温室効果ガス排出量を「見える化」するカーボンフットプリント その方法と国内外での取り組みとは

カーボンフットプリントとは、商品やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルまでのライフサイクル全般で排出された温室効果ガスの量をCO2量に換算し、「見える化」する取り組みのことです[*1]。

イギリスで2007年にカーボンフットプリントに関する制度が先行的に導入されて以降、欧米やアジアでその取り組みが開始されるなど、温室効果ガス排出量を削減するツールの一つとして国際的に注目を集めています。

それでは、カーボンフットプリントとは具体的にどのような取り組みなのでしょうか。また、日本と海外ではどのような取り組みが行われているのでしょうか。詳しくご説明します。

 

カーボンフットプリント導入のメリット

カーボンフットプリントの導入は、商品やサービスのライフサイクル全体の温室効果ガス排出量を定量的に把握し、その結果を表示することで、事業者と消費者の双方にメリットがあります[*2], (図1)。

図1: カーボンフットプリントの全体像
出典: 一般社団法人 サステナブル経営推進機構「CFPとは」
https://www.cfp-japan.jp/about/

まず、事業者にとっては、カーボンフットプリントを把握することによって効果的・具体的な温暖化対策がしやすくなるだけでなく、低炭素を新たな評価軸として消費者へアピールすることで業績向上が期待できます。
また、消費者にとっては、環境に対する意識が高まり、より低炭素な商品やサービスを選択することによって低炭素社会の構築に貢献することができます。

事業者と消費者の間でCO2排出量削減行動に関する「気づき」を共有することで、双方による温室効果ガス排出量の削減につながります。

海外におけるカーボンフットプリント導入の動き

  
カーボンフットプリントは欧州を中心に、北米、アジアなどの地域で世界的に広がっています。例えば、イギリスでは世界でいち早く、2006年12月から政府出資の非営利企業カーボントラスト社が算定方法の構築に取り組んでいます。2007年5月には共通規格である「PAS2050」の開発に着手し、2008年10月末に完成させました[*3, *4]。

カーボンフットプリントを導入したい事業者は、PAS2050に基づきカーボンフットプリント算定を行います。商品パッケージ等への表示を行う場合には、カーボントラスト社による表示内容の検証後、表示ができるようになります[*4], (図2)。

図2: Tesco社オレンジジュースのラベル表示内容
出典: 一般社団法人 サステナブル経営推進機構「イギリスの動向」
https://www.cfp-japan.jp/ministry/uk.html

アジア諸国においても、カーボンフットプリントの導入が進んでいます。例えば、韓国では、「Cool Label」と呼ばれるラベルを用いて2008年から認証を開始しています[*5], (図3)。

図3: Cool Labelにおいて認証された製品事例
出典: 一般社団法人 サステナブル経営推進機構「韓国の動向」
https://www.cfp-japan.jp/ministry/korea.html

2008年には、航空サービスやガスボイラーを含む10種類の製品についてパイロット認証が実施されるなど、幅広い分野で認証が推進されています。

日本におけるカーボンフットプリント事業の動向

  
日本においては、2008年に政府が発表したビジョンの中で「CO2の見える化」の具体例としてカーボンフットプリントの推進が示され、2009年度から政府主導による「カーボンフットプリント制度施行事業」がスタートしました[*6, *7]。

2012年には、地球温暖化負荷のみを対象として宣言を行う「カーボンフットプリントコミュニケーションプログラム」として民間移行し、2015年には登録件数が1,000件となりました。同プログラムには、エネルギー使用製品から生活用品、食品など様々な分野の企業が参加しています。その後、「エコリーフ環境ラベル」制度と統合し、「SuMPO環境ラベルプログラム」と名称が変更されています。2022年4月以降に国内でカーボンフットプリント認証を受けるには、このプログラムを通じて宣言を行う必要があります[*7, *8, *9]。

 

SuMPO環境ラベルプログラムとは

「SuMPO環境ラベルプログラム」とは、一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO)が運営する、製品・サービスのライフサイクル全体における環境負荷を定量的に開示するプログラムのことです。国際規格に基づき、信頼性・透明性を確保した運営を実施しており、CO2排出量の算定と宣言の基本ルールである「PCR(Product Category Rule)」の策定・認定・公開や、算定結果および公開情報の検証等を行っています[*8]。

「SuMPO環境ラベルプログラム」には、2種類あります。気候変動や海洋酸性化、富栄養化など複数の環境問題への影響を定量化し、その結果を公開する「エコリーフ」と、気候変動のみを対象として影響を定量化し、周知する「カーボンフットプリント(CFP)」です。事業者は目的に応じて宣言の種類を選択します[*8, *10], (表1)。

表1: 「SuMPO環境ラベルプログラム」における宣言の種類出典: 一般社団法人 サステナブル経営推進機構「SuMPO環境ラベルプログラムの概要」
https://ecoleaf-label.jp/about/k0sc7i000000005k-att/JapanEPDbySuMPO_Briefing_220428-2.pdf, p.4

