「EVパトカー」「ゼロカーボン交番・駐在所」って? 警察が進める脱炭素化の取り組みとは

2023年3月、警視庁は、排出ガスを出さず環境に優しい「ゼロエミッション車(ZEV)」をパトカーに初めて導入しました[*1]。

また、長野県警察は、建物の高断熱化や再生可能エネルギーの効率的な利用を進める「ゼロカーボンモデル交番・駐在所」を整備しています[*2]。
このように、全国各地の警察機関において、環境に配慮した取り組みが積極的に行われています。

それでは、温室効果ガスの排出量削減に向けて、警察ではどのような取り組みが行われているのでしょうか。詳しくご説明します。

 

警察庁における取り組み

地球温暖化対策の推進に関する法律に基づき、各府省庁は温室効果ガスの排出量削減に向けた実施計画を策定しています[*3]。

警察庁も実施計画を策定しており、2030年度までに2013年度比で警察庁の事務及び事業における温室効果ガスの総排出量を50%削減するとしています[*4]。

庁舎等への太陽光発電の設置促進

実施計画の達成に向けては、個別の対策に関する目標も設定しています。例えば、「再生可能エネルギー電力の調達」では、2030年度までに警察庁は約50%以上の設置可能な建築物への太陽光発電設備の設置を目指しています[*4]。

「太陽光発電の導入」にあたっては、必要に応じてPPA(第三者所有モデル)の活用も検討するとしています。PPAとは、企業・自治体が保有する施設の屋根や遊休地を発電事業者が借りて無償で発電設備を設置し、発電した電気を施設で使う方式です[*4, *5], (図1)。

図1: PPAモデルとは
出典: 環境省「PPAモデル」
https://ondankataisaku.env.go.jp/re-start/howto/03/

施設は初期費用不要で太陽光発電システムを導入できるとともに、事業者がメンテナンスを行うため管理不要になるなど、多くのメリットがあります[*5]。

また、警察庁は太陽光発電により生じた余剰電力を有効活用するため、蓄電池等の導入も検討しています。さらに、地中熱(浅い地盤中に存在する低温の熱エネルギー)や太陽熱等の再生可能エネルギーを使用する冷暖房設備や給湯設備を可能な限り幅広く活用するとしています[*4 *6], (図2)。


図2: 地中熱とは
出典: 資源エネルギー庁「地中熱利用」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/underground/index.html

 

建築物における省エネルギー対策

警察庁は、新築建築物のZEB化も計画しています。ZEBとは、「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル」の略称で、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物のことです[*4, *7]。

省エネによって使うエネルギーを減らし、創エネによって使う分のエネルギーを作ることで、エネルギー消費量の正味ゼロを目指しています[*7], (図3)。

図3: ZEBとは
出典: 環境省「1. ZEBとは?」
https://www.env.go.jp/earth/zeb/about/index.html

警察庁では、具体的な取り組みとして、断熱性向上のため、屋根、外壁等への断熱材や、断熱サッシ・ドア等の断熱性の高い建具の使用を推進する予定です。また、空調設備についても、温室効果ガス排出量の少ない高効率な機器の導入を図るとしています[*4]。

信号機の改良促進

建物の省エネ化だけでなく、警察庁は信号機の集中制御化やプロファイル化、信号灯器のLED化など環境に配慮した信号機の設置も促進しています[*8]。

信号機の集中制御化やプロファイル化を促進することで交通流の円滑化を図り、自動車の燃費を改善することで、自動車からのCO2排出量の削減を図っています[*9]。

プロファイル化とは、車両感知器がどれだけの自動車がやって来るかを信号機に伝え、信号機が交通量に応じて青の時間を自律的に調節する仕組みのことです。交通量の増減に迅速に対応できるため、渋滞の緩和にもつながります[*10]。

警察庁によると、集中制御化によって2021年度のCO2排出量は143万トン、プロファイル化等により51万トン削減されたとしており、CO2排出量削減に大きく貢献していると言えるでしょう[*9]。

 

都道府県警察による取り組み

これまで国の機関である警察庁の取り組みを紹介してきましたが、警視庁など都道府県警察による取り組みも積極的に行われています。

東京都における取り組み

東京都が管轄する警視庁は、HTTをキーワードに、脱炭素につながる取り組みを強化しています。HTTとは、電力を「減らす(H)、創る(T)、蓄める(T)」という意味です[*11]。

「減らす(H)」取り組みとして、施設内で人が不在の場所における冷暖房の運転停止などの空調管理や、LED照明の導入、新築建築物のZEB化を推進しています。

「創る(T)、蓄める(T)」取り組みとして、警察署・交番・駐在所への太陽光発電の設置やZEV(ゼロエミッション・ビークル)の導入を進めています[*11], (図4)。

図4: 警察施設における太陽光発電の設置促進
出典: 警視庁「警視庁におけるエネルギー対策(HTT)の取組状況」
https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/about_mpd/shokai/other/htt.html

具体的には、2022年1月、東京都は2022年度から2030年度にかけて、都営住宅や交番、消防署など2,000か所以上の都が保有する施設への太陽光発電設置を目指すことを発表しました。約930か所もの警察署や交番への設置を検討しており、実現によって脱炭素化に大きく近づくと言えるでしょう[*12]。

