カーボンニュートラルポートとは? 港湾における脱炭素化の取り組みと推進事例を紹介

港湾は、輸出入を行う国際サプライチェーンの重要な拠点です。特に日本では、輸出入貨物の99.6%が港湾を経由しており、日々多くのモノが取引されています。そんな港湾は、発電所や鉄鋼、化学工業など様々な産業が集積するエネルギーの一大消費拠点でもあります[*1]。

そのため、港湾一帯はCO2排出量が多いという課題がありますが、再生可能エネルギーや、CO2を地中に貯蔵する技術を活用して製造する水素や燃料アンモニアの輸入拠点にもなるため、これらの次世代エネルギーを活用することで、排出量を大きく削減することも可能です。

近年では、港湾における脱炭素化を総合的に推進する取り組みとして「カーボンニュートラルポート」形成が注目を集めています。

それでは、カーボンニュートラルポートとはどのような役割を持った港湾なのでしょうか。また現在、国内港湾ではどのような取り組みが行われているのでしょうか。詳しくご説明します。

 

港湾の環境負荷

海外との輸出入の拠点となる港湾には、発電所や鉄鋼、化学工業などCO2を多く排出する産業が多く立地しています。発電所や鉄鋼、化学工業は、日本のCO2排出量全体の約6割を占めており、政府が目指す2050年までに脱炭素社会を実現するためには、これらの産業からのCO2排出量を削減する必要があります[*1], (図1)。

図1: 製油所・発電所や産業が集積する港湾・臨海部
出典: 国土交通省「カーボンニュートラルポート(CNP)の形成に向けた施策の方向性」
https://www.mlit.go.jp/kowan/content/001448303.pdf, p.4

また、港湾には多くの船舶や車両が出入りするほか、冷蔵倉庫や物流施設など電力を大量に消費する施設も立地しています。そのため、港湾はCO2排出量削減の余地が大きい地域と言えます。

 

カーボンニュートラルポートとは

世界的にサプライチェーンの脱炭素化に取り組む事業者が増えるなか、荷主や物流事業者等からの脱炭素化の要請に対応して、国土交通省は「カーボンニュートラルポート(CNP)」の形成を推進しています[*2], (図2)。

図2: カーボンニュートラルポート(CNP)の形成のイメージ
出典: 国土交通省「カーボンニュートラルポート(CNP)」
https://www.mlit.go.jp/kowan/kowan_tk4_000054.html

カーボンニュートラルポートとは、国際物流や産業の拠点である港湾において、温室効果ガスの排出ゼロを目指す取り組みです。大量で安定した供給が可能な水素・燃料アンモニア等の輸入や貯蔵を可能にする環境を整備し、また、脱炭素化に配慮した港湾機能を強化や、臨海部の産業との連携によって全体の温室効果ガスの排出をゼロにすることを目指します[*3]。

具体的には、港湾管理者が運営する公共ターミナル(コンテナターミナルや、包装なし貨物を取り扱うバルクターミナル)における取り組みに加え、これらのターミナルを経由して行われる物流活動(海上輸送、トラック輸送倉庫等)、そして臨海部の事業者による活動(発電所、鉄鋼工場等)全体が連携して温室効果ガス排出量実質ゼロを目指します[*3, *4], (図3, 図4)。

図3: コンテナターミナルにおけるカーボンニュートラルポートの形成
出典: 国土交通省 港湾局「カーボンニュートラルポート(CNP)の形成について」
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001390169.pdf, p.18

図4: バルクターミナルにおけるカーボンニュートラルポートの形成
出典: 国土交通省 港湾局「カーボンニュートラルポート(CNP)の形成について」
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001390169.pdf, p.19

カーボンニュートラルポートが目指す姿

   
カーボンニュートラルポート形成に向けた取り組みとして、政府は「水素等サプライチェーンの拠点としての受入環境の整備」と「港湾地域の面的・効率的な脱炭素化」を進めていくとしています[*1]。

水素等サプライチェーンの拠点としての受入環境の整備

一つ目の「水素等サプライチェーンの拠点としての受入環境の整備」とは、今後普及が進む次世代エネルギーの燃料(水素やアンモニア)の大量輸入を想定して、港湾における受入環境を整備するものです。

例えば、水素はCO2を排出せずに発電したり、燃焼させて熱エネルギーとして利用できる環境に優しいエネルギー資源です。水素製造時にも、CO2を地中に貯蔵するCCS(二酸化炭素回収・貯留技術)を活用したり、生ごみ・植物などのバイオマス燃料を原料にしたりすることで、大気への影響を防ぐことが可能です。近年では、燃料電池自動車や燃料電池バス、家庭用燃料電池など様々な用途への活用が進みつつあります[*5]。

また、化学製品の基礎材料としても利用されるアンモニアは、水素分子を含む物質です。利用する場所で水素に変換することが可能なため、大量輸送が難しい水素のキャリア(輸送媒体)になり得る存在として、注目を集めています[*6]。