「エコリーフ」は宣言の際に3つ以上の対象領域を選定し、開示する必要があるのに対し、「カーボンフットプリント(CFP)」は気候変動のみを対象としているため、事業者・消費者双方にとって認証工程がシンプルなものとなっています[*10]。

事業者がカーボンフットプリントの宣言を公開するまでのステップとしては、はじめに「PCR(Product Category Rule):製品カテゴリールール」を選定する必要があります[*10], (図4)。

図4: 「SuMPO環境ラベルプログラム」における宣言までの手順
出典; 一般社団法人 サステナブル経営推進機構「SuMPO環境ラベルプログラムの概要」
https://ecoleaf-label.jp/about/k0sc7i000000005k-att/JapanEPDbySuMPO_Briefing_220428-2.pdf, p.3

PCRとは、製品種別の算定と宣言の基本ルールのことです。製品によって製造過程等が異なるため、PCRは製品カテゴリーごとに算定・宣言のルールが細分化されています。また、新製品など既存の製品カテゴリーがない場合には、事業者は定められた手続きによって新たなPCR原案のレビューを受ける必要があります[*11]。

PCR選定後、事業者は算定ツールを用いて製品の環境影響を算定するとともに、「エコリーフ」か「カーボンフットプリント(CFP)」のどちらで登録するかを選択します。検証に合格すると、登録公開申請を行うことで、製品パッケージなどにマークを使用することができるようになります[*10]。

 

カーボンフットプリントの算定方法

「SuMPO環境ラベルプログラム」を通じてカーボンフットプリント認証を取得する場合には、同プログラムに規定されたLCA(ライフサイクルアセスメント)の手法を用いてカーボンフットプリントを算定することが求められています[*10]。

LCAとは、製品やサービスのライフサイクル全般において投入される資源、排出される環境負荷物質および、それらによる地球や生態系への環境影響を定量的に評価する手法のことです[*10], (図5)。

図5: LCA(ライフサイクルアセスメント)とは
出典: 一般社団法人 サステナブル経営推進機構「SuMPO環境ラベルプログラムの概要」
https://ecoleaf-label.jp/about/k0sc7i000000005k-att/JapanEPDbySuMPO_Briefing_220428-2.pdf, p.5

カーボンフットプリントを算定する場合には、CO2やメタンなど温室効果ガスが発生する原材料投入や生産活動を明らかにし、ライフサイクル全体における活動量(電力消費量や原料使用量など)を特定します。そして、様々な生産活動等の活動単位量当たりの温室効果ガス排出量が掲載されているデータベース「IDEA」を活用して、原単位と活動量を乗じることによって、ライフサイクル全体の温室効果ガス排出量を算定することができます。

 

国内におけるカーボンフットプリント導入事例

国内ではすでに、「SuMPO環境ラベルプログラム」や前身の「カーボンフットプリントコミュニケーションプログラム」による認証を受けた製品が数多くあります。例えば、日本ハム株式会社が販売する「森の薫りR」シリーズのハム、ベーコンは、「カーボンフットプリントコミュニケーションプログラム」宣言認定を受けており、商品にカーボンフットプリント・マークを表示しています[*12], (図6)。

図6: 森の薫りRロースハムライフサイクルイメージ
出典: 日本ハム株式会社「ライフサイクルアセスメントの実施」
https://www.nipponham.co.jp/csr/environment/climate/lca.html

図6のように「森の薫りRロースハム」においては、ライフサイクル全体でどれほどCO2が排出されているのかマークとして表示するとともに、各プロセスにおいてどれほどのCO2が排出されているのか、消費者に分かりやすい情報を自社のホームページで公開しています。

また、「SuMPO環境ラベルプログラム」以外で、独自にカーボンフットプリント表示を推進している企業もあります。例えば、コープさっぽろは、原料調達から販売までのCO2排出量を独自に測定し、商品に表示しています[*13], (図7)。

図7: コープさっぽろによるカーボンフットプリント表示の推進
出典: コープさっぽろ「コープさっぽろの取組」
https://www.sapporo.coop/corporate/content/?id=27

店舗やカタログにおいて様々な商品のカーボンフットプリントを表示することで、同じ商品カテゴリーの中で環境への負荷を比較しやすくなり、消費者がより環境に優しい商品を選択しやすくなります[*13], (図8)。

図8: お米のカーボンフットプリント比較
出典: コープさっぽろ「コープさっぽろの取組」
https://www.sapporo.coop/corporate/content/?id=27

 

海外における先進的な取り組み

海外でも、様々な機関によってカーボンフットプリント認証が行われており、さらに進んだ取り組みとして、ECサイト上で消費者がカーボンフットプリント商品を購入しやすい仕組みが構築されています。

例えば、ニューヨークに拠点を置く民間団体のCarbonfundによって運営されている「CarbonFree Product Certification」というカーボンフリー認証事業においては、2013年2月時点でインスタントコーヒーや缶ジュース、冷蔵庫、携帯電話など計109件もの製品が認証を受けており、消費者が認証を受けた商品をさらに購入しやすくするために、AmazonやWayfairのようなECサイトとの連携を行っています[*14, *15]。

