大気中のCO2を減らすネガティブエミッション技術 国内外での導入状況は?

ネガティブエミッション技術とは、大気中のCO2をマイナスにする技術です。

2050年カーボンニュートラルの達成に向けて、現状ではCO2排出が避けられない分野があるため、排出したCO2を回収・除去するネガティブエミッション技術は必要不可欠であると考えられています。

ネガティブエミッション技術には、植林や岩石の風化促進などの自然プロセスを人為的に加速させる手法の他に、バイオマス発電と組み合わせた手法や、空気からCO2を直接回収するDAC(Direct Air Capture)を利用した技術など、多くの種類があります。

この記事では、ネガティブエミッション技術の代表的な事例と国内外での導入状況を紹介します。

 

ネガティブエミッション技術とは

気候変動の原因となっているCO2を減らすには、排出量自体を減らす以外にも、すでに排出されたCO2を回収して除去するというアプローチがあります。

大気中のCO2をマイナスにする技術を総称して、ネガティブエミッション技術と呼ばれています。

2021年1月20日の時点で、日本を含む124か国と1地域が、気候変動対策として2050年までにカーボンニュートラル実現を目指すことを宣言しています[*1]。

カーボンニュートラルとは、CO2の排出自体を完全にゼロにすることではなく、やむを得ずCO2を排出してしまう部分とCO2回収量を相殺して、正味ゼロにするという考え方です[*2], (図1)。

図1: カーボンニュートラルとは
出典: 環境省 脱炭素ポータル「カーボンニュートラルとは」
https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/about/#to-what

カーボンニュートラルを達成するためには、まずは再生可能エネルギーの活用や省エネの推進によって、CO2排出量自体を減らしていき、既存技術では削減しきれないCO2を、ネガティブエミッション技術によって回収・除去します。

IEA(International Energy Agency:国際エネルギー機関)が2021年に発表したカーボンニュートラル達成までのロードマップでは、2050年の時点で世界で約19億トンのCO2回収が必要であると試算されています[*3], (図2)。

図2: 2050年カーボンニュートラル実現に向けたロードマップ
出典: NEDO「NETs(ネガティブエミッションテクノロジーズ)の政策・技術動向」(2021)
https://www.nedo.go.jp/content/100943752.pdf, p.2

CO2を回収・除去するネガティブエミッション技術には、表1のようにさまざまな方法があります[*3]。

表1: 主なネガティブエミッション技術の例

出典: NEDO「NETs(ネガティブエミッションテクノロジーズ)の政策・技術動向」(2021)
https://www.nedo.go.jp/content/100943752.pdf, p.3

植林や岩石の風化促進、海洋アルカリ化など自然プロセスを人為的に加速させる技術の他に、バイオマスの燃焼によって発生したCO2を回収・貯留するBECCS(BioEnergy with Carbon Capture and Storage)や大気中のCO2を直接回収して貯留するDACCS(Direct Air Carbon Capture and Storage)といった工学的プロセスもあります。

自然資本を利用するものと人工的なもの、それぞれに技術面やコスト面における課題があり、地域特性なども考慮しながら組み合わせていくことが必要です。

海洋アルカリ化や海洋肥沃、風化促進、土壌炭素貯留などの一部の技術は、現状ではCO2削減効果に関する合意が取れていないものもあります。

例えば、DACCSとBECCSに関しては、CO2を地中に安定して貯留するための地層が必要になり、国土の狭い日本は、諸外国と比較して不利であると評価されています[*5]。

 

ネガティブエミッション技術の代表的事例

植林・再生林

植林とは、新規エリアに新しく樹木を植えることで、再生林とは劣化した森林を人の手によって再生させることです。

植物は太陽の光を利用して光合成をして、大気中にあるCO2を固定するという働きがあります。

特に樹木は幹や枝などに大量のCO2を蓄えることができ、林齢50年ほどのスギであれば約460本で、1世帯が年間で排出するCO2を吸収することができます[*6], (図3)。

