発展途上国における「未電化」の現状と、再生可能エネルギー導入の可能性

日本人にとっては当たり前のように使うことのできる電気。しかしながら、世界には電気を十分に使うことができない人々がいまだに多く存在します。そのような地域の多くは、政府による電力インフラ整備が追い付いておらず、行政等による電力供給を受けることができていないのが現状です。

しかし近年では、そのような地域でも電力にアクセスできるよう、電力供給網がなくても活用可能な再生可能エネルギーに注目が集まっています。

そもそも、世界において電力供給が不足している地域や未電化地域はどれほどあるのでしょうか。また、実際に電力供給を実現した地域では、どのように再生可能エネルギーが導入されているのでしょうか。詳しくご説明します。

 

世界における電力供給の現状

経済発展等の影響により、世界全体の電力消費量は1970年代以降、ほぼ一貫して増加しています。実際、2010年代の電力消費量の年平均の伸び率は2.8%と、堅調に推移しています[*1], (図1)。

図1: 地域別の電力消費量の推移
出典: 資源エネルギー庁「令和2年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2021) 第3節 二次エネルギーの動向」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2021/html/2-2-3.html

特に、開発途上国を多く抱えるアジアでは電力消費の伸びが顕著であり、中東や中南米においても電力消費量は増加してきています。

また、発電量も需要の増加に伴い膨らんでいます。特に再生可能エネルギーは、1985年から2021年にかけて2,059TWhから7,931TWhへと急増しており、一般的な電力源になりつつあります[*2], (図2)。

図2: 世界の発電量の推移
出典: 公益財団法人 自然エネルギー財団「統計|国際エネルギー」
https://www.renewable-ei.org/statistics/international/

2021年度の日本国内における発電量が約863TWhであったため、その10倍近くも世界全体で再生可能エネルギーが発電されていることになります[*3]。

1人当たりの電力消費量の差と未電化人口

図1のように、世界全体の電力消費量は年々上昇していますが、一方で、1人当たりが使用する電力消費量には地域によってばらつきがあります[*1], (図3)。

図3: 地域別の1人当たり電力消費量(2018年)
出典: 資源エネルギー庁「令和2年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2021) 第3節 二次エネルギーの動向」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2021/html/2-2-3.html

日本と韓国を除くアジア、アフリカ、中東、中南米の1人当たり電力消費量は、北米や西欧に比べて低い水準であり、特にアフリカは1人当たり534kWhと大変低い水準にあります。

また、そもそも電力自体を受けとることができない人々も世界には多く存在しています[*1], (図4)。


図4: 世界の未電化人口(2019年)
出典: 資源エネルギー庁「令和2年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2021) 第3節 二次エネルギーの動向」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2021/html/2-2-3.html

2019年時点で約7.7億人もの人々が電力へアクセスできておらず、アフリカのサブサハラ地域に多く集中しています。また、パキスタンやバングラデシュ、ミャンマーなどアジアにおいても未電化地域が多く存在しており、発電、送配電、再エネによる分散型電源など電力インフラ整備に対する大規模な投資が求められています。

 

電力インフラの乏しい地域の現状

アフリカやアジアなど、電力供給が十分でない地域は具体的にどのような現状なのでしょうか。

サブサハラ地域における電力不足

サブサハラ(サブサハラ・アフリカ)地域とは、アフリカ大陸のサハラ砂漠以南を指し、ナイジェリアや南アフリカ、ケニアなどの国が含まれます[*4]。

サブサハラ・アフリカ地域は、他の途上国と比べても一人当たりGDPが著しく低く、世界で最も貧しい地域とされています[*5], (図5)。

図5: 主要新興地域別一人当たりGDP
出典: 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「サブサハラ・アフリカ経済の現状と今後の展望」
https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2019/03/report_190320.pdf, p.2

一方で、現在のサブサハラ・アフリカ地域の人口は10億人弱を超え、国連の人口推計によると、同地域の人口は2035年には中国、インドを追い抜くといいます[*5], (図6)。

