スペインにおける再生可能エネルギー事情―日本が学ぶべき取り組みとその課題―

近年、各国で再生可能エネルギーの導入を推進する動きが活発化しています。特にEUでは主力電源化が進み、スウェーデンやドイツは高い再生可能エネルギー比率を誇っています。

その中で、「電力孤島」とも呼ばれるスペインは、大西洋や地中海、さらにフランスとの国境はピレネー山脈というように他国と分断されているため、近隣諸国との電力のやり取りが難しく、再生可能エネルギー導入には不利な地域ではありますが、風力をはじめ、再生可能エネルギーを積極的に導入しています。

それでは、スペインでは再生可能エネルギー普及に向けて、これまでどのような取り組みが行われてきたのでしょうか。また、海に囲まれた島国である日本が参考にできる点はあるのでしょうか。詳しくご説明します。

 

スペインの再生可能エネルギー普及状況

スペインでは、起伏の多い地形を利用して早くから水力開発が進み、1972年までは水力が総発電量の50%以上を占めていました。しかしながら、安価な輸入燃料を使用する石油火力が普及したため、1975年には火力発電が中心となりました[*1]。

石炭火力と同様に、原子力の開発も促進されましたが、1986年に発生したウクライナのチェルノブイリ原発事故等を受けて、1990年代以降は再生可能エネルギーの開発が進んでいます。

実際、国別の電源構成を見ると、スペインの2021年の再生可能エネルギー比率は48%と、電力供給の半数近くが再生可能エネルギーとなっています[*2], (図1)。

国内の発電電力量に占める再生可能エネルギーの内訳を見ると、風力の割合が23%と最も高く、水力が12%、太陽光が10%となっており、ドイツやイギリスなどと比較しても高い水準です。

図1: 国別の電源構成(2021年)
出典: 公益財団法人 自然エネルギー財団「統計|国際エネルギー」
https://www.renewable-ei.org/statistics/international/

 

なぜスペインで再生可能エネルギーが普及したのか

電力孤島と呼ばれるスペインで、なぜこれほどまでに再生可能エネルギーの活用が進んでいるのでしょうか。

元々、スペインは国内の化石燃料資源が乏しく、エネルギーは輸入に依存していましたが、1970年代の石油危機以降は、輸入への依存を軽減するため、原子力発電、省エネ、国内炭を使用した石炭火力の開発を推進してきました[*1]。

しかし、1979年にアメリカで発生したスリーマイル島原子力発電所事故、さらには、1986年のウクライナのチェルノブイリ事故を受けて、国内の原子力開発は大幅に縮小されます。原子力の新規開発は停止され、1990年には運転中の発電所が1基廃止されました。

その後、政府は地球温暖化対策、エネルギーセキュリティの観点から、石油・国内炭からガスへの燃料転換とともに、再生可能エネルギーの推進を打ち出し、その開発を進めていきます。

1992年に初めて策定された再生可能エネルギー電源の導入計画をきっかけに、1994年には、電力会社に対して再生可能エネルギー由来の電力を高い価格で買い取ることを義務付けたFIT(固定価格買取制度)がスタートしました。

また、1997年に開催された京都議定書においては、温室効果ガス排出量を2008年~2012年に1990年比で15%(3億3,320万トン)増まで抑制することが義務付けられ、省エネや再生可能エネルギー開発、ガスへの燃料転換などの政策を一層推し進めていきました。

その結果、スペインでは多くの風力や太陽光発電所が設置され、同国の風力発電の年間導入量は2007年に世界第2位、太陽光発電は2008年に世界第1位を記録するなど、2000年代には世界でトップクラスの導入量を誇ります[*3]。

風力発電が拡大した要因

このように、早期よりFIT制度の採用などによって再生可能エネルギーの導入を推し進めてきたスペインでは、中でも風力発電の普及が進んでいます。

風力発電の大量導入は、多国間で電力をやりとりする国際送電網が整っているように、強い電力系統を持つ国が適しているとされます。これは、国際送電線を使って発電量を他国と融通しあうことによって、天候等によって変動しやすい発電量を調整できるためです[*4, *5]。