水素や燃料アンモニアの輸送等にかかるサプライチェーンを構築することで、化石燃料の代替としてクリーンなエネルギーを供給できるようになります。しかしながら、水素、アンモニアともに単位発熱量あたりの容積・重量は化石燃料と比べて大きく、運びづらいのが現状です[*4], (図5)。

図5: 化石燃料および水素・アンモニアの単位発熱量当たりの容積・重量比較
出典: 国土交通省 港湾局「カーボンニュートラルポート(CNP)の形成について」
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001390169.pdf, p.15

効率的な大量輸送の実現する方策として、輸入拠点港湾において大型船の受入環境を整備し、さらには国内の他港へ二次輸送する際の海上輸送ネットワークを構築することが考えられます[*1]。

港湾地域の面的・効率的な脱炭素化

二つ目の「港湾地域の面的・効率的な脱炭素化」とは、温室効果ガス排出量の大部分を占める港湾地域において、水素や燃料アンモニア等の需要企業と供給企業、行政機関等の連携により、脱炭素社会への移行を促進するものです[*1]。

まず、荷役機械や港湾を出入りする船舶、大型車両等を含め、港湾オペレーションの脱炭素化を目指します。また、ターミナル周辺についても、火力発電所、化学工業、倉庫等の臨海部に立地する産業との連携を含めて脱炭素化に取り組むとしています。

カーボンニュートラルポートの主な取り組み

  
港湾内外におけるカーボンニュートラルポート形成を実現するためには、港湾・物流の高度化や水素・アンモニア、洋上風力発電の導入促進など様々な取り組みを複合的に推進する必要があります[*4], (図6)。

図6: 脱炭素化に配慮した港湾機能の高度化の取り組み
出典: 国土交通省 港湾局「カーボンニュートラルポート(CNP)の形成について」
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001390169.pdf, p.17

港湾から排出される温室効果ガスの約4割は、停泊中の船舶内における発電機使用によるものです。そこで、ターミナル内に水素を活用したクリーンな電源を設置し、陸上から電力を供給することによってターミナル内外のカーボンニュートラル化を促進することが可能です。

また、既存の荷役機械や工作機械、コンテナを運ぶトラクターヘッド、バルク貨物を運ぶトラックの多くはディーゼルエンジンや化石燃料由来の電力で稼働するものが多く、これらの脱炭素化も不可欠です[*4], (図7)。

図7: コンテナ用トラクターヘッドの脱炭素化に向けた取り組み
出典: 国土交通省 港湾局「カーボンニュートラルポート(CNP)の形成について」
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001390169.pdf, p.23

そこで、ディーゼルエンジンを燃料電池へ置き換えたり、水素ステーションを設置することで、物流や港湾作業のカーボンニュートラルに近づけることができます。

さらに、臨海部に立地する火力発電の発電時の原料として水素・アンモニア等を使用することによって、原料となる化石燃料の割合を減らすことができるため、低炭素化・脱炭素化につながります。このような、港湾を経由して輸入・製造された水素やアンモニア等を近隣発電所と連携して活用する取り組みも、カーボンニュートラルポート形成に向けた取り組みの一つです。

 

カーボンニュートラルポート形成に向けた国内港湾の動向

神戸港における取り組み

  
国内の港湾では、カーボンニュートラルポート形成に向けて様々な取り組みが推進されています。例えば、神戸港が立地する神戸市では、産学官で構成される「神戸港カーボンニュートラルポート(CNP)協議会」を設立し、「神戸港カーボンニュートラルポート(CNP)形成計画」を策定しました[*7, *8], (図8)。

図8: 神戸港におけるカーボンニュートラルポート形成の取り組みイメージ
出典: 神戸市「【概要版】神戸港カーボンニュートラルポート(CNP)形成計画」
https://www.city.kobe.lg.jp/documents/49810/cnpkeiseikeikakugaiyouban.pdf

同計画では、2030年までに水素供給拠点を導入し、荷役機械や運搬機械等の水素燃料化を促進するとともに、施設内へのLED導入や熱利用等の省エネ化を図るとしています。また、2050年までにLNG・水素・アンモニア等のバンカリング(バンカー船と呼ばれる専用船を用いて洋上の船に燃料を補給すること)機能の導入や、周辺臨海部を視野に入れたより広範な水素・e-メタン(水素など非化石エネルギー源を用いて製造されたメタン)の導入を図ることで、カーボンニュートラルポート実現を目指しています[*9], (図9)。

図9: 神戸港におけるカーボンニュートラルポート実現に向けた全体方針
出典: 神戸市「神戸港 CNP 形成計画」
https://www.city.kobe.lg.jp/documents/49810/cnpkeiseikeikaku.pdf, p.16

神戸港では、水素等の大規模受入に活用可能な臨海部の未利用地が少ないという課題があります。そこで、姫路港や東播磨港など周辺港湾と連携し、周辺港湾を受入拠点としたサプライチェーン構築の検討なども進めています[*9], (図10)。

図10: 水素等の受入拠点としての神戸港の位置づけ
出典: 神戸市「神戸港 CNP 形成計画」
https://www.city.kobe.lg.jp/documents/49810/cnpkeiseikeikaku.pdf, p.23

