ルーツはなんと19世紀! 太陽光発電開発のきっかけや実用化までの変遷を紹介

気候変動問題の解決のため、2015年に採択され、2016年に発効した「パリ協定」や、2020年に日本で表明された「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けて、さらなる導入が求められている太陽光発電[*1]。

太陽光発電は、光エネルギーを電気に変換する「太陽電池」や、直流電力を家庭で使える交流電力に変換するための「パワーコンディショナ」など様々な機器から構成されています[*2]。

実は、太陽光発電システムの中心として特に重要な機器である太陽電池の発電原理は、19世紀に発見されています。また、太陽電池の原型も19世紀後期には作られており、様々な変遷を経て現在に至っています[*3]。

そこで今回は、太陽光発電のルーツから実用化までの歴史、日本での研究開発や普及の動向について詳しくご説明します。

 

太陽光発電のルーツ

太陽電池の起源となる原理の発見

  
太陽電池の発電原理は物質に光が当たると電気が発生する現象で、「光起電力効果」と呼ばれます。この原理の発見は、約170年も前にさかのぼり、1839年にベックレルというフランスの学者が報告したことによります[*3, *4], (図1)。

図1: ベックレルによる光起電力効果の実験
出典: 佐藤勝昭「太陽光と太陽電池(入門編)」
http://home.sato-gallery.com/research/solar_kihon/Chap1_2proof.pdf, p.25

ベックレルは、電解液(電気が通る溶液)に2つの電極を置き、一方の電極に光を照射すると、電流を流す駆動力である起電力が生じることを発見しました。

固体における光起電力効果の発見

  
ベックレルは液体を使って光起電力効果を発見しましたが、その後、19世紀のうちに、現在の太陽電池に近い形である固体でも、光から電気を発生することが確認されます[*3]。

具体的には、1876年にアダムスとデイによって、セレンという固体の物資と金属との「固体状態」の物質の中で光起電力効果が観測されました。さらに1883年になると、フリッツというアメリカの発明家が、面接触型のセレン光起電力セルを作成しました[*3, *4], (図2)。

図2: セレンを用いた光電池の構造
出典: 桑野 幸徳「太陽電池の黎明期の歴史と動作原理」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/oubutsu/82/1/82_69/_pdf/-char/ja, p.69

フリッツが作成した光起電力セルは、現在の太陽電池の原型と言えます。変換効率は1%ですが電力を得ることもできたため、当時はカメラの露出計にも使われ、シリコン太陽電池が登場する1960年代半ばまで、光センサとして広く応用されました[*3, *4]。

 

シリコン系太陽電池の歴史 

世界ではじめての実用的な太陽電池の発明

  
太陽電池には様々な構造がありますが、現在主流となっているシリコン系太陽電池は、1953年にアメリカにあるベル研究所のピアスン、フラー、チャピンという3人の研究者によって開発されました[*3, *4], (図3)。

図3: シリコン太陽電池の発明者(左からピアスン、チャピン、フラー)
出典: 桑野 幸徳「太陽電池の黎明期の歴史と動作原理」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/oubutsu/82/1/82_69/_pdf/-char/ja, p.70

元々、ベル研究所では、当時発明されたばかりのトランジスタ(電気の流れをコントロールする部品)を応用した通信システムの開発が行われており、それに伴い新たな電源開発が行われていました。そこで、既に実用化されていたセレン光電池を活用しようと考えていたのです[*3]。

しかし、ピアスンがシリコン整流器に光を照射したところ、偶然にも強い光起電力効果を見出し、従来のセレン光電池と比較して、5倍もの出力があることを発見しました。改良を重ねた結果、チャピンらは1954年に6%の変換効率を達成し、実用的な電力エネルギーを得ることができる太陽電池を発表します[*3], (図4)。