図6: サブサハラ・アフリカ、中国、インド、中南米の人口推計
出典: 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「サブサハラ・アフリカ経済の現状と今後の展望」
https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2019/03/report_190320.pdf, p.2

国ごとの電力消費量を見ると、ボツワナにおける1人当たりの年間電力消費量は1,435kWh、ジンバブエが898kWh、ナイジェリアに至っては137kWhと、世界全体の平均的な年間電力消費量2,846kWhを大幅に下回っており、サブサハラ・アフリカ地域では十分な電力にアクセスできない困難な状況があります[*6]。

なぜこれほど電力供給が不足しているのかを理解するために、ボツワナの電力事情を見ていきましょう。ボツワナでは、国有電力会社が電力供給を実施していますが、国内電力の多くは南アフリカなど国外からの輸入に多く依存しています。また、国内電源については、石炭火力やディーゼルによる発電が主となっています[*7]。

国内の電源設備が少なく、電源構成も多様とは言えません。ボツワナでは2018年に国営電力公社が所有するモルブレB石炭火力発電所において4ユニットのうち2ユニットのみしか稼働しておらず、国営電力公社のタービンも故障してしまうなど、安定的な電力供給を支える電力インフラに大きな課題があります[*8]。

また、ボツワナの国内系統図を見ると、北西部など一部地域において送電網が完成しておらず、電力にアクセスできない地域があることが分かります[*7], (図7)。


図7: ボツワナ国内系統図(2016年)
出典: 独立行政法人 国際協力機構(JICA)、株式会社JERA「アフリカ地域 南部アフリカパワープール 情報収集・確認調査 ファイナルレポート」(2017)
https://openjicareport.jica.go.jp/pdf/12304168_01.pdf, p.3-16

実際、ボツワナの農村部では、住民の約80%の人々が電気を使えず、薪を燃やして明かりや調理に使用しているとされています。また、単に電力にアクセスできないだけでなく、薪を多く使用することで過度な森林伐採につながっているとの報告もあります[*9]。

 

アジアにおける電力不足

アジア新興国の中でも電力インフラが脆弱な国としては、ミャンマーが挙げられます。ミャンマーの発電設備容量は他のASEAN諸国と比べても低く、インドネシアやタイ、ベトナムなどの10分の1程度となっています[*10]。

ミャンマーは水力発電とガス発電に大きく依存しており、電源の多様化が進んでいないという課題があります。主力の水力発電についても、乾季には水不足となり発電可能量が設備容量の半分以下にまで落ち込んでしまうほか、火力発電所における老朽化による出力低下や、国内発電所に配分されるガス量の不足など様々な課題が山積しています。

また、公共の電力がそもそも届いていないという世帯も多く、2021年のミャンマーの電化率は58%と依然として低い水準にあります[*11]。

 

再生可能エネルギーを使った未電化地域への電力供給支援

以上のように、世界には電力インフラが未整備・脆弱なため十分な電力供給を受けることができない人々が多く存在します。大規模な発電設備を導入しようとしても、多額の資金や電力供給網の整備などが必要となるため、発展途上国では対応できないことがあります。

そこで近年では、太陽光やバイオマスなど地産地消の再生可能エネルギーを活用して、未電化地域へ電力供給を支援する動きが始まっています。

サブサハラ地域における再生可能エネルギー導入

日射量が豊富で砂漠地帯が多いサブサハラ地域では近年、設備利用率が高く、用地の確保が容易であることから、都市周辺における太陽光発電事業が本格化しています[*12]。

また、農村部における電力供給を支える取り組みも広がっています。例えば、ドイツのソーラーキオスクは、ソーラーパネルが屋根に設置された「E-HUBB」という多機能な小型売店をアフリカで展開しています[*13], (図8)。

