持続可能な航空燃料「SAF」とは? 導入のメリットと国産化に向けた今後の展望

多くの人やモノを運ぶことができる飛行機。便利な輸送手段である一方で、一度のフライトで大量のエネルギーを消費するため、従来の航空燃料は、鉄道やバスなどの交通手段と比較して輸送量当たりのCO2排出量が多いという課題がありました[*1]。

そこで近年では、燃料のCO2削減を目指し、「SAF(持続可能な航空燃料)」と呼ばれる次世代航空燃料を導入する動きが国内外で活発化しています。

それでは、SAFとはどのような航空燃料なのでしょうか。その概要と国産化の動向、普及に向けた今後の課題や展望について詳しくご説明します。

 

航空機の環境負荷

2020年度の国内における航空機の運輸部門に占めるCO2排出割合はわずか2.8%で、あまり多くないと感じるかもしれません[*1]。

しかしながら、航空機の輸送量(人キロ:輸送した人数に輸送した距離を乗じたもの)当たりのCO2排出量は133gと、航空機はバスや鉄道よりも多く、環境負荷が大きい輸送手段です[*1], (図1)。

図1: 輸送量あたりのCO2排出量(2020年度)
出典: 国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_tk_000007.html

また、2019年度の国内航空会社による燃料消費量は、国内航空が419万キロリットル、国際航空が605万キロリットルでした。消費量に対するCO2排出量を見ると、国内航空では約1,000万トン、国際航空では約1,500万トンとなっており、燃料由来のCO2排出量削減が求められます[*2]。

 

SAFとは

従来の航空燃料として使われている燃料には、ジェット燃料や航空ガソリンがあり、これらはほとんど石油から作られているため、製造や使用時にCO2が排出されます。

そこで近年、クリーンな燃料として注目を集めているのが、「SAF(Sustainable Aviation Fuel)」です[*3]。

SAFとは、様々なバイオマス資源を原料とする持続可能な航空燃料のことであり、航空業界の脱炭素化手法の一つとして導入が進められています。国際的な工業規格であるASTM規格を取得したSAFは既存のジェット燃料と同じとみなされ、既存インフラで使用することができます[*3], (表1)。

表1: SAFとは

出典: 株式会社三井住友銀行「持続可能な航空燃料(SAF)国産化に向けた取組と事業機会」
https://www.smbc.co.jp/hojin/report/investigationlecture/resources/pdf/3_00_CRSDReport124.pdf, p.4

 

SAFの原料と製造方法

SAFは木質バイオマスや廃食油、都市ごみ、藻類など多様なバイオマス資源から製造することが可能です[*2], (図2)。

図2: SAFの主な原料
出典: 国土交通省 航空局「航空分野におけるCO2削減の取組状況」
https://www.mlit.go.jp/common/001403136.pdf, p.11

既に様々な製造技術が研究開発され、海外では実用化されているものもあります[*3], (表2)。

表2: 主なSAFの製造技術

出典: 株式会社三井住友銀行「持続可能な航空燃料(SAF)国産化に向けた取組と事業機会」
https://www.smbc.co.jp/hojin/report/investigationlecture/resources/pdf/3_00_CRSDReport124.pdf, p.4

例えば、都市ごみや廃木材を主な原料とする「ガス化・FT合成」は、原料をガス化して得られる合成ガスをフィッシャー・トロプシュ合成(一酸化炭素と水素の混合物から合成油を作る方法)で燃料に転換する技術です[*4]。

アメリカに本拠を置くFulcrum社は既に商用化に成功しており、年間17万5,000トンの都市ごみを約4.2万キロリットルの合成原油に転換し、SAFなどを生産しています。

また、水素化処理とは、廃食油や植物油などの成分を水素化することで燃料を製造する技術のことです。フィンランドにあるNeste社や、アメリカにあるWorld Energy社などが既に実用化しており、航空会社へSAF供給を行っています。

 