しかしながら、スペインは大西洋と地中海に囲まれ、フランスとの国境もピレネー山脈により分断されているため、国際送電線を思うように引くことができないという事情があります[*4, *6]。

また、風力発電適地は東部から北西のガリシア地方に偏在しているのに対し、電力需要はマドリッドやバルセロナといった大都市に集中しているため、適地と消費地域が一致していないという問題も抱えていました[*4]。

このように、風力発電の大量導入には不向きな環境でありながらも、スペイン政府は2006年にマドリッド北部郊外に再生可能エネルギー制御センター「CECRE(Control Center for Renewable Energies)」を立ち上げ、世界初の電力制御技術を運用することで、風力発電を含む再生可能エネルギーの導入を促進してきました。

CECREでは、スペインの電力系統全体を制御する中央給電指令所の一部として、風力発電を含む対象発電設備の状態をオンラインで監視・制御しており、電力需要に応じてその発電電力の管理・調整が行われます[*4], (図2)。

図2: スペインにおけるCECRE指令系統
出典: 電気事業連合会「『スペインにおける再生可能エネルギー導入に対する系統安定化対策の実情』」
https://www.fepc.or.jp/library/kaigai/kaigai_kaisetsu/1224366_4141.html

CECREの傘下には、スペイン全土に設置された風力発電制御所( CCG : Generation Control Center)があり、風力発電所の発電電力量、運用パラメータ(有効電力、無効電力、風速および気温など)の情報を取得して、CECREにその情報を伝達すると共に、CECREからの制御指令を実行しています。

再生可能エネルギー優先規定によって、風力以外の再生可能エネルギーの出力が優先的に抑制されます。

さらにスペインでは、風力発電を最大限活用するため、高い精度で出力予測が可能な「GEMAS(Maximum Admissible Wind Power Generation in System)」というプログラムを導入しています。風力発電事業者にとっては、予報誤差による不必要な出力抑制と採算性悪化の低減に、政府にとっては予報誤差を補うための電力系統安定化対策費の削減につながりました[*4]。

FIT制度によって電力会社による導入を促しつつ、風力発電を優先的に導入しやすい環境を整備したことによって、スペインでは再生可能エネルギーが急速に普及したと言えます。

 

さらなる再生可能エネルギー普及に向けた課題

このように、1990年代から2000年代にかけて再生可能エネルギーは国内で急速に発展しましたが、他方で課題も顕在化しています。

例えば、導入によって再生可能エネルギーは急増しましたが、FIT制度は本質的に補助金制度であるため、上乗せ分の価格を政府が負担する必要があります。財政的な制約もあるため、スペインでは2007年5月以降、買取価格の引下げや買取期間の短縮が実施されるようになり、2013年には巨額の債務に対応するため、FIT制度が廃止されました[*1, *7]。

2016年には買取が再開されましたが、赤字が発生することがないよう価格などの条件は大幅に変更されているため、発電設備の新設はそれほど増えていないのが現状です[*1]。

風力発電への依存による問題も発生しています。例えば、2021年夏期には、ヨーロッパにおける風が弱く、各国の風力発電は軒並み不調に陥りましたが、特に風力発電への依存度の高いスペインはその影響を強く受けることとなりました[*8]。

その結果、スペインの電力の卸売価格は、スポット(随時契約)で1MW当たり平均185.3ユーロ(約24,000円)と1年前と比較して4倍近くも上昇し、電力危機に陥りました。

出力が天候に左右されやすい再生可能エネルギーへの過度な依存は、電力コストの高騰や、深刻な電力不足につながるリスクも懸念されています。

 

スペインのエネルギー政策から日本が学ぶこと

さらなる再生可能エネルギーの普及に向けて課題を抱えているスペインですが、スペインの取り組みから日本が参考にできる点は多くあります。

例えば、再生可能エネルギー電力を安定的かつ安価に提供するため、スペイン政府は天候に左右されず、ピーク調整に特化した純揚水発電や蓄電設備を2030年までに6GW増やすとしています[*10], (表1)。

