「グリーンリカバリー」とは?  注目を集める背景と国内外の動向

2020年以降、多くの暮らしに大きな打撃を与えている新型コロナウイルス感染症。人々の生活様式が大きく変わるなかで、ロックダウンや自粛による経済への影響も深刻化しました。

こうした景気の後退に対して、各国は経済復興の施策を実施していますが、同時に、温室効果ガス排出量を抑える取り組みなど、環境に配慮した政策が求められています。

そこで登場したのが、「グリーンリカバリー」と呼ばれる経済刺激策です。国内外ではどのような取り組みが行われているのでしょうか。詳しくご説明します。

 

グリーンリカバリーとは

グリーンリカバリーとは、コロナ禍からの経済復興にあたり、環境に配慮した回復を目指す景気刺激策のことです。これまでの大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済に復興するのではなく、脱炭素化や循環型の社会を目指すための投資を行うことで復興を目指しています[*1]。

現在、欧米を中心に広がりを見せている施策で、イギリスの研究機関VIVID ECONOMICSによると、主要国の経済刺激策に投じられる資金総額11.4兆ドルのうち、3.5兆ドルが環境を重視した投資とされています[*2]。

グリーンリカバリーの推進によって、45億トンもの温室効果ガス排出量を削減できるといいます。また、環境への配慮にとどまらず、社会の繁栄や雇用の創出の面でも効果が見込まれます。2020年6月に国際エネルギー機関が発表した報告書によると、持続可能性を重視した施策に3年間で3兆ドルを投じれば、世界のGDP成長率を年平均で1.1%ポイント増加させる効果があるとされています。また、グリーンリカバリーによって新たに生まれる雇用は、900万人の規模に及びます。

グリーンリカバリーが求められる背景

  
経済復興に伴う脱炭素の取り組みがなぜ重要なのでしょうか。実は、コロナ禍のロックダウンによって、CO2排出量が大幅に減少したという報告が世界各地から相次ぎました。実際に、2020年のCO2削減量は2.6ギガトンで、前年比8%減と推測されるなど、生活の自粛によるCO2削減量は相当なものでした[*3], (図1)。

図1: 世界のCO2排出量の推移と今後の予測
出典: 東京大学先端科学技術研究センター、東北大学金属材料研究所、東北大学産学連携先端材料研究開発センター「『アフターコロナのグリーンリカバリー』~2050年温室ガス実質ゼロへ~」
https://www.env.go.jp/seisaku/list/ondanka_saisei/lowcarbon-h2-sc/overseas-trend/PDF/shiryou00.pdf, p.4

CO2排出量自体は減少しましたが、今後経済復興に向けた取り組みのなかで、CO2排出量が再び増加する懸念もあります。例えば2008年秋に発生したリーマンショックでは、製造業を中心に世界的に需要が急減したため、2009年の世界のCO2排出量はコロナ禍と同様に大きく減りました[*4]。

しかしながら、リーマンショックからの脱却を目指す各国の景気対策や経済活動の再開によって、2010年はCO2排出量が急増し、前年より17億トン増えるという事態を招きました。

このようなリバウンドを避けるために、経済復興と脱炭素化を両立するグリーンリカバリーが求められています。

グリーン経済、グリーン成長とグリーンリカバリーの関係性

  
グリーンリカバリーは、コロナ禍以前に提唱された「グリーン経済」や「グリーン成長」といった国際的な経済のあり方とも合致しています[*5]。

グリーン経済とは、2011年に国連環境計画が公表した報告書に用いられた考え方で、「環境問題に伴うリスクと生態系の損失を軽減しながら、人間の生活の質を改善し社会の不平等を解消するための経済のあり方」のことです。

一方、グリーン成長とは、2011年に経済協力開発機構が公表した報告書において打ち出された考え方で、「私達の暮らしを支えている自然環境の恵みを受け続けながら、経済成長を実現する考え方」のことです。