SAFにおける3つのメリット

CO2排出量の削減

SAF導入のメリットの一つ目は、既存の航空燃料よりもCO2排出量を削減できるという点です[*2]。

導入するSAFの種類によって異なりますが、国土交通省の試算では、既存の航空燃料にSAFを50%混合した場合、混ぜたSAFのCO2削減率が50~80%だとすると、通常のフライトと比較して約20~30%程度のCO2削減が可能です[*2], (図3)。

図3: SAF導入によるCO2削減効果
出典: 国土交通省 航空局「航空分野におけるCO2削減の取組状況」
https://www.mlit.go.jp/common/001403136.pdf, p.12

現在、国内でSAFを使用する場合には既存の燃料と混ぜる必要がありますが、将来的にはSAF混合比率の上限が取り払われる可能性もあります。純粋なSAFの活用によって、CO2削減効果が高まり、更なる環境負荷低減につながると言えます。

既存インフラの変更が不要

メリットの二つ目は、SAFは既存の航空燃料と同じとみなされるため、既存インフラに変更を加えずそのまま使用できるという点です[*3]。

クリーンな航空燃料として、自動車と同様に水素を燃料に使える可能性はありますが、その場合には、水素専用のジェットエンジンを開発するなど、新たなインフラの構築が必要になります[*5]。

一方、SAFは従来の航空燃料と同じ構造の液体燃料であり、同じ取り扱いが可能です。既存の航空機の燃料タンクにそのまま入れて使うことができます。

国産化によって燃料の安定供給を実現

国内でSAF製造を実現できれば、海外からの輸入に頼らない安定したエネルギー源の確保につながります[*5]。

2019年度における日本のエネルギー自給率(国民生活や経済活動に必要な一次エネルギーのうち、自国内で産出・確保できる比率)はわずか12.1%と、大部分を海外に依存しています[*6]。

特に、航空燃料の原料となる原油は、その自給率が1970年頃から2020年度に至るまで継続して0.5%未満の水準にあります[*7]。

エネルギー源を海外に依存し過ぎると、国際情勢が大きく変化した際に継続的にエネルギーを輸入できなくなるといった問題が発生します[*8]。

国内でも生産可能なSAFは、海外に依存しない安定したエネルギー源の一つとして期待されています。

SAF普及に向けた国内外の動向

航空業界では、国内外において脱炭素化に向けて様々な目標が設定されています。例えば、ICAO(国際民間航空機関)は、(1)毎年2%燃料効率を改善する、(2)2020年以降国際航空からの総排出量を増加させないなどの国際的な目標を設定しています[*2]。

目標達成に向けてICAOは、運航方式の改善や新技術の導入等に加え、SAFなどの持続可能な航空燃料の積極的な導入を各航空会社に求めています[*9], (図4)。

図4: 国際航空からのCO2排出量予測と排出削減目標のイメージ
出典: 経済産業省製造産業局 航空機武器宇宙産業課「航空機産業におけるグリーン成長戦略~航空機電動化への期待~」
https://www.aero.jaxa.jp/news/event/pdf/event211102/program01.pdf, p.3

国内においても、国土交通省が2021年に、2030年時点のSAF使用量について、国内航空会社による燃料使用量の10%をSAFに置き換えると発表しています[*10]。

SAF国産化の動き

海外と比較してSAF製造技術で遅れを取っている日本ですが、近年では、国内でもSAF国産化に向けた動きが加速しています。

例えば、新エネルギー・産業技術総合開発機構は2021年6月に、木くずを原料とした燃料の生産技術開発に取り組む三菱パワー株式会社や、微細藻類(微細な植物プランクトン)を原料に燃料の生産技術開発を進める株式会社IHIなどと連携して、それぞれの技術から完成したSAFを国内航空会社に供給開始したと発表しました[*11]。

木くずから製造されたSAFは、東京国際空港から新千歳空港を結ぶ日本航空515便で2021年6月から使用されています。また、微細藻類から製造されたSAFは、日本航空515便および東京国際空港から大阪国際空港を結ぶ全日本空輸031便で使用されています。

