「地方創生SDGs」とは? 再生可能エネルギーを推進する自治体や企業の事例を紹介

地方では現在、少子高齢化や地域経済の縮小など様々な問題が山積みとなっています。これらの問題を解決し、地方が将来にわたって成長力を確保するには、地域経済の活性化や人々が安心して暮らせるまちづくりを行うことが重要です[*1]。

2014年9月から政府が進めてきた「まち・ひと・しごと創生総合戦略」とは、地方創生の深化に取り組む政策です。2020年に改訂された第2期では、持続可能なまちづくりに向けた取り組みとして、「地方創生SDGs」の推進を目指すと発表しました[*2, *3]。

それでは、地方創生SDGsとは具体的にどのような取り組みなのでしょうか。また、エネルギーや環境問題の分野ではどのような取り組みがあるのでしょうか。自治体や企業による様々な事例とあわせて紹介します。

 

地方の現状と課題

日本の人口は、2008年をピークとして減少局面に入っており、少子高齢化が進行しています。2065年には総人口が9,000万人を割り込み、高齢化率(65歳以上人口割合)は38%台の水準になると推計されています。世界的に見ても、日本の高齢化は空前の速度と規模で進行しています[*4, *5], (図1)。

図1: 日本の人口の推移
出典: 厚生労働省「我が国の人口について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21481.html

人口減少は社会に大きな打撃を与えます。例えば、働き手一人当たりの負担が増加し、公的年金や保険制度などの社会保障の持続が困難になります。また、農山村地域における集落の維持が困難になるなど、地方において様々な問題が発生する可能性があります。特に人口減少が顕著な地域においては、持続可能なまちづくりが求められています。

 

地方創生に向けた国内の動向

深刻化する少子高齢化に対応し、地域の強み・潜在力を活かした自律的・持続的な社会を目指す地方創生の取り組みが進んでいます。

政府の進める「まち・ひと・しごと創生総合戦略」とは、地方公共団体と一体となって地方創生の深化に取り組む政策です。2020年に第2期へ改訂し、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、新しい地方創生の実現に向けた今後の政策の方向性を打ち出しました[*2, *3]。地方における若者の雇用創出や女性の就業率の向上などこれまでの取り組みを着実に行うとともに、デジタルトランスフォーメーション(DX)や脱炭素社会、地方創生テレワークなど新たな取り組みを総合的に推進するとしています[*2, *4]。

特に、脱炭素社会の実現に向けては、SDGs(持続可能な開発目標)の理念に沿って地域活性化を推進する「地方創生SDGs」の実現を掲げました。

 

地方創生SDGsとは

SDGs(Sustainable Development Goals)とは、「誰一人取り残さない」持続可能でよりよい社会の実現を目指す世界共通の目標のことです。2030年を年限とする17の国際目標が設定されており、国だけでなく、地方による取り組みも求められています。地方がSDGsを原動力とした地域活性化に取り組むことで、人口減少や地域経済の縮小など地方が抱える課題の解決にもつながります[*5], (図2)。

図2: 地方創生SDGs推進の意義
出典: 内閣府地方創生推進室「地方創生に向けたSDGsの推進について」
https://future-city.go.jp/data/pdf/sdgs/01_sassi.pdf, p.15

地方創生SDGs推進に向けた取り組み

  
地方創生SDGsの実現に向け、第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」では4つの取り組みが規定されています[*5], (図3)。

図3: 地方創生SDGs実現に向けた具体的取り組み
出典: 内閣府地方創生推進室「地方創生に向けたSDGsの推進について」
https://future-city.go.jp/data/pdf/sdgs/01_sassi.pdf, p.13

具体的には、地方創生SDGsの普及促進活動や地方公共団体によるモデル事例の形成を行っています。また、「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」を通じた民間参画の促進や、地域における資金の還流と再投資を目指した地方創生SDGs金融なども実施・検討されています。

SDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業

  
地方自治体の地方創生SDGsを推進する取り組みとして、政府は「SDGs未来都市」「自治体SDGsモデル事業」の選定を行っています[*5]。

「SDGs未来都市」とは、SDGs達成に向けた優れた取り組みを提案する自治体のことで、「自治体SDGsモデル事業」とは、SDGs達成に向けて、特に優れた取り組みを実施する自治体の事業のことです[*5], (図4)。

図4: 自治体SDGsモデル事業とは
出典: 内閣府地方創生推進室「地方創生に向けたSDGsの推進について」
https://future-city.go.jp/data/pdf/sdgs/01_sassi.pdf, p.19

