プラスチック新法とは? 新法制定の背景と内容を解説

プラスチックは、容器包装や建築資材、繊維など幅広い分野で使われ、私たちの生活に欠かせません。しかし、過剰生産や不適切な廃棄処理により、気候変動や海洋汚染などの環境問題が発生するため、製造時のCO2排出量削減やリサイクルが求められています。

2022年4月1日には、プラスチック使用製品のリサイクルと循環型経済への移行を推し進めるため、「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(プラスチック資源循環法。通称プラスチック新法)」が施行されました[*1]。

本記事では、プラスチック新法の詳しい内容を解説します。

 

プラスチックごみの現状と環境問題

プラスチック生産量は世界中で増加傾向にあり、2020年には3億6,700万トンのプラスチックが生産されました。[*2]。

今後もプラスチックの生産量は増加する見込みで、2040年には2020年の生産量の2倍になると予想されています。

気候変動への影響

 
石油を精製する過程で得られるナフサがプラスチックの主な原料となっており、ナフサに熱を加えて「エチレン」「ベンゼン」などプラスチックのもとになる基礎化学品が作り出されます[*3]。

その基礎化学品を使って、タイヤ、レジ袋、ペットボトル、自動車部品など多くのプラスチック製品が作られます。これらの化学製品を作る際には大量のCO2が排出されており、2019年には基礎化学品の製造過程で約3,100万トンのCO2が排出されました[*4], (図1)。

図1: 化学製品をつくる際に発生するCO2排出量とその内訳
出典: 資源エネルギー庁「カーボンニュートラルで環境にやさしいプラスチックを目指して(前編)」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/plastics_01.html

さらに、プラスチック廃棄時にも大量の温室効果ガスが発生します。2020年には、プラスチックの焼却処分によってCO2約5,336千トン相当の温室効果ガスが排出されたと報告されています[*5]。

プラスチックの過剰な生産および廃棄は、気候変動の問題をさらに深刻化させています。

海洋プラスチックごみ・生物多様性の損失

 
プラスチックは不法投棄される場合、海洋ごみとなり生態系へ悪影響を及ぼす可能性があります[*6], (図2)。

図2: 不法投棄による海洋への悪影響
出典: 岐阜市「海洋汚染につながるプラスチックごみのポイ捨てはやめましょう!」
https://www.city.gifu.lg.jp/kurashi/seikatukankyo/1002916/1012050.html

毎年少なくとも800万トンものプラスチックごみが海に捨てられていると言われています[*7]。

増加する海洋ごみは生態系に甚大な被害を与えており、魚類や海洋哺乳動物など約700種もの生物が海洋ごみの犠牲になっています。ポリ袋をえさと間違えて摂取する生物も多く、ごみのポイ捨てや、プラスチックの生産自体を削減することが求められています。

 

世界各国におけるプラスチックに対する法規制

海洋プラスチックごみの80%は、陸上からの流出が占めていると言われます。プラスチック生産の抑制のため、世界では様々な法律が整備されています。

フランスでは他国に先駆けて、2016年より使い捨てプラスチック製品の市場投入を禁止しました。レジ袋をはじめ、グラス、皿、ストロー、カトラリーなど、使い捨てプラスチック製品の使用を禁止しています[*8]。

また、2020年2月に施行された経済循環法では、2040年までに使い捨てプラスチック包装の市場投入を禁止するとしています。

2022年4月には、使い捨てプラスチック包装のリデュース、リユース、リサイクルの3Rに関する国家戦略を施行し、過剰包装の削減やリユースへの支援、代替ソリューションの開発など、10項目の具体的な行動計画を策定しています[*9]。

ヨーロッパだけでなく、アジア地域においてもプラスチック規制が施行されています。

例えば、インド政府は、2016年3月にプラスチック廃棄物管理規則を制定し、製造から処理までにおける規制や罰則を制定しました[*10]。

さらに2022年7月には、ストローからタバコ容器までの特定19品目の使い捨てプラスチック製品を対象に、違法な製造や販売、使用を禁止しており、零細小売業者レベルにも実効性が伴うように、国および州レベルの管理室を設置して規制の厳格化を進めています。

現在では、多くの国がプラスチックによって生じる環境問題を問題視し、様々な改善に取り組んでいます。

 

プラスチック新法とは

国内でも、プラスチックが引き起こす諸問題の改善に向けた取り組みが進められています。政府は2019年5月に、プラスチックごみによる海洋汚染や、気候変動など幅広い課題に対応するため、「プラスチック資源循環戦略」を策定し、プラスチック資源循環の実現に向けた方針を掲げました[*11, *12], (図3)。

図3: プラスチック資源循環戦略の概要
出典: 環境省「『プラスチック資源循環戦略』について」
https://plastic-circulation.env.go.jp/about/senryaku

