鉄道分野の脱炭素化の現状は? カーボンニュートラルに向けた鉄道会社における取り組み

鉄道は、乗客や貨物を輸送する際のCO2排出量が自動車や飛行機よりも少なく、環境に優しい交通手段と言われています。また、駅の屋根や車両工場などの施設に太陽光パネルを設置したり、線路などの全国に存在する鉄道インフラを活用して水素燃料を輸送したりすることで、再生可能エネルギーの更なる普及につながります。

国内では2022年3月から「鉄道分野におけるカーボンニュートラル加速化検討会」が開催され、鉄道分野における脱炭素化に向けた取り組みの方向性が示されました。

日本は今後、鉄道分野のカーボンニュートラルに向けてどのように舵を取っていくのでしょうか。既に開始されている鉄道会社の取り組み事例とあわせて解説します。

 

鉄道の環境面における優位性

2020年度の日本における運輸部門のCO2排出量は1億8,500万トン(17.7%)と、産業部門に次いで2番目に高い割合となっています[*1], (図1)。

図1: 日本における運輸部門CO2排出量(2020年度)
出典: 国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_tk_000007.html

運輸部門の内訳を見ると、自動車(自家用乗用車、営業用貨物車、自家用貨物車)が87.6%と9割近くを占めています。その他、内航海運は5.3%、鉄道は4.2%となっており、鉄道自体のCO2排出量は運輸部門全体から見るとそこまで多くないことが分かります。

輸送量(人キロ:輸送した人数に輸送した距離を乗じたもの)当たりのCO2排出量についても、鉄道はわずか28gととても効率的で、環境にやさしい輸送手段と言えます[*1], (図2)。

図2: 輸送量あたりのCO2排出量(旅客)(2020年度)
出典: 国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_tk_000007.html

貨物輸送についても同様に、輸送量(トンキロ:輸送した貨物の重量に輸送した距離を乗じたもの)当たりのCO2排出量は鉄道でわずか21gと効率的です[*1], (図3)。

図3: 輸送量あたりのCO2排出量(貨物)(2020年度)
出典: 国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_tk_000007.html

 

鉄道の脱炭素化に向けた取り組み

輸送効率が高く、他輸送方法と比較するとCO2排出量が少ない鉄道ですが、輸送量自体が少ないわけではありません。運輸部門における鉄道のCO2排出割合はわずか4.2%ですが、鉄道は国内の旅客輸送の30%を担っており、乗用車に次いで2番目に主要な輸送方法です[*2], (図4)。

図4: 国内旅客輸送機関の輸送量とエネルギー消費量の構成(2019年度)
出典: 西日本旅客鉄道株式会社「地球温暖化防止の取り組み(省エネルギー)」
https://www.westjr.co.jp/company/action/env/eco/003/

また、現状としては鉄道のCO2排出量の9割が電力由来で、電力の4分の3が火力発電によって賄われているため改善の余地があると言えます[*4]。

鉄道分野の脱炭素化のために、国土交通省は「鉄道分野におけるカーボンニュートラル加速化検討会」を2022年3月に立ち上げ検討を行っています[*3]。2022年8月に行われた検討会の中間とりまとめでは、再生可能エネルギーの活用や代替燃料の導入のため、「地産地消型」、「産地直送型」、「新電車型」の3つの方向性から取り組みを加速すると発表しました[*4], (図5)。

図5: 鉄道脱炭素に向けた取組の方向性
出典: 国土交通省「鉄道分野におけるカーボンニュートラル加速化検討会 中間とりまとめ」
https://www.mlit.go.jp/tetudo/content/001498019.pdf, p.1

日本政府は日本全体の目標として、2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにするカーボンニュートラルの実現を目指すとしています。また、2030年度には、温室効果ガスを2013年度から46%削減するなど、国全体として野心的な目標を掲げています[*5]。