ニューヨークタイムズには、「ほぼ無限の太陽エネルギーを活用して文明に役立てる時代がやってくる」という記事が掲載され、当時から大きな期待が寄せられていました。

図4: 初期のシリコン太陽電池の構造
出典: 桑野 幸徳「太陽電池の黎明期の歴史と動作原理」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/oubutsu/82/1/82_69/_pdf/-char/ja, p.71

初期のシリコン系太陽電池は、n型シリコン(マイナスの電気的な性質をもったシリコン)をベースに、その表面に薄いp型シリコン(プラスの電気的な性質を持ったシリコン)が形成された構造をしていました。

人工衛星に搭載された太陽電池

開発から5年後の1958年には、アメリカの人工衛星「バンガード1号」の電源として単結晶シリコン太陽電池が搭載されるなど、急速に実用化が進みました[*4], (図5)。

図5: 人工衛星バンガード1号に搭載された世界初のシリコン太陽電池
出典: 佐藤勝昭「太陽光と太陽電池(入門編)」
http://home.sato-gallery.com/research/solar_kihon/Chap1_2proof.pdf, p.25

1957年に打ち上げられた世界初の人工衛星は電池切れのため、わずか3週間の寿命でした。一方で、バンガード1号は6年以上も活動を続けることができたため、太陽電池がいかに画期的な存在だったかが分かります[*5]。

太陽電池の開発によって、人工衛星は急速に発展するとともに、人々の生活の質も向上しています。人工衛星は天気予報や通信、カーナビなど身近なところで活用されており、現在の生活には不可欠な存在であると言えるでしょう。

日本における太陽光発電の歴史

世界各国で太陽電池の開発が進む中、1973年の第一次オイルショック以降、日本でも本格的な研究が始まりました。これは、エネルギーを中東の石油に依存していた日本において、再生可能エネルギーなど輸入に依存しない安定的なエネルギー供給が求められるようになったためです[*6]。

1974年から国家プロジェクトとして開始した「サンシャイン(SS)計画」では、太陽光発電の低コスト化と高性能化が進められました。具体的には、1Wあたり数万円という高い太陽電池製造コストを100分の1以下の価格、つまり1Wあたり100円まで下げることが目標に掲げられました。

また、研究開発と同時に、太陽光発電利用促進のための施策も実施されています。1980年に政府は、個人が住宅に太陽光発電システムを設置する際、設置資金の融資が低利で受けられる「ソーラーシステム普及促進融資制度」を創設しました。

この制度の融資件数は、事業が終了した1996年度までで累計27万4,000件にのぼり、太陽光発電の一般家庭への普及の一助となったと言えるでしょう。

さらに、1992年には、「太陽光発電による余剰電力の販売価格での買電制度」と呼ばれる電力会社による電力の自主的な買い取り制度が始まり、太陽光発電を設置する住宅には、補助金も交付されました。

様々な施策が実施された結果、1990年代末から2000年代初頭にかけて、日本は世界一の太陽光発電導入・太陽電池生産国になります。

その後、中国やEU、アメリカにおける導入拡大に伴い、2022年時点で日本の累積導入量は85GWと世界第4位となっています[*7]。

太陽電池に関する近年の動向

現在主流であるシリコン系太陽電池には、重くて折り曲げられない点や、製造工程が複雑でコストが高い点など、様々な短所があります。

そこで近年、それらの課題を克服する次世代型太陽電池の研究開発が進んでいます[*8]。

例えば、軽くて薄い有機系太陽電池は、湾曲した外壁や窓ガラス等にも設置可能です[*8], (図6)。

図6: 厚さ0.003mmの有機太陽電池
出典: 国立研究開発法人 理化学研究所「厚さ0.003mm! 未来を変える次世代の太陽電池」
https://www.riken.jp/pr/closeup/2022/20220328_1/index.html

理化学研究所では、厚さがわずか0.003mmの太陽電池を開発しました。2022年1月時点での発電効率最高値も18.2%と、シリコン系太陽電池の23%に近づきつつあります。

