2,400世帯分の電気をまかなう 廃棄物を活用するサツマイモ発電の可能性とは

サツマイモ発電は、一般的にはあまり知られていないかもしれません。

しかし、サツマイモ発電はバイオマス発電の一種として、近年注目を集めているエネルギー技術です。2019年には、サツマイモ発電を通じて約2億5500万円の収入につながった事例もあります。

では、サツマイモ発電は他のバイオマス発電と何が違うのでしょうか。
今回は、サツマイモ発電の事例とともに、その魅力と課題について解説していきます。

 

サツマイモ発電とは

発電方法には様々な種類があります。

資源エネルギー庁の資料によると、日本の発電電力量の割合は、2023年3月時点で火力発電が76.2%、水力発電が10.8%、新エネルギー等が8.7%、原子力発電が8.5%です。

新エネルギー等とは、⾵⼒発電、太陽光発電、地熱発電に加えて、バイオマス発電及び廃棄物発電が含まれます。
なお、バイオマス発電と廃棄物発電による電⼒量は、⽕⼒発電にも計上されていますが、新エネルギー等にも再計上されています[*1]。

サツマイモ発電はこの発電方法の中で、バイオマス発電に分類されます[*2]。

バイオマスとは、動植物などから生まれた生物資源の総称です。バイオマス発電では、生物資源として、家畜の排せつ物や建築廃材、農業残渣(稲わら、とうもろこし残渣など)、下水汚泥や産業用食用油などが用いられています。これらを「直接燃焼」したり「ガス化」したりして発電するのが、バイオマス発電です[*3]。

バイオマス発電のなかでも、木材やトウモロコシなどの植物は、図1に示すように光合成によりCO2を吸収して成長します。

図1: バイオマス発電の概念図
出典: 国立研究開発法人 国立環境研究所「バイオマス発電」(2021)
https://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=2

バイオマス発電は、1997年に採択された「京都議定書」における取扱上、CO2を排出しない「カーボンニュートラル」と見なすことができる発電方法として注目を集めています。

さらに、未活用の廃棄物を燃料とするため、廃棄物の再利用や減少につながり、循環型社会構築に寄与するというメリットもあります[*3]。

サツマイモ発電は、このバイオマスにサツマイモを使い、生成されたバイオガスを燃料として発電施設で電力に変換する方法です[*4]。

 

他のバイオマス発電とサツマイモ発電の違い

前述の通り、バイオマス発電には様々な植物が使われていますが、サツマイモは他の植物にはない優れた点があります[*5, *6]。

  • 比較的土質を選ばず育てることができる。
  • 光飽和点が低く、北海道から沖縄まで栽培できる。
  • 好適温度を維持すれば、季節に関わらず育てられる。
  • でんぷん含有率が高く分解しやすいため、発酵原料に最適である。

光飽和点とでんぷん含有率について、もう少し詳しく説明しましょう。

まず光飽和点とは、ある一定以上の光量で植物の光合成速度が飽和する光強度のことを言います[*7]。
例えば、トウモロコシは光飽和点が高く、光合成反応速度を高くできるため、太陽光を無駄なく使える植物としてバイオマス発電の燃料生産に使われています[*5], (図2)。

図2: 様々な植物の光飽和点と光合成速度
出典: 鈴木高広・坂本勝「RE100 社会実現を目指すイモエネルギー開発の現状と課題」(2018), p.306

一方、サツマイモは光飽和点が低いため、快晴時の太陽光を無駄にしていると考えられていました。

しかし、言い換えるとトウモロコシは、強い光がないと光合成能力を常に最大に維持することができない植物であると言えます。そのため、栽培に適した期間もサツマイモに比べて短くなってしまいます[*5]。

実は、日本は世界的に見ると日射量が多くありません。日本の国土に降り注ぐ日射量の平均値は3.61kWh/日/m2、世界209カ国中180位なのです[*8]。日本の気候を考慮すると、サツマイモは日本に適したバイオマス原料の植物といえます。