これらカーボンニュートラルの実現に寄与するため、鉄道分野においても、2030年には2019年度比で駅におけるCO2排出量を実質150%相当(350 万トン)削減したり、2050年には鉄道のCO2排出量を実質100%相当以上(1,000 万トン超)削減するような目標の設定が検討されています。

地産地消型の取り組み

中間とりまとめで発表された3つの方向性のうち、「地産地消型」の取り組みとしては、駅の屋根や線路わき、車両基地、廃線敷などの未利用地を活用して再生可能エネルギーや水素エネルギーを生産し、それらを鉄道や沿線地域で活用する方策について地域と連携して検討しています[*5]。

国土交通省は、全国の線路沿線に1メートル幅の太陽光電池を設置し、鉄道会社が保有する鉄道林1.6万ヘクタールすべてに標準的な風力発電設備を設置すると、年間80万世帯分に相当するCO2排出が削減できると試算しています[*6]。

既に、駅などの未利用スペースでは、鉄道会社によって再生可能エネルギー設備の導入が進んでいます。例えば、小田急電鉄株式会社は、12カ所の駅の屋根に太陽光発電システムを設置し、発電した電気を駅の照明や多機能券売機、自動改札機、エレベーターなどの電力に使用しています[*7], (図6)。

図6: 駅に導入された再生可能エネルギーシステム
出典: 小田急電鉄株式会社「環境報告書2020」
https://www.odakyu.jp/company/socialactivities/environment_report/webook/2020/book/pdf/all.pdf, p.18

また、地中熱(地下10~15メートルの深さにある熱を活用して冷暖房等を行う再生可能エネルギーの一種)ヒートポンプシステムの設置によるCO2排出削減や、太陽光を駅構内に採り入れる設計を行っています[*7], (図7)。

図7: 世田谷代田駅の環境に配慮した設備
出典: 小田急電鉄株式会社「環境報告書2020」
https://www.odakyu.jp/company/socialactivities/environment_report/webook/2020/book/pdf/all.pdf, p.17

このような駅の再生可能エネルギー化のほかに、生産された電気の活用方法としては、災害時における防災拠点(病院、コンビニ等)への電力供給や、駅をハブとしたEVバスやFC(燃料電池)バス等による輸送などが検討されています。今後は、官民連携で再生可能エネルギーの導入及び活用の幅を広げていくことが期待されます。

 

産地直送型の取り組み

「産地直送型」の取り組みとしては、鉄道の広域ネットワークを有効活用し、送電網や水素パイプラインの敷設、鉄道貨物による水素輸送や蓄電池による電気輸送等を進めていくとしています[*5]。

具体的には、駅での「総合水素ステーション」設置や、鉄道・バス・トラック等の地域の交通インフラでの水素活用などが検討されています。

すでに実施されている取り組みとして、例えば、東日本旅客鉄道株式会社とENEOS株式会社は2022年5月に、鉄道の脱炭素化に向けたCO2フリー水素利用拡大について共同検討を行うための連携協定を締結し、多様なFCモビリティに向けた総合水素ステーション開発を進めています[*8], (図8)。

図8: 総合水素ステーションのイメージ
出典: 東日本旅客鉄道株式会社、ENEOS株式会社「鉄道の脱炭素化に向けたCO2フリー水素利用拡大に関する連携協定の締結について~国内初、水素ハイブリッド電車の社会実装に向けた共同検討~」
https://www.eneos.co.jp/newsrelease/upload_pdf/20220525_01_01_2008355.pdf, p.2

同ステーションによって、水素を燃料とする燃料電池と蓄電池を併用する水素ハイブリッド電車をはじめ、FCバスやFCトラック、駅周辺施設へのCO2フリー水素の供給が可能になると想定しており、両社は2030年までの実装を目指しています。

 

新電車型の取り組み

「新電車型」の取り組みとしては、電力を供給する架線や変電設備のない非電化区間で現在使用されているディーゼル燃料に替わる動力源として、水素を使った燃料電池鉄道車両や、再生可能エネルギー由来の電力を活用した蓄電池車両の開発、また、バイオ燃料・合成燃料の活用などを進めていくとしています[*5]。

