航空分野におけるCO2削減の取り組み 新技術開発や持続可能な燃料導入とは

飛行機は多くの人やモノを世界中に運ぶ輸送手段ですが、飛行距離が長く、飛行機自体の重量も重いため、移動に多くのエネルギーを消費します。また、乗用車やバスなどと比較しても輸送量に対するCO2排出量が多く、環境負荷の高い輸送手段と言えます。

このような問題を改善するため、近年、航空分野においてCO2削減の取り組みが積極的に行われています。それでは、具体的にどのような取り組みが行われているのでしょうか。詳しくご説明します。

航空分野のCO2排出量と環境効率性

日本における2020年度のCO2排出量は10億4,400万トンにのぼり、運輸部門のCO2排出量は1億8,500万トンと、全体の17.7%を占めています。また、航空分野からは524万トンのCO2が排出されており、運輸部門の2.8%を占めています[*1], (図1)。

図1: 日本における運輸部門CO2排出量(2020年度)
出典: 国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_tk_000007.html

排出量全体に対する航空分野の割合は、多く感じられないかもしれません。しかしながら、航空機の輸送量(人キロ:輸送した人数に輸送した距離を乗じたもの)当たりのCO2排出量は133gと、自家用乗車やバスよりも多くなっています[*1], (図2)。

図2: 輸送量あたりのCO2排出量(2020年度)
出典: 国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_tk_000007.html

輸送量当たりのCO2排出量は環境効率性の目安となります。他の輸送方法と比較して効率性の低い航空分野においては、CO2排出量の削減及び環境負荷の低減が求められています。

国際航空と国内航空を比較すると、当然ではありますが、飛行距離の長い国際航空の方が燃料消費量及びCO2排出量が多くなっています。例えば、2019年の国内航空会社の国内航空における燃料消費量は419万kl、CO2排出量は約1,000万トンでしたが、国際航空における燃料消費量は605万kl、CO2排出量は約1,500万トンとなりました[*2], (図3)。

図3: 国内航空(図上)と国際航空(図下)における燃料消費量とCO2排出量(2019年度)
出典: 国土交通省 航空局「航空分野におけるCO2削減の取組状況」
https://www.mlit.go.jp/common/001403136.pdf, p.4

航空分野におけるCO2排出削減に向けた取り組み

2020年以降、国際航空における温室効果ガスの総量を増加させないとする国際民間航空機関による目標や、2050年時点でCO2の実質排出量ゼロを目指すとする国際運送協会による目標など、航空業界全体において既に温室効果ガス低減に関する国際的な合意目標が設定されています[*3], (図4)。

図4: 国際航空からのCO2排出量予測と排出削減目標のイメージ
出典: 経済産業省製造産業局 航空機武器宇宙産業課「航空機産業におけるグリーン成長戦略~航空機電動化への期待~」
https://www.aero.jaxa.jp/news/event/pdf/event211102/program01.pdf, p.3

また、目標の達成に向けて、国際民間航空機関は(1)運航方式の改善、(2)新技術導入(機体の軽量化、エンジン効率化、電動化、水素燃焼技術の導入等)、(3)持続可能な航空燃料の導入、(4)市場メカニズムの活用を組み合わせて実施していくことが必要だとしています。

運航方式の改善

航空機のCO2排出量は、飛行距離のみならず、向かい風のような気象条件や降下の方法などによっても左右されます。最適な運航方法を選択することですぐに燃費向上とCO2排出削減につながるため、既に様々な取り組みが実施されています[*4], (表1)。

表1: 各種運航方式

出典: ENEOS総研株式会社「航空部門における国内外の CO2 排出削減の動向」
https://www.eri.eneos.co.jp/report/research/pdf/20200214_write.pdf, p.6

表1は現在、航空会社が実施している飛行中の主要な取り組みです。この他にも、着陸時の条件により、あらゆる方法を駆使してCO2排出削減に取り組んでいます。

また、国土交通省航空局によるCO2削減に関する検討会では、迂回の少ない飛行ルートの検討や、燃費の良い飛行高度・飛行経路の選択、空港でのアイドリング時間の削減などが広く検討されています[*2], (図5)。

