ウクライナ情勢で導入が加速する再生可能エネルギー 国内外のエネルギー分野への影響を紹介

ロシアのプーチン大統領は2022年2月24日、ウクライナ東部の住民を保護するためとして「特別軍事作戦」を行うと宣言し、軍事侵攻を開始しました[*1]。

侵攻から1年半以上経過した2023年9月においてもロシア・ウクライナ間の攻防は続いており、世界経済への影響も大きなものとなっています[*2]。

特に、エネルギー分野に大きな影響が生じています。例えば、ロシアによる欧州向けの天然ガスの供給停止等によって、火力発電の燃料となるLNG(液化天然ガス)の価格が高騰し、日本国内では、大手電力会社が電気料金の値上げを国に申請しました[*3]。

一方で、ウクライナ危機を契機に、再生可能エネルギーの普及が加速するとの報道もあります[*4]。

それでは、世界のエネルギー情勢はどのように変化しているのでしょうか。国内外の再生可能エネルギーへの移行の動きと併せて、詳しくご説明します。

 

ウクライナ情勢の戦況

2022年2月24日のウクライナ侵攻開始以降、ロシア軍は、3月にかけてウクライナ首都のキーウに向けて部隊を進めました。しかしながら、ウクライナ軍による激しい抵抗を受けて、首都などの早期掌握を事実上断念したとみられています[*1]。

4月以降、ロシア軍はウクライナ東部や南部で攻勢を強めています。その後も戦闘は続いており、2023年8月までの両軍の死傷者数はあわせて50万人近くにのぼると見られるなど、被害は甚大なものとなっています[*1, *5]。

 

ウクライナ情勢によるエネルギー分野への影響

新型コロナウイルスの感染拡大からの経済回復に伴い、2021年の世界のエネルギー需要は急拡大しました。一方で、エネルギー供給の大枠を占める化石資源は、構造的な投資不足によって設備の更新等が遅れ、生産量が減少しており、歴史的なエネルギー価格の高騰が生じています[*6]。

このような状況の中で、ロシアがウクライナに侵攻したことをきっかけに、世界のエネルギー情勢はさらに混乱しています。

ウクライナ侵攻以前のロシアのエネルギー資源輸出の状況

ロシアは、天然ガスの埋蔵量で世界1位、石炭で2位、石油では6位を占める世界有数の化石燃料資源国です。ウクライナ侵攻以前には、化石燃料を様々な国や地域へ輸出しており、総

輸出額に対する燃料エネルギーの割合は約6割(2016年)を占めていました[*7]。

例えば、2019年時点のロシアの石油の最大の輸出先国は中国でした(年間輸出量は約7,064万トン)。第2位の輸出先国がオランダ、第3位はドイツとなっており、日本は第8位の輸出先国(約643.8万トン)でした[*8]。

また、天然ガスの輸出量については、ドイツへの546,800万m3が最も多く、オーストリア、トルコ、イタリアと続き、欧州への輸出が多いことが分かります。

2020年の資源別の主要国のロシア依存率を見ると、各資源とも欧州各国ではロシア依存度が高くなっています[*6], (図1)。

図1: 主要国におけるロシア産原油・天然ガス・石炭の依存率(2020年)
出典: 資源エネルギー庁「第2節 世界的なエネルギー価格の高騰とロシアのウクライナ侵略」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2022/html/1-3-2.html

日本においても、いずれも依存率は15%を切っているものの、ウクライナ侵攻以前のロシアは、各資源とも主要な貿易相手国の一つでした。

 

ウクライナ侵攻による化石燃料の価格高騰

このように、欧州を中心にエネルギーのロシア依存が高いなかでウクライナ侵攻が開始された結果、化石燃料の世界的な価格高騰が生じています。

ロシアがウクライナ侵攻に踏み切った2022年2月24日には、原油先物価格(WTI)が1バレル100ドルを突破し、2021年末の1バレル75ドル台から高騰しました[*3, *6], (図2)。

図2: 原油価格の推移
出典: 資源エネルギー庁「第2節 世界的なエネルギー価格の高騰とロシアのウクライナ侵略」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2022/html/1-3-2.html

また、各国によるロシアへの経済制裁によって供給が一段と滞るのではないかとの警戒感から価格の上昇が続き、3月上旬には1バレル130ドルを超える高値水準となりました[*3]。

その後、欧米の急速な利上げや、中国による、新型コロナウイルスの感染を徹底的に封じ込めようとする「ゼロコロナ」政策などによって世界経済が減速したことで原油需要が落ち込み、原油先物価格は下落傾向を強めています。しかしながら、経済活動が再び活発化するなかで、価格の先行きは不透明であると言えるでしょう。

天然ガスについても同様に、一時価格が大きく上昇しました。2022年3月には、欧州の天然ガス取引の価格指標であるTTFは72ドル/MMBtu(百万英国熱量単位)と、史上最高値を付けました[*6]。