実際に近年では、水素で走る電車や蓄電池車両の実用化に向けた取り組みが加速しています。例えば、東日本旅客鉄道株式会社は2022年に、水素で発電しながら走る国内初のハイブリッド電車を公開しました[*9, *10], (図9)。

図9: ハイブリッド車両(燃料電池)イメージ図
出典: 東日本旅客鉄道株式会社「水素をエネルギー源としたハイブリッド車両(燃料電池)試験車両製作と実証試験実施について」
https://www.jreast.co.jp/press/2019/20190603.pdf, p.1

水素ハイブリッド電車は、走行中はCO2を排出せず、時速100キロまで出すことが可能です。2022年3月から神奈川県内を走る鶴見線と南武線の一部区間で試験的に運行し、将来的には2030年の実用化を目指しています[*9]。

 

鉄道による脱炭素社会の実現のために

鉄道分野の脱炭素化は、鉄道自体のCO2削減のみならず、再生可能エネルギーの供給・消費の拡大、ひいては社会経済の持続可能性の向上につながります[*4], (図10)。

図10: 鉄道分野における脱炭素化の全体像
出典: 国土交通省「鉄道分野におけるカーボンニュートラル加速化検討会 中間とりまとめ」
https://www.mlit.go.jp/tetudo/content/001498019.pdf, p.2

今後は、技術開発の進展に遅れることなく、国が技術基準や国際標準の整備、規制の見直し等を進めることが欠かせません。また、国による鉄道事業者等への支援制度の拡充によって取り組みを支援するとともに、幅広い主体がそれぞれの強みを持ち寄り、協力体制を構築していくため、官民プラットフォームの設置などによって多業種や地域との協力体制の構築支援を推進していくことが、鉄道分野における更なる脱炭素化に向けたカギとなるでしょう。

 

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参照・引用を見る

*1
国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_tk_000007.html

*2
西日本旅客鉄道株式会社「地球温暖化防止の取り組み(省エネルギー)」
https://www.westjr.co.jp/company/action/env/eco/003/

*3
国土交通省「鉄道分野におけるカーボンニュートラル加速化検討会 中間とりまとめの公表について~鉄道の特性を踏まえたカーボンニュートラルの実現に向けて~」
https://www.mlit.go.jp/report/press/tetsudo01_hh_000177.html

*4
国土交通省「鉄道分野におけるカーボンニュートラル加速化検討会 中間とりまとめ」
https://www.mlit.go.jp/tetudo/content/001498019.pdf, p.1, p.2

*5
国土交通省「鉄道脱炭素の方向性 『鉄道分野におけるカーボンニュートラル加速化検討会』 中間とりまとめ」
https://www.mlit.go.jp/tetudo/content/001498018.pdf, p.4, p.5, p.7

*6
読売新聞「廃線跡や線路脇で再エネ発電…鉄道会社の未利用地活用、『脱炭素』を後押し」
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20220626-OYT1T50151/

*7
小田急電鉄株式会社「環境報告書2020」
https://www.odakyu.jp/company/socialactivities/environment_report/webook/2020/book/pdf/all.pdf, p.17, p.18

*8
東日本旅客鉄道株式会社、ENEOS株式会社「鉄道の脱炭素化に向けたCO2フリー水素利用拡大に関する連携協定の締結について~国内初、水素ハイブリッド電車の社会実装に向けた共同検討~」
https://www.eneos.co.jp/newsrelease/upload_pdf/20220525_01_01_2008355.pdf, p.1, p.2

*9
日本経済新聞「JR東日本、国内初の水素車両を公開 30年実用化へ」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC165YE0W2A210C2000000/

*10
東日本旅客鉄道株式会社「水素をエネルギー源としたハイブリッド車両(燃料電池)試験車両製作と実証試験実施について」
https://www.jreast.co.jp/press/2019/20190603.pdf

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