再生可能エネルギーを支える気象予測 その革新的な手法とは?

自然のエネルギーを活用する再生可能エネルギーは、化石燃料に依存しないクリーンなエネルギーであり、持続可能な社会の構築や脱炭素化の達成に不可欠です。

しかし一方で、再生可能エネルギーの生産は気象条件と密接なつながりがあり、その影響を大きく受けます。

そのため現在は、再生可能エネルギーを支えるために気象予報のモデルが用いられており、太陽光発電の出力を予測するための革新的な手法も開発中です。

再生可能エネルギ―と気象の関係、再生可能エネルギーを支える気象予報技術とはどのようなものでしょうか。

 

再生可能エネルギーの重要性と普及状況

まず、再生可能エネルギーの普及はなぜ必要なのでしょうか。

また、どの程度、普及しているのでしょうか。

重要性

  
2015年に国連で採択されたパリ協定では、「世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という目標が示されました[*1]。

日本でもこの「1.5℃目標」を達成するために、2050年までのカーボンニュートラルを目指していますが、そのために2030年度において温室効果ガスを2013年度比で46%削減、さらに50%削減するという意欲的な目標を掲げて挑戦を続けています[*2]。

こうした状況の中、再生可能エネルギーはクリーンであるだけでなく、国内で生産でき、エネルギー安全保障(国民の生活を維持していくために必要な量のエネルギーを、妥当な価格で確保すること)にも寄与する重要な国産エネルギー源であるため、最大限の導入を目指すことが重要なのです。

普及状況

   
では、再生可能エネルギーはどの程度普及しているのでしょうか。

図1は、2022年の国内全発電電力量の電源別割合(推計)を表しています[*3]。

図1: 2020年の国内全発電電力量の電源別割合(推計)
出典: 特定非営利活動法人 環境エネルギー政策研究所「2022年の自然エネルギーの電力の割合(暦年・速報)」
https://www.isep.or.jp/archives/library/14364

再生可能エネルギー(自然エネルギー)の割合は22.7%で、前年の22.4%からわずかな上昇に留まっています。

ここで「変動性再生可能エネルギー(Variable Renewable Energy)」(以下、「VRE」)に注目してみましょう。

VREとは、気象変化の影響を受けて出力が変動する再生可能エネルギーで、太陽光エネルギーと風力エネルギーを指します[*4]。

太陽光発電の発電電力量の割合は9.9%で、前年の9.3%から0.6ポイント増加し、風力発電との合計は10.8%でした[*3]。

一方、化石燃料による火力発電の発電電力量の割合は72.4%で、前年の71.7%から増加しています。

世界に目を転じると、ヨーロッパでは2022年、再生可能エネルギーの割合が40%を超える国が多くあり、EU27か国全体の平均も38.4%に達しています。

日本の再生可能エネルギーにはまだまだ普及の余地があるといえるでしょう。

 

再生可能エネルギーと気象予測の重要性

次に、気象予測を利用してVREの出力予測をすることの重要性についてみていきます。

電力の需給バランス

  
電気は基本的に貯蔵できないため、常に需要と供給のバランスを保つ必要があります。このバランスが崩れると、発電機が停止したり周波数に変動が生じたりして、最悪の場合は大規模停電が発生する恐れもあります[*5]。

そこで各電力会社は、電力の需要を予測して発電計画を立てていますが、特に前日の発電計画が最も重要で、発電コストを最小に保ちつつ需要を満たすように調整しなければなりません。

図2: 各発電施設による発電量と需要の1日の変化
出典: 気象研究所予報研究部 山田 芳則「再生可能エネルギー分野での気象予測の重要性」
https://kankyorenrakukai.org/symposium_15/pdf/koen_11.pdf, p.8

気象予測の重要性

  
VREは再生可能エネルギーの中でも特に利用が進んでおり、今後も導入が加速していくと予想されています[*4]。

しかし、VREの出力は刻々と変化する気象に応じて変動するため、最大限活用していくためにはその出力予測が必須です。

出力予測とは、気象予報(天気予報)の技術を使って、各地の太陽光発電と風力発電の発電量を予測することで、「エネルギー予報」ともいえます。

この出力予測をもとに電力系統(発電、送電、変電、配電、需要家といった、電力の生産から消費までを行う設備全体)の運用が行われます。

VREの急速な発展、社会への導入によって、気象・気候情報をより高度に利用してエネルギー分野に役立てるための研究開発が活発化してきました。このように、気象分野とエネルギー学分野の両方に関わる学問分野は、「エネルギー気象学」と呼ばれることもあります。

