国土の約3分の2を森林に覆われた日本は、木材を原料に発電を行う木質バイオマス発電に適しています。国内にある木質バイオマス資源を活用することで林業振興につながるため、地域経済の活性化がもたらされます。また、化石エネルギーから再生可能エネルギーである木質バイオマスに変えることで、地球温暖化の防止にも貢献できるとして、近年導入件数が増加しています[*1, *2]。
しかしながら、国内の木質バイオマス発電で使用される原料の多くは外国からの輸入材であり、国産材が有効活用されているとは言えません。また、輸入材は輸送時に多くの温室効果ガスが排出されるため、環境への悪影響も懸念されています。
それでは、木質バイオマス発電で使用される輸入材の輸入の現状はどうなっていて、どれほどの環境負荷が発生しているのでしょうか。また、地域によっては、環境に優しい国産材を活用する取り組みも行われつつあります。具体的にどのような取り組み事例があるのでしょうか。詳しくご説明します。
国内の森林資源の現状
国内における森林資源は年々増加しています。森林資源の多さを示す森林蓄積量は、2017年には52.4億立方メートルと、1966年当時と比較して2.5倍以上増加しています[*1], (図1)。
図1: 日本における森林蓄積量の推移
出典: 一般社団法人 日本木質バイオマスエネルギー協会「木質バイオマス発電・熱利用をお考えの方へ」
https://jwba.or.jp/wp/wp-content/uploads/2022/09/hatudenneturiyou_guidebook2022.pdf, p.1
豊富な森林資源を有する日本ですが、一方で、活用しきれていないという課題もあります。近年、木質チップやペレット、薪などの利用量は増加していますが、未利用間伐材などの収集・運搬にはコストがかかるため、多くが林内に放置されている現状です[*1], (図2)。
図2: 木質バイオマスの発生量と利用の現状(推計)
出典: 一般社団法人 日本木質バイオマスエネルギー協会「木質バイオマス発電・熱利用をお考えの方へ」
https://jwba.or.jp/wp/wp-content/uploads/2022/09/hatudenneturiyou_guidebook2022.pdf, p.1
木質バイオマス発電のメリットと導入の現状
木質バイオマス発電の仕組みとそのメリット
環境負荷の低減という観点からも、未利用材の活用が求められており、国内では近年、木質バイオマス発電を導入する動きが広がっています。
木質バイオマス発電とは、木質チップなどの木質バイオマスを燃やしてタービンを回し発電する仕組みのことです[*3]。
燃料として木質バイオマスの活用促進を図ることで、地球温暖化の防止や廃棄物発生の抑制につながります[*4]。
石炭や石油などの化石燃料を燃やすと、CO2が排出され地球温暖化につながります。木質バイオマスも同様に、エネルギーとして燃やすとCO2が発生しますが、光合成によってCO2を吸収・固定しているため、全体で見れば大気中のCO2の量に影響を与えない「カーボンニュートラル」なエネルギー資源です[*1, *4], (図3)。
図3: 森林資源の循環
出典: 一般社団法人 日本木質バイオマスエネルギー協会「木質バイオマス発電・熱利用をお考えの方へ」
https://jwba.or.jp/wp/wp-content/uploads/2022/09/hatudenneturiyou_guidebook2022.pdf, p.1
また、発電の燃料には、製材工場の残材や住宅解体材などの廃棄物も活用できます。廃棄物の量を減らせれば、循環型の社会形成にもつながります。
木質バイオマス発電の普及状況
木質バイオマス発電は、2012年にFIT制度(固定価格買取制度)が開始されて以降、認定量・稼働量が急増しています。2022年3月には導入件数が183件となり、2015年3月と比較して8倍以上増加しています[*2, *5], (図4)。
図4: 近年の木質バイオマス発電施設の認定・導入状況
出典: 林野庁「木質バイオマス発電施設の認定・導入状況」
https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/biomass/attach/pdf/con_7-3.pdf, p.1
認定量・導入量の増加に伴い、これまで利用されていなかった未利用材の利用量や木質ペレットの生産量も増加しています[*1], (図5)。
図5: 国内における未利用材利用量等の推移
出典: 一般社団法人 日本木質バイオマスエネルギー協会「木質バイオマス発電・熱利用をお考えの方へ」