図8: ソーラーキオスクの展開するE-HUBB
出典: インリー・グリーンエナジージャパン株式会社「太陽光発電でアフリカ農村部のビジネスに力を与える。-ソーラーキオスク【前編】」
https://solar-energy-magazine.yinglisolar.co.jp/2021/11/29/%e5%a4%aa%e9%99%bd%e5%85%89%e7%99%ba%e9%9b%bb%e3%81%a7%e3%82%a2%e3%83%95%e3%83%aa%e3%82%ab%e8%be%b2%e6%9d%91%e9%83%a8%e3%81%ae%e3%83%93%e3%82%b8%e3%83%8d%e3%82%b9%e3%81%ab%e5%8a%9b%e3%82%92%e4%b8%8e/

E-HUBBは、太陽光発電と蓄電システムによって、電力網に接続していない地域住民に地産地消の電気を提供できるだけでなく、食料品から日用品、充電器やWi-Fi、プリンターなどの家電製品まで装備されているため、地域の売店としても機能しています。

現在E-HUBBは、アフリカやアジアの15か国で約250軒導入されており、女性を中心に約1000人の雇用を生み出しているなど、持続可能な運営方法で地域経済活性化にもつながっています。

また、国連開発計画(UNDP)による活動では、ボツワナ政府や地域コミュニティと連携して、農村の貧しい世帯を中心に太陽光発電機の普及を進めています。貧しい母子家庭を優先して家庭用の装置を低価格で提供しており、夜間でも子どもたちが読書や宿題ができるようになるなど、電気の通っていない地域の生活を変えています[*9]。

 

アジアにおける再生可能エネルギー導入

ミャンマーにおける再生可能エネルギー導入の取り組みとして、日本のヤンマー株式会社は、稲を脱穀した際に発生するもみ殻を活用したバイオマスガス化発電を行っています。2017年には実証事業が本格的に開始されており、ミャンマー現地で栽培・収穫された米のもみ殻を燃料として、電気を作り出しています[*14], (図9)。

図9: もみ殻を使ったバイオマスガス化発電の流れ
出典: ヤンマー株式会社「ミャンマーでの籾殻を活用したバイオマスガス化発電による分散型電源供給モデル実証事業を本格的に開始」
https://www.yanmar.com/jp/news/2017/03/23/24486.html

ガス化コージェネレーション設備で発電された電力は精米システムなどに利用されるとともに、発電時に生じた排熱を使ってもみの乾燥機に熱供給を行うなど、効率的なエネルギーの循環が行われています。

また、2006年時点では農村部の世帯電化率が約44%と低い水準にとどまっていたインドは、電力インフラ整備や再生可能エネルギーの活用により、2019年には人口の99%が電力アクセス可能となっています[*1, *15]。

2018年のインドのエネルギー生産のうち、再生可能エネルギーは22%を占めており、広大な土地と豊富な日射量を生かした太陽光発電建設や、フードロスや家畜のふん尿などの有機物を利用してエネルギーを生み出すバイオ燃料技術が推進されています[*16]。

特に、バイオエネルギーシステムについては、ベンガルール郊外においてアイシン精機株式会社が実証実験を行っており、小型ガス発電機を製造し、家畜のふん尿を主な原料とするバイオガスシステムを開発しています。同システムは、農家が廃棄に困っていた家畜のふん尿を処理できるだけでなく、自家発電もできるため、電力供給が十分でない農村エリアでの活用に期待されています。

 

まとめ

世界には、電力供給が十分でない地域や、電力インフラが整っていない地域が数多く存在する一方で、そのような地域においても、日射量や土地を活かした太陽光発電や、農業や畜産などから出る資源を活用したバイオマス発電などの導入が進みつつあります。

未電化地域を減らしていくためには、E-HUBBのような地域住民が主体的に運営できる取り組みや、地域の特性を活かし、地域経済に直接結び付くような再生可能エネルギーの導入が求められています。

 

\ HATCHメールマガジンのおしらせ /

HATCHでは登録をしていただいた方に、メールマガジンを月一回のペースでお届けしています。

メルマガでは、おすすめ記事の抜粋や、HATCHを運営する自然電力グループの最新のニュース、編集部によるサステナビリティ関連の小話などを発信しています。

登録は以下のリンクから行えます。ぜひご登録ください。

▶︎メルマガ登録

\ 自然電力からのおしらせ /

1MW(メガワット)の太陽光発電所で杉の木何本分のCO2を削減できるでしょう?
答えは約5万2千本分。1MWの太陽光発電所には約1.6haの土地が必要です。

太陽光発電事業にご興味のある方はお気軽にお問い合わせください。

国内外で10年間の実績をもつ自然電力グループが、サポートさせていただきます。

▶︎お問い合わせフォーム

▶︎太陽光発電事業について詳しく見る

▶︎自然電力グループについて

ぜひ自然電力のSNSをフォローお願いします!

