停電から生活を守るために 電気自動車(EV)を含めた災害時の電気系統の取り扱い

日本は災害大国と言われる通り、毎年のように各地で大きな自然災害が発生しています。

地震、台風、豪雨、などその種類はさまざまですが、多くの世帯で電気、ガス、水道といった生活インフラが断たれることも少なくありません。

その中で、災害時の電気の供給方法について、電気自動車(EV)の普及に伴い、新しい動きが見られるようになりました。

災害時の電気の使い方の注意点とあわせて、ここでご紹介します。

 

これまでの大災害による停電と復旧時間

近年の自然災害の中で、台風による大規模な停電が発生した事例として、2018年の台風21号、台風24号が挙げられます。また、2019年には台風15号で千葉県内の広い範囲で被害が発生しました(図1)。

図1: 2018年〜2019年の台風と停電発生状況
出典: 経済産業省「大規模災害時における停電対策について(2019)」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/resilience/dai51/siryo2-1.pdf, p.5

停電からの復旧までには、2018年の台風24号では約3日、2019年の台風15号では実に約12日間を要しています。

電気が使えなくなってしまうと、私たちの生活にはさまざまな影響が出ます。電化製品が使えなくなるだけでなく、断水の原因になるほか、信号、照明、掲示などが消えてしまい交通にも影響を与えます。加えて、通信基地の停電によって携帯電話などが使えなくなる場合もあります[ *1]。

また、停電で冷蔵庫が使えなくなったために廃棄されたとみられる食品などの可燃ごみが、処理施設に大量に持ち込まれるという事態も発生しました[ *2]。

被災状況によっては停電からの復旧に時間がかかることがあります。

上の図にもある2019年の台風15号では、2,000本の電柱が損壊したことが長期の停電に繋がっています[ *3]。

このような自然災害による停電で起きる生活への影響を少しでも減らすために注目されているのが、電気自動車(EV)です。

 

北海道胆振東部地震によるブラックアウトと電気自動車

2018年に北海道胆振東部で最大震度7の地震が起きた時、大手電力会社の管轄地域すべてで停電する「ブラックアウト」が発生しました。北海道全域が停電するという事態で、エリア全域で発生するケースは日本で初めてのことでした[ *4]。

このとき、一部で利用されたのがEVです。

停電発生時、北海道のコンビニエンスストアチェーン「セイコーマート」では、災害用に配備していた非常用電源キットを活用し、自動車のシガーソケットからの電源で店舗のPOSレジ等へ電気を供給することで、北海道内の1100店舗中およそ1050店で営業を続け、被災者へ物資の供給を続けました[ *5]。

その経験を活かし、セイコーマートを経営する株式会社セコマは、日産自動車との間に災害時の電力供給に関する協定を締結しています。

日産がセコマに対し、災害等により停電が発生した際には日産販売会社店舗で試乗車として配備しているEVをセイコーマートに無償で貸与し、継続して電力が供給できる体制を整えるというものです[ *5]。

また、北海道の厚真町、安平町、むかわ町も、災害時に避難所などで日産のEVを電力源として活用することを決めています[ *6], (図2)。

図2: 災害時の電気自動車からの電力供給イメージ
出典: 日産自動車「厚真町・安平町・むかわ町と日産自動車、電気自動車を活用した『災害連携協定』を締結(2020)」
https://global.nissannews.com/ja-JP/releases/release-1efa76b1ad93a52d43f48d824d29a2d1-200925-01-j

2019年の台風15号でも、自動車メーカー等が被災地に電動車を派遣し、外部給電機能を活用した活動を行っています[ *7]。

電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)、ハイブリッド自動車(HV)に代表される電動車は、100V用電源コンセントを有する車種も多く存在しています[*7]。そこで国土交通省は、EVを災害時に非常用電源として使うためのマニュアルを公表しています。以下に紹介します。

 

災害時に電気自動車を電力源として使う方法

災害時に電気自動車から電気を取り出すには、2つの方法があります[ *8]。

①車内のコンセントからの給電

100V電源用コンセントが車内にある場合は、自動車の取り扱い説明書に従ってコンセントを使用可能な状態にすると、電化製品の電源として使えるようになります。最大出力は1500Wで、使用できる家電は以下のようなものです(表1)。

表1: 主な家電製品の消費電力出典: 資源エネルギー庁「災害時には電動車が命綱に!? xEVの非常用電源としての活用法(2020)」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/xev_saigai.html

手順は車種によって異なりますので、説明書を再確認しておきましょう。

 

②「給電端子」を使った給電

EVやPHVの場合は急速充電用の給電口から、FCVの場合は給電口から別売の可搬型給電器や、充放電設備などの給電端子に繋ぐことで給電できます。避難所や小規模オフィス、店舗の電力として利用できます[ *9], (図3)。

図3: 給電端子の一例と可搬型給電器、充放電設備の例
出典: 資源エネルギー庁「災害時には電動車が命綱に!? xEVの非常用電源としての活用法(2020)」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/xev_saigai.html

移動にも利用できる電気自動車が、防災の重要なツールとして位置付けられるようになってきています。

 

電気自動車から給電するときの注意点

ただ、車内コンセントから給電する場合は注意点もあります[ *9]。以下、資源エネルギー庁が掲載している5つのポイントになります。

  • 車両を発進させないよう、シフトはPポジションにしてパーキングブレーキをかける
  • 地面が固く平らな場所に駐車し、できれば輪止めを設置する
  • コードリールを用いる場合、発熱防止のためコードはすべて引き出して使用する
  • 発熱する可能性があるため、たこ足配線はしない
  • HVやPHVはエンジンが作動することがあるため、換気の良い場所に停める