また、塗布や印刷技術で量産できることから低コスト化が期待できるとして、「ペロブスカイト太陽電池」も近年注目を集めています[*9], (図7)。

図7: ペロブスカイト太陽電池の仕組み
出典: 国立研究開発法人 産業技術総合研究所「『ペロブスカイト太陽電池』とは?」
https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20221124.html

ペロブスカイト太陽電池とは、灰チタン石の結晶構造である「ペロブスカイト構造」を持つ化合物を用いた太陽電池のことです。従来のシリコン太陽電池と異なり、高価な貴金属などを使わず、比較的入手しやすいヨウ化鉛などが素材となるため、製造コストを抑えられるというメリットがあります。

また、歪みに強く、軽量化が可能であるというメリットもあります。

従来のシリコン系太陽電池の材料であるシリコンウエハは、薄く割れやすいため、厚さ3mm程度のガラスに貼り付けてシートで挟んでいます。一方、ペロブスカイト太陽電池の場合は、小さな結晶の集合体が膜になっているためシートで挟む必要がなく、さらなる軽量化が可能です。

シリコン系太陽電池の重さが、1m²あたり11kgから13kgに対し、ペロブスカイト太陽電池の重さはその10分の1、厚さは100分の1の1マイクロメートルにあたります[*9, *10]。

さらに、研究が始まった2009年頃の変換効率は3%程度と低い水準でしたが、材料や製法の改良が進み、現在は25%を超えるという研究報告もあります。

 

まとめ

太陽光発電のルーツとなる太陽電池の歴史から、近年の次世代型太陽電池の研究動向まで、その変遷を紹介してきました。

2050年カーボンニュートラル達成に向けて、一般社団法人太陽光発電協会は、太陽光発電の稼働目標を2030年度までに100GW、2050年度までに300GWと掲げており、今後も導入量は増えていくことが予想されます[*11]。

太陽光発電の歴史を知ることは、太陽光発電をより身近なものとして捉えるきっかけになるのではないでしょうか。

 

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参照・引用を見る

*1
一般社団法人 太陽光発電協会「太陽光発電の基礎知識」
https://www.jpea.gr.jp/knowledge/about/

*2
一般社団法人 太陽光発電協会「住宅用太陽光発電システムとは」
https://www.jpea.gr.jp/house/about/

*3
桑野 幸徳「太陽電池の黎明期の歴史と動作原理」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/oubutsu/82/1/82_69/_pdf/-char/ja, p.69, p.70, p.71

*4
佐藤勝昭「太陽光と太陽電池(入門編)」
http://home.sato-gallery.com/research/solar_kihon/Chap1_2proof.pdf, p.24, p.25

*5
パワーアカデミー「第6回 人工衛星と太陽電池 世界ではじめての太陽電池は、人工衛星に積まれました。」
https://www.power-academy.jp/electronics/familiar/fam00600.html

*6
資源エネルギー庁「再生可能エネルギーの歴史と未来」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/saiene/saienerekishi.html

*7
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「国際エネルギー機関・太陽光発電システム研究協力プログラム(IEA PVPS)報告書 世界の太陽光発電市場の導入量速報値に関する報告書(翻訳版)」
https://www.nedo.go.jp/content/100785821.pdf, p.8

*8
国立研究開発法人 理化学研究所「厚さ0.003mm! 未来を変える次世代の太陽電池」
https://www.riken.jp/pr/closeup/2022/20220328_1/index.html

*9
国立研究開発法人 産業技術総合研究所「『ペロブスカイト太陽電池』とは?」
https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20221124.html

*10
NHK「日本発の太陽電池『ペロブスカイト』どこがすごい?」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230525/k10014076631000.html

*11
一般社団法人 太陽光発電協会「2050年カーボンニュートラル実現に向けて 太陽光発電の2030年稼働目標とチャレンジ」
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/026_05_00.pdf, p.3

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