再生可能エネルギーの導入ポテンシャルが高い「中山間地域」 その取り組みと重要性とは

山地の多い日本では、平野の外縁部から山間地にかけての「中山間地域」が総土地面積の約7割を占めています。農地として地理的条件が悪いと言われる中山間地域ですが、全国の耕地面積の約4割は中山間地域内にあり、日本の農業の中でも重要な地位を占めるとともに、土の流出や山地の土砂崩れの防止にも役立っています[*1]。

また、中山間地域は再生可能エネルギーの導入ポテンシャルが高いとされており、再生可能エネルギーの導入は、過疎化や地域産業の担い手不足など、地域の様々な課題を解決に導く手段としても注目されています。

中山間地域には、どれほどの再生可能エネルギー導入ポテンシャルがあるのでしょうか。また、再生可能エネルギーの普及に向けて、どのような取り組みが行われているのでしょうか。詳しくご説明します。

 

中山間地域とは

中山間地域の特徴

 
中山間地域とは、中間農業地域と山間農業地域を合わせた地域のことです[*1]。

日本の総土地面積の65%、耕地面積の37%を占めており、国内農家のうち44%が中山間地域で農業を営んでいます(図1)。

図1: 中山間地域のイメージおよび主要指標
出典: 農林水産省「中山間地域等について」
https://www.maff.go.jp/j/nousin/tyusan/siharai_seido/s_about/cyusan/

さらに、中山間地域は、農業による土の流出を防ぐ機能(土壌浸食防止機能)や、土砂崩れを防ぐ機能(土砂崩壊防止機能)など、多面的な役割を持っています。また、河川の上流域に位置することから、河川の水量を調節する水源かん養機能も果たし、下流域の住民の生活基盤を守る重要な役割を担っています[*1, *3]。

中山間地域の現状と課題

 
近年、人口減少や経済の停滞によって、中山間地域の維持が困難になっています。

2005年時点の中山間地域の人口は約1,741万人でしたが、2020年には約1,420万人まで減少しました[*1, *4]。

人口減少が顕著な地域では、集落機能の低下、さらには集落そのものの消滅につながることが懸念されています。実際、2015年から2019年にかけて、96市町村において164集落が消滅しています[*5]。

これらの消滅集落跡地の約半数では、元住民や行政などによって森林・林地が管理されていますが、過半数は放置状態となっています[*5], (図2)。

図2: 消滅集落跡地の森林・林地の管理状況
出典: 林野庁「令和3年度 森林・林業白書」
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/hakusyo/r3hakusyo/attach/pdf/zenbun-34.pdf, p.121

中山間地域における経済も停滞しています。例えば、中山間地域の基幹産業である林業の従事者数は、年々減少しています[*5], (図3)。

図3: 林業従事者数の推移
出典: 林野庁「令和3年度 森林・林業白書」
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/hakusyo/r3hakusyo/attach/pdf/zenbun-34.pdf, p.103

また、農業への影響も甚大です。中山間地域における耕地面積は、2005年時点では約203万ヘクタールでしたが、2020年には約162万ヘクタールまで減少しています。同時に、総農家についても2005年から2020年にかけて約123万戸から約77万戸まで減少しています[*1, *4]。

集落人口や経済の停滞に伴い、空き家の増加や耕作放棄地の増大、働き口の減少など様々な問題が発生しています[*5], (図4)。

図4: 山村地域の集落で発生している問題
出典: 林野庁「令和3年度 森林・林業白書」
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/hakusyo/r3hakusyo/attach/pdf/zenbun-34.pdf, p.121

 

中山間地域における再生可能エネルギー導入のメリット

集落の維持に向けて、中山間地域では働き口の創出など地域活性化に取り組む必要があります。そこで近年進んでいるのが、中山間地域において導入ポテンシャルの高い再生可能エネルギーの促進です。地域経済の循環、雇用の創出につながるとされます。