https://jwba.or.jp/wp/wp-content/uploads/2022/09/hatudenneturiyou_guidebook2022.pdf, p.9
このように、普及に伴って木質バイオマスの利用量が増加しているため、木質バイオマス発電の導入は森林資源の活用につながっていると言えます。
木質バイオマスの燃料となる木材輸入の現状
輸入材輸入の現状
木質バイオマス発電の導入量は年々増えていますが、国産材では原料供給が賄いきれず、外国産の木材を原料として使用する発電施設が増えています。現在、FIT制度で認定されたバイオマス発電所の認定容量の9割弱が、主に輸入バイオマスを燃料とする一般木材バイオマスの区分となっています[*5]。
バイオマス発電所の運営コストの約6割は燃料費であり、コスト低減には発電所の大型化が求められるため、大量の燃料を安定的に確保することが必要です。一方で、国内の山林は誰の土地かはっきりしないなど権利者が特定できず、大規模に林業を営むのが難しいという課題があります[*6]。
そのため、木質バイオマス発電所の増加に伴い、アブラヤシの種子の絞り殻(PKS)や、木質ペレットなどの輸入が急増しています。特に、PKSは2019年から2020年にかけて245万トンから338万トンまで増加し、木質ペレットは161万トンから203万トンまで増加しています[*5], (図6)。
図6: PKSおよび木質ペレット輸入量の推移
出典: NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク「トピックス FITバイオマス発電をめぐる変化」
https://npobin.net/hakusho/2021/topix_01.html
また、アメリカの木質ペレットメーカーであるエンビバ社は2018年に、住友商事株式会社と2021年から年間25万トンの木質ペレットを供給する契約を、三菱商事株式会社とは2022年から年間63万トンの供給を開始する契約を結んでいます。このように、国内バイオマス発電では今後も輸入材の利用が進む予定で、輸入量は増え続ける見込みです[*6]。
輸入材利用による環境負荷
輸入材の活用はこれまで国内の木質バイオマス発電増加につながってきましたが、一方で、国産材と比較して環境負荷が大きいという課題があります。資源エネルギー庁の試算によると、北米等の海外の木質ペレットを輸入した場合の温室効果ガス排出量は、高効率なLNG火力発電所と同水準とされており、特に輸送時の排出が大きな割合を占めています[*6, *7], (図7)。
図7: バイオマス燃料の温室効果ガス排出量(試算)
出典: 資源エネルギー庁「環境への影響について(地球環境への影響を中心に)」
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/shin_energy/biomass_sus_wg/pdf/001_05_00.pdf, p.7
また、国内で生産された木質チップと比較しても、輸送時の温室効果ガス排出量の差が大きい分、ライフサイクル全体の温室効果ガス排出量も大きく異なります。このように、輸入材は国産材に比べて環境負荷が大きいため、原料を輸入材から国産材へ転換することが求められています。
国産材活用の動向
脱炭素化に向けて近年、国内では国産材を導入する発電所が増えています。2011年から2019年にかけてバイオマス燃料として使われる国産材の供給量は21万立方メートルから693万立方メートルへと急増しており、2025年には約783万立方メートルまで需要が増加する見込みです[*8], (図8)。
図8: 用途別の国産材供給量
出典: 林野庁「木質バイオマスの利用」
https://www.rinya.maff.go.jp/j/rinsei/singikai/attach/pdf/210115si-6.pdf, p.1
地域のバイオマス資源の活用として、岡山県真庭市の取り組みが挙げられます。市内の約80%が森林である真庭市は、古くから林業が盛んな地域です。一方で、大量の林地残材や木質系廃材などが有効に活用されず、放置されている課題もありました[*9]。
真庭市は2006年に、未利用木質資源の有効活用を目的として、バイオマスタウン構想を発表し、バイオマス発電所の運用などを行っています。2015年4月に稼働開始した真庭バイオマス発電所は、「木を余すことなく使う」をコンセプトに、地域の森林から出た間伐材や林地残材、製鉄所由来の木質チップを活用した発電を実現しています[*9, *10], (図9)。
図9: 真庭市における木質バイオマス燃料収集フロー
出典: 真庭市「真庭バイオマス産業杜市構想(改訂版)」
https://www.city.maniwa.lg.jp/uploaded/life/2170_77261_misc.pdf, p.34
