OPECプラス加盟国が石油の追加減産を発表 その背景は? 脱石油に向けたクリーン燃料開発の動きと併せて紹介

ガソリンや軽油など、日常生活には欠かせない石油製品。日本は、原油の大半を海外からの輸入に頼っています。2021年の総輸入量は約9.1億バレル。その9割以上は、サウジアラビアやアラブ首長国連邦などの中東から輸入しています[*1]。

このような状況の中、2023年4月、サウジアラビア等も含めたOPECプラスの複数の加盟国は、原油の供給量をこれまで以上に減らす追加減産を発表しました[*2]。

追加減産によって石油価格の上昇が懸念されますが、なぜOPECプラスに加盟する複数の国は追加減産を発表したのでしょうか。また、減産や価格上昇に対処するため、石油の代替となるクリーン燃料の実用化が期待されていますが、どのようなクリーン燃料があるのでしょうか。詳しくご説明します。

 

OPEC(石油輸出国機構)とは

OPECは、サウジアラビアやイランなど5つの主要産油国が、原油の供給量を協力して調節するために1960年に設立した機関です[*3]。

2016年には、ロシアやメキシコなどのOPEC非加盟国が加わったOPECプラスという枠組みに移行しており、より多くの産油国によって価格安定のための調整が図られています[*4]。

2023年4月の追加減産発表に至るまでの経緯

OPECプラスでは、産油国間における調整のため、定期的に会合等が開かれています。

2022年10月5日に開催された第33回閣僚級会合および第45回共同閣僚監視委員会では、同年11月以降、2022年8月の生産水準から日量200万バレルの減産を行うことが合意されました。200万バレルは、1日に世界で出回る量の2%ほどで、2020年4月に減産した約1,000万バレル以来の規模です[*5, *6]。

原油価格は、2022年6月以降下落傾向にあり、10月3日時点でWTI(アメリカの原油先物価格)が1バレル84.05ドル、北海ブレント(イギリス領北海油田で生産される原油先物価格)が90.68ドルとなっていました[*5, *7], (図1)。

図1: 原油価格の推移(2022年)
出典: 独立行政法人 日本貿易振興機構「図 原油価格の推移(2022年)」
https://www.jetro.go.jp/view_interface.php?blockId=34498160

一般的に、供給量が減ると、モノの値段は上がります。そのため、OPECプラスによる減産決定には、このような原油価格の下落傾向に歯止めをかける狙いがあったと言えます[*6]。

2023年4月に発表された追加の自主減産

2022年10月の減産決定に基づき、2022年11月から2023年3月にかけて日量200万バレルの減産が継続されていました。しかしながら、冒頭でも紹介したように、2023年4月2日にOPECプラスの複数の加盟国は、5月から2023年末までの追加の自主減産を行うことを発表しています[*2]。

今回、最も大規模な減産を発表したサウジアラビアは、日量50万バレルの自主減産を行うと表明しました。続いてイラクが日量21万1,000バレル、アラブ首長国連邦が日量14万4,000バレルの減産を行うとし、クウェートやカザフスタン、アルジェリア、オマーンも合わせると、合計で日量110万バレル以上の追加減産となっています。

なお、2023年6月にサウジアラビアは、同年7月に日量100万バレルの追加の自主減産を行うと発表するなど、減産量を増やしています[*8]。

各国が追加の自主減産を発表した背景には、原油価格の下落傾向が続いたことが挙げられます[*8], (図2)。

図2: 2022年から2023年にかけての原油価格の推移
出典: IG証券株式会社「原油価格上昇 サウジが大規模減産表明 OPECプラスの足並みはそろわず」
https://www.ig.com/jp/news-and-trade-ideas/riyadh-adds-production-cut-without-help-from-opec-plus-allies-230605

2022年10月の減産発表後から11月までの間、WTIは一時1バレル92ドル台まで上昇しましたが、12月半ばには70ドル台前半まで下落しました。

これは、欧米での度重なる政策金利の引き上げによる景気減速や、中国経済復活の勢い不足により、石油供給が多い状況が続くとみられたためです[*8, *9]。

以上のような背景から原油価格を回復させるために、産油国は追加の自主減産を発表したと言えます。

 

化石燃料から再生可能エネルギーへの転換の動き

追加減産による先行きは依然として不透明ですが、原油価格が上昇した場合、日本国内では物価上昇が懸念されます[*9]。

先述したように、日本はサウジアラビアなどOPEC加盟国から原油を多く輸入しているため、OPEC加盟国以外の産油国など、調達先の多角化が求められます[*1]。

また、世界的に脱炭素化が求められている中、石油から再生可能エネルギーへの転換を進めることも重要です。そこで近年、石油の代替となるクリーン燃料の研究開発が進められています。

CO2を原料とした合成燃料

まず、石油の代替燃料として近年では、合成燃料が注目を集めています。合成燃料とは、CO2と水素を合成して製造される燃料のことです[*10]。

原料となるCO2は、発電所や工場などから排出されたものを使うことができます。水素は「水電解」によって製造できますが、その際、再生可能エネルギー由来の電気を使うことで、環境に優しい燃料を製造することができます[*10], (図3)。

図3: 合成燃料におけるCO2の再利用のイメージ
出典: 資源エネルギー庁「エンジン車でも脱炭素?グリーンな液体燃料『合成燃料』とは」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/gosei_nenryo.html