このように、環境と経済を両立した社会システムへの移行が求められるなか、コロナ禍からの経済復興においても、持続可能な社会への転換を目指しながら景気の立て直しを図ろうとするグリーンリカバリーは、世界の潮流とも合致していると言えます。

 

海外におけるグリーンリカバリー動向

海外では、欧州を中心にグリーンリカバリーが積極的に推進されています。例えば、EUでは、欧州委員会が2021年~2027年の次期中期予算の一環として、コロナ禍の打撃を受けた加盟国支援のため、7,500億ユーロ(約89兆円)の復興基金「次世代EU」設置を発表し、2020年7月に合意しました[*2, *6]。

復興基金の財源は、EU名義の債権を欧州委員会が発行し、市場から調達するとしており、経済効果だけでなく、環境配慮などEUの優先施策に合致した加盟国の取り組みを評価し、資金援助を行っています[*6]。

欧州各国の取り組みを見ると、例えばイギリスでは、クリーンエネルギーや輸送、自然、革新的な技術など10項目の計画を含む「グリーン産業革命」と呼ばれるグリーンリカバリーの具体策が発表されました[*7]。

当計画は、2050年までに温室効果ガスの純排出ゼロの目標達成に貢献するものとし、総額120億ポンド(約1兆6,560億円)の投資を行い、最大25万人の雇用を創出するとしています。特にEVについては、ガソリン車とディーゼル車の新車販売禁止を2030年までに実現するとしました。また、洋上風力についても、2030年までに発電量を現在の4倍の40ギガワットに引き上げるとしています。

ドイツでは、EUのグリーンリカバリー路線に歩調を合わせた施策を行っています。2020年6月には、総額1,300億ユーロの景気刺激策を公表しました。57項目の景気対策のうち、16項目が電力、エネルギー転換、気候変動対策に関連しています[*8]。

具体的な取り組みとしては、2021年末までの2年間に限り、EVとプラグイン・ハイブリッド車(外部充電機能を追加し、電気だけで走れる距離を大幅に長くしたハイブリッド車)を購入する市民への新車購入補助金の引き上げや、公共施設のEV充電インフラの整備、EV用バッテリー生産施設構築に向けた25億ユーロの資金投入などです。

また、ドイツ政府は水素エネルギーの実用化についても積極的に推進しています。2020年6月には、「国家水素エネルギー戦略」を発表し、バスやトラック、船舶の燃料や、製造業などでのエネルギー源として水素を活用することで、CO2排出量の削減を目指しています。政府はこのプロジェクトに90億ユーロ投じると発表するなど、経済復興に合わせた脱炭素化が進められています。

 

国内におけるグリーンリカバリー動向

国内でも、アフターコロナにおける取り組みとして、持続可能な社会の実現に向けた取り組みが進んでいます。2020年12月、日本政府は「グリーン成長戦略(2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略)」と呼ばれる、経済と環境の好循環をつくるための産業政策を打ち出しました[*5]。

グリーン成長戦略では、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、温室効果ガス排出量削減および産業としての成長が期待できる分野として、14の重要分野を設定しています[*9], (図2)。

図2: グリーン成長戦略「実行計画」の14分野
出典: 資源エネルギー庁「カーボンニュートラルに向けた産業政策“グリーン成長戦略”とは?」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/green_growth_strategy.html

14の重要分野は、エネルギー関連産業、輸送・製造関連産業、家庭・オフィス関連産業の3つに大別され、大量導入およびコスト低減が可能で、経済波及効果も期待される洋上風力産業や、発電・輸送・産業など幅広い分野で活用が期待される水素産業などが規定されています[*10]。

企業のイノベーションを後押しする具体的な支援策として、政府は「予算」「税制」「金融」「規制改革」「国際連携」という5つの主要政策ツールを打ち出しています[*9]。

予算面では、新エネルギー・産業技術総合開発機構に2兆円の「グリーンイノベーション基金」を創設し、企業を今後10年間継続して支援するとしており、税制面では、脱炭素化の効果が高い製品を作るための生産設備を導入した場合、一定の税優遇が受けられる「カーボンニュートラルに向けた投資促進税制」を創設する予定です。

