温室効果ガスが発生? 水素自動車の課題と環境負荷低減に向けた取り組みを紹介

トヨタ自動車株式会社が、限りなく市販車に近い車両で長時間走り切るレース「スーパー耐久シリーズ」に参加するなど、近年注目を集める水素自動車。水素エンジンを搭載した水素自動車は、走行時にCO2をほとんど排出しないため、電気自動車とは別の新たな次世代自動車の選択肢として開発が進められています[*1, *2]。

環境に良いとされる水素自動車ですが、化石燃料由来の水素を使用すると、製造時にCO2が発生するという課題があります。また、走行中には、環境負荷を与えるNOx(窒素酸化物)が排出されることも課題です。

これらの解決に向けては、具体的にどのような取り組みが行われているのでしょうか。詳しくご説明します。

 

水素自動車とは

水素エンジンの仕組み

  
水素自動車は、内燃機関の燃料として水素を用いる自動車です。内燃機関とは、ディーゼルやガソリンなどの燃料を燃焼させ、それによりエネルギーを得る原動機を指します[*3, *4], (図1)。

図1: 内燃機関の仕組み
出典: ヤンマーホールディングス株式会社「水素エンジンの仕組みをわかりやすく解説! 実用化に向けたメリットや将来性とは?」
https://www.yanmar.com/jp/about/ymedia/article/hydrogen.html

つまり、水素自動車とは、ガソリンなどの燃料を水素に置き換えた水素エンジンを使用する自動車のことです。

水素自動車と燃料電池自動車の違い

  
水素を使用して走行する自動車として、水素自動車のほか、既に市販化の進む燃料電池自動車が挙げられます。燃料電池自動車は水素自動車と異なり、内燃機関ではなく、燃料電池における水素と酸素の反応によって生み出された電気を使って走行します[*4]。

また、燃料電池自動車は純度の高い水素を使用する必要があり、製造にコストがかかります。一方で、水素エンジンは純度の低い水素にも対応できるため、将来的にはより手頃な価格で燃料を供給できる可能性があると期待されています。

水素自動車のメリット

  
水素自動車には、様々なメリットがあります。一つ目のメリットは、走行時のCO2排出量を最小限に抑えられるという点です[*4]。

従来のエンジンの燃料であるガソリンは、化石燃料の一つであるため、燃料するとCO2を排出します。一方で、水素エンジンであれば、燃焼すると空気中の酸素と反応して水になるため、ガソリンのようにCO2が排出されません。

二つ目のメリットは、エネルギー資源の枯渇の心配がないという点です。石油や石炭のような枯渇性の化石燃料と異なり、電力と水があれば、無限に水素を取り出すことができるため、持続可能なエネルギーと言えるでしょう。

 

水素自動車による環境負荷

地球に優しい移動手段として注目を集める水素自動車ですが、水素の製造方法や水素エンジンの種類によっては、環境に負荷を与えてしまう点に注意が必要です。

例えば、水素の製造方法には様々な種類がありますが、化石燃料を用いた場合、水素生成時に大量のCO2が大気中に排出されてしまいます。このような化石燃料由来の水素はグレー水素と呼ばれますが、現在工業用途で使用されている水素の99%はグレー水素と言われています[*5], (図2)。

図2: 製造方法による水素エネルギーの分類
出典: 一般社団法人 日本バルブ工業会「2030年温室効果ガス排出量26%削減への道 #22」
https://j-valve.or.jp/env-info/9040/

一方で、再生可能エネルギー由来の水素はグリーン水素と呼ばれますが、製造コストの高さが課題です。国際エネルギー機関(IEA)の報告によると、天然ガスから製造するグレー水素のコストは1kgあたり0.5~1.7ドルである一方で、グリーン水素は3~8ドルと割高です[*6]。

また、走行時にNOx(窒素酸化物)が排出されるという点も水素自動車の課題と言えます。高温燃焼に伴い水素エンジンから発生するNOxは、高濃度になると、呼吸器に望ましくない影響を与えるとされています[*7, *8]。

そのため、水素自動車の普及に向けては、製造時及び走行時における環境負荷の低減が不可欠と言えるでしょう。

 

水素自動車における課題解決に向けた動向

グリーン水素の実用化に向けた取り組み

  
実用化に向けて様々な障壁が存在する水素自動車ですが、近年国内外で、課題の解決に向けた取り組みが行われています。例えば、グリーン水素の普及に向けては、世界各国で水素戦略が策定されています[*9]。

図3: 世界各国の水素戦略
出典: 福岡県「福岡県水素グリーン成長戦略」
https://f-suiso.jp/site2/wp-content/uploads/2022/09/pamphlet2022.pdf, p.3

ドイツでは2030年までに14TWhのグリーン水素供給を目指しており、中国でも水素供給に占めるグリーン水素の比率を2050年までに70%まで引き上げるとしています。

日本でも2020年に「グリーン成長戦略」を打ち出し、グリーン水素とブルー水素(化石燃料由来だが、製造時に発生したCO2は回収・貯留する水素のこと)を合わせたクリーン水素供給量を2030年までに42万t以上にすると発表しました。参考までに、現在のクリーン水素を含む国内の水素供給量全体は約200万tです[*6, *10]。