また、脱炭素を推進するため、警視庁はパトカー等の車両にZEVを導入しています。ZEVとは、電気自動車、プラグインハイブリッド自動車、燃料電池自動車のことです[*11], (図5)。

図5: 警視庁におけるZEVの導入推進
出典: 警視庁「警視庁におけるエネルギー対策(HTT)の取組状況」
https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/about_mpd/shokai/other/htt.html

2023年3月15日には、警視庁は日産リーフ、トヨタプリウス、トヨタMIRAIの3車種計30台のZEVパトカーを配置しており、今後も警察車両を徐々にZEVへ移行する予定です[*1]。

長野県における取り組み

長野県警察は、「長野県ゼロカーボン戦略」を受け、建物全体でエネルギー収支ゼロを目指す「ゼロカーボン交番・駐在所」の整備を促進しています[*13]。

例えば、2021年度に建設された上田警察署西内駐在所は、断熱材や貯湯式ヒートポンプ給湯器、太陽光発電設備が設置されたゼロカーボン駐在所です[*14], (図6)。

図6: 上田警察署西内駐在所
出典: 長野県建設部施設課「ゼロカーボン交番・駐在所建設工事」
https://www.pref.nagano.lg.jp/shisetsu/documents/zerocarbon_koban_jissekir3-4.pdf, p.1

また、使用木材のうち83%は県産材で賄われており、環境に配慮された建築物と言えます。

兵庫県における取り組み

兵庫県では、警察署などの県有施設における太陽光発電設備の設置を推進するため、PPAによる太陽光発電設備設置が予定されています[*15]。

2022年に実施された公募型プロポーザルでは、姫路警察署等での設置が計画されています。姫路警察署を含む14施設すべてに設置された場合、年間で最大700トンのCO2削減につながるため、温室効果ガス排出量削減の取り組みとして期待されています[*15, *16]。

 

まとめ

以上、警察における環境に配慮した取り組みとして、警察庁や警視庁、長野県警察、兵庫県警察の事例を紹介してきました。また、高知県警察が四国初となるEVパトカーを導入するなど、その取り組みは全国各地に広がっています[*17]。

その他にも、警察署や交番など様々な施設で環境に配慮した取り組みが行われています。身近な警察施設について、どのような取り組みが行われているか、ぜひ注目してみてください。

 

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参照・引用を見る

*1
株式会社産業経済新聞社「環境に優しいZEV車 警視庁がパトカーに初導入」
https://www.sankei.com/article/20230315-BO5FFV6AV5LXVCTC5JO6NLTQFM/

*2
長野県「ゼロカーボンモデル交番・駐在所建設工事の設計者を公募型プロポーザルにより選定します」
https://www.pref.nagano.lg.jp/shisetsu/20210715.html

*3
環境省「政府実行計画に基づく各府省庁実施計画の公表について」
https://www.env.go.jp/press/press_00123.html

*4
環境省「警察庁がその事務及び事業に関し温室効果ガスの排出の削減等のため実行すべき措置について定める計画」
https://www.env.go.jp/content/000044922.pdf, p.1, p.2, p.3

*5
環境省「PPAモデル」
https://ondankataisaku.env.go.jp/re-start/howto/03/

*6
資源エネルギー庁「地中熱利用」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/underground/index.html

*7
環境省「1. ZEBとは?」
https://www.env.go.jp/earth/zeb/about/index.html

*8
警察庁交通局交通規制課「地球温暖化対策計画の改定について(通達)」
https://www.npa.go.jp/laws/notification/koutuu/kisei/kisei20211022.pdf, p.1

*9
地球温暖化対策推進本部「2021年度における地球温暖化対策計画の進捗状況」
https://www.env.go.jp/content/000142654.pdf, p.262, p.265

*10
株式会社日経BP「光ビーコンでもっと賢く、近未来の信号機アルゴリズム」
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00321/062200004/

*11
警視庁「警視庁におけるエネルギー対策(HTT)の取組状況」
https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/about_mpd/shokai/other/htt.html

*12
読売新聞グループ本社「太陽光パネル、都営住宅や交番・消防署など2000か所に…都が9年かけ設置へ」
https://www.yomiuri.co.jp/national/20211231-OYT1T50102/

*13
長野県「令和4年度ゼロカーボン交番・駐在所プロポーザル」
https://www.pref.nagano.lg.jp/shisetsu/zerocarbon.html

*14
長野県建設部施設課「ゼロカーボン交番・駐在所建設工事」
https://www.pref.nagano.lg.jp/shisetsu/documents/zerocarbon_koban_jissekir3-4.pdf, p.1

*15
株式会社日本経済新聞社「兵庫県施設で太陽光、警察・病院の駐車場にもパネル設置」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF309OX0Q2A630C2000000/

*16
兵庫県「県施設等への太陽光発電設備導入に向けたPPA事業者の公募型プロポーザルの実施について」
https://web.pref.hyogo.lg.jp/nk19/2022ppa.html

*17
株式会社高知新聞社「高知県警にEVパトカー 中四国で初導入、全国2例目」
https://www.kochinews.co.jp/article/detail/608348

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