注目を集める「GX(グリーントランスフォーメーション)」に向けた政府や企業による取り組みとは?

グリーントランスフォーメーション(GX:Green Transformation)とは、経済産業省が提唱する成長戦略であり、カーボンニュートラルの実現に向けた経済社会システム全体の変革および取り組みを意味します。

日本は2020年10月、2050年までに国内の温室効果ガス排出量を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル宣言」を発表しました。環境と経済の好循環のためには、温室効果ガス排出量削減に向けた世界的な流れを成長の機会として捉え、産業競争力を高めていくことが必要です[*1]。近年では、GX推進に向けた大規模な投資が政策に盛り込まれるほか、大企業を中心に取り組みがスタートしています。

本記事では、GXが注目されている背景から、政府や自治体、企業におけるさまざまな取り組み事例まで詳しく紹介します。

 

GXが求められている理由

現在、私たちは地球温暖化や大気汚染、森林破壊など様々な環境問題に直面しています。これまで様々な対策がとられてきましたが、持続可能な社会を目指すためには、既存の取り組みにとどまらず、社会や産業構造の仕組み自体を変えることが求められています[*2]。

特に、様々な環境問題と密接に関係する気候変動への対策はGXの中心的なテーマです。2016年にはパリ協定が発効され、脱炭素化に向けた取り組みが世界的に加速する中で、社会や産業構造全体における変革がより一層求められています。

政府によるGX推進に向けた取り組み


日本では2020年10月、2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指し、積極的な温暖化対策と経済成長を両立させていくことが宣言されました[*1, *3], (図1)。

図1: 2050年カーボンニュートラルの実現
出典: 経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(2021)
https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210618005/20210618005-4.pdf, p.6

具体的に、非電力部門においては、省エネの推進、水素エネルギーの活用やCCUS(CO2回収・貯留技術)など新たな技術の普及、電力部門においては再生可能エネルギーのさらなる導入や水素・アンモニア発電の活用などによって実現を目指すとしています。

その流れを受け、同年12月に経済産業省は「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」をまとめ、成長が期待される14の重点分野における実行計画を掲げるなど体制の整備を開始しました[*3], (図2)。

 図2: 「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」で掲げられた成長が期待される14分野
出典: 経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(2021)
https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210618005/20210618005-4.pdf, p.23

さらに、2022年6月に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」では、GXが「重点投資分野」の一つに位置付けられています[*1]。

実行計画では、今後10年間に官民協調で150兆円規模のGX投資を実現するとしており、新たな5つの政策イニシアティブ(構想・戦略)を盛り込むとしています[*4]。

  1. GX経済移行債(仮称)の創設
  2. 規制・支援一体型投資促進策
  3. GXリーグの段階的発展・活用
  4. 新たな金融手法の活用
  5. アジア・ゼロエミッション共同体構想など国際展開戦略

150兆円規模のGX投資を実現するにあたっては、その分の財源が必要となります。新たな国債となるのGX経済移行債(仮称)によって政府資金を先行して調達し、投資効果を最大化する制度的枠組みの創設と併せて、民間長期投資を支援することを検討しています[*4, *5], (図3)。

図3: GX経済移行債(仮称)創設時の投資例
出典: 内閣官房「GX実行会議における議論の論点」(2022)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/dai1/siryou3.pdf, p.12

また、経済社会システム全体の変革のために、GXに取り組む企業群が一体となって議論し、新たな市場を創造する実践の場として、GXリーグの設立を発表しました[*6, *7], (図4)。

図4: GXリーグの全体像
出典: 経済産業省 産業技術環境局 環境経済室「GXリーグ基本構想」
https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/GX-league/gxleague_concept.pdf, p.2

2023年1月31日時点で合計679社の企業が賛同しており、2023年4月以降のGXリーグ本格稼働に向けて動き出しています[*7, *8]。

さらに、GX経済移行債における国の大規模かつ中期的な財政出動等を呼び水として、世界のESG投資(環境・社会・企業統治に配慮している企業を重視・選別して行なう投資)を呼び込むとともに、アジア諸国の脱炭素化を進めるための協力体制強化や、アメリカ等の先進国とのクリーンエネルギー分野のイノベーション協力を進めるとしています[*4]。

