洋上風力発電のさらなる導入拡大につながるか―EEZ(排他的経済水域)内での設置に向けた検討状況を紹介

近年、国内外で導入が進む洋上風力発電。2020年に政府が宣言した「2050年カーボンニュートラル」をきっかけに、洋上風力発電の注目度はますます高まっています[*1]。

一方で、導入拡大に向けて、国内の領土・領海内だけでは、設置場所に限りがあるという課題があります[*2]。

そこで近年、政府はEEZ(排他的経済水域)内での設置を視野に入れた法整備の検討を開始しています。

それでは、EEZ内における洋上風力発電実現に向けて、具体的にどのような検討が進んでいるのでしょうか。詳しくご説明します。

 

洋上風力発電が注目を集める背景

風力発電は、風の運動エネルギーを風車のプロペラで回転エネルギーに変えて、発電機を回す発電方法です。現在、国内で商業的に供給されている風力発電設備は、コスト面から陸上に多く設置されています[*1]。

しかしながら、陸上に比べて洋上の方が一般的に風は強く、安定的に吹きます。また、洋上は設置場所が生活エリアから離れているため、騒音や景観問題が少ないというメリットがあります。そこで近年、風車を洋上に持っていき、そこで発電する洋上風力発電が注目を集めています。

洋上風力発電に関する海外の動向

  
海外では、洋上風力発電の導入量が増加しています。実際、2011年には3.8GWであった累計導入量が、2021年には55.7GWまで増加しました(図1), [*3]。

図1: 洋上風力発電の世界の累積導入量及び地域別の内訳の推移
出典: 公益財団法人 自然エネルギー財団「洋上風力発電の動向」
https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/202208_Offshorewindinfo.pdf, p.2

地域別に見ると、欧州及び中国における導入量の伸びが顕著です。今後も、世界における洋上風力発電の需要は増加していくとされ、2031年には累積導入量が371GWまで増える見込みです。

洋上風力発電設置促進に向けた国内動向

  
国内でも、洋上風力発電の設置促進に向けた動きが加速しています。経済産業省、国土交通省による「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」は、2020年12月に「洋上風力産業ビジョン(第1次)」を公表し、2030年までに10GW、2040年までに30~45GWの案件形成を目指すことで合意しました[*3]。

また、政府は2019年4月に「再エネ海域利用法(海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律)」を施行しました。同法によって、事業者は長期にわたって海域を占有できるようになりました[*4], (図2)。

図2: 再エネ海域利用法上の洋上発電設備整備に向けた手続き
出典: 資源エネルギー庁「もっと知りたい! エネルギー基本計画3 再生可能エネルギー(3) 高い経済性が期待される風力発電」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energykihonkeikaku2021_kaisetu03.html

「再エネ海域利用法」の手続きに基づき指定されている促進区域は、2022年9月時点で8区域あり、発電量は計3.5GWです。8つの促進区域のほか、5つの有望区域、11の準備区域が既に公表されており、さらなる増加が見込まれています[*3], (図3)。

図3: 洋上風力発電の促進区域、有望区域、準備区域(2022年9月30日時点)
出典: 公益財団法人 自然エネルギー財団「洋上風力発電の動向」
https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/202208_Offshorewindinfo.pdf, p.17

 

さらなる洋上風力発電導入に向けた課題

洋上風力発電の導入に向けた取り組みが加速する一方で、日本はイギリスやドイツ、中国などの諸外国と比較すると導入量はまだまだ低い水準です[*3], (表1)。

表1: 洋上風力発電の地域及び国別の導入実績出典: 公益財団法人 自然エネルギー財団「洋上風力発電の動向」
https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/202208_Offshorewindinfo.pdf, p.4

国内における導入拡大に向けては、課題も山積です。例えば、政府が示した導入目標を達成するためには、国内産業の基盤の形成や、全国規模での電力ネットワークの一体的な運用などが求められています[*5]。

また、冒頭でも紹介したように、洋上風力発電のさらなる導入拡大を図るには、設置できる場所自体を広げることも必要です。実際、日本の領海内だけでは十分な風力を得られる場所は多くなく、限界があるという指摘もあります[*2]。

 

EEZ内での設置に向けた動き

洋上風力発電の設置場所拡大という課題に対応するため、国内では近年、洋上風力発電施設のEEZ内への設置を検討する動きが活発化しています[*2]。

EEZとは

  
EEZ(排他的経済水域)とは、漁業や石油などの天然資源の掘削、科学的な調査の実施などの活動を、他国に邪魔されずに自由に行うことができる水域のことです[*6, *7], (図4)。

図4: 国連海洋法条約に基づく海域
出典: 排他的経済水域(EEZ)における洋上風力発電の実施に係る国際法上の諸課題に関する検討会「『排他的経済水域(EEZ)における洋上風力発電の実施に係る国際法上の諸課題に関する検討会』取りまとめ」
https://www8.cao.go.jp/ocean/policies/energy/pdf/torimatome.pdf, p.23