さらに8月には、ロシアの政府系ガス会社ガスプロムが、ドイツ向けの主要なパイプラインによる天然ガスの供給を一時停止したことにより、先物価格は最高値を更新しました[*3]。

そこで欧州各国は、天然ガスの調達を他国のLNGに切り替える動きを加速しています。その結果、LNGの価格が上昇し、後述するような日本の電気料金の高騰につながりました。

日本国内における電気料金の高騰

先述したように、LNGの国際的な価格高騰は、電気料金の値上げなどの形で私たちの暮らしに大きな影響を与えています[*9]。

2023年6月から、東京電力や東北電力など大手電力7社で、家庭向けで契約者の多い「規制料金」が値上がりしました。値上げ前と比較して、電力会社が平均的な使用量とする家庭の電気料金は、最大で2,700円余り値上がりするとしています[*10]。

規制料金とは、値上げの際に国の認可が必要な電気料金のことです。消費者保護の観点から値上げに上限が設けられていましたが、燃料費の高騰を受けて電力会社が相次いで値上げを国に申請しました[*11]。

一方で、電力会社が独自に決められる自由料金には、値上げに上限がありません。そのため、燃料費の高騰を受けて自由料金も高騰しています。

 

ウクライナ情勢を受けた再生可能エネルギーの動向

以上のようなエネルギー分野への影響が甚大化するなかで、各国はエネルギーを確保するため、再生可能エネルギーの導入を進めています。

例えば、2022年3月11日のG7首脳声明において欧米各国は、持続可能な代替エネルギー供給のための時間を確保しつつ、ロシアへのエネルギー依存を削減する取り組みを進めることで一致しました[*6]。

一次エネルギー自給率の高いアメリカやカナダ、イギリスは既にロシアからの原油輸入禁止を決めたほか、LGNや石油製品等についても禁輸を発表しています。

一方で、ロシアへのエネルギー依存度の高いEUでは、ロシアからの化石燃料輸入を止めるため、28兆円余りを投じて再生可能エネルギーの普及等を進める計画を発表しました[*6, *12]。

具体的には、2029年までに新たな建築物への太陽光パネル設置義務化を目指すほか、2030年までに再生可能エネルギー由来の水素の生産と輸入をいずれも1,000万トンにするとしています。

IEA(国際エネルギー機関)は、ウクライナ侵攻によって世界の化石燃料需要が2030年ごろに頭打ちとなる一方で、再生可能エネルギーへの投資額は、2030年までに現在の水準から50%以上の増加となる年間2兆ドル(約290兆円)にのぼると試算しています [*13]。

それでは、再生可能エネルギー導入に向けて、国内外でどのような取り組みが行われているのでしょうか。

欧州における再生可能エネルギーの導入促進に向けた取り組み

欧州では、2022年3月8日に、欧州委員会がロシア産化石燃料からの脱却計画「リパワーEU」の概要を発表しました。同計画では、「2030年よりかなり前に、ロシア産の化石燃料から脱却する」ため、再生可能エネルギーと水素への切り替えを進めるとしています[*14]。

同年5月には、「リパワーEU」の具体策が発表され、太陽光発電の設置容量を2025年までに現状の2倍に相当する320GW分新設し、2030年までに600GW分新設する目標を掲げています。また、特に屋根置き太陽光の普及を促すとしており、新設の公共・商業建物、住宅への設置義務化を盛り込んでいます[*15], (表1)。

表1: 「リパワーEU」 のポイント

出典: 京都大学大学院 経済学研究科「No.316 欧州の脱炭素・脱ロシア対策『リパワーEU』」
https://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/contents/column0316.html

化石燃料の代替燃料として近年、再生可能エネルギー由来の水素(グリーン水素)が注目を集めています。「リパワーEU」では、2030年までにEU域内でグリーン水素を1,000万トン生産するとともに、輸入による1,000万トンと併せて計2,000万トン活用するとしています。

「リパワーEU」を達成するための構想も検討されています。欧州委員会は、2023年3月に、グリーン水素を中心とした水素生産の拡大に向け、EU域内外の民間投資を呼び込むことを目的とした「欧州水素銀行」構想を発表しました[*16]。

「欧州水素銀行」は、現状では割高なグリーン水素と化石燃料由来の水素との生産コストの差額を補填することで、グリーン水素生産への投資を後押しするものです。発表では、2023年末までに同構想の実施を開始するとしています。

日本国内における再生可能エネルギーの導入促進に向けた取り組み

ロシアへのエネルギー依存からの脱却を進めるとしたG7首脳声明を受けて、日本政府もロシア産石油の原則禁輸措置を行うとしています[*6]。

しかしながら、国民生活等への悪影響を最小限に抑えるため、ロシア産石油等への依存状態から徐々に脱却することが重要です。そこで政府は、再生可能エネルギーなどエネルギー源の多様化や、LNGへの投資等によるロシア以外の供給源の多様化、主要消費国とも連携した生産国への増産働きかけを進めるとしています。