 企業や自治体がGXを推進するメリット


企業や自治体は、GXを推進することで脱炭素化という社会全体の課題の解決に貢献できるとともに、GX経済移行債のような公的予算を受けられるようになるほか、消費者に対するブランドイメージの向上や、人材獲得にもつながるメリットが期待されます[*1]。

実際、GXリーグは参画企業に対するインセンティブとして、参画企業の賛同項目や取り組み実施内容をとりまとめ、公表するとしています。また、GXリーグに参画し一定の項目を実践した企業に対しては、補助金やその他の優遇措置など更なる取り組みが検討される見込みです[*7], (図5)。

図5: GX リーグ参画のメリット
出典: 経済産業省 産業技術環境局 環境経済室「GXリーグ基本構想」
https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/GX-league/gxleague_concept.pdf, p.6

 

GX推進に向けた具体的な取り組み事例

企業によるGX推進


大企業によるGXの実施例として、例えば、GXリーグ基本構想に賛同している日産自動車株式会社は、2050年までに事業活動を含む自動車のライフサイクル(原材料の採掘からリサイクルや再利用等廃棄までのサイクル)全体におけるカーボンニュートラルを実現する目標を発表しました[*9]。

2030年以降、主要市場である日本、中国、アメリカ、欧州に投入する新型車をすべて電動車両にすることを目指し、電動化技術と生産技術のイノベーションを進めています。具体的には、コスト競争力の高い効率的なEV開発に向けたバッテリー技術の革新や、車両組み立て時の生産効率を向上させるイノベーションの推進などに取り組むとしています[*10], (図6)。


図6: 日産自動車株式会社における2050年カーボンニュートラル目標
出典: 日産自動車株式会社「日産自動車、2050年カーボンニュートラルの目標を設定」
https://global.nissannews.com/ja-JP/releases/210127-01-j

また、金融業界におけるGX推進支援の取り組みも広がっています。例えば、東京海上日動火災保険株式会社は2021年2月に、産業の成長・発展に貢献することを目指す「グリーン・トランスフォーメーション(GX)タスクフォース」を設置し、保険の開発・提供やリスクコンサルティングを通じて顧客のカーボンニュートラルの実現等に向けた取り組みを支援しています[*11]。 

タスクフォースでは、国内洋上風力発電産業の普及促進に資する保険や、水素活用の促進等に関する保険などの商品開発を進め、GX推進に係るサービスの提供をスタートさせています。

例えば、国内部門においてCO2排出割合が高い物流業界では、脱炭素化およびEVトラックの導入が進む一方で、EVトラックの導入を検討する運送事業者は「電欠(ガソリン車でいうガス欠のこと)」のトラブル対応にかかる費用負担が懸念事項にありました。

東京海上日動は2022年に、EVトラックを開発・販売する自動車メーカーや、EVトラックを保有する運送事業者に対し、車両トラブルへの対応にかかる各種費用を補償する保険の提供開始を発表しました。電欠による車両走行不能時に代替輸送費用を補償する保険はは国内初です[*11, *12]。

このように、自社の直接的なカーボンニュートラル実現だけでなく、他社へのサービスの提供によって間接的にGX推進に取り組む企業も増えてきています。

自治体によるGX推進


GXは大企業のみならず、地域経済を支える中小企業にも求められており、それらと密接に関係する自治体にも各種支援を実施することが求められています[*13]。

具体的には、設備投資などにかかる資金の助成制度の創設や、官民連携によるプロジェクトの組成、脱炭素に対応するための経営支援などが考えられます。

行政におけるGXの先進事例としては、愛知県豊田市(令和2年からは一般社団法人里モビニティが実施)による中山間地域における超小型電気自動車のリース事業が挙げられます。