図5: 運航効率の改善に向けた取り組みの検討
出典: 国土交通省 航空局「航空分野におけるCO2削減の取組状況」
https://www.mlit.go.jp/common/001403136.pdf, p.10

一般的に、高度が高くなると空気密度が低くなり、燃料消費量は少なくなります。また、必要以上に速度をあげることは燃料消費量の増加につながります。気候条件によって燃料を最適化できる経路も日によって異なります。そこで、ANAグループでは、パイロットとディスパッチャー(運航管理者)が当日の状況を確認しながら最適な高度や速度、そして経路の選定を一便ごとに行っています[*5]。

着陸方法についても、エネルギー効率の良い省エネ降下方式を、関西国際空港の深夜・早朝便で導入を開始しています[*5], (図6)。

図6: 省エネ降下方式とは
出典: ANAグループ「航空機の運航における取り組み」
https://www.ana.co.jp/group/csr/environment/operating/

省エネ降下方式を活用することによって、一般的な降下方式と比較して飛行距離を短縮することができ、途中でパワーを増やすこともないため、燃料消費量の削減やCO2排出量の削減につなげることができます。

新技術の導入

運航方式の改善に加え、機体の軽量化、エンジン効率化、電動化、水素燃焼技術の導入なども進んでおり、国際的に、小型機・短距離(1,000km以下)については電動バッテリーを活用し、大型機・長距離には水素燃料技術を活用する方針が定められています。

また、欧州では各国で技術開発を推進しており、フランス政府は2022年9月に総額150億ユーロからなる航空機産業支援策を発表しました。ドイツ政府は2020年6月に採択した国家水素戦略において、航空機支援策として燃料電池ハイブリッドシステム、水素発電機、水素燃焼エンジン等の開発の支援をするとしています。

また、航空会社による取り組みも積極的に行われています。例えば、アメリカのプラット・アンド・ホイットニー社は、2021年7月にハイブリッド電気推進技術の開発と飛行実証プログラムを推進する計画を発表しました。同じくアメリカのゼロアビア社は2020年9月に、世界初となる水素燃料電池を動力源とする航空機(6人乗り)のフライトに成功しています。

さらに、欧州のエアバス社は、2035年に世界初の「ゼロエミッション航空機」の実用化を目指すとして、3種類のコンセプト航空機を公表しています[*3], (図7)。

図7: エアバス社の発表した3種類のコンセプト航空機
出典: 経済産業省製造産業局 航空機武器宇宙産業課「航空機産業におけるグリーン成長戦略~航空機電動化への期待~」
https://www.aero.jaxa.jp/news/event/pdf/event211102/program01.pdf, p.10

3種類のコンセプト航空機はいずれも、液体水素を燃料とする改良型ガスタービンエンジンと、ガスタービンを補完する水素燃料電池から構成されるハイブリッド型の航空機であり、実現すればCO2排出量の大幅な削減が期待されます。

持続可能な航空燃料の導入

電動化や水素の活用と併せて、再生可能エネルギーを活用した持続可能な燃料「SAF(Sustainable Aviation Fuel)」の研究・開発が進んでおり、特にバイオジェット燃料の活用が進んでいます[*2]。

バイオジェット燃料の原料としては、廃食油のような廃棄物や、木質バイオマス、藻類などが使われており、ANAグループは2020年に輸入SAFを使用した日本初の定期便を運航しました。また、JALグループは2021年に国産SAFを使用した日本初の定期便の運航を開始しており、国内航空機においてもSAFの導入が進んでいます。

SAFは原料によって製造や輸送におけるプロセスが異なるため、CO2削減率も異なりますが、例えば一度のフライトで既存の燃料とSAFを50%ずつ混合した場合、東京-福岡間のフライトでは約3~6トン、東京-ロサンゼルス間のフライトでは約36~77トンのCO2削減が見込めます[*2], (図8)。