環境省の調査によると、北海道や東北を始めとする地方部(図5中の青色部分)では、再生可能エネルギーの導入ポテンシャルが総じて高くなっています。これらの地方部は都市部と比較すると一人当たりGDPが低くなりますが、地方部で生産したエネルギーを都市部で消費することで、エネルギー代金が地方部へ流れ、地域活性につながります[*6], (図5)。

図5: 再生可能エネルギーポテンシャルと域内一人当たりGDPの関係
出典: 環境省「平成29年度版 環境・循環型社会・生物多様性白書」
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h29/pdf/full.pdf, p.71

例えば、長野市飯田市のおひさま進歩エネルギー株式会社の太陽光発電事業の事例では、初期投資18.1億円に対して、2030年までに31.5億円の売り上げ、17.8億円の地域経済付加価値が生まれると試算されています[*6], (図6)。

図6: おひさま進歩エネルギー株式会社の太陽光発電事業における経済的効果(2030年まで)
出典: 環境省「平成29年度版 環境・循環型社会・生物多様性白書」
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h29/pdf/full.pdf, p.74

地域での再生可能エネルギー産業が活発化することで、機器の開発や生産、部品の供給などにより、地元の製造業が活性化し、関連分野における雇用も創出されます。また、自然環境に配慮した再生可能エネルギー地域としてアピールすることで、観光客誘致や地域外からの定住化促進にもつながります[*7]。

 

中山間地域における再生可能エネルギー導入事例

山形県庄内町における取り組み

 
山形県の北西部に位置し、人口約2万人の山形県庄内町では、風力発電を活用した中山間地域の地域活性化を推進しています[*8]。

庄内町は、春から夏にかけて局地風の「清川だし」が、冬には日本海側からの季節風が吹く、強風地帯として有名な地域です。

町は、これらの強風をいち早く再生可能エネルギーとして中山間地域に利用してきました。1980年度に風車で発電した電力を温室ハウスの暖房に利用する実証事業から始まり、1993年には観光振興や売電のため、当時の自治体としては最大級となる100kW級の風車を3台導入しました。

2006年には新エネルギー推進委員会を、2014年には推進委員会をベースに農業委員会や森林組合等をメンバーに加えた協議会を設置し、地域の関係者と協働で発電事業に取り組んでいます。

2021年には、地域事業者3社による22.5MWの風力発電所が竣工しました。現在、風力発電は町の電力使用量の約60%をまかなっています[*9], (図7)。

図7: 庄内町における風力発電事業の関係者
出典: 公益財団法人世界自然保護基金ジャパン「大地と風を耕す風力発電の先進地(山形県庄内町)」
https://www.wwf.or.jp/activities/lib/4926.html

事業者3社のうち2社は町内の企業であり、土木工事や電気工事などを担っています。また、農林業活性化のため、3事業者は風車1基あたり年間100万円を町に寄付するなど、地域経済の活性化に大きく貢献しています。

また、風力発電によるCO2削減量は年間で31,320トンと、地球温暖化対策にも大きく貢献しています。

京都府南丹市における取り組み

 
京都府のほぼ中央に位置し、京都府内では京都市に次ぐ面積を有する南丹市は、市域の88%を丹波山地等の森林地域が占め、緑豊かな中山間地域が広がる地域です[*10]。

バイオマス発電のほか、小水力発電など、分散型エネルギーのコミュニティ利用を促進しています[*11], (図8)。

図8: 南丹市の推進するバイオマス産業都市づくり
出典: 南丹市「地域のきずなで未来を創るバイオマス産業都市づくり」
https://www.city.nantan.kyoto.jp/www/gove/135/009/000/28926/00035713002.pdf

とくに中山間地域が多くある北部では、市内の豊富な森林資源を活用した木質チップや薪ストーブなどの利用促進を図っています。

2011年には、宿泊やフィールドワークなど体験学習が可能な自然文化村河鹿荘に木質チップボイラを導入し、間伐材チップを活用した熱利用を行っています。

また、NPO法人による取り組みも積極的に行われており、市内にあるNPO法人人美山里山舎は、公共施設や一般家庭へ100台薪ストーブを導入し、地産地消のエネルギー供給の仕組みを普及・拡大することを目指しています[*12]。