選定された都市を成功事例として公表することで、地方創生の深化につなげていくことを目指しています。2021年までの4年間で「SDGs未来都市」は全国124都市、「自治体SDGsモデル事業」は40事業選定されています。

地方創生SDGs官民連携プラットフォームを通じた民間参画の促進

  
地方創生SDGsの実現に向けては、官民一体となった取り組みが重要です。そこで政府は、企業や非営利団体、研究機関など広範な主体がパートナーシップを深める官民連携の場として、地方創生SDGs官民連携プラットフォームを設置しています[*5], (図5)。

図5: 地方創生SDGs官民連携プラットフォームとは
出典: 内閣府地方創生推進室「地方創生に向けたSDGsの推進について」
https://future-city.go.jp/data/pdf/sdgs/01_sassi.pdf, p.24

プラットフォームは、ノウハウなどの共有や会員同士での連携を創出するマッチング支援や、分科会の開催、官民連携優良事例の公表など普及促進活動を行っています。

2021年6月時点の総会員数は5,610団体、民間企業等の団体は4,648団体におよび、多くの団体が連携を強めています。

 

地方創生SDGsにおける脱炭素化の取り組み

再生可能エネルギーの活用をはじめとする脱炭素化の取り組みは、地方創生SDGsにおいても重要な位置づけにあります。

自治体による推進事例

  
地方における脱炭素化の取り組みは、地域経済の活性化や地域社会の課題解決など、持続可能なまちづくりにも貢献します。「SDGs未来都市」や「自治体SDGsモデル事業」に認定された自治体の中には、地域の特色を活かして再生可能エネルギー活用や気候変動対策を行う自治体もあります。

例えば、岡山県真庭市は、面積の79.2%を森林が占める中山間地であるという特徴を活かし、小水力発電や、地域のバイオマス資源等を活用したバイオマス発電の開発を通じて、地域社会の形成および地球温暖化の防止対策に努めています[*7, *8], (図6)。

図6: 真庭市における地方創生SDGs実現に向けた取り組み
出典: 真庭市「SDGs未来杜市『岡山県真庭市』」
https://www.city.maniwa.lg.jp/uploaded/attachment/1092.pdf

特にバイオマス事業に関しては、「真庭バイオマス産業杜市構想」および「真庭市バイオマス活用推進計画」を策定し、バイオマス発電のほか、木質バイオマスリファイナリーや(バイオマスを原料にバイオエタノールやバイオプラスチックなど有用化学品を製造する技術)、有機廃棄物資源化、産業観光拡大に取り組んできました[*9], (図7)。

図7: バイオマスの活用推進に向けた真庭市の取り組み
出典: 真庭市「真庭市バイオマス活用推進計画中間報告書(概要版)」
https://www.city.maniwa.lg.jp/uploaded/attachment/19782.pdf, p.4

その結果、バイオマス利用量(炭素換算)が2012年度の69,597トンから2018年度には95,644トンにまで増加し、CO2削減効果も目標としていた年間299千トンを上回る351千トンを達成するなど、バイオマスを軸とした持続可能なまちづくりを実現しています。

企業による推進事例

  
企業が主体となって地方創生SDGsに取り組む事例も増えています。

例えば、ENEOSホールディングス株式会社は、宮崎県新富町と連携し、地産地消エネルギーを活用した持続可能なまちづくりを推進しています[*10]。

地域の特色である農業を活かして、協業するスタートアップ企業とともに、農業支援ロボットや営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)の実証実験を推進するほか、モビリティサービスなどの導入と具体的な実証エリアを検討しています[*10], (図8)。

図8: 宮崎県新富町におけるENEOSホールディングス株式会社の取り組み
出典: 内閣府地方創生推進事務局「令和2年度上場企業における地方創生SDGsに関する調査」
https://www.chisou.go.jp/tiiki/kankyo/kaigi/pdf/sdgs_jireishu_j_20210325.pdf, p.35

また、清水建設株式会社は、長野県東御市において、地域密着型の木質バイオマス発電施設の稼働を開始しています[*10]。

長野県東御市は、市の総面積の51%を森林が占めており、林産物や良質な水を供給するほか、地球温暖化の防止など様々な役割を果たしてきました。しかし近年は、木材需要の減少等による収益性の悪化から林業の担い手が減少し、森林管理の持続性が懸念されていました[*11]。

そこで清水建設によって開始されたのが、地域の森林資源を有効活用したバイオマス発電です。原料となる木材は、間伐材を含む未利用材で、地域の森林組合や生産者から購入するほか、発電所の運営のために、12名の新規地域雇用を創出しています[*12]。