表1: 2030年の再エネ発電設備導入目標

出典: 日本貿易振興機構(ジェトロ)「EU復興基金が脱炭素化の起爆剤に(スペイン)」
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2021/0401/a0579e4ebf3d88e4.html

他方、電力コスト抑制の観点から、太陽光と風力の導入拡大を継続して行うことで、再生可能エネルギー全体の拡大を図るとしており、2030年までに風力は約22GW、太陽光は約30GW増やすとしています。

また、現在スペインでは、太陽光発電について、政府の補助金に頼らない電力購入契約(PPA:Power Purchase Agreement)というビジネスモデルが増加しています。

PPAとは、企業や自治体などの法人が発電事業者から再生可能エネルギー電力を長期的に購入する契約です。購入した法人は再生可能エネルギー電力を一定の価格で長期に調達できるという経済的メリットがあり、日本でも、建物の屋根や敷地内のスペースを発電事業者に貸し出し、発電事業者がスペースに設置した発電施設から電力が供給されるオンサイトPPAを採用する企業が増えつつあります[*11]。

スペインの太陽光発電のPPA電力価格は、2020年時点で1MWh当たり35.30ユーロと欧州で最も低く、企業などは安価かつ安定した価格で電力を調達できるため、2019年から2020年上半期の間に、48件ものPPAが結ばれ、欧州の他国と比較しても契約件数、契約電力量は際立って多くなっています[*10, *12], (図3)。

図3: 2019年から2020年上半期における欧州各国のPPA契約件数と電力量
出典: AleaSoft「Spain is the paradise of the PPA in Europe」
https://aleasoft.com/spain-paradise-ppa-europe/

先述したように、スペインは地理的な制約から欧州諸国と比較して国際送電網を拡大しにくいという特徴があり、島国の日本の状況と似ている部分があります。今後日本において、再生可能エネルギーをさらに普及させていくためには、スペインにおける再生可能エネルギー導入政策や、PPA事業のような取り組みを参考にしていくことも重要と言えるでしょう。

 

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参照・引用を見る

*1
一般社団法人 海外電力調査会「各国の電気事業(2019年版) スペイン」
https://jepic.or.jp/data/w2019/w07spin.html

*2
公益財団法人 自然エネルギー財団「統計|国際エネルギー」
https://www.renewable-ei.org/statistics/international/

*3
電気事業連合会「『スペインにおける再生可能エネルギー導入に対する系統安定化対策の実情』」
https://www.fepc.or.jp/library/kaigai/kaigai_kaisetsu/1224366_4141.html

*4
石原孟「『風力発電大国』の実像 ~その背景に電力系統制御への挑戦~」
http://windeng.t.u-tokyo.ac.jp/ishihara/posters/nikkei110711.pdf, p.1, p.2, p.3, p.4

*5
公益財団法人 自然エネルギー財団「国際送電網|よくある質問」
https://www.renewable-ei.org/activities/qa/ASG.php

*6
ナショナル ジオグラフィック「第3回 再エネ4割超で多元化に成功するスペインに学べ」
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20130717/358315/?P=2
*7
独立行政法人 経済産業研究所「再生可能エネルギー固定価格買取制度の法的問題-投資協定仲裁における争点-」
https://www.rieti.go.jp/jp/publications/nts/17j060.html

*8
PRESIDENT Online「風が吹かず電力価格が4倍に…『脱炭素の優等生』スペインが陥った再エネ依存の
劇」
https://president.jp/articles/-/52854?page=1

*9
一般財団法人 日本エネルギー経済研究所「停滞していたスペインの太陽光発電部門が再び活性化」
https://eneken.ieej.or.jp/data/8552.pdf, p.1, p.2

*10
日本貿易振興機構(ジェトロ)「EU復興基金が脱炭素化の起爆剤に(スペイン)」
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2021/0401/a0579e4ebf3d88e4.html

*11
公益財団法人 自然エネルギー財団「コーポレートPPA実践ガイドブック」
https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/REI_GuidebookCorpPPA.pdf, p.1

*12
AleaSoft「Spain is the paradise of the PPA in Europe」
https://aleasoft.com/spain-paradise-ppa-europe/

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