蓄電池を取り巻く法制度―電気事業法の改正や設置促進に向けた検討

蓄電池とは、充電を行うことで電気を蓄え、繰り返し使用することができる二次電池のことです。再生可能エネルギーなど次世代エネルギーシステムにおいて重要な役割を果たしています[*1]。

従来の電気事業法では、電力系統への接続の権利など蓄電池の位置づけが明確ではありませんでした[*2]。

しかし近年では、電気事業法の改正や、蓄電池設置を促す制度の検討が進み、単独で電力系統に接続するスタンドアローン型の蓄電池が登場するなど、設置方法も多様化しています。

この記事では、蓄電池を取り巻く法制度や改正の動きと、それに伴う蓄電池の設置促進を後押しする取り組みについて詳しく解説します。

 

蓄電池とは

蓄電池の役割

   
蓄電池には様々な役割がありますが、第一は「余った電気を貯めておく」ことです[*1]。 

太陽光や風力などの再生可能エネルギー電源は、発電量が天候に左右されてしまうというデメリットがあります。こうした再生可能エネルギー由来の電気が需要以上に発電された場合、電気を蓄電池に貯め、必要な時に放電することで効率的な電力利用が可能になります。

また、再生可能エネルギーの大量導入は、電力系統に大きな負荷がかかる可能性がありますが、蓄電池を太陽光発電所に併設することで発電量を平準化し、「電力系統の安定を図る」ことにも繋がります。

さらに、災害や電力不足などで停電が発生した場合には、自立的に電気を賄う非常用電源として利用することができるため、「防災に役立てる」上でも大きな役割を果たします。

蓄電池を取り巻く状況

   
政府が目指す2050年カーボンニュートラル実現には、蓄電池の普及・活用がカギになります。なぜなら蓄電池は、再生可能エネルギーの主力電源化に向けた電力の需給調整に活用できるとともに、自動車等の電動化においては不可欠な存在だからです[*3]。

蓄電池市場は、定置用・車載用ともに拡大する見通しです。2019年の市場規模は約5兆円であったのに対し、2050年には約100兆円になると見込まれています。

また、現段階では、定置用蓄電池市場の市場規模は車載用蓄電池市場の約1割程度ですが、カーボンニュートラル達成に向けた各国での再生可能エネルギー導入に伴い、さらに成長する見込みです。

 

蓄電池を取り巻く法制度

電気事業法とは

  
発電事業など電気事業の適正な運営を図るため、日本では電気事業法と呼ばれる法律が制定されています[*4]。

電気事業法は、発電所や変電所などの電気工作物の保安確保のための規制で、「保安規程」の作成・届け出・順守、その保安を監督するための「主任技術者」の選任・届け出等について規定されています。

また、電気事業法では電気事業者の種類が明記されています。例えば、電力の小売供給を行う小売電気事業、送配電等を行う一般送配電事業、電気を発電する発電事業などの事業者の種類が規定されています[*5]。

蓄電池導入に係るこれまでの電気事業法上の課題

   
今後も市場規模が拡大する見込みがある蓄電池市場では、蓄電池を単独で設置するスタンドアローン型や、大規模な蓄電池を再生可能エネルギー発電所や基幹系統につないで系統電力の安定化を図る電力系統用蓄電池など、近年新たな形態の蓄電池が登場しています[*2, *6]。

一方で、2022年の改正前の電気事業法上では、蓄電池の位置づけが不明確であったため、系統用蓄電池によるサービス事業が提供できませんでした。スタンドアローン型の蓄電池ビジネスについても、蓄電池は発電所や変電所、需要設備などを構成する電気設備の一つとしての整理にとどまっていました[*2, *7], (図1)。

図1: 蓄電所に対する保安規制の整備の必要性
出典: 経済産業省 産業保全グループ 電力安全課「蓄電所に対する保安規制のあり方について」https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/denryoku_anzen/hoan_seido/pdf/010_01_00.pdf, p.4

 

電気事業法改正の動き

以上のような課題を解決するため、2022年に電気事業法の改正が行われました。

蓄電事業の位置づけの明確化


2022年3月1日、「安定的なエネルギー需給構造の確立を図るためのエネルギーの使用の合理化等に関する法律等の一部を改正する法律案」の閣議決定では、電気事業法上、大型の蓄電池から放電する事業を発電事業と位置づけました[*8, *9], (図2)。

図2: 電気事業法上における大型蓄電池事業の位置づけ
出典: 経済産業省「安定的なエネルギー需給構造の確立を図るためのエネルギーの使用の合理化等に関する法律等の一部を改正する法律案の概要」https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220301002/20220301002-1.pdf, p.5