では、気象予測によってVREの出力を予測する手法にはどのようなものがあるのでしょうか。

 

数値気象モデル

VRE発電量の予測のベースとして活用されているものの1つが、数値気象モデルです[*6]。

手法と原理

  
数値予報とは、直接観測や衛星観測などから得られたデータを利用して、地球大気の数値シミュレーションを行い、ある時点の大気状態から未来の大気状態を予測することで、一連の処理はスーパーコンピュータによって高速かつ確実に実行されます[*7], (図4)。

図3: 数値気象予測
出典: 気象庁「令和4年度数値予報解説資料集 第1章 基礎編 1.1概要」
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/nwpkaisetu/R4/1_1.pdf, p.2

数値予報の原理はボールの軌道予測と基本的に同じです。

空中に投げたボールは、最初の状態(位置と速度)とボールに加わる力(重力や空気抵抗)が分かれば、支配方程式(ニュートンの運動方程式)を計算機で解いて1秒後のボールの状態が予測できます。

1秒後のボールの状態が分かれば2秒後のボールの状態が予測でき、これを繰り返すことで地面に落ちるまでのボールの位置や速度を予測し続けることができます(図4)。

図4: 数値予報
出典: 気象庁「令和4年度数値予報解説資料集 第1章 基礎編 1.1概要」
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/nwpkaisetu/R4/1_1.pdf, p.3

ボールの軌道の予測と比べて大気現象を支配する方程式や実際のシミュレーションは複雑ですが、数値予報でも基本的な考え方は同じです。

気象に関する数値予報モデル

   
数値予報モデルには、気象に関するモデルの他に、海洋に関するモデル、大気海洋結合モデルなどさまざまなものがありますが、図5は気象に関するモデルです[*7]。

図5: 気象に関する数値予報モデル
出典: 気象庁「令和4年度数値予報解説資料集 第1章 基礎編 1.1概要」
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/nwpkaisetu/R4/1_1.pdf, p.5

モデルは、「全球モデル」「メソモデル」「局地モデル」の3種類あり、それぞれ解析度や予報領域、予報時間が異なるため、予測対象によって適切に使い分けます。

決定論的予報とアンサンブル予報

   
数値予報モデルでは、初期値が与えられれば計算結果である予報値は一意に求まります。そのため、データ同化(シミュレーションを実際の観測データとつきあわせ、シミュレーションの軌道を修正して「確からしさ」を高めること)によって得られた解析値を初期値とする数値予報を 「決定論的予報」と呼びます。

しかしどれだけ精度が高くても初期値には誤差が含まれます。

そこで、予測の誤差を見積もるために、初期値にわずかな揺らぎを与えて行う複数の予測を「アンサンブル予報」と呼びます。アンサンブル予報では、複数の予報値を利用することで予測の誤差を事前に見積もることができ、予測の信頼性に関する情報を得ることができます。

再生可能エネルギーへの活用

   
国内では気象庁のシステムから得られた情報が予測情報として利用されていますが、海外ではヨーロッパ中期予報センター(ECMIWF)や米国の国立環境予報センター(NCEP)、米国大気研究センター(NCAR)、英国気象庁(UKMO)など多くの機関が予測を行っています。

このうちNCARでは、2014年ころから太陽光発電の発電量予測に特化した気象モデルの構築に力を入れています。

また、統合的な太陽光発電量予測システムを開発し、複数の数値予報モデルを用いた予測や、当日短時間予測から3日先予測など予報時点・期間を変えながらさまざまな予測手法を用いて発電量予測を行っています。

また、NCARは風力発電予測システムも構築し、気象予報モデルを用いた風力発電予測とアンサンブル予報による確率情報出力を行っています。

日本でも、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、気象モデルによる風況シミュレーションと人工衛星による海上風観測値に基づいて、風力発電風況マップを作成しています[*8, *9], (図6)。

図6: NEDOによる洋上風況マップ
出典:国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「洋上風況マップ」
https://appwdc1.infoc.nedo.go.jp/Nedo_Webgis/index.html

 

