデータが収集されています(図3)。

図3: 自治体での実証実験で集めたデータの例
出典: 日本経済新聞「富士通、自治体のEV活用分析 CO2削減を『見える化』」(2022)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC316P40R30C22A3000000/

このようにして、自治体も外部にCO2削減の取り組みの効果をPRできるようになります。

 

企業

温室効果ガスを相当程度多く排出する者(特定排出者)については、温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度により排出量が毎年見える化されています。2018年時点で12,150の事業者、1,314の特定輸送排出者(輸送部門の排出量報告を行う排出者)がCO2の排出量の報告を行っています[*11]。

それに加え、近年では顧客へのアピールを目的として、CO2の排出量を見える化するクラウドサービスと業務提携し利用者に提供する企業も増えてきました[*12]。

背景には、企業がCO2排出量を抑えると、低利で融資を受けることができたり、環境債などを発行できたりするメリットがあります[*13]。

日本最大手の自動車メーカーであるトヨタ自動車では、取引先の中小企業にもCO2排出量を概算する手法を紹介する取り組みを始めました。さらに、スマートフォンで使えるアプリでCO2削減につながる改善事例を共有しており、関連企業全体でCO2削減に取り組む姿勢を見せています。

これも、欧州を中心に自動車のライフサイクルアセスメントでの環境性能を評価する動きが活発化していることが影響しています[*14]。

 

家庭

「日常生活での事例を見たことがない」という人もいるかも知れませんが、実は、家庭においてもCO2の見える化は進んでいます。

家庭内のお金の収入・支出を管理するために家計簿は多くの人が利用していると思いますが、近年ではお金の管理と同様、家庭から出るCO2の量を算出できるアプリも登場しています[*15], (図4)。

図4: アプリ操作画面の例
出典: 郡山市環境家計簿アプリを配信しています – 郡山市公式ホームページ (2021)
https://www.city.koriyama.lg.jp/soshiki/54/2455.html

このアプリは「環境家計簿」といい、福島県郡山市が配信しています。電気やガスなどの光熱使用量を入力すると、CO2の排出量を自動計算し、見える化してくれます。

他にも、標準量との比較、他の参加者との比較、月変化の確認も可能です。参加者全員の中での自分の順位も確認できるためゲーム感覚でCO2排出量削減に取り組むことができます[*15]。

また、公共交通機関の乗り換え検索は私達の生活において非常に身近な行為ですが、CO2排出量順に乗り換え案内をするサービスも提供されています[*16], (図4)。

図5: CO2排出量別ルート案内イメージ図
出典: TECH+「『駅すぱあと』、経路のCO2排出量を表示する機能を追加」(2022)
https://news.mynavi.jp/techplus/article/20220531-2355299/

 

日常生活における省エネ・CO2削減

国や企業単位のCO2排出量がかなりの量になることは想像に難くありません。

しかし実は、一人ひとりの生活において排出される温室効果ガスも軽視できず、日本で平均的な生活を送った場合、一人当たりCO2換算で年間7.6トンに及びます(図5)。

図6: 日本における平均的な生活による温室効果ガス排出量(CO2換算)
出典: 東京新聞「1人で1日ガソリン9リットル燃やしてる? 暮らしで出る温室効果ガス」(2020)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/49601

 

7.6トンという数字は、多くの人にとって予想以上に大きい数字ではないでしょうか。

私たちの生活に欠かせない食べ物を生産する時にもCO2が発生しており、牛肉1kgを生産するために発生するCO2は23.1kg、豚肉は7.8kg、鶏肉は約4kgと言われています[*17]。

野菜栽培においても、肉類に比べ排出量は少ないものの、農機具の運転のほか、肥料や農薬、農業用フィルムなどの農業用品の生産でもCO2を排出しています[*18]。

また、日常生活で何気なく行っている行為でも、思った以上にCO2を排出しています。

例えば、毎日1時間テレビを見ると年間約13kgのCO2が発生し、毎日10分間車を利用すると年間約588kgのCO2が排出されます[*19]。

逆に言えば、生活の工夫によっては、個人で数十キロ~数百キロのCO2削減に貢献できるのです。

移動に公共交通機関を使ったり、お肉の消費量を抑えたり、住まいの電気を再生可能エネルギーを利用したサービスに切り替えることも有効です。

 

「環境価値」を考慮する時代

ここまで紹介したCO2の見える化に関する事例は、まだ目新しく、私たちの日常生活に完全に浸透しているとは言えません。

しかし、時代はすでに価格や性能だけでなく、「環境価値」まで考慮して商品やサービスを選択するようになりつつあります。CO2排出量を見える化するサービスは増加しており、今後もこの流れは加速していくでしょう。

前述の通り、私達の生活を少し工夫するだけでもCO2削減に貢献できます。自分ができる工夫はなにか、見える化サービスを活用して考えてみましょう。

 

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参照・引用を見る

*1
全国地球温暖化防止活動推進センター「温暖化とは?地球温暖化の原因と予測」
https://www.jccca.org/global-warming/knowleadge01

*2
全国地球温暖化防止活動推進センター「いつから地球温暖化が問題とされるようになったのかhttps://www.jccca.org/faq/15922 

*3
外務省「2020年以降の枠組み:パリ協定」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page1w_000119.html

*4
外務省「人口の多い国」(2020)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/kids/ranking/jinko_o.html

*5
一般財団法人国土技術研究センター「意外に大きい日本の国土」https://www.jice.or.jp/knowledge/japan/commentary02

*6
環境省「温室効果ガス『見える化』推進戦略会議」(2008)
https://www.env.go.jp/council/37ghg-mieruka/yoshi37.html

*7
環境省「温室効果ガス『見える化』の役割について」
https://www.env.go.jp/council/37ghg-mieruka/y370-05/mat03_1.pdf, p.3~6, p.10

*8
環境省「温室効果ガスインベントリの概要」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg-mrv/overview.html

*9
国立研究開発法人 国立環境研究所「温室効果ガスインベントリオフィス」(2021)
https://www.nies.go.jp/gio/jqjm1000000oyg1q-att/gio_pamph_j_2021.pdf, p.2, p.3

*10
日本経済新聞「富士通、自治体のEV活用分析 CO2削減を『見える化』」(2022)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC316P40R30C22A3000000/

*11
経済産業省「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度に基づく平成30(2018)年度温室効果ガス排出量の集計結果を取りまとめました」(2022)
https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220318005/20220318005.html

*12
日本経済新聞「浜松いわた信金、30年度にCO2排出46%減へ 13年度比」(2022)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC309IX0Q2A930C2000000/

*13
日本経済新聞「デロイトトーマツ、CO2排出量巡り金融機関の算定支援」(2022)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB282TC0Y2A620C2000000/

*14
日本経済新聞「トヨタ、手軽な脱炭素術を中小に エクセルやアプリで」(2022)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFD1351T0T11C22A0000000/

*15
郡山市「郡山市環境家計簿アプリを配信しています」(2021)
https://www.city.koriyama.lg.jp/soshiki/54/2455.html

*16
日本経済新聞「駅すぱあと、CO2排出量順に乗り換え案内」(2022)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC154HC0V10C22A6000000/

*17
東京新聞「バカにできない?肉の生産で出る温室効果ガス」(2020)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/45380

*18
農業・食品産業技術総合研究機構「農業生産過程におけるエネルギー消費およびCO2排出量の把握」(1994)
https://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/sinfo/result/result11/result11_22.html

*19
岐阜市「1年間で削減できるCO2の量の考え方」 (2021)
https://www.city.gifu.lg.jp/kurashi/douro/1002587/1002614/1002623.html

 

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