図3: 林齢50年のスギの二酸化炭素吸収量
出典: 岡山県「森林は二酸化炭素をどれくらい吸収しますか?」
https://www.pref.okayama.jp/page/419837.html

植林された樹木は、伐採される、あるいは枯死すると、大気中に再びCO2を吐き出します。

しかし、枯れ葉、枯れ枝、枯死木のすべてがすぐに分解されて大気中にCO2として還るわけではありません。それらは、炭素を含んだ土壌有機物として土壌に蓄積し、少しずつ分解しながらCO2を放出していきます。

そのため、伐採によって森林における炭素の蓄積量は一時的に減少しますが、伐採後に植林を繰り返すことで、炭素の蓄積は徐々に増えていき、長期的なCO2削減効果が見込まれています[*7], (図4)。

図4: 植林の実施前後における炭素蓄積量の変化
出典: 国立環境研究所 地球環境研究センター「ココが知りたい地球温暖化」
https://www.cger.nies.go.jp/ja/library/qa/3/3-2/qa_3-2-j.html

 

BECCS

BECCSとは、CO2を回収・貯留するCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)技術を利用して、バイオマス燃料の使用時に排出されたCO2を除去する技術です。

バイオマス発電は、光合成によってCO2を吸収した植物およびそれを食べる動物など、生物由来の有機物を利用して行われるため、結果として大気中のCO2がプラスマイナスゼロになるという、カーボンニュートラルの特性を有しています[*8]。

BECCSでは、さらに発電によって排出されたCO2を回収して貯留することで大気中のCO2を減らすことができます。

次の図5は、木質バイオマス発電におけるBECCSの工程です[*9]。

図5: BECCSの工程
出典: 国立研究開発法人科学技術振興機構低炭素社会戦略センター「バイオマス混焼発電を用いた BECCS による 炭素排出量削減のライフサイクル評価」(2022)
https://www.jst.go.jp/lcs/pdf/fy2021-pp-16.pdf, p.3

まず、燃料となる木を造林し、伐採・加工した木材は発電所まで輸送されます。

そして、発電所の排ガスからCO2を回収し、貯留サイトまで輸送して固定します。

バイオマスの利用やCCS技術によって回収されるCO2が、発電の各工程でのCO2排出量をトータルで上回ることで、ネガティブエミッションを達成します。

 

DACCS

DACCSは、大気中のCO2を直接回収するDAC技術とCO2を貯留するCCS技術を組み合わせてネガティブエミッションを実現する技術です[*3], (図6)。

図6: DACCSの仕組み
出典: NEDO「NETs(ネガティブエミッションテクノロジーズ)の政策・技術動向」(2021)
https://www.nedo.go.jp/content/100943752.pdf, p.5

DACは空気中のCO2を直接回収するため、設置場所を自由に選択可能であり、貯留・固定場所と隣接させることも可能です。

そのため、輸送にかかるCO2排出量やコストを削減することができます。

しかし、大気中のCO2濃度は気薄であり、回収には多くの電気・熱を消費するため、DACのエネルギー消費とコストの削減が課題です[*5]。

 

BECCS・DACCSに関する国内外の動向

BECCS・DACCSなどの工学的プロセスを利用したネガティブエミッション技術は国内外でも導入が進んでいます。

DACCSは欧米などですでに商用化されており、2021年の実績では年間の合計CO2回収量が、約1.7万トン相当となる施設が稼働しています[*5], (図7)。

図7: DACCSによるCO2回収量と今後の計画量
出典: 産業技術環境局「ネガティブエミッション技術について」(2022)
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/green_innovation/pdf/007_03_02.pdf, p.11

計画段階のものを含めると、2024年までに年間のCO2回収量が合計100万トン超となる見込みです。

BECCSの場合、バイオマス発電とCCSがどちらもほぼ完成された技術であるため、より普及が進んでいます。

2021年の時点で、年間のCO2回収量が100万トン以上の規模の大きいものを含めて複数のBECCSが北米や欧州などで稼働しています[*5]。

図8: 世界で運用中・計画段階のBECCS
出典: 産業技術環境局「ネガティブエミッション技術について」(2022)
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/green_innovation/pdf/007_03_02.pdf, p.8