2020年7月にスタートし、その発電出力は2MWクラスと、一般住宅約5,400戸分の電力供給が可能であり、年間約7,000トンのCO2削減効果が見込まれています。

当プロジェクトでは、情報技術の活用も積極的に進められています。例えば、発電時には原料となる木質チップを常時投入する必要があり、通常は人為操作で投入されていますが、投入にかかるクレーン操作をプログラム化することで、無人での操作が可能となりました。これにより、夜間や休日の燃料供給作業にかかる労働負荷を軽減することができ、人々が働きやすい環境を整備することができます。

以上のように、地域の特色や、企業のノウハウを活かして、地域の課題解決に貢献する取り組みが増えています。

 

地方創生SDGsの今後の展望

第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」では、2024年度までに地方創生SDGsを推進する自治体の割合を60%まで引き上げることを目標としています(2020年11月時点での割合は39.7%)[*5]。

一方、自治体からは「どのように推進すればよいのか分からない」「行政内部での知識や経験の不足」「予算や資源の不足」などの声が挙がっており、目標達成に向けては、政府による支援が欠かせません[*13]。

実施に向けたノウハウの共有や、資金援助等の仕組み整備、専門知識を有する民間人材の活用などの取り組みが、地方創生SDGsのさらなる推進のカギとなるでしょう。

\ HATCHメールマガジンのおしらせ /

HATCHでは登録をしていただいた方に、メールマガジンを月一回のペースでお届けしています。

メルマガでは、おすすめ記事の抜粋や、HATCHを運営する自然電力グループの最新のニュース、編集部によるサステナビリティ関連の小話などを発信しています。

登録は以下のリンクから行えます。ぜひご登録ください。

▶︎メルマガ登録

\ 自然電力からのおしらせ /

かけがえのない地球を、大切な人のためにつないでいくアクション。
小さく、できることから始めよう!

▶︎ぜひ自然電力のSNSをフォローお願いします!

Twitter @HATCH_JPN
Facebook @shizenenergy

参照・引用を見る

*1
内閣府「地方創生SDGs」
https://future-city.go.jp/sdgs/

*2
内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局、内閣府地方創生推進事務局「第2期『まち・ひと・しごと創生総合戦略』(2020改訂版)について」
https://www.chisou.go.jp/sousei/info/pdf/r02-12-21-gaiyou.pdf, p.1, p.2, p.4

*3
内閣府「まち・ひと・しごと創生『長期ビジョン』『総合戦略』『基本方針』」
https://www.chisou.go.jp/sousei/mahishi_index.html

*4
内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局「第2期『まち・ひと・しごと創生総合戦略』策定について」
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon//kaigi/special/reform/wg6/20191105/pdf/shiryou5.pdf, p.3

*5
内閣府地方創生推進室「地方創生に向けたSDGsの推進について」
https://future-city.go.jp/data/pdf/sdgs/01_sassi.pdf, p.2, p.9, p.11, p.12, p.13, p.15, p.17, p.19, p.24, p.31

*6
厚生労働省「我が国の人口について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21481.html

*7
真庭市「岡山県真庭市 SDGs未来都市計画(2021~2023)」
https://www.city.maniwa.lg.jp/uploaded/attachment/28928.pdf, p.3

*8
真庭市「SDGs未来杜市『岡山県真庭市』」
https://www.city.maniwa.lg.jp/uploaded/attachment/1092.pdf

*9
真庭市「真庭市バイオマス活用推進計画中間報告書(概要版)」
https://www.city.maniwa.lg.jp/uploaded/attachment/19782.pdf, p.1, p.3, p.4

*10
内閣府地方創生推進事務局「令和2年度上場企業における地方創生SDGsに関する調査」
https://www.chisou.go.jp/tiiki/kankyo/kaigi/pdf/sdgs_jireishu_j_20210325.pdf, p.33, p.34, p.35, p.44

*11
東御市「森林整備と林業」
https://www.city.tomi.nagano.jp/category/shinrinseibi/101884.html

*12
清水建設株式会社「地域密着型の2MW級バイオマス発電で地域林業と地球温暖化対策に貢献」
https://www.shimz.co.jp/topics/lcv/item01/

*13
自治体SDGs推進評価・調査検討会「令和3年度 SDGsに関する全国アンケート調査結果」
https://www.chisou.go.jp/tiiki/kankyo/kaigi/pdf/sdgs_enquete_chousa_r03_kekka.pdf, p.18, p.19

メルマガ登録