この戦略では、「2030年までに使い捨てプラスチックの累積排出量を25%抑制」「容器包装の60%をリユース・リサイクル」「約2,000万トンのバイオマスプラスチックを導入」など、6つのマイルストーンが置かれています。

戦略を達成するための具体的な基本方針としては、2022年4月1日に、「プラスチック新法(プラスチック資源循環促進法)」が施行されました[*1, *13], (図4)。プラスチックのライフサイクル全体において関わりのある事業者、自治体、消費者が連携して、資源循環に取り組むことが求められます。

図4: プラスチック新法概要
出典: 経済産業省、環境省「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律について」
https://plastic-circulation.env.go.jp/wp-content/themes/plastic/assets/pdf/pamphlet.pdf, p.3

 

プラスチック新法の内容

プラスチック新法は、製品設計から廃棄物処理までのプラスチック資源循環の取り組みを促進するための様々な措置を規定しています[*11], (図5)。

図5: プラスチック新法における個別の措置事項
出典: 環境省「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律の概要」
https://www.env.go.jp/recycle/plastic/pdf/gaiyou.pdf

具体的には、設計・製造段階で環境配慮設計に関する指針を策定し、指針に適合する製品を認定する仕組みを設け、販売・提供段階では、使い捨てプラスチック提供事業者が遵守すべき判断基準を策定する予定です。

排出・回収・リサイクル段階では、プラスチック資源の分別収集を促進するため、市区町村と再商品化事業者との連携を促進し、製造・販売事業者が製品などを自主的に回収・再資源化する計画の作成支援を明記しています。さらに、排出事業者による排出抑制や再資源化を推進しやすくするための措置も講じられています。

設計・製造段階における取り組み

  
設計・製造段階での取り組みがプラスチック資源循環の円滑な促進に不可欠であることを認識し、プラスチック新法では、プラスチック使用製品の製造事業者が取り組むべき事項および配慮すべき事項を定めた設計指針に適合した製品の認定制度が創設されています[*13], (図6)。

図6: 設計指針に適合した設計の認定制度
出典: 経済産業省、環境省「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律について」
https://plastic-circulation.env.go.jp/wp-content/themes/plastic/assets/pdf/pamphlet.pdf, p.7

使用する原料には、減量化や包装の簡素化、長寿命化、分解・分別が容易な製品設計などが求められるほか、プラスチック以外の素材への代替や、再生プラスチックやバイオプラスチックなどを使うことが求められています。

さらに、製造や流通など製品のライフサイクル全体の環境負荷等の評価も事業者に求められており、これらの指針に適合したうえで、認定を受けることができます。

販売・提供段階における取り組み

 
プラスチック使用製品の販売・提供段階でも、使い捨てプラスチックの過剰な使用を抑制し、使用の合理化が促進されることが重要です[*13]。

プラスチック新法は、プラスチック製のフォークやスプーン、ヘアブラシや衣料用ハンガーなど12製品を特定プラスチック使用製品として指定しています[*13], (表1)。

表1: 特定プラスチック使用製品一覧出典: 経済産業省、環境省「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律について」
https://plastic-circulation.env.go.jp/wp-content/themes/plastic/assets/pdf/pamphlet.pdf, p.11

これら特定プラスチック使用製品を提供する事業者は、使用の合理化に関する目標を設定するとともに、消費者が特定プラスチック使用製品の使用を抑えるよう働きかけたり、店頭で消費者へプラスチック使用製品廃棄物の排出抑制に関する事項を掲示するなどの取り組みが求めらます。

排出・回収・リサイクル段階における取り組み

市区町村による分別収集・再商品化

プラスチック新法では、市区町村によるプラスチック使用製品廃棄物の分別収集と再商品化の推進も規定しています[*12]。

再商品化までの方法としては、大きく2種類の規定があります。1つ目は、市区町村が容器包装リサイクル法に規定する指定法人に委託して再商品化を行う方法です[*13], (図7)。

図7: 市区町村による分別収集および委託によって再商品化を進める方法
出典: 経済産業省、環境省「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律について」
https://plastic-circulation.env.go.jp/wp-content/themes/plastic/assets/pdf/pamphlet.pdf, p.15

2つ目の方法は、市区町村が単独又は共同して計画を作成し、その計画に基づいて実施者と連携して再商品化を行う方法です[*13], (図8)。

図8: 市区町村による分別収集および事業者と連携して再商品化を進める方法
出典: 経済産業省、環境省「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律について」
https://plastic-circulation.env.go.jp/wp-content/themes/plastic/assets/pdf/pamphlet.pdf, p.16

製造・販売事業者等による自主回収・再資源化

プラスチック資源の循環を円滑に促進するためには、プラスチック使用製品の情報を持ち合わせている製造・販売事業者が、自治体や消費者と協力して自主回収・再資源化を行うことが重要です[*13]。