次はでんぷん含有率についてです。

バイオガスを生成する過程では、バイオマスに含まれる有機物が微生物によって分解され、メタンが発生します[*9]。バイオマスに含まれる有機物にもいくつか種類があり、でんぷんは分解しやすい成分です[*10]。

一方、植物細胞壁の主成分であるセルロースはでんぷんに比べ分解しにくい成分で、伸長を終えた茎の細胞ではセルロース含有量が50〜60%になります[*11]。
つまり、分解しにくい茎部分が多い高丈作物は分解しにくく、でんぷんが豊富に含まれるサツマイモは分解しやすい発酵原料なのです。

実際に行われているサツマイモ発電

実際に行われているサツマイモ発電の事例を見ていきましょう。

市民団体とサツマイモ発電

  
滋賀県湖南市では「こなんイモ・夢づくり協議会」という市民団体を組織しています。この市民団体は、2015年から近畿大学の鈴木高広教授の指導で、サツマイモ発電技術の開発をスタートさせました[*12], (図3)。

図3: サツマイモ植付けの様子
出典: 湖南市「いもっぷチラシ」
https://www.city.shiga-konan.lg.jp/material/files/group/4/imoppu_chirasi.pdf

この取り組みでは、鈴木教授が提唱する空中栽培方式が取り入れられており、理論上は20株分のサツマイモで、一般家庭1日分の電力をまかなうことができるとされています[*12]。また、収穫したサツマイモを使用したシロップも販売されており、地域活性化の一翼を担っています[*13]。

下水道とサツマイモ発電

  
静岡県常盤市の磐南浄化センターは、サツマイモの単位面積当たりの太陽エネルギー回収率の高さに着目し、サツマイモ栽培を通じたエネルギー回収に取り組んでいます。効率的な栽培方法を取り入れ、通常の農地の約10倍というサツマイモの収穫率を達成しました[*14], (図4)。

図4: サツマイモの多層栽培
出典: 国土交通省「サツマイモ栽培を通じたエネルギー回収 ~増設予定用地の有効活用~」(2021)
https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/content/001477881.pdf

このサツマイモ栽培でも、近畿大学の鈴木教授が提唱する栽培技術が活かされています。

磐南浄化センターは、栽培範囲を増設予定地へ拡大すれば、場内の使用電力の約17%をサツマイモ由来の発電でまかなえると試算しています。
また、このサツマイモ由来の電力は、全国の処理場へ展開すれば一般家庭5~10万世帯/年分の発電ポテンシャルがあるとされており、化石燃料を代替する非常用発電としても期待できます。

この事例では、下水処理場にもともとある設備や環境をうまく利用しています。例えば、栽培用水として生下水・処理水を活用、土壌部に炭化汚泥を利用、通年栽培に下水熱を活用といった具合です。

さらにサツマイモの茎や葉を同時投入することで、汚泥混合消化の安定化につながることも判明しました[*14]。

バイオマスは資源として扱われますが、それは、活用して初めて言えることです。前述の稲わらやトウモロコシ残渣も、活用せず捨ててしまえばただのゴミです。

ゴミであれば処分費用が発生してしまいますが、汚泥と混合処理すれば、廃棄物処理コストを大幅に削減することができるというメリットがあります。

下水処理場でバイオマスを共同処理することは、既存の下水道設備を有効利用し、廃棄物処理コスト削減や地域循環圏形成を促進することにもつながるのです[*15]。

焼酎とサツマイモ発電

  
宮崎県に本社を置く霧島酒造株式会社は、1日に36万リットル (一升瓶で20万本)の芋焼酎を製造しています。

芋焼酎は「芋」と名が付いているとおり、サツマイモが原料です。

しかし、サツマイモがすべて焼酎になるわけではありません。製造工程で図5(左)のような焼酎かすや、図5(右)のような芋くずが発生します[*16]。

図5: 焼酎かす(左)と芋くず(右)
出典: 環境省「環境への取組をエンジンとした経済成長に向けて 報告書」(2016)
https://www.env.go.jp/content/900509739.pdf, p.102

