BOPビジネスとは? 貧困問題や環境問題の解決にも貢献する電力・エネルギー分野における取り組みを紹介

経済発展等の影響により、世界全体の電力消費量は近年増加傾向にあります。しかし一方で、途上国を中心に、未だ電力供給を受けられない人々が多く存在するのも事実です[*1]。

電気が通っていない地域は医療や教育が遅れ、経済発展が滞ります。特に、途上国では国内の電力供給の差によって都市と地方での格差が拡大しています。[*2]。

そこで近年、電力・エネルギー分野において、BOP(Base of the Economic Pyramid)層と呼ばれる年間所得が3,000ドル以下の低所得層に対する製品やサービスを提供する「BOPビジネス」が期待されています[*3]。地域間の格差解消および途上国地域の電化に向けて、どのように貢献するのでしょうか。

 

世界の低所得層を取り巻く電力・エネルギー事情

世界の電力消費量は1970年以降、ほぼ一貫して増加しています。2010年以降も電力消費量の増加率は年平均2.8%と、堅調に推移しており、地域別に見ると、途上国を大きく抱えるアジア、中東、中南米地域での伸びが著しくなっています[*1], (図1)。

図1: 地域別の電力消費量の推移
出典: 資源エネルギー庁「令和2年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2021) 第3節 二次エネルギーの動向」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2021/html/2-2-3.html

一方、アジア(日本、韓国を除く)や中東、中南米、アフリカ地域の一人当たりの電力消費量は依然として低い水準です[*1], (図2)。

図2: 地域別の1人当たり電力消費量(2018年)
出典: 資源エネルギー庁「令和2年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2021) 第3節 二次エネルギーの動向」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2021/html/2-2-3.html

また、電力を利用できない人々の数は、近年改善傾向にありますが、2020年時点で未だ7億3,300万人にのぼります[*4], (図3)。

図3: 世界における未電化人口の推移
出典: 国連広報センター「持続可能な開発目標(SDGs)報告2022」
https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/sdgs_report/

特に、サブサハラ地域(アフリカ大陸のサハラ砂漠より南にある地域の総称)やパキスタン、バングラデシュなどのアジア地域には、電力を利用できない人々が多く存在します。現在の改善ペースだと、2030年にも6億7,900万人もの人々が電力を利用できないままと予想されており、電化に向けた取り組みが求められています[*1, *4]。

低所得層に対する電力・エネルギー供給の重要性

   
なぜ、低所得層への電力供給の取り組みが重要なのでしょうか。それは、未電化地域へ電力やエネルギーを安定的に供給することで、貧困解消のほか、健康被害や環境問題の抑制にもつながるからです[*5]。

例えば、エネルギーを満足に使えない地域に住む人々の中には、薪や動物のふんを使った昔ながらのバイオマス燃料を使用する人々もいます。それらを使用した際に発生する煙による死亡率は、マラリヤや結核による死亡率よりも高くなっているとされています[*6]。

また、バイオマス燃料に依存することで、森林伐採などの環境破壊につながります。実際、ボツワナの農村部では、住民の約80%が電気を使えず、薪を燃やして明かりや調理を行っていたため森林の伐採につながるという問題を抱えています[*5]。

注目を集めるBOPビジネス

   
電気やエネルギーを十分に得ることができない人々へ安定的に供給する仕組みを構築することが、環境問題の解決にもつながります。

国際機関やNGOなどによる支援も行われていますが、途上国を中心に世界人口の約7割を占めるとされる低所得層に電力供給等を行き渡らせるためには、民間企業による取り組みも欠かせません。

そこで近年活発化しているのが、「BOP(Base of the Economic Pyramid)ビジネス」です[*3], (図4)。

図4: BOP層とは
出典: 独立行政法人 日本貿易振興機構「BOPビジネスとは」
https://www.jetro.go.jp/theme/bop/basic.html

BOPビジネスとは、途上国のBOP層(年間所得が3,000ドル以下の低所得層)に対して有益な製品・サービスを提供することで、BOP層の生活水準向上に貢献しつつ、企業の発展も達成する持続的なビジネスのことです。

約40億人と推定されるBOP層は、途上国の経済発展などに伴い、将来的にその多くが中間所得層に上昇することが期待されています。将来的なボリュームゾーン市場でのビジネスの展開は、企業のさらなる発展に貢献するとされています。

 

電力・エネルギー分野におけるBOPビジネス事例

BOPビジネスは、医療や食品、日用品販売など多岐に渡ります。例えば、フランスの食品大手ダノンは、バングラデシュで子供の栄養状態を改善するため栄養価の高いヨーグルト製品を開発し、低価格で販売しています[*7]。