横浜港における取り組み

   
臨海部から排出されるCO2が市域全体の約4割を占める横浜市は、カーボンニュートラルポート形成に大きな成果が見込まれる地域です。

2030年度までに2013年度比で横浜市臨海部におけるCO2排出量を47%削減、2050年までに実質排出量ゼロを目指しており、「横浜港カーボンニュートラルポート臨海部事業所協議会」を設立して、産学官による様々な施策を推進しています[*10, *11]。

2021年11月には、ENEOS株式会社と連携協定を締結し、水素サプライチェーンの構築に向けた取り組みを推進すると発表しました[*10], (図11)。

図11: 横浜臨海部における水素インフラ網の将来構想イメージ図
出典: 横浜市「カーボンニュートラルポートの取組」
https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/yokohamashi/yokohamako/kkihon/torikumi/cnp/top.html

同協定では、パイプラインをはじめとする水素供給インフラ整備に向けた検討を行い、川崎エリアも含む横浜臨海部における水素社会の実現に挑戦するとしています。

また、石油や石炭と比較してCO2排出量などの環境負荷が少ないLNG(液化天然ガス)や、アンモニア等のバンカリングの促進に向けた取り組みも推進しています。具体的には、LNG燃料船の定係地(船を係留する場所)の整備やLNG燃料船・供給船へのインセンティブ制度を創設しています[*12, *13], (図12), (図13)。

図12: LNGバンカリング拠点の形成
出典: 横浜市港湾局・温暖化対策統括本部「横浜港におけるカーボンニュートラルポートの形成に向けて」
https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/yokohamashi/yokohamako/kkihon/torikumi/cnp/top.files/0005_20221014.pdf, p.4

図13: LNG燃料船・供給船へのインセンティブ制度の概要
出典: 横浜市「環境に配慮した船舶の入港を促進する制度を拡充します!」
https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/yokohamashi/yokohamako/kkihon/kankyo/20161012120512.files/0023_20210330.pdf, p.1

 

カーボンニュートラルポートのさらなる促進に向けた展望

カーボンニュートラルポート形成に向けては、様々な技術が必要であり、研究開発から実証、商用運転までの各フェーズを意識したロードマップを作成し、実践することが求められています[*1]。

また、水素や燃料アンモニア等の大量・安定・安価な輸入・貯蔵等の実現に向けては、事業者の意向を踏まえながら最適なサプライチェーンを構築し、受入環境を整備する必要があります。

港湾地域には、行政機関や港湾管理者、物流事業者、燃料を供給・需要する事業者など様々な主体が存在しています。各主体が連携して一体となって取り組むことが、カーボンニュートラルポート形成のカギとなるでしょう。

 

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参照・引用を見る

*1
国土交通省「カーボンニュートラルポート(CNP)の形成に向けた施策の方向性」
https://www.mlit.go.jp/kowan/content/001448303.pdf, p.1, p.2, p.3, p.4, p.5, p.6, p.7, p.8, p.9, p.10

*2
国土交通省「カーボンニュートラルポート(CNP)」
https://www.mlit.go.jp/kowan/kowan_tk4_000054.html

*3
国土交通省 港湾局「『カーボンニュートラルポート(CNP)形成計画』策定マニュアル」
https://www.mlit.go.jp/kowan/content/001447257.pdf, p.2

*4
国土交通省 港湾局「カーボンニュートラルポート(CNP)の形成について」
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001390169.pdf, p.15, p.17, p.18, p.19, p.20, p.22, p.23, p.24, p.26

*5
資源エネルギー庁「『水素エネルギー』は何がどのようにすごいのか?」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/suiso.html

*6
資源エネルギー庁「アンモニアが“燃料”になる?!(前編)~身近だけど実は知らないアンモニアの利用先」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/ammonia_01.html

*7
神戸市「カーボンニュートラルポート(CNP)の取組み」
https://www.city.kobe.lg.jp/a49918/cnp.html

*8
神戸市「【概要版】神戸港カーボンニュートラルポート(CNP)形成計画」
https://www.city.kobe.lg.jp/documents/49810/cnpkeiseikeikakugaiyouban.pdf

*9
神戸市「神戸港 CNP 形成計画」
https://www.city.kobe.lg.jp/documents/49810/cnpkeiseikeikaku.pdf, p.9, p.16, p.23

*10
横浜市「カーボンニュートラルポートの取組」
https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/yokohamashi/yokohamako/kkihon/torikumi/cnp/top.html

*11
横浜市港湾局・温暖化対策統括本部「横浜市説明資料」
https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/yokohamashi/yokohamako/kkihon/torikumi/cnp/top.files/0021_20230210.pdf, p.4, p.18

*12
横浜市港湾局・温暖化対策統括本部「横浜港におけるカーボンニュートラルポートの形成に向けて」
https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/yokohamashi/yokohamako/kkihon/torikumi/cnp/top.files/0005_20221014.pdf, p.4

*13
横浜市「環境に配慮した船舶の入港を促進する制度を拡充します!」
https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/yokohamashi/yokohamako/kkihon/kankyo/20161012120512.files/0023_20210330.pdf, p.1

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