沿岸国は、領海の外側に、決められた幅(200海里)を超えない範囲でEEZを設定することができます。沿岸国は漁業や科学的な調査活動など先述した活動を行うほかは、EEZを独り占めしてはならないことになっています[*6]。

具体的には、他国の船舶の航行や航空機の上空飛行、海底へのパイプラインの敷設を禁止することができないと規定されています。

EEZにおける洋上風力発電設置に向けた課題とその検討状況

  
以上のように、沿岸国であってもEEZ内では、他国の活動に配慮した活動が求められています。洋上風力についても同様で、洋上風力発電施設の設置にあたっては、国連海洋法条約との整合性を図ることが不可欠です[*7]。

そこで2022年10月から2023年1月にかけて、政府は「排他的経済水域(EEZ)における洋上風力発電の実施に係る国際法上の諸課題に関する検討会」を開催しました[*8]。

本検討会では、EEZ内における他国の自由への配慮や、海洋環境保護等に関する国際法上の規定との整合性など、様々な論点に対する検討が行われました[*7]。

例えば、国際法上、沿岸国がEEZで活動を実施する際には、他国の「航行の自由」や「海底電線、海底パイプライン敷設の自由」などの権利及び義務に対して妥当な考慮を払うことが義務となっています。

洋上風力発電をEEZに設置するにあたり、どのような取り組みによって、妥当な考慮を払ったとなるかを事前に想定することが重要です。この点、検討会では、施設の設置場所を海図に記載するなどをもって、他国の「航行の自由」に妥当な考慮を果たしたと言えるとしています。

また、他国が設置する海底パイプラインと一定程度の距離を取るといった対応等を取ることで、他国の「海底電線、海底パイプライン敷設の自由」に妥当な考慮を果たしたと言えるとしました。

さらに、国連海洋法条約は、いずれの国も海洋環境を保護・保全する義務を有すると規定しているため、海洋環境に配慮した洋上風力発電の設置が不可欠です。

現在、領海内の洋上風力発電については、環境影響評価法及び電気事業法が適用されていますが、同法における環境影響評価手続では海域を管轄する都道府県及び市町村の関与が規定されています。しかしながら、EEZを管轄する自治体は現時点において存在しません。一方で、イギリスやオランダなどヨーロッパ各国では既にEEZ内での洋上風力発電施設の設置が広がっています[*2, *7]。

そのため、国際社会の取り組み等を参考にしながら、EEZにおける環境影響評価制度に関する国内法令を整理する必要があるとしています。

 

今後の展望

政府は、2023年4月に今後5年間の海洋政策の指針となる新たな海洋基本計画を策定しました[*9]。

新計画では、洋上風力発電の発電目標を2040年までに30~45GWに増やすと設定しています。また、設置場所をEEZまで広げる法整備を進めると明記しており、EEZ活用によって洋上風力発電が飛躍的に増えると期待されています。

今後は、検討会で整理された内容を踏まえつつ、国際法との整合性が図られた国内法の整備が進んでいくでしょう。

 

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参照・引用を見る

*1
国立研究開発法人 産業技術総合研究所「洋上風力発電とは?」
https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20221109.html

*2
NHK「洋上風力発電施設のEEZ内設置へ法整備を検討 政府」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230206/k10013971651000.html?utm_int=nsearch_contents_search-items_001

*3
公益財団法人 自然エネルギー財団「洋上風力発電の動向」
https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/202208_Offshorewindinfo.pdf, p.2, p.4, p.8, p.17, p.19

*4
資源エネルギー庁「もっと知りたい! エネルギー基本計画3 再生可能エネルギー(3) 高い経済性が期待される風力発電」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energykihonkeikaku2021_kaisetu03.html

*5
一般社団法人 日本経済団体連合会「洋上風力発電に関する政府の取り組みと課題」
https://www.keidanren.or.jp/journal/times/2021/0527_05.html

*6
外務省「ちょっと知りたい言葉の意味!」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/kids/q_a/imi.html

*7
排他的経済水域(EEZ)における洋上風力発電の実施に係る国際法上の諸課題に関する検討会「『排他的経済水域(EEZ)における洋上風力発電の実施に係る国際法上の諸課題に関する検討会』取りまとめ」
https://www8.cao.go.jp/ocean/policies/energy/pdf/torimatome.pdf, p.3, p.13, p.14, p.15, p.18, p.23

*8
内閣府「排他的経済水域(EEZ)における洋上風力発電の実施に係る国際法上の諸課題に関する検討会開催」
https://www8.cao.go.jp/ocean/policies/energy/yojo_kentoukai.html

*9
株式会社時事通信社「洋上風力、EEZへ拡大=政府、新海洋基本計画を決定」
https://sp.m.jiji.com/article/show/2935188

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