また、イギリスに本拠を置くユニリーバは、手洗いによる感染症予防について啓発活動を行いながら、途上国で石鹸販売を行うBOPビジネスを展開しています。

電力・エネルギー分野においてもBOPビジネスが行われています。そこで今回は、バングラデシュとケニアにおける例を紹介します。

バングラデシュにおけるBOPビジネス事例


バングラデシュの電力・エネルギー事情

バングラデシュでは、2004年から2010年にかけて発電能力は4,995MWから5,823MWへと増加しましたが、同時に電力需要も増大したため、常に供給不足でした。また、2010年時点の調査では、農村部では半数以上の人々が電気を使用できず、国全体の電化率は55%と、低い水準でした[*8], (図5)。

図5: バングラデシュにおける電力利用状況(2010年)
出典: 独立行政法人 日本貿易振興機構「バングラデシュ BOP実態調査レポート」
https://www.jetro.go.jp/ext_images/theme/bop/precedents/pdf/lifestyle_electricity_bd.pdf, p.3

バングラデシュにおけるBOPビジネス

未電化地域への発電所建設や、送電線敷設には大きなコストがかかります。また、発電能力の増強の結果、電気料金の大幅な値上げにつながり、低所得層に大きな負担となる可能性があります[*8]。

そこで、バングラデシュで創立されたマイクロファイナンス機関、グラミン・グループは、グラミン・シャクティを1996年に設立しました[*9]。

グラミン・シャクティは、送電線が敷設されていない農村地域でも活用可能な家庭用ソーラー発電システムやバイオガス発電システム、熱効率が良く煙の少ない改良コンロの設置を行っています。設置に当たっては、グラミン銀行が開発した融資プランを利用でき、家庭用ソーラー発電システムとバイオガス発生システムの場合は、代金の15%を頭金として支払い、2年以内に残金を支払う分割払いが可能です[*9], (表1)。

表1: グラミン・シャクティが提供する商品ラインナップ出典: 独立行政法人 日本貿易振興機構「バングラデシュ 企業訪問調査レポート【3】: Grameen Shakt」
https://www.jetro.go.jp/ext_images/theme/bop/precedents/pdf/companysurvey_20140820_bd.pdf, p.4

グラミン・シャクティによる再生可能エネルギーの普及事業によって、バングラデシュの農村地域におけるエネルギー事情も改善しています。これまでに家庭用ソーラー発電システムの累計設置台数は180万台超、バイオガス発生システムは3万5,000台超、改良コンロは100万台超と急速に普及が拡大しています[*9, *10], (図6)。

図6: グラミン・シャクティが提供する商品の導入台数
出典: Grameen Shakti「About Grameen Shakti」
https://gshakti.org/

ケニアにおけるBOPビジネス事例


ケニアの電力・エネルギー事情

2011年にケニア政府が発表した資料によると、ケニア国内のエネルギー消費の68%超が炊事のために使用する薪や木炭などのバイオマス燃料であり、多くの低所得層は政府からのエネルギー供給を受けるのが困難な状況でした[*11]。

また、電力事情についても同様に、2011年時点の電化率は国全体で16%、農村地域は5%にとどまるなど、電力供給を受けられない人々が多く存在するという課題を抱えていました[*12]。

ケニアの農村地域の人々が電力供給を十分に受けられない理由は、送電網の設置が進まないためです。広い国土のあちこちに小さな村が分散しているため、設置には多くの費用や時間がかかります。また、各自治体に小型のディーゼル発電機を分散して設置しようとすると、燃料の輸送費がかさむことに加え、輸送中の強盗被害や輸送業者による転売などの問題が発生することもあります。

ケニアにおけるBOPビジネス

このような農村地域の電力・エネルギー問題に対して、ケニアでは、家庭用太陽光発電システムの割賦販売やクリーンなガスの量り売りなどを行うBOPビジネスが普及しています[*13]。

例えば、ケニアのベンチャー企業であるエムコパ・ソーラーは、未電化地域の低所得層向けに家庭用太陽光発電システムの割賦販売を行っています。

低所得層は銀行から融資を受けられず、初期費用を工面できないため、発電システムを設置したくてもできないという事情があります。契約時に約30ドルの手付金を支払えば、太陽光発電システムを使用できる仕組みを構築し、さらに、1日約50セントを420日支払い続けることで、顧客が発電システムを所有できるようにしました。1日2ドル未満の低所得者でも導入しやすい、持続可能な販売方法です。

さらに、ケニアの一般家庭では、ガス料金の高さから、安価な木炭やケロシン(石油の分留成分の1つ)を調理用燃料として使用しています。しかし、これらの燃料は有害物質を発するため、環境問題や健康被害をもたらします。そこで、アメリカの企業、ペイゴー・エナジーは、使った分だけガス料金を支払う、量り売りのガスボンベ・デリバリーサービスを推進しています[*13]。