さらに、2022年3月には、全日本空輸株式会社や日本航空株式会社、プラント建設の日揮ホールディングス株式会社など16社が連携し、SAF国産化に向けた新たな団体「ACT FOR SKY」を立ち上げました。今後は、安定的な原料の調達など国産SAFの普及に向けた諸課題に、オールジャパンで取り組んでいくとしています[*12]。

SAF国産化に向けた今後の展望

更なるSAFの国産化推進にあたっては、サプライチェーン構築にかかわる課題が山積しています[*3], (図5)。

図5: SAFサプライチェーン構築に向けた課題
出典: 株式会社三井住友銀行「持続可能な航空燃料(SAF)国産化に向けた取組と事業機会」
https://www.smbc.co.jp/hojin/report/investigationlecture/resources/pdf/3_00_CRSDReport124.pdf, p.11

例えば、国内に存在するバイオマス資源すべてをSAFに使用した場合、1,312万キロリットル分製造できるポテンシャルはありますが、2050年の国内SAF需要見込みは2,300万キロリットルと、明らかに足りません。また、木質バイオマスのような原料は既にバイオマス発電などに利用されており、国内にあるバイオマス資源すべてをSAFに活用することは困難です。そのため、どのように原料を安定的に確保するかが課題と言えます。

また、国内では、水素化処理技術を使った廃食油由来SAFの商用化が2025年頃とされ、価格が既存の航空燃料並みまで落ち着くには時間がかかるとされています。今後は、一般的に活用できるよう製造コストの引き下げが重要です。

さらに、連産品の販売先確保も重要です。SAFを製造すると、同一工程でバイオディーゼル等の連産品が生まれます。それら連産品の販路確保も併せたサプライチェーンの構築は、SAF製造業者の収益の増加につながります。

以上のように、SAFの実用化に向けた課題はまだまだ多くあります。今後は、製造技術の開発だけでなく、サプライチェーン全体における課題に取り組むことが国産化したSAF普及のカギと言えるでしょう。

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参照・引用を見る

*1
国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_tk_000007.html

*2
国土交通省 航空局「航空分野におけるCO2削減の取組状況」
https://www.mlit.go.jp/common/001403136.pdf, p.4, p.11, p.12

*3
株式会社三井住友銀行「持続可能な航空燃料(SAF)国産化に向けた取組と事業機会」
https://www.smbc.co.jp/hojin/report/investigationlecture/resources/pdf/3_00_CRSDReport124.pdf, p.4, p.6, p.11, p.12, p.13, p.14

*4
一般財団法人 石油エネルギー技術センター「持続可能な航空燃料(SAF)の動向」
https://www.pecj.or.jp/wp-content/uploads/2022/04/JPEC_report_No.220401.pdf, p.4, p.5

*5
株式会社朝日新聞社「SAF(持続可能な航空燃料)とは?特徴や製造方法、開発企業を紹介」
https://www.asahi.com/sdgs/article/14689855

*6
資源エネルギー庁「日本のエネルギー 2021年度版 『エネルギーの今を知る10の質問』」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/energy2021/001/

*7
資源エネルギー庁「エネルギーに関する年次報告」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2022/pdf/whitepaper2022_all.pdf, p.82

*8
資源エネルギー庁「2020-日本が抱えているエネルギー問題(前編)」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energyissue2020_1.html

*9
経済産業省製造産業局 航空機武器宇宙産業課「航空機産業におけるグリーン成長戦略~航空機電動化への期待~」
https://www.aero.jaxa.jp/news/event/pdf/event211102/program01.pdf, p.3

*10
環境省環境再生・資源循環局「持続可能な航空燃料(SAF)について」
https://www.env.go.jp/content/000044157.pdf, p.2, p.6

*11
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「木くずや微細藻類から製造した持続可能な代替航空燃料を定期便に供給」
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101442.html

*12
NHK「世界で争奪戦 航空燃料『SAF』  国産化の動きとは?」
https://www3.nhk.or.jp/news/special/sakusakukeizai/20220304/474/

 

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