日本にあるBECCS設備は、2020年に実証運転が開始された福岡県大牟田市にある三川発電所です。

三川発電所は、経済産業省の認定を受けた「大牟田市次世代エネルギーパーク」の構成施設の一つで、パーム椰子殻を燃料とするバイオマス発電をおこなっています[*10]。

三河発電所ではおよそ8万世帯の電力を発電しており、BECCSによって1日のCO2排出量の50%に相当する500トンを回収します。

次の図9は、三川発電所のBECCS設備の構成概要図です[*11]。

図9: 三川発電所の構成概要図
出典: パワーアカデミー「電気の施設訪問レポート vol.28」
https://www.power-academy.jp/sp/electronics/report/rep03000.html

バイオマス発電によって排出されたCO2を含む排ガスは、まず吸収塔に入り、吸収液によってCO2が回収されます。そして、CO2が除去された排ガスは、排ガス洗浄塔を経由し、煙突から排出されます。

CO2を吸収した吸収液は再生塔へ送られ、蒸気タービンの熱によって加熱することでCO2が取り出されます。CO2が除去された後の吸収液は再び吸収塔へ送られ、再利用されます。

 

まとめ

2050年カーボンニュートラルの達成に向けて、再生可能エネルギーの導入拡大や、省エネの推進、電化・水素化などの脱炭素技術の開発といった、さまざまな取り組みが進められています。

しかし、現状の技術ではCO2排出を完全にゼロにすることは困難です。

そのため、カーボンニュートラル達成のためには、CO2をマイナスにするネガティブエミッション技術の発展が重要な鍵となります。

ネガティブエミッション技術には、技術的なイノベーションが必要なものから、すでに商用化が進められているものまでさまざまな方法があります。

コストと技術面の課題を解消し、今後ビジネスとして成長していくことで、カーボンニュートラルの達成にまた一歩近づくことができるでしょう。

 

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参照・引用を見る

*1
資源エネルギー庁「『カーボンニュートラル』って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?」(2021)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/carbon_neutral_01.html

*2
環境省 脱炭素ポータル「カーボンニュートラルとは」
https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/about/#to-what

*3
NEDO「NETs(ネガティブエミッションテクノロジーズ)の政策・技術動向」(2021)
https://www.nedo.go.jp/content/100943752.pdf, p.2, p.3, p.5

*4
国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター「バイオマスをCO2吸収源としたネガティブエミッション技術」
https://www.jst.go.jp/crds/pdf/2021/RR/CRDS-FY2021-RR-05.pdf, p.1

*5
産業技術環境局「ネガティブエミッション技術について」(2022)
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/green_innovation/pdf/007_03_02.pdf, p.6, p.8, p.11

*6
岡山県「森林は二酸化炭素をどれくらい吸収しますか?」
https://www.pref.okayama.jp/page/419837.html

*7
国立環境研究所 地球環境研究センター「ココが知りたい地球温暖化」
https://www.cger.nies.go.jp/ja/library/qa/3/3-2/qa_3-2-j.html

*8
林野庁「なぜ木質バイオマスを使うのか」
https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/biomass/con_2.html

*9
国立研究開発法人科学技術振興機構低炭素社会戦略センター「バイオマス混焼発電を用いた BECCS による 炭素排出量削減のライフサイクル評価」(2022)
https://www.jst.go.jp/lcs/pdf/fy2021-pp-16.pdf, p.3

*10
大牟田市「大牟田市次世代エネルギーパーク」
https://www.city.omuta.lg.jp/hpKiji/pub/detail.aspx?c_id=5&id=590

*11
パワーアカデミー「電気の施設訪問レポート vol.28」
https://www.power-academy.jp/sp/electronics/report/rep03000.html

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