図8: SAF使用時のCO2削減量試算
出典: 国土交通省 航空局「航空分野におけるCO2削減の取組状況」
https://www.mlit.go.jp/common/001403136.pdf, p.12

したがって、CO2削減率50~80%のSAFを使用することで、通常の航空機から約2~3割程度のCO2削減が可能となります。現在は規則上、SAF混合率50%が最大のため、全てをバイオジェット燃料に代替することは不可能です。政府は将来的には、SAF混合比率の上限を取り払い、全てをSAFで代替できるような環境を整備することも検討しています。

市場メカニズムの活用

国際エネルギー機関のシナリオによると、国際航空需要の増加に伴い、CO2の直接排出量は2021年の3億8,446万トンから、2030年には5億4,145万トンまで増加するといいます。脱炭素化に向けては、航空分野の排出目標を全体で達成できるような市場メカニズムの導入も必要とされます[*6]。

国際民間航空機関は2021年より、「国際民間航空のためのカーボン・オフセットおよび削減スキーム(CORSIA)」を導入しています。

CORSIAとは、各航空会社にCO2排出枠を割り当て、排出枠を超えた分は市場からクレジット(排出権)を購入して排出量を相殺する制度です[*4], (表2)。

表2: CORSIA 制度の概要

出典: ENEOS総研株式会社「航空部門における国内外の CO2 排出削減の動向」
https://www.eri.eneos.co.jp/report/research/pdf/20200214_write.pdf, p.5

2026年までは任意参加となっていますが、2027年以降は国際民間航空機関に加盟する全ての国が参加対象となる予定です。国土交通省の試算によると、排出権購入による国内航空会社の負担額合計は、制度開始当の初年間十数億円から、2035年には年間数百億円程度までの増加が見込まれ、航空会社への負担も懸念されていますが、ANAグループは、自社の取り組みによっても削減が難しい排出量に対しては、排出権取引を活用していく意向を示しており、その必要性は理解されているといえます[*4, *5]。

新技術開発に向けた国際連携と国際標準化

航空機のCO2削減に向けては、SAFや電動化など様々な新技術が関係するため、国内企業の取り組みには限界があります。国内航空会社としては、先進的な取り組みを実施している海外企業と連携して取り組むことも重要です[*3]。

日本政府は、ボーイング社と電動化技術や自動化技術等についての協力合意を締結したり、エアバス社と材料や航空システム、製造技術等について協力合意を締結するなどして、海外企業との連携体制を強化しています。

また、電動化や水素など新技術の導入に向けては、安全基準となるルールの策定や、機材や装備品の国際規格に合わせた開発・導入が不可欠です。経済産業省は国際標準化団体の委員会等への議論に参画し、新技術開発動向を把握するとともに、日本企業の国際標準化活動をサポートしています。

航空分野の更なるCO2削減に向けては、国際標準に合致した新技術開発および国内の法整備など国を挙げた取り組みが重要となるでしょう。

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参照・引用を見る

*1
国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_tk_000007.html

*2
国土交通省 航空局「航空分野におけるCO2削減の取組状況」(2021)
https://www.mlit.go.jp/common/001403136.pdf, p.2, p.4, p.5, p.10, p.11, p.12

*3
経済産業省 製造産業局 航空機武器宇宙産業課「航空機産業におけるグリーン成長戦略~航空機電動化への期待~」(2021)
https://www.aero.jaxa.jp/news/event/pdf/event211102/program01.pdf, p.3, p.5, p.6, p.9,  p.10, p.24, p.25

*4
ENEOS総研株式会社「航空部門における国内外の CO2 排出削減の動向」
https://www.eri.eneos.co.jp/report/research/pdf/20200214_write.pdf, p.4, p.5, p.6

*5
ANAグループ「航空機の運航における取り組み」
https://www.ana.co.jp/group/csr/environment/operating/

*6
日本貿易振興機構(ジェトロ)「国際航空で2050年にCO2排出実質ゼロへ、ICAOが採択」
https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/10/a09b7eb79a104e10.html

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