政府だけでなく、事業者による取り組みも活発化しています。例えば、ニュージーランドのタウポにおいて、株式会社大林組はTuaropaki Trustと共同で、地熱発電を活用した水素製造プラントを建設し、2021年3月から運用を開始しました[*11], (図4)。

図4: ニュージーランドのタウポにおけるグリーン水素製造プラント
出典: 株式会社大林組「水素」
https://www.obayashi.co.jp/green_energy/project/hydrogen/

株式会社大林組は国内でもグリーン水素の製造を開始しています。具体的には、2021年7月に、大分地熱開発株式会社の協力のもと、地熱発電施設に水素製造プラントを併設し、地熱を活用したグリーン水素の製造をスタートしました[*11], (図5)。

図5: 大分県九重町におけるグリーン水素製造プラント
出典: 株式会社大林組「水素」
https://www.obayashi.co.jp/green_energy/project/hydrogen/

NOxなど環境負荷低減に向けた水素エンジンの開発動向

  
走行時の環境負荷低減に向けた技術開発も進んでいます。例えば、産業技術総合研究所は岡山大学等と連携して、高熱効率・低NOxを実現できる火花点火水素エンジンの開発に成功しました[*12]。

既存の水素エンジンは、熱効率が低く、高負荷運転時にNOxが多く生成されてしまうことが問題でした。そこで本研究では、噴射した水素燃料が分散する前の塊の状態で燃焼させる方式を採用するとともに、塊からNOxの生成が増加しないよう水素濃度を制御することによって、NOxの低減を実現しました。

また、自動車メーカーによる研究開発も進んでいます。例えば、トヨタ自動車株式会社は、NOxの排出を抑えるため、排気系に尿素水を噴射するSCR(選択触媒還元)システムや、酸素共存下でも水素によってNOxを還元できる触媒システムなどを検討しています[*13]。

SCRシステムとは、尿素を還元剤として使用することで、エンジンから排出される有害なNOxを無害な窒素と水に変換することができる仕組みのことです[*14]。

トヨタ自動車株式会社は、2021年から参加する「スーパー耐久シリーズ」において技術面の実証を続けており、将来的な市販化も目指しています[*1, *2]。

 

まとめ

環境に優しいとされる水素自動車ですが、今回紹介してきた製造時や走行時における環境負荷のように課題も山積しており、それらの解決に向けて、世界各国で取り組みが行われています。

今後は、コスト低減の取り組みや、政府による導入支援等が水素自動車市販化のカギになると言えるでしょう。

 

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参照・引用を見る

*1
トヨタ自動車株式会社「水素エンジンカローラ、『スーパー耐久シリーズ2021 鈴鹿大会』参戦を通じて水素を『はこぶ』に挑戦」
https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/36073270.html

*2
朝日新聞デジタル「トヨタが「液体水素エンジン」でレース 市販化目指し、世界初挑戦
https://www.asahi.com/articles/ASR5Y658YR5YULFA002.html

*3
次世代自動車普及戦略検討会「次世代自動車普及戦略」
https://www.env.go.jp/air/report/h21-01/3.pdf, p.130

*4
ヤンマーホールディングス株式会社「水素エンジンの仕組みをわかりやすく解説! 実用化に向けたメリットや将来性とは?」
https://www.yanmar.com/jp/about/ymedia/article/hydrogen.html

*5
一般社団法人 日本バルブ工業会「2030年温室効果ガス排出量26%削減への道 #22」
https://j-valve.or.jp/env-info/9040/

*6
朝日新聞社「グリーン水素とは? 作り方やブルー水素との違い、問題点を解説」
https://www.asahi.com/sdgs/article/14677144

*7
公益社団法人 自動車技術会「水素エンジン」
https://www.jsae.or.jp/engine_rev/backnumber/11-08/11-08-02.html

*8
独立行政法人 環境再生保全機構「二酸化窒素(NO2)の概要、年平均値の推移」
https://www.erca.go.jp/yobou/taiki/taisaku/02_02_01.html

*9
福岡県「福岡県水素グリーン成長戦略」
https://f-suiso.jp/site2/wp-content/uploads/2022/09/pamphlet2022.pdf, p.3

*10
NHK「『水素』生産量で新目標 2030年までに世界で年9000万トン規模」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220926/k10013836981000.html

*11
株式会社大林組「水素」
https://www.obayashi.co.jp/green_energy/project/hydrogen/

*12
国立研究開発法人 産業技術総合研究所「大型発電用、高出力・高熱効率・低NOx水素エンジンの燃焼技術を開発」
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2018/pr20180518/pr20180518.html

*13
株式会社日経BP「トヨタが水素エンジン車を市販へ、欧州勢もBEV一辺倒から変化」
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00878/070500030/

*14
STMicroelectronics「選択触媒還元(SCR)システム」
https://www.st.com/ja/applications/powertrain-for-ice/selective-catalytic-reduction-scr.html#overview

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