衛星と地上センサーによるハイブリッド予測システム

電力中央研究所とスカパーJSATは両者の独自技術である衛星予測と複合地上センサー予測を組み合わせたハイブリッド予測システムの開発に取り組んでいます[*10], (図7)。

図7: 気象に関する数値予報モデル
出典: 気象庁「電力中央研究所・スカパーJSAT―太陽光発電出力の予測手法の創出へ~『ハイブリッド型太陽光発電出力予測システム』で宇宙と地上から雲を追跡して予測~」
https://www.data.jma.go.jp/sat_info/himawari/kondan/kai3/shiryou3_2-2.pdf, p.13

補完的な特徴をもつ、複合地上センサーの全天カメラ画像と衛星画像を組み合わせ、さらに雲の種類判別技術を用いて、画像上の雲と雲の状態(雲の規模、雲底高度、雲頂高度、雲の厚み)を特定し、特定した雲の移動を追跡します。

こうすることによって、これまでは技術的に実現が難しかった数分先から1時間先までの太陽光発電出力を高精度で予測できるのです(図8)。

図8: カメラ画像と衛星画像、雲の種類判別を組合せ、雲の状態を特定して追跡する技術
出典: 気象庁「電力中央研究所・スカパーJSAT―太陽光発電出力の予測手法の創出へ~『ハイブリッド型太陽光発電出力予測システム』で宇宙と地上から雲を追跡して予測~」
https://www.data.jma.go.jp/sat_info/himawari/kondan/kai3/shiryou3_2-2.pdf, p.15

 

今後の展望

再生可能エネルギーの普及は、地球温暖化の抑制とエネルギー安全保障に貢献します。

革新的な技術や手法を用いることでVREの出力予想の精度が高まり、最大限活用することができれば、シェアの拡大や補完的な電源とのよりよい連携につながり、エネルギーの安定供給が実現します。

今後はさらに気象予報技術が進歩し、刻々と変動する気象条件をより正確に反映するモデルを活用することが期待されます。

 

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参照・引用を見る

*1
環境省「令和4年版 環境・循環型社会・生物多様性白書(PDF版)>第1部第1章 1.5℃に向けて」
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r04/pdf/1_1.pdf, p.4

*2
環境省「令和4年版 環境・循環型社会・生物多様性白書(PDF版)>第1部第2章 脱炭素、循環経済、分散・自然共生 という多角的な切り口によるアプローチ> 第1節 脱炭素視点からのアプローチ」
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r04/pdf/1_2.pdf, p.16

*3
特定非営利活動法人 環境エネルギー政策研究所「2022年の自然エネルギーの電力の割合(暦年・速報)」(2023年4月14日)
https://www.isep.or.jp/archives/library/14364

*4
国立大学55工学系学部ホームページ 島田照久「環境への取り組み>再生可能エネルギー分野への気象・気候情報の応用>変動性再生可能エネルギーとエネルギー気象学」(2021年3月19日)
https://www.mirai-kougaku.jp/eco/pages/210312.php

*5
気象研究所予報研究部 山田 芳則「再生可能エネルギー分野での気象予測の重要性」(2017年11月22日)
https://kankyorenrakukai.org/symposium_15/pdf/koen_11.pdf, p.7, p.8, p.10

*6
大竹秀明「数値気象モデルの開発と再生可能エネルギー分野での利用の動向」(『気象学会論文誌C』Vol.137 No.7)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ieejeiss/137/7/137_904/_pdf, p.904, p.906, p.907, p.908

*7
気象庁「令和4年度数値予報解説資料集 第1章 基礎編 1.1概要」
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/nwpkaisetu/R4/1_1.pdf, p.2, p.3, p.5

*8
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「風況データについて」
https://appwdc1.infoc.nedo.go.jp/Nedo_Webgis/winddata.html

*9
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「洋上風況マップ」
https://appwdc1.infoc.nedo.go.jp/Nedo_Webgis/index.html

*10
気象庁「電力中央研究所・スカパーJSAT―太陽光発電出力の予測手法の創出へ~『ハイブリッド型太陽光発電出力予測システム』で宇宙と地上から雲を追跡して予測~」
(2021年2月24日)
https://www.data.jma.go.jp/sat_info/himawari/kondan/kai3/shiryou3_2-2.pdf, p.13, p.14, p.15

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