中山間地域では過疎化の影響により公共交通サービスの維持が困難なため、自家用車の移動が欠かせない一方で、買い物など生活圏への移動は数キロ~十数キロとなるため、シニアカー(電動車いす)などでは困難な状況があります。また、最寄りのガソリンスタンドへの距離も離れていることが多く、自宅で充電できる超小型モビリティが適している場合があります[*14]。

豊田市は、高齢者を中心に中山間地域で暮らす人々に対し、超小型電気自動車をリースすることで自立した安心・安全な移動を支援するとともに、中山間地域における移動の課題解決とともにガソリンを使わない移動手段への移行およびカーボンニュートラルなまちづくりを進めています[*14], (図7)。


図7: 一般社団法人里モビニティがリースする超小型電気自動車
出典: 国土交通省自動車局「地域から始める超小型モビリティ導入ガイドブック 第2部 先行導入の事例紹介」
https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001445361.pdf, p.27

また、浜松市ではGX推進の補助事業として、「浜松市中小企業等グリーントランスフォーメーション支援補助金」の申請受付を開始しています。原油価格や物価高騰の影響によるコスト増に直面している中小企業者が、カーボンニュートラル対応に取り組むための支援を目的としており、CO2排出量等の見える化や、LED等導入、省エネ機器導入などへの補助金交付を行っています[*15]。

このように、自治体が主体となって実施される事業や、中小企業等への支援の取り組みも広がっています。

 

まとめ

以上のように、国内でもGX推進に向けた動きが既に始まっています。政府はGX経済移行債や海外との連携など様々な取り組みを政策に盛り込んでおり、取り組みはますます加速することが予想されます。

今後は地域の中小企業などを含め、より多くの事業者が関わることのできるような体制が作られると、GXがより進むと考えられます。

 

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参照・引用を見る

*1
ツギノジダイ「グリーントランスフォーメーション(GX)とは 取組事例・経産省の戦略を解説」
https://smbiz.asahi.com/article/1472099

*2
株式会社日立製作所 社会イノベーション「注目集まる『グリーントランスフォーメーション(GX)』 企業に求められることは」
https://social-innovation.hitachi/ja-jp/article/green_transformation/

*3
経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(2021)
https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210618005/20210618005-4.pdf, p.6, p.23

*4
内閣官房「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 ~人・技術・スタートアップへの投資の実現~~人・技術・スタートアップへの投資の実現~」(2022)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/ap2022.pdf, p.20, p.21 

*5
内閣官房「GX実行会議における議論の論点」(2022)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/dai1/siryou3.pdf, p.12 

*6
経済産業省「GXリーグ基本構想」
https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/GX-league/gx-league.html 

*7
経済産業省 産業技術環境局 環境経済室「GXリーグ基本構想」(2022)
https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/GX-league/gxleague_concept.pdf, p.2, p.6

*8
GXリーグ「MEMBER」
https://gx-league.go.jp/member/ 

*9
日産自動車株式会社「経済産業省『GXリーグ基本構想』への賛同について」
https://global.nissannews.com/ja-JP/releases/220331-01-j 

*10
日産自動車株式会社「日産自動車、2050年カーボンニュートラルの目標を設定」
https://global.nissannews.com/ja-JP/releases/210127-01-j 

*11
東京海上日動火災保険株式会社「『グリーン・トランスフォーメーション(GX) タスクフォース』の設置について」(2021)
https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/company/release/pdf/210201_01.pdf, p.1, p.2 

*12
東京海上日動火災保険株式会社「【国内初】『電欠リスク等に起因する代替輸送費用を補償する保険』の提供開始」(2022)
https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/company/release/pdf/220915_01.pdf

*13
ジチタイワークス「GX(グリーントランスフォーメーション)とは?自治体に求められる脱炭素を解説」
https://jichitai.works/article/details/1398 

*14
国土交通省自動車局「地域から始める超小型モビリティ導入ガイドブック 第2部 先行導入の事例紹介」https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001445361.pdf, p.27

*15
浜松市「浜松市中小企業等グリーントランスフォーメーション支援補助金について」
https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/sangyosomu/gx.html

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