再生可能エネルギーのさらなる導入促進については、再生可能エネルギー由来の水素の導入支援などの取り組みが既に進んでいます。例えば、経済産業省は2022年12月に、水素の導入拡大に向けた支援制度の素案を取りまとめました[*17]。

具体的には、事業者が供給する水素に対し、価格の一部または全部を支援する予定です[*18], (図3)。

図3: 水素の供給拡大に向けた支援制度の概要
出典: 資源エネルギー庁 資源・燃料部「資源・燃料政策の現状と今後の方向性」
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shigen_nenryo/pdf/036_03_00.pdf, p.25

 

ウクライナ情勢に伴う今後の世界のエネルギー動向

2023年10月には、和平案について各国の政府高官が話し合う協議が行われるなど、停戦に向けた取り組みも行われていますが、ウクライナ情勢の今後の動向は不透明なままです[*19]。

このような状況のなかで、先述したように、欧米各国や日本では、再生可能エネルギーやLNGなどの活用により、ロシアからのエネルギー依存への脱却を図っています。

しかしながら、欧州のLNG輸入増加に伴い、需給ひっ迫や価格高騰など課題も顕在化しています。経済制裁の長期化に伴うLNG需要の増加に対し、生産能力が追いつかず、2025年頃にかけてさらに需給がひっ迫すると予測されています[*20]。

そのため、再生可能エネルギーや水素などクリーンエネルギーの導入をさらに図っていくことが不可欠です。現在、アメリカやEU、イギリスでは再生可能エネルギーやバイオ燃料、電気自動車等に対する投資支援を発表しています。また、日本においても、「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」を閣議決定し、脱炭素分野への投資等を支援すると発表しました。

今後は、各国が支援策を具体化し、積極的に進めていくことがロシアからのエネルギー依存脱却のカギとなるでしょう。

 

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参照・引用を見る

*1
NHK「ウクライナ ロシアの軍事侵攻から9か月 地図で振り返る戦況」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221124/k10013901591000.html

*2
NHK「【詳細】ロシア ウクライナに軍事侵攻(17日の動き)」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230917/k10014171551000.html

*3
NHK「ウクライナ侵攻1年 世界経済に与えた打撃は? 今後のリスクは?」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230224/k10013989751000.html

*4
株式会社日本経済新聞社「再エネ、ウクライナ危機でなぜ急浸透?」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODL271TX0X21C22A1000000/

*5
NHK「ロシアとウクライナ 双方兵士の死傷者数50万人近くに 米有力紙」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230820/k10014168261000.html

*6
資源エネルギー庁「第2節 世界的なエネルギー価格の高騰とロシアのウクライナ侵略」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2022/html/1-3-2.html

*7
一般社団法人 海外電力調査会「各国の電気事業(2019年版) ロシア」
https://www.jepic.or.jp/data/w2019/w08rusa.html

*8
公益財団法人 富山県新世紀産業機構 アジア経済交流センター「ロシアのエネルギー資源輸出の動向-日本、アジア太平洋地域に与える意味-」
https://www.near21.jp/kan/publication/journal/102/4_morioka.pdf, p.13, p.14

*9
NHK「ロシアのウクライナ侵攻 今も日本の暮らしや企業に影響大きく」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230220/k10013985431000.html

*10
NHK「電気料金 大手電力7社 きょうから値上げ 最大で2700円余値上げ」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230601/k10014084681000.html

*11
NHK「電気料金 規制料金と自由料金の違いは 値上げは春にも 今後どうなる」
https://www.nhk.or.jp/shutoken/newsup/20230130e.html

*12
NHK「EU 2027年までにロシアからの化石燃料輸入停止へ計画発表」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220519/k10013632521000.html

*13
NHK「IEA “ウクライナ侵攻で再生可能エネルギーへの移行 加速化”」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221028/k10013873041000.html

*14
株式会社日経BP「ウクライナ侵攻で脱炭素加速 太陽光発電は『次代の石油』」
https://bookplus.nikkei.com/atcl/column/040100018/081700026/

*15
京都大学大学院 経済学研究科「No.316 欧州の脱炭素・脱ロシア対策『リパワーEU』」
https://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/contents/column0316.html

*16
独立行政法人 日本貿易振興機構「欧州委、水素生産を支援する欧州水素銀行の構想を発表」
https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/03/67609a7d67e2c0ae.html

*17
NHK「水素やアンモニア導入拡大へ 支援制度素案取りまとめ 経産省」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221213/k10013921991000.html

*18
資源エネルギー庁 資源・燃料部「資源・燃料政策の現状と今後の方向性」
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shigen_nenryo/pdf/036_03_00.pdf, p.25, p.27

*19
NHK「ウクライナ提唱の和平案 各国協議がマルタで開催へ 28日から」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231028/k10014240121000.html

*20
資源エネルギー庁「エネルギー白書2023について」
https://www.meti.go.jp/press/2023/06/20230606001/20230606001-1.pdf, p.4, p.5, p.9, p.10

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