2014年から、霧島酒造ではこれらを細かく粉砕し、微生物によるメタン発酵でバイオガスを生成しています。生成されたバイオガスは、焼酎製造工場のボイラー燃料に活用したり、電力会社へ売電されたりしています[*4, *17]。

2019年度の実績では、年間約850万kWh発電し、売電した電力は年間約2億5,500万円の収入につながりました。850万kWhという電力は、一般家庭の消費電力を年間約3600kWhとした場合、約2,400世帯分の年間消費電力にあたります[*18]。

同社は「霧島環境アクション2030」という行動計画をまとめ、2030年度までにCO2排出量実質ゼロの目標を掲げています[*19]。
その活動の一環として、2023年から物流ネットワーク事業や地域保管事業を行うニチレイロジグループと、焼酎製造副産物のリサイクル活動の一部を協働運用しています(図6)。

図6: 焼酎製造副産物のリサイクル活動の流れ
出典: ニチレイロジグループ「霧島酒造株式会社が推進する焼酎製造副産物のリサイクル活動の一部において、新たにニチレイロジグループと協働運用を開始」(2023)
https://www.nichirei-logi.co.jp/news/2022/20230119.html

これまで、鹿児島県内で加工されたサツマイモから発生する芋くずは処分されていました。
今回の協働運用が実現したことで、毎月バイオガス発生量3,000Nm3に相当する30トンの芋くずリサイクルが可能になっています[*20]。

また、2021年には同社の工場内に「サツマイモEV e-imo(イーモ)」と名付けられた社用EV(電気自動車)が4台導入されています。
工場内の充電スタンドからは、サツマイモ発電の電力が主電力として供給されており、今後は社内利用だけでなく、災害時の避難所の電力支援として活用されることも期待されています[*4]。

 

これからのサツマイモ発電

前述のように、サツマイモは20株分で一般家庭1日分の電力をまかなうことができるポテンシャルを秘めています[*12]。

日本の気候で育てやすい植物を使っているサツマイモ発電ですが、もちろんデメリットもあります。

原料調達やコスト面での課題

  
サツマイモの特徴として、光飽和点が低く日射量が少ない日本でも育てやすいことを紹介しました[*5]。
これはメリットの一つでもあるのですが、大量生産を行おうとすると、光合成できる量が頭打ちになり、育成にどうしても肥料が必要になってしまいます[*21]。

また、バイオガスを発生させるための設備や、発電設備の費用は高額です。霧島酒造の焼酎かすリサイクルプラントや発電設備の建設費用は、約70億円にのぼります[*16]。大規模なサツマイモ発電は、体力のある企業だからこそ取り組める事業でしょう。

もちろん、これらのデメリットを解消するための取り組みも行われています。

サツマイモの大量生産における肥料の問題に取り組んでいるのが、前述の磐南浄化センターでのサツマイモ栽培の事例です。ここでは、処理した下水を液体肥料として利用し、全国平均の約10倍の収穫を実現しています。

この栽培方法であれば、日射エネルギー活用効率の比較において、木質バイオマス発電の効率が0.018%であるところ、サツマイモ発電は3.6%まで高められています[*21]。

霧島酒造の事例においても、他メーカーからの焼酎かすの処理受入れを視野に入れており、廃棄物の処理や費用負担に頭を悩ませている企業の助けとなる見込みです[*17]。

サツマイモ発電を広めるために

  
私たちの生活に身近な野菜・サツマイモはバイオマスとして高いポテンシャルを秘めていることがわかりました。

残念ながら冒頭でも述べたように、サツマイモ発電という発電方法は知名度がそれほど高くありません。

今後、この発電方法が広く普及するためには、今回紹介したように下水道処理施設をはじめとした「既にある設備をうまく活用すること」がポイントになるでしょう。

 