また、電気自動車からの給電で使用する家電製品側にも注意が必要です。

  • 車内コンセントで使用できるのは、AC100V最大消費電力1500W以下の電気製品
  • 電気製品の取扱説明書の注意に従う
  • 振動や極寒地・炎天下での使用が原因で、電気製品が故障する可能性があることに留意
  • 一時的に出力が断たれることもあるため、医療機器には使用しない

大前提として、浸水・冠水した車両は外見上は問題がなさそうでも、感電事故やショートによる車両火災が発生する恐れがあるため、触ってはいけません。また、使用するまでの間、発火するおそれもあるため、バッテリーのマイナス側のターミナルを外して下さい。[ *10]。

 

災害時の他の電気についての注意点

さて、ここで改めて、電気自動車も含めた災害時の電気系統の取り扱いについて、資源エネルギー庁の情報をもとに確認してみましょう[*11]。

停電のとき、ブレーカーはどうする?>

停電が起きた時に確認するのは、まず以下の2つの点です。

  • 家の中の電気がすべて消えているか、あるいは一部が消えているか
  • 家の電気が全て消えている場合、近所は電気がついているかそうでないか

もし、近所は電気がついていたり、自宅の一部だけが停電していたりする場合には、ブレーカーの状況を確認する必要があります[ *11]。

<ブレーカーが切れている場合の確認手順>

  • 電化製品、電熱器具などの上に燃えやすいものがかぶさっていないか、コードなどが損傷していないかを十分に確認する
  • ブレーカーをすべて「切」にし、「アンペアブレーカー」(設置されていない場合もあり)、「漏電遮断器」の順でスイッチを入れる
  • 次に、「安全ブレーカー」を1つずつ入れる(「安全ブレーカー」をONにしても、漏電遮断器がふたたび自動的に「切」になってしまう場合は、漏電の恐れがあるため、ブレーカーを切り、電気工事店などに連絡する)

そして、住んでいる地域の停電情報を確認します。

<災害での停電のときは二次被害に注意>

地震などの影響で停電が発生した場合、余震の影響などをふまえた上で行動することが必要です。また、電力が復旧した後を見据えて、注意しておくべきことがあります。

ひとつは、「通電火災」を防ぐことです。停電する寸前まで使っていた電化製品は、電気が復旧すると自動的に電源が入り、急に通電することになります。その際に、漏電したり、燃えやすいものに接触した状態で発熱し出火したりすることで起こるのが「通電火災」です。近くに燃えやすいものなどがないようにしましょう。

また、避難のために自宅を離れるときは、ブレーカーを切る必要があります。

<発電機の取り扱い>

最近では、家庭用の発電機を持っている人もいます。

その場合は、屋内で発電機は使用してはなりません。運転中の発電機の排気には一酸化炭素が多く含まれており、一酸化炭素中毒になる危険があります。

屋外で使用する際にも、排気ガスが屋内に入らないような場所に設置する必要があります。

<太陽光発電>

また、太陽光パネルにも注意が必要です。

太陽光発電設備は、破損したり水に浸かっている場合でも、太陽光が当たり続けている間は発電を続けています。

自宅の屋根などに設置されている太陽光発電設備に「自立運転機能」がついている場合には、停電時にも電気を使うことができますが、感電の危険がないか、しっかりと確認してから使用してください。

 

電気の安全な利用のために

私たちの生活は電気によって便利で豊かなものになった一方で、災害など不測の事態が発生した時には、その取り扱いにさまざまな注意が必要です。

また、近年では、災害時の電力源としてEVを活用した動きがみられますが、取扱いにはいくつか注意が必要になります。

正しい知識を身につけ、電気との上手な付き合いを続けていきましょう。

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参照・引用を見る

*1
国土交通省「災害時の電源確保と電力安定供給への新しい流れ(2020)」
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001381194.pdf, p.9

*2
災害情報プラットフォーム「インタビュー:令和元年房総半島台風による大規模停電を経験した焼却施設の取組(2021)」
https://dwasteinfo2.nies.go.jp/page/page000159.html

*3
経済産業省「大規模災害時における停電対策について(2019)」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/resilience/dai51/siryo2-1.pdf, p.5

*4
資源エネルギー庁「日本初の“ブラックアウト”、その時一体何が起きたのか」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/blackout.html

*5
日産自動車「セコマと日産自動車、災害時における電力供給に関する協定を締結(2019)」
https://global.nissannews.com/ja-JP/releases/release-41181d20da4d17b77ed88d700816821f-190227-01-j

*6
日産自動車「厚真町・安平町・むかわ町と日産自動車、電気自動車を活用した『災害連携協定』を締結(2020)」
https://global.nissannews.com/ja-JP/releases/release-1efa76b1ad93a52d43f48d824d29a2d1-200925-01-j

*7
国土交通省「災害時に電動車は非常用電源として使えます (2022)」
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001509882.pdf

*8、9
資源エネルギー庁「災害時には電動車が命綱に!?xEVの非常用電源としての活用法(2020)」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/xev_saigai.html

*10
国土交通省「浸水・冠水被害を受けた車両のユーザーの方へ」
https://www.mlit.go.jp/jidosha/carinf/rcl/carsafety_sub/carsafety029.html

*11
資源エネルギー庁「あらためて学ぶ、『停電』の時にすべきこと・すべきでないこと(2021)」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/teiden_info.html

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