合成燃料は、エンジンなど既に存在している燃料インフラをそのまま活用できるため、導入コストを抑えることができるというメリットがあります。また、自動車のみならず、航空機や船舶、石油精製業など幅広い分野で活用できるため、ENEOS株式会社など民間企業での研究開発が進んでいます[*10, *11]。

一方で、既存の合成燃料の製造技術には、製造効率や製造コストなどの課題があります。例えば、製造コストは化石燃料より高く、原料となる水素製造コストも高いため、国内の水素を活用し、国内で製造した場合、合成燃料は1リットル当たり約700円になると試算されています[*10]。

現在、国内外でコスト低減等に向けた技術開発・実証が行われていますが、日本政府は2040年までに自立的な商用化を目指すとしており、普及には時間がかかると言えます。

持続可能な航空燃料「SAF」

航空燃料についても、木材や農業廃棄物、紙ごみなどのバイオマス資源や、CO2を利用した航空燃料「SAF(Sustainable Aviation Fuel)」に代替する動きが加速しています。SAFとは、「持続可能な航空燃料」のことで、合成燃料と同様に、既存インフラを使用できるというメリットがあります[*12], (表1)。

表1: SAFとは

出典: 株式会社三井住友銀行「持続可能な航空燃料(SAF)国産化に向けた取組と事業機会」
https://www.smbc.co.jp/hojin/report/investigationlecture/resources/pdf/3_00_CRSDReport124.pdf, p.4

欧米では既に、SAFの商用化が進んでいます。例えば、アメリカに本拠を置くFulcrum 社は、年間17万5,000トンの都市ごみを約4.2万キロリットルの合成原油に転換し、SAFや再生可能ガソリンなどを生産しています[*13]。

また、国内でも、日本航空株式会社やコスモ石油株式会社などが実証研究を進めていますが、原料の確保や製造コスト低減など課題もあります[*12]。

例えば、国内における2050年のSAF需要が年間2,300万klであるのに対し、SAF製造可能量は全ての原料を使用したとしても1,312万klと足りていません。また、製造コストについても、既存のジェット燃料並みの価格まで下がるには、CO2由来SAFで使われる技術だと2040年以降、廃食油由来SAFで使われる水素化処理技術で2025年以降となっています。商用化まではこのような課題を克服する必要があると言えます[*12]。

 

今後の石油需要と脱石油の必要性

OPECプラスは、2022年版の「世界石油見通し」で、2045年の世界の石油需要は2021年から13%増加して、1日当たり1億980万バレルとなると発表しています。また、同資料によると、OECD加盟国での石油需要は減少する一方で、インドやアフリカなどそれ以外の国や地域では増加が見込まれるとしています[*14]。

OPECプラスの見通しに基づくと、需要増加に伴い今後は原油価格が高騰する可能性があります。また、現在もOPECプラスは減産を積極的に行っているため、原油価格の先行きは不透明な状況です。

海外から原油を多く輸入する日本では、合成燃料やSAFなど海外に依存しない燃料の実用化が安定的なエネルギー調達のカギとなるでしょう。

 

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参照・引用を見る

*1
資源エネルギー庁「1.安定供給」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/energy2022/001/

*2
独立行政法人 日本貿易振興機構「OPECプラス加盟国複数が追加減産を発表、5月から日量110万バレル以上」
https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/04/7a2222607c4fcfe9.html

*3
株式会社日本経済新聞社「OPECの意味を3つのポイントで解説!」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFM265AQ0W1A820C2000000/

*4
NHK「ガソリン価格決める!?OPECプラスって何?」
https://www3.nhk.or.jp/news/special/sakusakukeizai/20211104/446/

*5
独立行政法人 日本貿易振興機構「OPECプラス、11月からは日量200万バレルの大幅減産で合意」
https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/10/14cf7b56c8c79524.html

*6
株式会社毎日新聞社「経済 OPECプラスが原油を減産」
https://mainichi.jp/maisho/articles/20221008/kei/00s/00s/015000c

*7
独立行政法人 日本貿易振興機構「図 原油価格の推移(2022年)」
https://www.jetro.go.jp/view_interface.php?blockId=34498160

*8
IG証券株式会社「原油価格上昇 サウジが大規模減産表明 OPECプラスの足並みはそろわず」
https://www.ig.com/jp/news-and-trade-ideas/riyadh-adds-production-cut-without-help-from-opec-plus-allies-230605

*9
三井住友DSアセットマネジメント株式会社「原油価格の行方~足元の状況整理と今後の展望」
https://www.smd-am.co.jp/market/ichikawa/2023/10/irepo231003/

*10
資源エネルギー庁「エンジン車でも脱炭素?グリーンな液体燃料『合成燃料』とは」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/gosei_nenryo.html

*11
ENEOS株式会社「合成燃料製造技術の開発(二酸化炭素からの液体燃料製造)」
https://www.eneos.co.jp/company/rd/intro/fuel/synthetic_fuel.html

*12
株式会社三井住友銀行「持続可能な航空燃料(SAF)国産化に向けた取組と事業機会」
https://www.smbc.co.jp/hojin/report/investigationlecture/resources/pdf/3_00_CRSDReport124.pdf, p.4, p.7, p.11, p.12, p.13

*13
一般財団法人 石油エネルギー技術センター「持続可能な航空燃料(SAF)の動向」
https://www.pecj.or.jp/wp-content/uploads/2022/04/JPEC_report_No.220401.pdf, p.5

*14
独立行政法人 日本貿易振興機構「OPECの世界石油見通し、石油需要は2045年に2021年比13%増と予測」
https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/11/5e3e45cc138e62d8.html

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