プラスチック新法では、認定を受けた事業者であれば廃棄物処理法に基づく業の許可がなくても使用済プラスチック使用製品の自主回収・再資源化事業を行えることを規定しています[*13], (図9)。

図9: 自主回収・再資源化事業のスキーム
出典: 経済産業省、環境省「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律について」
https://plastic-circulation.env.go.jp/wp-content/themes/plastic/assets/pdf/pamphlet.pdf, p.19

排出事業者による排出抑制・再資源化

プラスチック新法では、プラスチック使用製品産業廃棄物等を排出する事業者に法律の規定する判断基準に基づき排出抑制・再資源化等に取り組むことを求めています[*13]。プラスチック資源の循環に向けては、排出する事業者による排出抑制・再資源化等の更なる推進が重要となります。

再資源化できないものについても、熱回収(焼却の際に発生する熱エネルギーを回収・利用すること)することを求めています。また、リチウムイオン蓄電池のような再資源化を阻害する廃棄物の混入を防止することなど、再資源化等にあたって講ずべき措置などを規定しています。

 

プラスチック資源の循環促進に向けた今後の展望

施行されたばかりのプラスチック新法ですが、課題もあります。例えば、今回対象となった特定プラスチック使用製品は12種類のみであり、家庭ごみの約半分を占める小袋や容器、ペットボトルなどのプラスチック容器包装は、排出抑制の対象外となっています[*14]。

また、プラスチック新法は、プラスチック以外の素材への代替や、バイオプラスチックの利用を促進するとしていますが、バイオマス資源の過度な利用は新たな環境問題を発生させる可能性もあります。

各国に準じて、日本の社会もプラスチックごみの削減に向けた適切な対策が求められています。今後はプラスチック新法を推進しつつも、新法で対応しきれなかった課題や、新たに生じうる課題に対応していけるような体制を整えることが重要です。

 

\ HATCHメールマガジンのおしらせ /

HATCHでは登録をしていただいた方に、メールマガジンを月一回のペースでお届けしています。

メルマガでは、おすすめ記事の抜粋や、HATCHを運営する自然電力グループの最新のニュース、編集部によるサステナビリティ関連の小話などを発信しています。

登録は以下のリンクから行えます。ぜひご登録ください。

▶︎メルマガ登録

ぜひ自然電力のSNSをフォローお願いします!

Twitter @HATCH_JPN
Facebook @shizenenergy

参照・引用を見る

*1
株式会社朝日新聞「プラスチック資源循環促進法とは【2022年4月施行】事業者の役割を紹介」
https://smbiz.asahi.com/article/14585156

*2
公益財団法人 日本財団「Plastics Management Indexで日本が2位、ドイツがトップに」
https://www.nippon-foundation.or.jp/who/news/pr/2021/20211005-63065.html

*3
一般社団法人 プラスチック循環利用協会「プラスチックができるまで」
https://www.pwmi.jp/library/library-115/

*4
資源エネルギー庁「カーボンニュートラルで環境にやさしいプラスチックを目指して(前編)」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/plastics_01.html

*5
令和4年度温室効果ガス排出量算定方法検討会「廃棄物分野における排出量の算定方法について(案)」
https://www.env.go.jp/content/000107583.pdf, p.3

*6
岐阜市「海洋汚染につながるプラスチックごみのポイ捨てはやめましょう!」
https://www.city.gifu.lg.jp/kurashi/seikatukankyo/1002916/1012050.html

*7
公益財団法人 世界自然保護基金ジャパン「海洋プラスチック問題について」
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3776.html

*8
独立行政法人 日本貿易振興機構「プラスチック、繊維製品の廃棄物削減に向けて進む官民の取り組み(フランス)」
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2021/1101/3392080adf7bb567.html

*9
独立行政法人 日本貿易振興機構「フランス政府、プラスチック包装の3Rを推進する国家戦略を策定」
https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/04/5a8c2cec8991f60e.html

*10
独立行政法人 日本貿易振興機構「インド、使い捨てプラスチック規制を厳格化」
https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/07/939dbf28ffa25da5.html

*11
環境省「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律の概要」
https://www.env.go.jp/recycle/plastic/pdf/gaiyou.pdf

*12
環境省「『プラスチック資源循環戦略』について」
https://plastic-circulation.env.go.jp/about/senryaku

*13
経済産業省、環境省「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律について」
https://plastic-circulation.env.go.jp/wp-content/themes/plastic/assets/pdf/pamphlet.pdf, p.3, p.7, p.8, p.9, p.11, p.15, p.16, p.19, p.23, p.24

*14
一般社団法人 グリーンピース・ジャパン「【プラスチック新法とは?】内容と5つの問題点をわかりやすく解説」
https://www.greenpeace.org/japan/campaigns/story/2022/03/30/56393/

メルマガ登録