大型蓄電池が系統へ接続する権利も認められ、蓄電池ビジネスの事業環境が整いました[*2]。

蓄電所に対する保安規制

  
位置づけの明確化に合わせて、蓄電池の保安規制についても整理する必要があります。発電所や変電所等に接続する蓄電池については、これまでと同様に付属設備として扱われます[*2]。

一方で、蓄電所に対しては、「蓄電所」という新たな類型を設けたうえで保安規制が課されることとなりました。具体的には、従来の電力貯蔵装置に対する基準に加え、2022年11月30日の「電気事業法施行規則の一部改正」において、蓄電所は太陽光発電設備に準じた保安ルールが課されるようになりました[*2, *8, *10], (図3)。

図3: 蓄電所に対する規制適用の考え方
出典:経済産業省 産業保全グループ 電力安全課「蓄電所に対する保安規制のあり方について」https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/denryoku_anzen/hoan_seido/pdf/010_01_00.pdf, p.7

太陽光発電設備に準じた保安規制となるため、蓄電所においても電気主任技術者の選任や保安規程の届け出などが必要となります[*8, *10]。

蓄電池設置を後押しする動き


スタンドアローン型の蓄電池導入に係る法制度を整備すると同時に、既存の再生可能エネルギー併設型の蓄電池設置を後押しする施策も検討されています[*2]。

太陽光や風力など天候に左右されやすい再生可能エネルギー電源は、蓄電池を併設することでより効果的な運用が可能となります。しかしながら、従来のルールでは、FIT(固定価格買取制度)やFIP(フィード・イン・プレミアム)制度の認定を受けた再生可能エネルギー発電設備に蓄電設備を併設する場合、蓄電池への充電は再生可能エネルギー発電設備によるものだけが認められ、系統電力からの充電は認められていませんでした。なぜなら、蓄電池を介することで再生可能エネルギー電力に他の電力が混入しないように制度設計されているためです。

しかしながら、再生可能エネルギー由来の電力供給の促進に向けて、蓄電池の活用は不可欠です。そこでFIT・FIPの再生可能エネルギー発電設備においても、系統電力の充電を認めつつ、再生可能エネルギー発電設備から充電された分についてはFIT・FIPにおける買い取りの対象とすることが検討されています。

 

蓄電池を取り巻く今後の動向

蓄電池はカーボンニュートラル実現の重要なカギとなっています。また、世界各国で蓄電池のサプライチェーン構築に向けた大規模かつ積極的な政策支援が行われ、国際競争が激化するなかでは、国内施策が遅れを取ると世界市場におけるシェアが低下する可能性があります[*3]。

電気事業法などの法制度を整備しつつ、早急に国内製造基盤を強化し、安定供給を図っていくことが求められています。

 

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参照・引用を見る

*1
資源エネルギー庁「知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~『蓄電池』は次世代エネルギーシステムの鍵」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/chikudenchi.html

*2
株式会社日経BP「蓄電池ビジネスの制度改正続々、蓄電所や再エネ電源の活用を後押し」
https://project.nikkeibp.co.jp/energy/atcl/19/feature/00004/00011/?P=1
https://project.nikkeibp.co.jp/energy/atcl/19/feature/00004/00011/?P=2
https://project.nikkeibp.co.jp/energy/atcl/19/feature/00004/00011/?P=3

*3
経済産業省「蓄電池に係る安定供給確保を図るための取組方針」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/economic_security/battery/battery_economic_security_01.pdf, p.3, p.4, p.5, p.7 

*4
那覇産業保安監督事務所「電気保安規制の概要」
https://www.safety-naha.meti.go.jp/denkihoan/sg-kaigi/2020fy/files/1_R02jikojirei.pdf, p.3 

*5
資源エネルギー庁「電気事業制度について」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/summary/ 

*6
資源エネルギー庁「再エネの安定化に役立つ『電力系統用蓄電池』」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/keitoyochikudenchi.html 

*7
株式会社日経BP「『系統蓄電池』解禁へ、10MW以上は『発電所』に」
https://project.nikkeibp.co.jp/ms/atcl/19/news/00001/02310/?ST=msb 

*8
経済産業省 産業保全グループ 電力安全課「蓄電所に対する保安規制のあり方について」
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/denryoku_anzen/hoan_seido/pdf/010_01_00.pdf, p.3, p.4, p.7, p.10, p.17 

*9
経済産業省「安定的なエネルギー需給構造の確立を図るためのエネルギーの使用の合理化等に関する法律等の一部を改正する法律案の概要」
https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220301002/20220301002-1.pdf, p.5 

*10
経済産業省「電気事業法施行規則等の一部を改正する省令」
https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/oshirase/2022/11/20221130-7.pdf, p.47, p.48, p.54

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