また、南丹市は、林地残材や製材端材等を含むバイオマス資源の複合利用プロジェクトも推進しています。南丹市にある流域下水施設「南丹市八木バイオエコロジーセンター(YBEC)」では、市内全体の廃棄物系バイオマスの利活用を促進しています[*12], (図9)。

図9: バイオマス複合利用システムの概念図
出典: 南丹市「南丹市バイオマス産業都市構想」
https://www.city.nantan.kyoto.jp/www/gove/135/009/000/28926/00035713001.pdf, p.33

バイオマス複合利用システムを促進することで、中山間地域の森林資源を有効活用できるとともに、地域経済の活性化にもつながります。施設整備費約2,100百万円に対し、その経済波及効果は3,462百万円になると見込まれています。

 

中山間地域の再エネ普及に向けて

再生可能エネルギーの導入促進が期待されている中山間地域ですが、遊休農地などを再生可能エネルギー施設へ転用する際のハードルは、依然として高いままです。実際、2013年から2018年までの6年間で農地での再生可能エネルギー導入は1万ヘクタールに過ぎなかったとされ、再生困難な荒廃農地などは自動的に非農地として、ほかに活用できるようにする仕組みなどが求められています[*13]。

中山間地域の活性化に向けては、再生可能エネルギーの導入が特に重要です。今後は、農地の転用許可を拡大するなど、農業政策と調整を図りながら対応していく必要があると言えるでしょう。

 

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参照・引用を見る

*1
農林水産省「中山間地域等について」
https://www.maff.go.jp/j/nousin/tyusan/siharai_seido/s_about/cyusan/

*2
国土交通省「中山間地域からみた持続可能な国づくりと次世代文明創造に向けた首都機能のバックアップ」
http://www.mlit.go.jp/kokudokeikaku/iten/onlinelecture/lec138.html

*3
中山間地域等総合対策検討会「『中山間地域における喫緊の課題をめぐる情勢と対策の方向について』取りまとめ」
https://www.maff.go.jp/j/study/other/cyusan_taisaku/zyosei_taisaku/pdf/matome.pdf, p.2

*4
中山間地域等総合対策検討会「『中山間地域における喫緊の課題をめぐる情勢と対策の方向について』取りまとめ -関連データ編-」
https://www.maff.go.jp/j/study/other/cyusan_taisaku/zyosei_taisaku/pdf/data1.pdf, p.1

*5
林野庁「令和3年度 森林・林業白書」
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/hakusyo/r3hakusyo/attach/pdf/zenbun-34.pdf, p.103, p.121

*6
環境省「平成29年度版 環境・循環型社会・生物多様性白書」
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h29/pdf/full.pdf, p.70, p.71, p.74

*7
石丸 美奈「再生可能エネルギーの導入による地域活性化―先進的な取組み事例に見る地域振興のポテンシャル―」
https://www.jkri.or.jp/PDF/2015/sogo_71_ishimaru.pdf, p.77, p.78

*8
農林水産省「山形県庄内町・日下部新エネルギー係長に聞く」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/interview/shonai.html

*9
公益財団法人 世界自然保護基金ジャパン「大地と風を耕す風力発電の先進地(山形県庄内町)」
https://www.wwf.or.jp/activities/lib/4926.html

*10
佐々木 稔納「南丹市のバイオガス化技術を活用した多様な取り組みと全国のバイオガス協議会の状況について」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/mcwmr/27/3/27_193/_pdf/-char/ja, p.193

*11
南丹市「地域のきずなで未来を創るバイオマス産業都市づくり」
https://www.city.nantan.kyoto.jp/www/gove/135/009/000/28926/00035713002.pdf

*12
南丹市「南丹市バイオマス産業都市構想」
https://www.city.nantan.kyoto.jp/www/gove/135/009/000/28926/00035713001.pdf, p.24, p.26, p.31, p.33, p.41

*13
一般社団法人 農協協会「再エネ導入促進へ 農地規制見直し検討-農水省」
https://www.jacom.or.jp/nousei/news/2021/01/210107-48713.php

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