Twitter @HATCH_JPN
Facebook @shizenenergy

参照・引用を見る

*1
資源エネルギー庁「令和2年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2021) 第3節 二次エネルギーの動向」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2021/html/2-2-3.html

*2
公益財団法人 自然エネルギー財団「統計|国際エネルギー」
https://www.renewable-ei.org/statistics/international/

*3
資源エネルギー庁「結果概要 【2021年度分】 」
https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/electric_power/ep002/pdf/2021/0-2021.pdf, p.1

*4
経済産業省「通商白書2020 第7節 アフリカ」
https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2020/2020honbun/i1370000.html

*5
三菱UFJリサーチ&コンサルティング「サブサハラ・アフリカ経済の現状と今後の展望」(2019)
https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2019/03/report_190320.pdf, p.2

*6
ONE「Your daily energy use vs Africa’s」
https://www.one.org/us/blog/your-daily-energy-use-vs-africas/

*7
独立行政法人 国際協力機構(JICA)、株式会社JERA「アフリカ地域 南部アフリカパワープール 情報収集・確認調査 ファイナルレポート」(2017)
https://openjicareport.jica.go.jp/pdf/12304168_01.pdf, p.90, p.95, p.96

*8
在ボツワナ日本国大使館「ボツワナ共和国月報(2019年1月)」(2019)
https://www.botswana.emb-japan.go.jp/files/000448365.pdf, p.1, p.2

*9
独立行政法人 国際協力機構「電力が足りない貧しい地域に『再生可能エネルギー』の可能性」
https://www.jica.go.jp/nantokashinakya/sekatopix/article0147/index.html

*10
高橋 正貴「ミャンマーの電力事情,政策,計画と電力法」
https://www.moj.go.jp/content/001238320.pdf, p.87

*11
京セラコミュニケーションシステム株式会社「太陽光発電所の建設・運営でミャンマーの電化率向上に貢献する」
https://www.kccs.co.jp/recruit/work/project/myanmar/

*12
新エネルギー・国際協力支援ユニット 新エネルギーグループ「サハラ砂漠以南のアフリカ諸国で太陽光発電事業が本格始動」
https://eneken.ieej.or.jp/data/7374.pdf, p.1, p.2

*13
インリー・グリーンエナジージャパン株式会社「太陽光発電でアフリカ農村部のビジネスに力を与える。-ソーラーキオスク【前編】」
https://solar-energy-magazine.yinglisolar.co.jp/2021/11/29/%e5%a4%aa%e9%99%bd%e5%85%89%e7%99%ba%e9%9b%bb%e3%81%a7%e3%82%a2%e3%83%95%e3%83%aa%e3%82%ab%e8%be%b2%e6%9d%91%e9%83%a8%e3%81%ae%e3%83%93%e3%82%b8%e3%83%8d%e3%82%b9%e3%81%ab%e5%8a%9b%e3%82%92%e4%b8%8e/

*14
ヤンマー株式会社「ミャンマーでの籾殻を活用したバイオマスガス化発電による分散型電源供給モデル実証事業を本格的に開始」
https://www.yanmar.com/jp/news/2017/03/23/24486.html

*15
独立行政法人 国際協力機構「地方電化事業」
https://www.jica.go.jp/oda/project/ID-P169/index.html

*16
日本貿易振興機構(ジェトロ)「拡大目指すインドの再生可能エネルギー」
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2020/6fe004fdb7a9cddc.html

メルマガ登録