国内では燃料不足により出力を落としている発電所もある一方で、真庭バイオマス発電所は、同発電所の株主でもある真庭木材事業協同組合を通じて購入することで、燃料の安定供給を実現しています[*9]。
また、真庭木材事業協同組合は木をチップにすることができるチッパーを複数種所有しているため、チッパーを所有していない林業関係業者からも木材を購入できます。その結果、広範囲な地域から木材を集めることが可能となっています。
木質バイオマス発電における国産材活用に向けて
カーボンニュートラルの実現に貢献できる木質バイオマス発電の導入は今後も進むと予測されています。実際、木質系バイオマス発電の導入量は2020年度時点で184万kWですが、政府による導入支援が強化された場合、2030年には434万kWまで増加することが見込まれています[*11]。
現状では、燃料の大部分を輸入に頼っていますが、今後、パリ協定の実施に伴い、世界各国のバイオマス燃料の需要も高まることが想定されます。そうなると、これまでの輸入依存の仕組みでは、国内の木質バイオマス発電は安定的な供給が困難です[*12]。
環境負荷の観点から見ても、木質バイオマス発電における国産材の活用が、国内における木質バイオマス発電のさらなる発展につながるでしょう。
参照・引用を見る
*1
一般社団法人 日本木質バイオマスエネルギー協会「木質バイオマス発電・熱利用をお考えの方へ」
https://jwba.or.jp/wp/wp-content/uploads/2022/09/hatudenneturiyou_guidebook2022.pdf, p.1, p.2, p.3, p.9
*2
林野庁「木質バイオマス発電施設の認定・導入状況」
https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/biomass/attach/pdf/con_7-3.pdf, p.1*3
一般社団法人 日本木質バイオマスエネルギー協会「木質バイオマス発電とは」
https://jwba.or.jp/woody-biomass-energy/woody-biomass-electricity/
*4
林野庁「なぜ木質バイオマスを使うのか」
https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/biomass/con_2.html
*5
NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク「トピックス FITバイオマス発電をめぐる変化」
https://npobin.net/hakusho/2021/topix_01.html
*6
株式会社東洋経済新報社「期待の再エネ『バイオマス発電』の理想と現実」
https://toyokeizai.net/articles/-/416716?page=2
https://toyokeizai.net/articles/-/416716?page=3
*7
資源エネルギー庁「環境への影響について(地球環境への影響を中心に)」
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/shin_energy/biomass_sus_wg/pdf/001_05_00.pdf, p.7
*8
林野庁「木質バイオマスの利用」
https://www.rinya.maff.go.jp/j/rinsei/singikai/attach/pdf/210115si-6.pdf, p.1
*9
京都大学大学院 経済学研究科「No.167 真庭バイオマス発電所 ~順調な稼動の理由と今後の課題~」
https://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/contents/column0167.html
*10
真庭市「真庭バイオマス産業杜市構想(改訂版)」
https://www.city.maniwa.lg.jp/uploaded/life/2170_77261_misc.pdf, p.34
*11
資源エネルギー庁「2030年度におけるエネルギー需給の見通し(関連資料)」
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/opinion/data/03.pdf,p.41
*12
一般財団法人 日本エネルギー経済研究所「日本の2030年木質バイオマス発電導入見込量とその燃料供給可能性評価」
https://eneken.ieej.or.jp/data/7131.pdf, p.1, p.6