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参照・引用を見る

*1
資源エネルギー庁「電力調査統計 結果概要」(2023)
https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/electric_power/ep002/pdf/2022/0-2022.pdf, p.1

*2
日本経済新聞「霧島酒造、『サツマイモ発電』拡大 ニチレイ系と協働」(2023)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOJC202WM0Q3A120C2000000/

*3
資源エネルギー庁「バイオマス発電」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/biomass/index.html

*4
霧島酒造株式会社「サツマイモ発電」
https://www.kirishima.co.jp/company/environment/power_generation/

*5
鈴木高広・坂本勝「RE100 社会実現を目指すうイモエネルギー開発の現状と課題」(2018), p.306

*6
農林水産省「野菜栽培技術指針 根菜類」
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/h_sehi_kizyun/attach/pdf/aki3-7.pdf, p.294

*7
本間優・土肥哲哉・吉田好邦「水稲栽培における営農型太陽光発電の実証とシミュレーション」(2016)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjser/37/6/37_23/_pdf, p.23

*8
World Bank「Global Photovoltaic Power Potential by Countr」
https://globalsolaratlas.info/global-pv-potential-study

*9
立澤友子・Ling yun Hao・菖蒲 昌・片岡直明・宮晶子「セルロース含有廃棄物の高温メタン発酵処理系における微生物群集の挙動解析」(2009)
https://ebara.co.jp/jihou/archive/year/detail/__icsFiles/afieldfile/2021/09/21/223_04.pdf, p.20

*10
東京大学大学院農学生命科学研究科「セルロースの表面を溶かして分解する酵素の機能を解明 ―70年にわたる議論に終止符―」
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20221224-1.html 

*11
日本植物生理学会「セルロース微繊維について」(2006)
https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=470

*12
産経ニュース「サツマイモで発電 滋賀・湖南で植え付け会」(2018)
https://www.sankei.com/article/20180513-66BJTLYQNVNCHBFKNK5KE2JQDY/

*13
湖南市「空中栽培方式から生まれた新感覚サツマイモシロップ『いもっぷ』が開発されました!」(2020)
https://www.city.shiga-konan.lg.jp/soshiki/kankyou_keizai/seikatsu_kankyo/5_1/3/23126.html

*14
国土交通省「サツマイモ栽培を通じたエネルギー回収 ~増設予定用地の有効活用~」(2021)
https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/content/001477881.pdf

*15
国土交通省「下水処理場における地域バイオマス 利活用マニュアル」(2017)
https://www.mlit.go.jp/common/001271003.pdf, p.4

*16
農林水産省「100年続く焼酎造りを支える サツマイモバイオガス発電」(2018)
https://www.maff.go.jp/kyusyu/seiryuu/syokuhin/saiene/jirei/attach/pdf/kenbetu-28.pdf.

*17
環境省「環境への取組をエンジンとした経済成長に向けて 報告書」(2016)
https://www.env.go.jp/content/900509739.pdf, p.102, p.107.

*18
Yahoo! JAPAN SDGs「サツマイモ発電で2億円!? 焼酎日本一の『霧島酒造』が取り組むSDGsの一歩先」(2021)
https://sdgs.yahoo.co.jp/originals/97.html.

*19
霧島酒造株式会社「『KIRISHIMA SATSUMAIMO CYCLE~さつまいもを、エネルギーに。~』の実現に向けて『霧島環境アクション2030』を策定」(2023)
https://www.kirishima.co.jp/news/2023011901.html.

*20
ニチレイロジグループ「霧島酒造株式会社が推進する焼酎製造副産物のリサイクル活動の一部において、新たにニチレイロジグループと協働運用を開始」(2023)
https://www.nichirei-logi.co.jp/news/2022/20230119.html.

*21
近畿大学「下水処理水を液体肥料としてサツマイモの大量生産に成功 サツマイモによるバイオ燃料で化石燃料の代替をめざす」(2023)
https://www.kindai.ac.jp/news-pr/news-release/2023/03/038368.html

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