また、金融については、再生可能エネルギーの導入(グリーン)、省エネ化などの低炭素化(トランジション)、脱炭素化に向けた革新的技術(イノベーション)への民間投資を促す政策を打ち出す予定です。

新技術を市場に新たに導入するには、制度の変更など規制改革や国際標準化が必要です。そこで規制改革については、水素を国際輸送する際の関連機器の国際標準化や、再生可能エネルギーが優先して送電網を利用できるような電力系統運用ルールの見直しなど、現行制度からの改革等も進めていくとしています。

最後に、国際連携については、エネルギー需要の増加が見込まれるアジア新興国との連携や、アメリカや欧州などの先進国との技術標準化や貿易に関するルール策定などに取り組んでいくとしています。

 

まとめ

以上のように、日本を含む世界各国では、コロナ禍からの経済復興と同時に、脱炭素化に向けた支援策を推進しています。グリーンリカバリーは、EVや洋上風力、水素など今後の脱炭素化の取り組みの中心となる新技術の開発・普及を促進する取り組みです。

私たち一人ひとりも、グリーンリカバリーを後押しするため、再生可能エネルギー由来の環境に優しい電力の使用やEVの活用など、持続可能な社会形成に向けた選択を行うことが重要です。

 

\ HATCHメールマガジンのおしらせ /

HATCHでは登録をしていただいた方に、メールマガジンを月一回のペースでお届けしています。

メルマガでは、おすすめ記事の抜粋や、HATCHを運営する自然電力グループの最新のニュース、編集部によるサステナビリティ関連の小話などを発信しています。

登録は以下のリンクから行えます。ぜひご登録ください。

▶︎メルマガ登録

ぜひ自然電力のSNSをフォローお願いします!

Twitter @HATCH_JPN
Facebook @shizenenergy

参照・引用を見る

*1
NHK「『グリーンリカバリー』の意味は? コロナ後の経済復興で注目」
https://www.nhk.or.jp/gendai/comment/0008/topic044.html

*2
公益財団法人世界自然保護基金ジャパン「『グリーン・リカバリー』が鍵 コロナ禍からの復興」
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/4494.html

*3
東京大学先端科学技術研究センター、東北大学金属材料研究所、東北大学産学連携先端材料研究開発センター「『アフターコロナのグリーンリカバリー』~2050年温室ガス実質ゼロへ~」
https://www.env.go.jp/seisaku/list/ondanka_saisei/lowcarbon-h2-sc/overseas-trend/PDF/shiryou00.pdf, p.4

*4
株式会社中日新聞社「CO2排出減もリバウンドどう回避 『景気』に『温暖化』組み合わせ対策」
https://www.tokyo-np.co.jp/article/50854

*5
東芝テック株式会社「『グリーン経済』『グリーン成長』『グリーンリカバリー』とは?
日本の『グリーン成長戦略』についてもご紹介」
https://www.toshibatec.co.jp/products/office/loopsspecial/blog/20220121-78.html

*6
日本貿易振興機構「新規財源で新型コロナ禍対策、同時に気候中立目標も(EU)」
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2020/fd5b956acb2b2ada.html

*7
日本貿易振興機構「『グリーン産業革命』を発表、ガソリン、ディーゼル車は2030年に販売禁止へ」
https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/11/dde99f8b387141a2.html

*8
株式会社朝日新聞社「コロナ禍からの復興、持続可能性を主軸に 欧州の『グリーン・リカバリー』」
https://www.asahi.com/sdgs/article/10795022

*9
資源エネルギー庁「カーボンニュートラルに向けた産業政策“グリーン成長戦略”とは?」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/green_growth_strategy.html

*10
経済産業省「2050 年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」
https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201225012/20201225012-2.pdf, p.15, p.16, p.21

メルマガ登録