Amazonが実施する「Climate Pledge Friendly Program」は、カーボンフットプリント削減などの認証を受けた製品に「Climate Pledge Friendlyラベル」が表示されるプログラムのことで、消費者がAmazonで環境に優しい製品を購入しやすくする仕組みです[*16]。

「CarbonFree Product Certification」を含む18の外部認証プログラムまたはAmazon独自の認証制度「コンパクト・バイ・デザイン」の認証を受けることでプログラムに参加することができ、2021年時点で75,000点以上の製品にラベルが表示されています[*16, *17], (図9)。

図9:「Climate Pledge Friendly Program」における19の認証プログラム
出典: Amazon「Amazon launches “Climate Pledge Friendly” program」
https://www.aboutamazon.com/news/sustainability/amazon-launches-climate-pledge-friendly-program

また、家具や家庭用品を販売するEC企業Wayfairにおいても、50以上もの第三者認証プログラムによって認証された数千の商品が並び、消費者が持続可能な製品を購入しやすい買い物システムを構築しています。[*18]。

ECサイト上では「CarbonFree Product Certification」のほかに、、「Carbon Trust」や「ClimatePartner」など様々な団体によるカーボンフットプリント認証を受けた商品を購入することが可能です。
このように海外では消費者がより身近にカーボンフットプリント認証商品を購入できるような仕組みが構築されています。

 

国内での更なる普及のカギは?

国内でも既に多くの事業者によってカーボンフットプリント認証の取得が実施されています。定量的に環境負荷を可視化するカーボンフットプリントは、消費者が製品のCO2排出量を簡単に把握できるツールとして今後もさらに重要性が高まると言えます。また、出品者に対し、将来のために環境に良く持続可能な製品を開発・販売するように働きかける役割もあります。

更なる普及に向けては、商品ごとのCO2排出量を比較できるように小売店舗やECサイトを改良するなど、消費者がカーボンフットプリント商品を購入しやすい買い物の環境づくりがカギと言えるでしょう。

 

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参照・引用を見る

*1
一般財団法人 日本品質保証機構「エコリーフ/カーボンフットプリント(CFP)」
https://www.jqa.jp/service_list/environment/service/cfp/footprint.html

*2
一般社団法人 サステナブル経営推進機構「CFPとは」
https://www.cfp-japan.jp/about/

*3
一般社団法人 サステナブル経営推進機構「海外の動向」
https://www.cfp-japan.jp/ministry/index2009.html

*4
一般社団法人 サステナブル経営推進機構「イギリスの動向」
https://www.cfp-japan.jp/ministry/uk.html

*5
一般社団法人 サステナブル経営推進機構「韓国の動向」
https://www.cfp-japan.jp/ministry/korea.html

*6
稲葉 敦「カーボンフットプリントの現状と展望」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/lca/5/2/5_220/_pdf/-char/ja, p.223

*7
一般社団法人 サステナブル経営推進機構「プログラムの歴史」
https://ecoleaf-label.jp/about/history.html

*8
一般社団法人 サステナブル経営推進機構「環境ラベルプログラム」
https://sumpo.or.jp/program/index.html

*9
一般社団法人 サステナブル経営推進機構「プログラムの登録公開状況(2020年3月31日現在)」
https://www.cfp-japan.jp/common/data_news/000968/1592894439.pdf, p.2

*10
一般社団法人 サステナブル経営推進機構「SuMPO環境ラベルプログラムの概要」
https://ecoleaf-label.jp/about/k0sc7i000000005k-att/JapanEPDbySuMPO_Briefing_220428-2.pdf, p.3, p.4, p.5, p.6

*11
一般社団法人 サステナブル経営推進機構「製品カテゴリールール認定規程(総則、要求事項、手順)」
https://ecoleaf-label.jp/regulation/k0sc7i00000000ca-att/JR-06-08_PCRCertificationRules.pdf, p.3

*12
日本ハム株式会社「ライフサイクルアセスメントの実施」
https://www.nipponham.co.jp/csr/environment/climate/lca.html

*13
コープさっぽろ「コープさっぽろの取組」
https://www.sapporo.coop/corporate/content/?id=27

*14
経済産業省「海外事例の調査結果」
https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sangi/carbon_neutral/pdf/003_07_00.pdf, p.1

*15
Carbonfund「Carbonfree Product Certification」
https://carbonfund.org/carbonfree-product-certification/

*16
Amazon「Amazon launches “Climate Pledge Friendly” program」
https://www.aboutamazon.com/news/sustainability/amazon-launches-climate-pledge-friendly-program

*17
Digiday Media「Amazon’s Climate Pledge Friendly badges are off to a slow start」
https://www.modernretail.co/retailers/amazons-climate-pledge-friendly-badges-are-off-to-a-slow-start/

*18
Wayfair「Shopping All Things Home, Sustainably」
https://www.aboutwayfair.com/shop-sustainably

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