クリーンエネルギーである液化石油ガス(LPG)をスマートメーター付きのガスボンベに入れることで量り売りが可能となり、残量が少なくなると、ガスボンベが再度配送される仕組みです[*13, *15], (図7)。

図7: ペイゴー・エナジーが提供するスマートメーター
出典: 一般社団法人 日本経済団体連合会「ケニア、アジアにおけるスマートメーター技術を利用した一般家庭向けLPガス小売事業」
https://www.keidanrensdgs.com/data/37

 

まとめ

公的な支援と併せて、BOPビジネスのような持続可能なビジネスによる再生可能エネルギーやクリーンエネルギーの供給を行うことで、低所得層の貧困脱却や健康被害、環境破壊の防止につながります。

風力発電開発を行う株式会社チャレナジーは、過酷な環境下でも壊れにくいマイクロ風車を開発し、フィリピンやアフリカ地域での展開を進めています[*16]。

また、同技術を活用したさらなる展開として、2022年11月には、寒冷地でも活用可能な頑強で災害に強いマイクロ風車の開発を目指し青森県で実証を開始しています。このように、BOPビジネスの技術やノウハウは、途上国だけでなく日本国内でも活用されています[*17]。

私たち消費者は、BOPビジネスを行う企業を支援したり、商品・サービスを購入したりすることで、貧困問題解決等の一助になると言えるでしょう。

 

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参照・引用を見る

*1
資源エネルギー庁「令和2年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2021) 第3節 二次エネルギーの動向」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2021/html/2-2-3.html

*2
独立行政法人 国際協力機構「電力が足りない貧しい地域に『再生可能エネルギー』の可能性」
https://www.jica.go.jp/nantokashinakya/sekatopix/article0147/index.html

*3
独立行政法人 日本貿易振興機構「BOPビジネスとは」
https://www.jetro.go.jp/theme/bop/basic.html

*4
国連広報センター「持続可能な開発目標(SDGs)報告2022」
https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/sdgs_report/

*5
独立行政法人 国際協力機構「電力が足りない貧しい地域に『再生可能エネルギー』の可能性」
https://www.jica.go.jp/nantokashinakya/sekatopix/article0147/index.html

*6
独立行政法人 国際協力機構「エネルギー貧困が引き起こす、環境破壊や煙による健康被害とは」
https://www.jica.go.jp/nantokashinakya/sekatopix/article052/index.html

*7
みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社「BOP(ボトム・オブ・ザ・ピラミッド)」
https://www.mizuho-rt.co.jp/publication/mhri/research/pdf/research/r091201keyword.pdf, p.13

*8
独立行政法人 日本貿易振興機構「バングラデシュ BOP実態調査レポート」
https://www.jetro.go.jp/ext_images/theme/bop/precedents/pdf/lifestyle_electricity_bd.pdf, p.1, p.2, p.3

*9
独立行政法人 日本貿易振興機構「バングラデシュ 企業訪問調査レポート【3】: Grameen Shakt」
https://www.jetro.go.jp/ext_images/theme/bop/precedents/pdf/companysurvey_20140820_bd.pdf, p.1, p.4, p.6

*10
Grameen Shakti「About Grameen Shakti」
https://gshakti.org/

*11
独立行政法人 日本貿易振興機構「ケニアBOP実態調査レポート」
https://www.jetro.go.jp/ext_images/theme/bop/precedents/pdf/lifestyle_electricity_ke.pdf, p.1

*12
大阪ガス株式会社「非電化地域に明かりを。自然エネルギーで未来を切り拓くケニア共和国」
https://services.osakagas.co.jp/portalc/contents-2/pc/w-energy/report/201512/index.html

*13
独立行政法人 日本貿易振興機構「アフリカ・スタートアップ100社」
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/dc0d01678915e238/20180042.pdf, p.52, p.53

*14
株式会社日本経済新聞社「収入2ドル層にも手が届く ビジネスが貧困救う」
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO97831910Z20C16A2MM8000/

*15
一般社団法人 日本経済団体連合会「ケニア、アジアにおけるスマートメーター技術を利用した一般家庭向けLPガス小売事業」
https://www.keidanrensdgs.com/data/37

*16
株式会社日本経済新聞社「グローバルサウスにスタートアップの技 減災や治安対策」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC151LG0V10C23A5000000/?fbclid=IwAR12Y1OllQZ8TDIPbLZoLrAaBlRgK4GaBVrcw6moAn9xwUKTEXuhXfSMM5U

*17
株式会社チャレナジー「寒冷地向け次世代型マイクロ風車を青森で実証開始」
https://challenergy.com/2023/01/31/nedo-2/

 

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